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TURN1 デュエル! 氷結界の龍 ブリューナク

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*舞台はデュエル学園。
 デュエルアカデミアではありません。

*ライフ4000制 裏側セット
 アニメと違い表側守備表示での召喚はありません。



〔ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!〕


  TURN1  デュエル! 氷結界の龍 ブリューナク


 あたし、姫野川ナツミ。
 素敵なカードに出会ってからデュエルをはじめて、デュエル学園に入学したけど……。
 あろうことか、レッドクラスの一年で留年してしまいました。
 はぁー……。

「あー……、なんか部屋が広くなったぁー」
 しょんぼりとつぶやく。
 寮制のデュエル学園に入学した当時、あたしはこの二人部屋に割り当てられた。アパー
ト一室分の部屋にあったのは、二段ベッドと机が二つ。右側の壁にベッドが添えてあって、
左側に机がならんでいる。そのあいだに空間が空いていて、あたしはよくそこで寝転がっ
ていた。部屋のど真ん中で寝そべると、なかなかくつろげるのだ。
 そんな部屋で、あたしと黒野アザミは出会った。
 アザミは、テスト前やデッキ構築のときによく助けてくれた。頭もよくて、親切で、と
きどき毒舌だった親友だ。
 いや、親友だと思っていたのだ。
 けど、裏切られた。
 あたしが留年の結果を知らされて、どんよりしながらそれを打ち明けたとき。

「はぁ? 留年? あーもー限界だわ。ごめん、もう無理。もうついていけないわ」

 こんな言われ用だった。
「ナツミ。あたしはこれ以上あんたを救い切れないわ。悪いけど」
 そして、アザミは進級してあたしの部屋から姿を消した。
 だから、今まで二人で使っていたこの場所も、ずいぶん広く感じてしまうのだ。
 裏切られた。なんて思ったけど、実際のところあたしが悪い。アザミは、成績の悪いあ
たしを懸命に救おうとしてくれた。寝坊する前に起こしてくれたし、テスト前の一夜漬け
にも付き合ってくれた。
 それなのに、留年した。
 きっと、アザミも裏切られた気分をしたと思う。あれだけ尽くしたというのに、その上
でこの結果だから。
 あたしが馬鹿だから、いけないのだ。
 アザミは、進級するだけでなくイエロークラスに昇進した。もう、いっしょになること
はできない。これまで通りの友情なんて、とても望めない。
「はぁー……」
 ため息が出た。
 こんなことを考えていると、余計にへこむ。
 あたしは考えるのをやめて、いつもみたいに床に寝そべった。

   *

 ――朝。
 あたしは、床で目を覚ました。
 昨日はずっとへこんでいて、だから床で心を癒そうと思った。そしたら、そのまま眠っ
てしまったようだ。
 うーん。
 曜日が思い出せない。昨日はどっちだっけ、土曜か金曜のどっちかだったはず。だから
どっちみち授業はない。うん、今日は寝坊の日だ。
 おやすみぃ……。
 と、あたしが夢うつつになりかけたときだ。

 ブー、ブー

 ケータイの振動。
 ああ、手元でゆれてる。
「もしもぉーし」
 あたしは、寝たままケータイを耳にあてた。
〔さて、今日は何曜日でしょう〕
 へ?
 そんなのわかんない。
 というより、この電話はどちら様からでしょう。うーん、聞いたような女子の声だけど、
なにしろケータイごしだ。わかる声も、わからなくなる。
「きっと日曜日だねぃ。さんでーぃ」
〔残念、今日は月曜です〕
 月曜か。じゃあ昨日は土曜日だったんだ。
 なんだなんだ。
 昨日が土曜で、今日は月曜かぁ。何かがおかしい気もするけど、なんだろう。妙に何か
が引っかかる。矛盾があるような……ま、いっか。
〔二問目。今、何時でしょう〕
「時間。あー、それわかる。カンタン」
 あたしは、ケータイの画面をちらりとのぞいた。通話中でも、時刻はちゃんと表示され
るものだ。
「八時三十分なのだ」
〔正解。では、あなたはいつ起きましたか?〕
「いま」
〔月曜の八時四十五分から、何があるでしょう〕
「授業ー」
 カンタンだなぁ。
 それにしても、この人はどちら様なんだろう。

〔バカ!! 目を覚ませ!!〕

 ひっ!
 急な大声に、鼓膜がびーんとしびれた。
 同時に、あたしは覚めた。さっきまでぼーっとしていて、頭にたくさんモヤがあったけ
ど、それも一挙に吹き飛んでしまった。
「そうか! あなたはアザミちゃん!」
 アザミとの友情は終わっていなかった。
〔いいから起きて! 着替えて! 急ぎなさい〕
「は、はい!」
 遅刻は確定なんだけど、それでもあたしはうれしかった。
 こんなあたしを、人の親切を裏目に留年してしまうような人間を、まだ見捨てずにいて
くれたなんて。

 だからあたしは、うれしそうに教室へ飛び込んで、
「遅刻がそんなにうれしいか!」
 と、怒鳴られた。


 あぁー。
 教室にいるの、みんな年下だぁ。
 顔は、たいして変わらない。年齢ひとつじゃ、なかなか顔相は変わらないものだけど、
それでも浮いた気分だ。
 みんな新入学してきたばっかりで、ダブりのあたしなんかより生き生きしてる。
 うぅー。
 憂鬱だ。
 授業内容も、去年と同じ内容だ。最初のこの時期にやるのは、フェイズに関すること。
 ドローフェイズ、バトルフェイズ、エンドフェイズ。それくらいのことは、いちおうわ
かる。むしろ、あたしですら簡単に覚えられたこフェイズの内容を、人が理解できないは
ずがない。
 あたしがわからないのは、カードのテキストだ。なぜリリースなしで攻撃力2400が
出るのか。妥協召喚? 対象効果? 対象を選ばないカード? わけわかんない。
 フェイズは、全部で六つある。
 まず、デッキからカードを引くのがドローフェイズ。
 その次が、スタンバイフェイズだ。何をスタンバイしろというのか、わからない。ただ
このときに、「スタンバイフェイズ時に~する」と書かれた効果が発動する。
 メインフェイズ。モンスターを召喚したり、魔法・罠カードを伏せたりする。このとき
に場を整えるのだから、こっちのほうがよっぽどスタンバイな気がする。
 バトルフェイズ。モンスターで攻撃を行う。
 メインフェイズ2。2といっても、たいして変わらない。
 エンドフェイズ。相手にターンを渡す。
 これだけ覚えていれば、デュエルはできる。だけどテストはできない。去年の問題には
攻撃宣言がどうとか、ダメージステップがどうとか。攻撃するだけなのに、細かくてよく
わからなかった。
 今年は、どうだろう。
 二年目だから、さすがになんとかなるかなぁ……。

   *

 黒野アザミは、考える。
 今頃、ナツミはフェイズの授業でもしているだろう。去年のこのときにやったのが、そ
れだった。あの頃は、まだナツミが馬鹿だと知らなかった。本人もフェイズくらい簡単だ
と言っていたから、彼女の赤点を見たときは衝撃だった。
 いい加減、次は満点になるだろうか。二年目なのだから、さすがに赤点だけはありえな
いだろう。攻撃の細かい処理くらい、今年こそ理解するだろう。
「ふん」
 そんな自分思いを、アザミは鼻で笑った。
 あれだけ助けてやって、なお留年するやつだ。だからもう、救いきれない。どうしてあ
んな馬鹿でいられるのか、不思議なくらいだ。

 アザミは、自分のデッキを見た。
 今日は、デュエルしなければならない。こちらにも、処理したい問題はある。そしてそ
れには、やはりデュエルがいいのだ。デュエリストならば、最後はカードで決着をつけた
ほうがいいだろう。
 そしてアザミは、カードを見た。
【溶岩魔神 ラヴァゴーレム】
 あいつの持つ、あのカードとは相性が悪い。
 しかし……。
 だからあえて、アザミはラヴァゴーレムをデッキに差し込んだ。そしてシャッフルし、
束の中にとけ込ませる。
「これでいい」
 たとえ不利でも、お気に入りのカードは加えておく。
 それでいいのだ。
 このデッキで、放課後、すぐに行こう。

 そして放課後。 
 デュエルディスクを腕につけ、アザミは目的の場所へ向かった。

2, 1

  



 アパートのようにそびえ立つ寮。
 その部屋に住むのは、よもやあたし一人だ。

 授業が終わり、あたりは部屋へ戻ろうと歩いた。
 レッドクラスの寮があるのは、校舎からだいぶ離れた山沿いだ。ボロアパートの姿をし
ているのがレッド寮で、背景には山がたたずんでいる。
 デュエルアカデミアという学校も、これくらい赤の扱いは悪いらしい。
 あたしの部屋は、その一階だ。

 寮にたどり着いたとき、そこに黒野アザミはいた。
 アザミは腕組みしながら、ドアのとなりに背をかけている。あたしに気づいて、クール
な目をこちらに向けてきた。
 今日はデュエルしていたのだろうか。
 腕に、デュエルディスクがついている。
「アザミちゃん!」
 あたしは、うれしくなって声をあげた。
 学年がずれたというのに、わざわざ会いにきてくれた。一度は「ついていけない」と言
われたが、アザミはやっぱり親切なのだ。
「ナツミ……」
 だけど、その深刻そうな声が、あたしを制した。
 何かあったのだろうか。
 アザミの顔が、いつになくけわしい。
「どうしたの?」
「デュエルよ」
 あたしと?
 いやいや。
 あたしは、レベル4の通常モンスターに苦戦して負けたような子だ。なんでまた、こん
なあたしにデュエルを挑むというのだ。
「えっとぉ……。もしかしてタッグデュエルのイベントとか――」
「違う。あたしは、姫野川ナツミに勝負を挑んでるの」
 アザミは、あたしの先にたって、デュエルディスクを構えた。
「え、なんで?」
「あたしはさ、上を目指したいんだよ。だから、あんたとの友情もここでケリをつける。
落ちこぼれといつまでも付き合ってられないの」
 そうなの?
 親切でやっぱり裏切らないと思ったのに、そうじゃない。あたしと、完全に縁を切ろう
としている。
 ショックだ。
 なんでこんな……。
「ナツミ。あたしが勝ったら、あんたはもうあたしに話しかけたりしない。それから、ア
ドレスも変えるから」
「……本気なの?」
 あたしの問いを無視して、アザミは続ける。
「もしあんたが勝ったら。そうね、何がなんでもイエローに上がる。いい?」
 無理だ。
 アザミは強い。
 レッドクラスでも成績は優秀だったし、デッキの勝率は高い。そしてイエローに上がれ
たような子は、あたしとは雲泥の差で上なのだ。
「良くないよ。あたしが負けるに決まってるし」
 言った。
 すると、アザミはきっ、と歯をしめて、こちらをにらんだ。
「あらあら。じゃあナツミのカードはデュエルに使われないわけね。使われないカードは
ただのゴミよ。紙くず。燃えるゴミにでも出しなよ」
 …………っ!
 あたしのカードは、かけがえのないものだ。
 それを……。
「いくらあたしでも、怒るよ?」
 そう、ゆっくりと冷静に言った。
 あたしにとって、これが全力の忠告だった。しかし――
「ふーん。けどナツミのはデッキじゃなくてゴミ束でしょ、どーすんの。デュエルできな
いじゃない」
 とんでもない侮蔑。
 もうあたしの中で、何かばぷっつり切れた。

「うるさあぁーーーーーーーーーい!!!!!」

 怒る!
 いくらあたしでも怒る。
「ゴミじゃないもん。デュエルくらいやるんだから!」
 怒鳴った。
 だけどあたしの怒りを見て、アザミは冷淡に笑った。
「のってきたね。じゃ、はじめましょうか」


「「デュエル!」」

■TURN1
「あたしの先攻、ドロー。
【ヴォルカニック・エッジ】を攻撃表示で召喚し、効果発動。
 1ターンに一度、500ポイントのダメージを与える」
 うぅ。
 先攻にダメージを受けた。
 やっぱりアザミは強いんだ。
「カードを伏せ、ターンエンド」

アザミ  手札4
LP4000 伏せカード1枚
     ヴォルカニック・エッジ 攻撃表示 攻1800 

ナツミ  手札5
LP3500


●TURN2
「あたしのターン。ドロー!」
 ダメだぁ……。
 手札に攻撃力1800以上のモンスターがいないから、ヴォルカニック・エッジを倒せ
ない。ほっとくとダメージを受けるけど、このカードじゃ……。
【火霊術―「紅」】なら、とりあえずダメージを与えられる。だけど、そのためには自分
の炎属モンスターをリリースしなきゃいけない。
 でもなぁ……。
 あたしのデッキ、炎属モンスターは二枚しかない。
「光の護封剣を発動! 三ターンのあいだ攻撃を封じる。
 さらに、モンスターをセット。
 カードを一枚伏せ、ターン終了」
「――その前に!」
 あたしのターンに、アザミが割り込んで来た。
「永続トラップ発動! 【拷問車輪】
 このカードがある限り、相手モンスター一体は攻撃と表示変更が不能になり、さらに毎
ターン500ダメージ与える」
 うそ……やばい。
「ターン終了」

アザミ  手札4
LP4000 永続罠 拷問車輪(伏せモンスター)
     ヴォルカニック・エッジ攻撃表示

ナツミ  手札3
LP3500 伏せカード一枚 光の護封剣
     裏側モンスター一体(拷問車輪)


■TURN3
「ナツミ。あんた、あたしのデッキタイプくらい知ってるでしょ? 攻撃宣言はほとんど
しない。効果ダメージ限定のバーンデッキ。だから護封剣なんて意味ないのに」
「――えっ」
 そうだった。
 ……でも、攻撃力1800のモンスターがいるし……。
「ドロー。
 スタンバイフェイズ時に拷問車輪の効果。500ダメージ与える。
 そしてヴォルかニック・エッジの効果、さらに500ダメージ」
 くぅっ……。
 このままじゃどうしようもないよ。
「やっぱ、弱いね」
 アザミはそうため息した。
「そんなこといっても……」
 あたしのデッキにあるのは、あのコンボだけ。

 あのコンボは、あたしのお気に入りだけに使える。そしてあの人が教えてくれた、特別
なコンボ。実践では、ほとんど完成したことはない。引きも悪いし、カードの扱いもよく
わからないあたしじゃ、滅多にこなせないのだ。
 だけど、もしうまくいけば……。

「あたしはボーガニアンを召喚し、ターンエンド」
 アザミの出したモンスターは、またダメージ効果のだ。

アザミ  手札4
LP4000 永続罠 拷問車輪(伏せモンスター)
     ヴォルカニック・エッジ 攻撃表示 攻1800
     ボーガニアン 攻撃表示 攻1300

ナツミ  手札3
LP2500 伏せカード一枚 光の護封剣(1ターン)
     裏側モンスター一体(拷問車輪)

●TURN4
「あたしのターン……」
 このままだと、勝てそうにない。
 裏側モンスターは拷問車輪の効果で表示変更もできないし、手札にいいカードもない。
次で何か引かないと、確実に負ける。
「ドロー……」
 引いたカードは……。
 ドローした瞬間、あたしは目をつむった。
 見るのが怖い。
 このカードで勝敗がほとんど左右されてしまうのだ。しかも、あたしにドロー力はない。
だからコンボだって、結局は完成しないんだ。
 きっとドローカードも、この状況では使えないカードだ。
「はやくしなさい」
 アザミが言った。
 あたしは、覚悟してカードを手札に加える。
「――――っ!」
 これは……。
 いける!
「あたしは、まず永続トラップを使うわ。
【DNA移植手術】を発動。場の表側モンスターは、あたしの指定した属性になる」
「あんた、もしかして引いたの?」
 アザミは、目をまるくした。
 信じられない、というような顔でこちらを見る。
「移植手術の効果で、風を指定。モンスターはすべて風属性になる。
 モンスターをセット。
 さらに、魔法発動! 【太陽の書】の効果により、モンスターを表側攻撃表示にする。
 モンスターは、【風霊使いウィン】よ!」
「うそ!?」
 アザミの驚きよう。
 あの子の唖然とした表情は、滅多に見れない。
「ウィンの効果。
 相手の風属性モンスター一体のコントロールを得る。あたしがもらうのは、攻撃力の高
いヴォルカニック・エッジ。
 バトル!
 ヴォルカニック・エッジで、ボーガニアンに攻撃。(-500)
 さらに、風霊使いウィンでダイレクトアタック(-500)」
「……くっ」
 攻撃を受けたアザミは、悔しげに歯をくいしばった。そして敵意の視線。
 そう見えたが、――口元が、少しだけ、笑ってる?
「カードを一枚伏せ、ターン終了」

アザミ  手札4
LP3000 永続罠 拷問車輪(伏せモンスター)
     ボーガニアン 攻撃表示 攻1300

ナツミ  手札2
LP2500 伏せカード一枚 永続罠 DNA移植手術 光の護封剣(1ターン)
     風霊使いウィン 攻撃表示 攻500
     ヴォルカニック・エッジ 攻撃表示 攻1800
     裏側モンスター一体(拷問車輪)

■TURN5
「やればできるじゃん」
 アザミは言った。
 このまま、ナツミはどこまで自分を押し切るだろうか。おそらく、手札か場にはあたし
の望むカードがある。
 この状況でラヴァゴーレムを出せば……。
 ナツミが勝ったら、ナツミは何がなんでもイエロークラスにあがる。そのためにはどん
な努力もしてもらう。それがこのデュエルのアンティだ。不公平だけど。
 あたしが勝ったら、にすれば確実かもしれない。だけど、それではナツミが自信を持た
ない。あたしに勝ったと自信を持たせ、その上で努力させる。そうでもしなけりゃ、もう
救い切れない。
 進級くらいしてくれれば、こんな戦いは必要なかったのに。
 世話が焼ける――。
「あたしのターン!
 拷問車輪の効果で、500ダメージ」
「させない! 砂塵の大竜巻を発動。相手の魔法・罠ゾーンのカード一枚を破壊する」
 やればできる。
 なんだよ、こんなんなら、進級くらいできたはずなのに。
「残念だわ。拷問車輪は破壊されて無効になる。
 けど、あたしは永続魔法、レベル制限B地区を発動するわ。B地区がある限り、場のす
べてのレベル4以上のモンスターは、守備表示になる」
 あとは、このカードを使うだけだ。
 このカードで、きっとナツミは努力するようになる。やればできるのだから、努力すれ
ばきっとイエロークラスに来てくれる。

「あんたの場の、ヴォルかニック・エッジと風霊使いウィンをリリース。
 相手の場に【溶岩魔神ラヴァゴーレム】を召喚。
 レベル4以上だから、B地区の効果で守備表示になる」

「ええ!? ウィンちゃんがぁ!」
 突然のリリースに、ナツミは愕然とした。
 どうやら、ラヴァゴーレムよりも、ウィンがいきなり墓地送りになったことが衝撃らし
い。なにせ、霊使いにやたら思い入れがあるからだ。
 なんでそのカードなのか。
 ある日霊使いのカードと出会って、デュエルをはじめた。その後、素敵な男性とやらに
出会って、それらを実践的に活用するためのコンボを授かった。
 ――とか、ナツミは言っていた気がする。
 まあいい。
 このカードで仕上げだ。
「速攻魔法サイクロンで、移植手術を破壊。ターンエンド」


アザミ  手札3
LP3000 永続魔法 レベル制限B地区
     モンスターなし

ナツミ  手札3
LP2500 光の護封剣(2ターン)
     裏側モンスター一体
     ラヴァゴーレム 守備表示 守2500


●TURN6
「ドロー――」
「あなたのターンに、ラヴァゴーレムの効果! そのカードを場に置いてるプレイヤーは
毎ターン1000ダメージ受ける」
 これで残り1500になった。
 次のアザミのターンで、500ダメージくらい受けるだろうから、このまま終了すると
負けるだろうなぁ。
 手札には、【火霊術―「紅」】がある。これを発動すれば、あたしの場に現れたラヴァ
ゴーレムをリリースし、3000ダメージ与えられる。
 勝てるかも……。
 けど、勝てるのか?
「伏せモンスターを反転召喚――【白魔導師ピケル】!
 さらに、手札から【黒魔導師クラン】を召喚!」
 ピケルは回復、クランはダメージ、効果は次のスタンバイフェイズ時に発動できる。だ
けでなく、この二体はレベルが4より低い。だから攻撃表示だ。
「二体のモンスターで、ダイレクトアタック!(-2400)」
「あーあ。残り600って、あたし運悪っ」
 アザミは、愚痴っぽく言った。
「カードを二枚伏せ、ターン終了」


アザミ  手札3
LP600  永続魔法 レベル制限B地区
     モンスターなし

ナツミ  手札1
LP1500 伏せカード二枚 光の護封剣(2ターン)
     ピケル 攻撃表示 攻 1200
     クラン 攻撃表示 攻 1200
     ラヴァゴーレム 守備表示 守2500

■TURN7
 すべて計画通り。
 黒野アザミは、カードを引いた。

「あたしのターン」
 残り600、これでいい。
 あとは、ナツミは火霊術のカードを使えばいい。伏せカード二枚のうち、どちらかがその
カードだ。
 しかし、まったく……。
 あたしのドローフェイズに使えばいいものを、どうしてそうしないんだ。
 しょうがないやつ。だけどチェーン発動くらいはあたしが教えたから、きっとわかってる
はずだ。
「大嵐を発動、場のマジック、トラップをすべて破壊する」
 そしてナツミのチェーンカード。
 ――のはずが……。
「えっ! うそ!」
 護封剣も、伏せカードも、あっさり消し飛んだ。
 ……ナツミはやっぱり馬鹿か!
「あんた! 伏せカードはなんだった」
「え、【火霊術―「紅」】と【和睦の使者】」
 ありえない。
 そんな伏せカードだったなら、ましてや火霊術なら、あたしに勝てはずなのに。
「なんでチェーン発動しないの!」
「あ、そうか。そうだった」
 信じられない。
 あたしが教えたことすら、まともに覚えてくれてない。せっかく覚えさせたはずなのに、
出来が悪くても最低限は覚えてくれてると思ったのに……。
 もうこいつはダメだ。
 この学園にいる価値もない。
「……もういい」
「え?」
 ナツミは、戸惑う表情をした。あたしの言葉に、口調に、言動に、何か絶望感を持った
様子だった。
 けど、本当に絶望したのはこっちだ。
「だから……。もういい、消えろ馬鹿!
 チューナーモンスター、【ダークリゾネーター】を召喚!
 さらに魔法カード、【精神操作】相手モンスター一体のコントロールを得る。あたしが
取るのは、【黒魔導師クラン】
 そして装備魔法【シンクロ・ヒーロー】を発動。クランに装備。このカードは、モンス
ターの攻撃力を500ポイントアップし、レベルを1上げる。
 レベル3となったクランに、レベル3のダークリゾネーターをチューニング。

 世界の風が、大いなる吹雪となる。
 シンクロ召喚!
 凍てつけ、【氷結界の龍 ブリューナク】!

 ブリューナクの効果。
 手札を捨て、捨てた枚数分、相手の場のカードを手札に戻す。
 あたしは一枚捨て、ラヴァゴーレムを戻る。元の持ち主があたしだから、あたしの手札
にもどる。
 効果を再び発動!
 ラヴァゴーレムを捨て、ピケルをあんたの手札に戻す」
 フィールドががら空きになったナツミは、世にも情けない顔をしていた。おびえて、し
かも泣きそうな表情。
 けど、馬鹿だからいけないんじゃないか。

「もう終われ! ダイレクトアタック!(-2300)」

   *

 負けた。
 あたしは、やっぱりアザミになんか勝てないのだ。あたしは弱いし、馬鹿だし。デュエ
ルも下手だ。
 アザミは、かなり怒った様子でこちらに迫ってきた。
 肌の切れそうなほどの鋭い視線に、あたしは後ずさった。
 それも意にせず、アザミはあたしにビンタをあてた。

 ばちん

 と。
 衝撃に頭が揺れ、ほおがしびれた。
「馬鹿がっ。あたしが勝ったから、もう話しかけるな。アドレスも変えてやる」
 言ったアザミは、顔を伏せた。
「ごめん、あたし……」
「だまれ」
 そしてアザミは、あたしに背を向けた。その一言だけ言い残して、とぼとぼと去って行
く。その背中を見ていると、なんだかあたしも辛くなってきた。
 前がにじんでくる。
 なんで?
 アザミ……。

『情けないことね』
「え?」
 そこには、もう一人のあたしがいた。

3

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