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TURN2  闇人格登場! 霊使いVSデミスドーザーデッキ

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〔ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!〕






  TURN2  闇人格登場! 霊使いVSデミスドーザーデッキ


 黒野アザミがそのウワサを聞いたのは、デュエル後の翌日だった。

 イエロークラスの教室に入った時、「大変、大変!」と、大振りの手招きをされた。そ
の場には数人の友達が集まっていて、何か話し合っていたようだ。
「何?」
 アザミはめんどうに思いながらも、手招きに応じる。
「あのね。デュエルで怪我人が出たって」
「はぁ?」
 デュエルで?
 カードにはソリッドビジョンシステムというのがあって、デュエル時にはモンスターの
立体映像が現れる。あくまで映像だから、攻撃を受けても特に感触はないのだけど。
「ダイレクトアタックを受けた赤の男子、体にアザが出来たらしいよ」
 赤の男子というのは、レッドクラスのことか。
 それだけ聞いても、うさんくさい都市伝説のようにしか感じない。しかしそれを真に受
けた様子の面々に、アザミはあきれた。
 立体映像はあくまで映像、実体じゃない。
「そんで、怪我人が三人も出るの」
 と言われても……。
「怪我人って、本当にいるの?」
「いるいる! 今も保健室にいるよ」
 ならば、怪我人はいるのだろう。怪我の原因のほうは、どうにも信じられない。どっか
の馬鹿はカードには精霊が憑いてるなんて、言っていたけど。
「被害者、みんな赤組なんだよねぇ……」
「赤?」
 アザミは確認した。
「うん、赤」
 なら、なおのこと興味が湧かない。
 もうあの馬鹿を助けようとは思わないし、これからはブルーをめざすのだ。ちょっとし
たウワサなどに付き合うつもりは、アザミには毛頭ない。
「けど、いちおう聞くよ。被害者の相手のデュエリストはだれ?」
 アザミは尋ねた。
 赤同士のデュエルはもはやどうでもいいが、そいつが万が一強いなら、名前くらい知っ
ていてもいいだろう。
「わかんない。赤の制服は来てるけど、誰も見たことない人なんだって」
「なんだそれ」
 やっぱり、ウワサは作り話でないだろうか。
「でも儀式モンスターを使うらしいよ」
 儀式か。
 なら【マンジュ・ゴッド】は入れてるんだろうなぁ。と、アザミはうっすら思い描いた。

   *

『情けないこと』
 そう言ったのは、もう一人のあたしだった。
 デュエルに負けたその後、どこからかあたしの姿は現れていた。幽霊みたいに半透明で、
あたし自身とは思えないような霊妙な表情。瞳にも、なんだか怪しいツヤがあった。
「だれ?」
 あたしは、尋ねた。
 姿こそ自分と同じだけれど、自分とは思えない。もっと別の人格をした、他人のように
感じる。
『あたしは、あなた自身よ』
「あたし自身?」
 どういうことだ。
『そ。だからあなたについて詳しいのよ。自分を弱いと思っているようだし、不思議なま
での無知さは実際に備えている』
 そう言われると、ますますへこむ。
「ほっといてよ」
 あたしはつっぱねた。
『そうはいかないわ。あなたの周りに、危機は潜んでいるもの』
 危機ってなんだ。
 あたしは充分落ちぶれている。
『いいかしら。あなたは自分が想像するよりも大きな力を持っている。あたしを生み出し
てしまうほどのね』
 生み出したって……。
「育てた覚えないよ」
『ないでしょうね。けれど、今はどうでもいいこと。あなたに知ってもらいたいのは、あ
なた自身の力についてよ』
 力なんて言われても。
 あたしは、実際弱いじゃないか。チェーン発動も忘れるくらい馬鹿だし、売り言葉に買
い言葉で、結局はアザミに負けた。しかも、絶交された。
『ヒントはひとつ。あなたがカードに出会った日よ』
 カードに出会った日?
 それはあの時だ。初めてカードの精霊が見えて、それを追いかけたら霊使いに出会った。
「なんで知ってるの?」
『あたしは、あなた自身だから……』
 その言葉が、最後だった。
 幽霊のように透けた姿は、吹かれて薄くなっていく。うっすらと空気に溶けていき、や
がてもう一人のあたしは消え去った。
「カード……かぁ……」



 昔、あたしは道に迷ったことがあった。
 いや、道というよりは森だ。それも、なんだか幻想的で、だけど恐ろしいものがいっぱ
い潜んだ世界だ。
 木々のあいだ、木陰のあいだに何かがうごめいている。一見、きれいで澄んだ森だけど、
影の中が得体も知れない。なぜだか、影がふっくらと立体化して襲ってくるように思えた
のだ。だからあたしは、怖かった。
 なぜそんな場所に迷い込んだか、わからない。
 そもそも、森みたいな自然の場所に、あたしは行ってすらいなかった。出かけた覚えも
ないのに、なぜ自分かここにいるのかもわからなかった。
 状況もよくわからず、あたしはただうずくまる。
「こっち、こっち」
 そのとき、声が聞こえた。
 見上げると、木の向こうで女の子が手招きしているのだ。緑の髪をしていて、後ろでポ
ニーテールを結んでいる。人じゃないような、不思議なオーラを発していた。けれど、そ
の子は怖くなかった。おどろおどろしい影と違って、女の子のはもっと優しげな、なんと
いうか包容するようなオーラだったのだ。
 だから、あたしは救ってくれるのを期待して、ついていった。
 女の子はどんどん歩いて行き、あたしはひたすらついていく。

 それが実は夢で、歩いているうちに現実に目が覚めてしまった。
 そして枕元に、四枚のカードがあった――。

   *

「どこがヒントだあー!」
 あたしは、もう一人のあたしの言葉にのっかって、過去に思いをはせていた。昔見た夢
と、なぜだか手に入った四枚のカードのことだ。
 カードは、すべて霊使い。
 風霊使いウィン。
 火霊使いヒータ。
 水霊使いエリア。
 地霊使いアウス。
 四つの属性をもったそれぞれのカードは、その属性の相手モンスターを奪う能力を持っ
ている。それを活用しようというのが、あたしのデッキだ。
 それにしても、あの出来事の何がヒントなのだ。
 あぁ、あのときからデュエルをはじめたけれど、勝ったことあったっけ? なんだか、
カードに申し訳ない。
 だけど、前触れもなくいきなり置かれていたカードだ。しかもあの夢のあとに。だから
きっと、カードには精霊のようなありがたいものが憑いている。なので、食べ物への礼儀
みたいに、日々の感謝を忘れてはいけないと思う。
「あー! でもどこがヒントだ! わけわかんない」
 もう寝よう。
 今日は、床で寝よう。
 おやすみなさい……。


 黒野アザミは、影を見た。

 昼間。
 アザミは山のそばの土道を歩いていた。この学園は山並みのそばに建っているから、こ
ういう鋪装されない道も多い。
 そんな道の向こうから、影とすれ違った。
 影としか言いようのない、黒い固まり。だが固まりというにも、あまりにうっすらして
いるもの。日陰の暗い部分のような、つまり影そのものが道を這っていたのだ。
 アザミは、空に円盤でも浮いてるのかと思った。
 宙に浮く物があって、その下に出来る影。まさにそんな形状のものだった。
 しかし、空は空。晴々としているだけだ。
「なんなんだ……」
 足下を通り過ぎて行くその影を、アザミはぼーっと見つめた。
 あの方向、レッドクラスの寮だなぁ――。
 だが、アザミは何を思うこともなく、ただ何事もなかったように歩み進んだ。

 そして道の先、デュエルスペースにあたるグランドに出たところで、アザミははじめて
驚愕した。

 人が、倒れていた。
 赤い制服をまとった男子が、うつぶせるように倒れているのだ。腕はデュエルディスク
をつけた状態で、あのウワサが頭をよぎる。
 アザミはかけよって、その男子の肩をゆすった。
「あんた、大丈夫?」
 声をかける。
 男子に、意識はあったらしい。声に応じて、うぅっ、とうなる。
「デミス……」
「デミス?」
 何が言いたいんだ、こいつは。
「おれは、デミスにやられたんだ……」
「まさかあんた、デュエルで怪我したの?」
 尋ねるアザミに、男子はかすかにうなずいた。

 あの影、レッドの方向へ向かっていたけど……。
「あの馬鹿はもう、助けない」

   *

 アザミと同じ時刻。
 姫野川ナツミは、授業も受けずに部屋で昼寝していた。

 ごん、ごん

 部屋のドアが、ノックされる。
 うるさいなぁ、めんどくさいなぁ。
 だれか、あたしの代わりに出てくれないかなぁ。あぁ、でもアザミはいないんだっけ。
同居人はもういないんだよなぁ。
 仕方ないから、自分で出よう。
 あたしは、眠い目をこすりながら玄関を開いた。
 そこに立っていたのは……。

「どなた?」

 見知らぬ男子だった。
 赤の制服だから、同じレッドなのだろうけど。こんな子は、クラスでも見かけたことが
ない。
 全身に影をまとったような、オーラの黒い人間など、だいたいそれ自体見たことない。
「デュエルだ」
「へ?」
 デュエルか。
 デュエルがしたくて、わざわざやってきたらしい。眠いし、なんであたしみたいな弱い
のに挑むのかもわからない。
「それなら、他へあたりませんか?」
 そう提案した。
 これ以上負けても、カードに申し訳ないだけだ。
「嫌でも受けてもらうぞ、闇のデュエル」
 闇の?
 なんだろうか、闇って。
「わかったよぉー……」
 まあ仕方ない。
 受けないと帰ってくれそうにないし、適当にやればいい。どうせ勝てないのだから。
5, 4

  



「はじめよう、闇のデュエルを……」
 広場で向き合い、お互いにディスクを構えた時、あたしはようやく目が冴えてきた。
 ああ、こりゃ。
 さっきまで寝ぼけていた。ちゃんと起きていたら断ったのに、寝ぼけたままデュエルを
受けてしまったらしい。
 けど、一度受けたのなら仕方ない、適当に決着をつけよう。

 相手がデッキをセットしたとき、あたりは闇に包まれた。

「へ?」
 あたりが、急に黒ずんだ。
 晴々とした空だというのに、まわりは急に暗転した。日が落ちたように暗くなり、夜と
なっていく。そうして、この場は闇に変わって行った。
 あたしと相手を囲むように、黒っぽい霧が立ちのぼった。霧というか、モヤというか。
黒紫のぼやけが円を囲み、あたしと相手はそのあいだにはいる形になる。
「何? これ」
 まさか、もう一人のあたしが言っていた危機とは、これなのか。

●TURN1
「あたしの先攻、ドロー」
 なんだか、この暗さは影に似ている。
 ちょうどあの時の夢のような、得体の知れない影だ。それがいまはぬっと浮き出て、嫌
なオーラとなってまわりを巻いている。
 なんか、怖い……。
「あたしはモンスターをセット。
 カードを二枚伏せ、ターン終了」


ナツミLP4000 手札3
        伏せモンスター1体
        伏せカード二枚

謎の男LP4000 手札5


■TURN2
「オレのターン」
 カードを引くと、男はにっ、とにやけた。その口元からは、黒い影が吐息となって漏れ
ている。手札も、影にぬられたように黒く見えた。
 やっぱり夢の影にように思えて、あたしはふるえた。
「オレは【マンジュ・ゴッド】を召喚。
 モンスター効果、デッキから儀式モンスターもしくは儀式魔法を一枚選択し、手札に加
える。オレは【エンド・オブ・ザ・ワールド】を選ぶ。
 そして――発動!」
 男は、そのカードを天高く掲げた。
「儀式魔法エンド・オブ・ザ・ワールド!
 儀式魔法は、儀式モンスターのレベル以上に数値になるようモンスター選択し、リリー
スする。
 オレは手札のレベル4モンスター二体を代償にし――
 現れろ! 【終焉の王デミス】!」
 暗転した世界から、霧が渦巻いた。それは宙にたたずむ雲のように、フィールドの上を
回転し、暗い口を開く。
 その間から、モンスターは降臨する。斧をかかえた姿で、デミスがフィールドに足をつ
けた。
 まずい。
 これ、やっぱりあたし勝てない。
「デミスを儀式召喚……。
 そして効果発動! 2000ライフ支払うことで、デミス以外のすべてのカードを粉砕
する」
 三枚のセットカードのビジョンが、フィールド上で砕けた。あたしは、それらのカード
をディスクの墓地へ送る。
「あたしは、破壊されたモンスターの効果を発動。
 【クリッター】は、フィールドから墓地へ行ったとき、デッキから攻撃力1500以下
のモンスターを選択し、手札に加える。
 あたしは、【クリボ】ーを手札に……」
 自分でもおどろくくらい、あたしの声はふるえていた。
 相手のマンジュゴッドも破壊されたけど、あたしの場はがら空きだ。
「これだけじゃない」
 え? まだ何かあるのか。
 絶望的だ。このターンで負ける。
「墓地の昆虫族二体を除外することで、【デビルドーザー】を特殊召喚!」
「うそ……」
 相手の場に、攻撃力2400のデミスと、2800のデビルドーザー。だけど、あたし
の場にカードはない。ダイレクトアタックで終わりだ。
「ゆけ、デミス」
 あたしの目の前にデミスはせまり、そして斧が振り下ろされる。

「いだぁ!」

 激痛が走った。
 これはあくまで立体映像のはずだ。その映像の斧が体をすり抜けた時、ちょうと切られ
るような痛みを感じたのだ。
 思わず、斧の通った額に手をあてる。
 ぬるりと、そこには血がついていた。
「何これ……」
 なんで、どうして。
 ソリッドビジョンは実体じゃないのに!

『変わりなさい』
 声が、聞こえた。
 少し色の変わった、あたし自身の声だ。もしかして、もう一人のあたしだろうか。
「変わるって?」
『あたしと交代するのよ』
 交代か。
 確かに、あたし本人がやるよりはいいのかもしれない。姿はあたしそのものだけど、あ
たしより強そうだ。
 だけど、今はこの状況。
 そんなことをしたって、もう負けるじゃないか。
『負けはしないわ』
「嘘よ」
 あたしは否定した。
 フィールドにカードがないのに、相手の攻撃を止められない。だからデビルドーザーの
攻撃があたって、ライフはゼロ。それで終了だ。
 手札にクリボーがあるけど、別に今更使っても……。
『でも、痛かったでしょう?』
「……うん」
 痛みを、感じた。
 立体映像で。
『それが闇のデュエル。このまま負けたらどうなるのかしら? 怪我ですむかしら。それ
ともライフがゼロになるということは、文字通り死ぬのかもね』
 不吉な言葉に、肌がふるえた。
 死――。なんとなく、冗談に感じない。
「けど、交代って……。ルール的に無理じゃ……」
『そんなことはないわ。あたしはあなた自身だもの。ゲーム中に人格が変わったとしても、
ルール違反で意義を唱えるなんてことはないでしょう』
「うん。わかったけど、どうやって?」
 それが、わからない。
 交代と言われても、だいたいもう一人のあたしは幽霊みたいに像が透けている。それこ
そ実体があるようには見えないし、ディスクだってどう取り付ける気だろう。
『変わって。と、あなたがあたしにお願いする。それだけよ』
「それだけ?」
『そう……』
 なんだか、しっくりこないが……。
「じゃあ、変わって」
 あたしは言った。
 そして――。

「デビルドーザーでダイレクトアタック!」
 男が、最後の攻撃宣言をした。
 いや、正確には最後になるはずだった攻撃。
 赤いムカデのようなモンスターを見上げながら、黒いナツミはふふっ、と笑った。
「手札から、モンスター効果発動。
 クリボーを捨てることで、戦闘ダメージをゼロにする」
「ふん、耐えたか。ターンを終了する」


ナツミLP1600 手札3

謎の男LP2000 手札1
        終焉の王 デミス 攻撃表示 攻2400
        デビルドーザー 攻撃表示 甲2800


●TURN3
 変わったナツミは、黒い。
 まわりの闇のようなオーラを、どことなくまとっていた。

 ナツミは手札を見た。
 あるのは三枚。
 一枚は、装備したモンスターの属性を変更できる【幻惑の巻物】。
 もう一枚は、風属性モンスターのコントロールを奪う【風霊使いウィン】。
 そしてもう一枚は、速攻魔法【収縮】だ。相手モンスター一体の攻撃力を半分にできる
カード。しかし、それをやってもウィンでは倒せない。
 どれも上級モンスター二体を倒せるカードではないし、次のターンで攻撃をしのぐこと
もできない。だから、すでに勝つ見込みの薄い状況だ。
 少しだけ分があるとしたら、デミスの破壊効果はもう使えないということだ。あれには
ライフを2000ポイント支払わねばならず、そして相手のライフは2000。手札はわ
ずかに一枚。
 とはいえ、このドローでキーカードを引けなければ、やはり負けてしまう。
 しかし――。

「ドロー」

 ナツミは引いた。
「魔法カード、【精神操作】発動。相手モンスター一体のコントロールを奪う。それは、
エンドフェイズ終了時までで、奪ったモンスターはリリースや攻撃はできないけれど」
「なら意味はないじゃないか」
 男は、そうあざ笑った。
「あたしは、デビルドーザーをもらうわ。
 そのデビルドーザーに幻惑の巻物を装備。モンスターの属性を風に変更。
 そして、【風霊使いウィン】を召喚」
「ウィンの攻撃力は500。精神操作で奪ったデビルドーザーは攻撃できない。何を考え
ているというのだ」
 男は淡々と言う。
 そう、これだけではどうしようもないが――。
「デッキから、モンスター効果」
「デッキからだと?」
「風霊使いウィンと他の風属性モンスターを墓地へ送ることで――
 デッキから【憑衣装着ウィン】を特殊召喚!」
「リリースとは違う、墓地へ送る処理か……」
 唖然とした男は、しかしとたんにあざ笑った。
 結局デミスのほうが攻撃力は高いから、彼が自分の優位に浸るのは当然であった。
 だがそれは、黒いナツミに破られる。
「手札から、速攻魔法発動!
 【収縮】の効果により、デミスの攻撃力を半減させる。
 憑衣装着ウィンで攻撃(-650)」
「なんだとぉ!」
 予想だにしなかった展開に、男は目をまるめて叫んだ。
「ターンエンド」


ナツミLP1600 手札0
        憑衣装着ウィン

謎の男LP1350 手札1


■TURN4
「オレのターン。
 カードを二枚伏せ、ターンエンド」


ナツミLP1600 手札0
        憑衣装着ウィン

謎の男LP1350 手札0
        伏せカード二枚


●TURN5
「ブラフね。
 ウィンでダイレクトアタック(-1850)」
 モンスターの映像、ウィンの攻撃が男にあたった。杖の打撃が肩にあたり、男はうっ、
とうめいた。

   *

 ライフがゼロになった瞬間、あたしの意識はもどった。
 今まで目は覚めていたのだけど、もう一人のあたしに変わってからは、幽体離脱をした
ような気分だった。
 自分の体が幽霊みたく透けていて、同じ姿の肉体をながめることになろうとは。こんな
状況を幽体離脱の他になんと呼ぶだろう。

 男は、デュエル終了とともに闇に包まれていった。黒い雲のようなのに巻かれて、飲ま
れたと思ったら消えていた。
 雲は飛び去っていき、男も姿を消していたのだ。

 なんだったのか。
 不思議で、しかも怖いデュエルだったけど、夢ではない。その証拠に、額にはまだ少し
血が濡れていた。
『ところで、あの闇はまた現れるでしょうね』
「え、また?」
 あの怖いオーラの人が、またやって来るのか。
 それ、嫌だなぁ……。
「また変わってくれるよねぇ?」
『それはいいけど、条件があるわ』
 条件?
 いったい、なんなのだろう。
『なにがなんでも、ブルーまで昇格すること』
「えっ……」
 無理だ。
 レッドで留年したようなあたしが、どうしてブルーに上がれるというのだろう。点数が
稼げれば可能だけど、それができないのがあたしなのだ。
『できないのなら仕方ないわ。条件を飲まないのなら、次にあれが現れても助けてもらえ
る保証はない。それでかまわないというなら、いいのだけど』
「いや、やります。がんばります」
 そうだ。
 条件さえ飲めば助けてくれる。あの状況から勝ってしまうのだから、まずイエローにな
るくらいできるかもしれない。
 ちょっとだけなら……がんばってみよう。
6

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