第2.5話 閑話と休題
1 ユキメラとヤタラ
「おい、ヤタラ、修行するぞ、表に出ろ」
「おおっと顔の怖いユキメラくんまちたまえよ、まだ食後の勉強が済んでいないのだよ」
「ぬぅ、勉強だと…。それは邪魔することができんな。ところで、何の勉強なのだ」
「ぬっふっふ、聞いて驚け見て驚け!オイラの愛読教科書はこれDA!」
「『ゥんっまぁぁいっー!ヘルシーなイタリア料理』…。料理の勉強か」
「そうさ、特にこの本の著者のトニオさんはすごいんだぜ。手相を見るだけでその人の健康状態がわかっちまうのさ」
「それは料理人のスキルなのか?」
「なにいってんだよ、料理人ってのは人々が快適な気分になるような料理を求めてるんだぜ。特に食事ってのは人間の三大欲である性欲、睡眠欲、食欲のうちひとつを満たすための最も重要なファクターだろ。それが欠ければどんな生き物も体調を崩しちまう。うまくて健康的なものを毎日食えば生き物は病気にならないんだ。つまり料理人ってのは予防に特化した医者でもある、とオイラは考えているのさ」
「ウム、そう言われれば一理ある…一理あるぞ…」
「エイヴィーにこの家の料理当番を任された以上、皆の健康状態までもに気を使うのがオイラの使命!というわけで勉強するので修行はまた今度ね」
「そういうことなら仕方がない。吾輩も貴様の飯にはお世話になっているからな。今日は自分の鍛錬に励むとしよう」
「おーけぃおーけぃ、いってらっしゃい。晩飯期待しててな」
「うむ」
*
「フヒヒ…サーセンwwwユキメラの奴意外と単純なんだよなぁ。大体飯食った後に料理の勉強なんてできるかっつーの。さーて邪魔者もいなくなったことだしワガハイは違う欲を満たすために自己タンレンに励みますかね、ーっと。表紙を取ると真面目な料理本も卑猥な雑誌に早代わりー。脳内コラ脳内コラ!エイヴィーたーん」
ゴゴゴゴゴゴゴ
/´〉,、 | ̄|rヘ
l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /)
二コ ,| r三'_」 r--、 (/ /二~|/_/∠/
/__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉
'´ (__,,,-ー'' ~~ ̄ ャー-、フ /´く//>
`ー-、__,| ''
「なにこの殺気」
「ヤタラ、兎の耳がなぜでかいか知ってるか」
「あれ…ひょっとして聞こえてましたか…?お師匠様ぁ」
「少し油断するのが早すぎたようだな、性根から叩きなおしてやる!まずは兎の気持ちになってうさぎ跳びで42.195キロだ!」
「鍛え方が後衛的!?」
2 エヴォルとムヤミ
「…姉さま、修行。稽古を…付けて、ほしい…」
「ああ、まぁ、そうね…(困った、修行なんてわからん)」
「…私は、何をすれば、強くなれる…?」
「ユキメラに教えてもらうのはどう?」
「…あいつに、教えてもらうくらいなら…爆弾持って、突っ込んで、勝ってから、死ぬ…」
「こりゃ重症だわ」
「?」
「いや、こっちの話よ、気にしないで。そうねぇ、修行といったらまずは兎跳びかなぁ?」
「…発想が、古臭い…」
「うっ、い、嫌なら別にいいのよっ。ユキメラに教えてもらいなさいよっ」
「…やる」
「じゃあまずは1キロ、できるかしら」
「…たったの、1キロ?」
「うーむ、じゃあ42.195キロとか…フフ、じょうだ」
「…やる」
「mjd!?」
3 エヴォルとヤタラ
「クッキーを焼いたぜ、エイヴィー、君のために」
「きもいうざいくさい」
「うっ、その棘のある言葉が逆にオイラを奮い立たせるっ。あとオイラ臭くないもん、ちゃんと毎日お風呂入ってるもん」
「まぁクッキーには罪はないからいただくとするわ、んんっもぐもぐ」
「味はいかが?」
「うん、おいしい。あんたお菓子も作れるのね。こういうのはどこで覚えてくるのよ」
「オイラ人間の生活に憧れててね、たまーに人里まで降りていって料理の本を貰ってくるのだ。あ、もちろん頭の角は隠してだよ」
「へぇ、人里に…ねぇ」
「あれ、オイラおかしな事言った?」
「な、なんでもないわよ!それより私にも料理教えなさいよ」
「エイヴィー料理できないの?いいよいいよ、オイラが一生作ってやるから。プロポーズは『毎朝私のみそ汁作りなさいよっ』で決まりだな。フヒヒ」
「私ができるのは食料の簡単な加工とパン作りくらいね。燻製とか保存食くらいしか作れないわ」
「華麗にスルー!?だがめげへんで、オイラめげへんで…」
「今日の夕食は何にするの?」
「フッフッフ、よくぞ聞いてくれました。今日は激レア食材であるこのクモワシの卵を使ってヤタラ特製デミグラスソースオムライスを作ろうと思います!」
「クモワシ?」
「クモワシっていう鳥がいるんだ。クモワシは陸の獣から卵を守るため谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしておくんだけどこれがまた採るのが大変でねぇ」
「谷の間ってあの霊山の大峡谷?」
「そうさ、もちろんオイラが採ってきたんじゃないんだけどね。高いところは想像しただけでチキン肌が…。とにかく今夜のメインディッシュはこの里からくすねてきたクモワシの卵で料理するぜ」
「じゃあその時見てるわ」
「もっと色んなもの見せボゲッ…ごめんなさい調子に乗りました許して下さい」
「うむ」
4 ムヤミとユキメラ
「で、結局我輩のところに来たわけか」
「…ん、姉さまが、まずは、お前から、教われと…」
「吾輩は一向に構わん。だが貴様は吾輩の言うことに素直に従えるのか」
「…正直、嫌だが、強くなるには、仕方が、ない…お前は、踏み台、だ…」
「ほほう、利用できるものは何でも使おうとするその貪欲さは立派だ。しかし吾輩が鍛える以上、口答えや甘えは許さんぞ」
「…望むところ…」
「よし、ではまずは全力疾走でランニングだ!吾輩に着いて来い!」
「…わかった…」
*
「あの二人なかなかいいコンビね」
「エイヴィーたん!オイラ達もいいコンビになるために特訓だ!ハァハァ」
「えい」
「あじゅううううう!熱したフライパンを押し付けるのはやべてくだあああああっづううううう!!」
5 ラエブとマク
「なぁマク、ボク達完全に登場するタイミングを見失ったと思うんだけど」
「このままではまずいですー。なんとかして自然にあの雪男達に自己紹介を済まさないとどんどんマク達の出番がなくなるのは目に見えてますー」
「まったくなのだ、作者の力量からしてこのままボクらをフェードアウトさせていく可能性もあるのだー」
「まぁ、ラエブ落ち着くです。マクにいい考えがあるです」
「いい考え?」
「新キャラの度肝を抜く登場の仕方ですー、これでやつらの脳裏に僕らの姿を焼き付けてやるですー」
「それはwktkなのだ!早くその方法を教えるのだ!」
「かくかくしかじか」
「ふむふむ」
…
6 ムヤミヤタラとユキメラ
「なぁユキメラ、さっきエイヴィーにな。オイラがたまに人間の里まで降りることがあるって話をしたんだけど」
「それがどうした」
「そん時に、エイヴィーの表情が陰ったんだよ。何か知らねぇか」
「…ぬぅ。見かけによらずよく細かいところによく気づくものだな」
「女の子の表情の変化を見逃さない、コレナンパの初歩ネ。で、どうなんだ?」
「その話なんだがな、正直吾輩にはどうしてよいものか…。実はな…」
*
「村人に疎まれてる…か。確かに難しい問題だなぁ」
「吾輩が人前に出るわけにもいかんしな」
「…力で、抑え付けて、しまえば、いい…」
「うわ、ムヤミ!?急に背後から登場するなよ」
「発想が野蛮だな…。それにエイヴィーが支配者になるところなど想像できんぞ。もっと根本的な解決法を考えてくれ」
「…そう、かしら…?」
「じゃあこれからはオイラがエイヴィーの代わりにお使いに行くってのはどうだ」
「あの子と人里を遠ざけてもしょうがないだろう」
「…逆らう奴は、皆殺し…」
「発想が野蛮だな!」
「ムヤミ、頼むからボソリと怖いことを言うのは止めてくれ…」
7 ヤタラ様とお料理教室
「さぁ、エイヴィーたん! 覚悟しやがれ!このヤタラ様がタップリと料理してやるぜェ~ッ!!(ちゃんと見てろよ的な意味で)」
「次はキサマだッ! ニンジン野郎!人間みてーなその名前 まったくフザけた野郎だぜ!」
「半熟卵にデミグラスソース、パセリでトドメだ! どうだまいったかッ!ハハハハハハ… ハァーッハッハッハッハッハッハッ!!」
*
「何アレ…さすがに引くわ」
8 天啓と妖精プロジェクト
「いっざすっすむっぜーキッチーン♪よーっし夕飯も大体完成かな」
「今ですラエブ!あのアホ面雪男が陽気な内にやるです!」
「よし、いくのだ。虫の知らせスウァニーチ、yatara!」
ピキーン!イチマンネントニセンネンマエカラアイシテールー♪
「む、なんだ?変な電子音がするぞ」
『ヤタラよヤタラ、聞こえるか』
「うわ!?一体なんなんだ!?頭の中で声がする!?」
『私は神なのだ』
「えっ!?カミサマ!?じゃあオイラも神だ!?」
『気づかなかった…。って違う違う!何をテンパってるのだヤタラよ。まずは落ち着くのだ』
「は、はい。そんで神さまが一体オイラに何の用で」
『それは貴様に天啓を与えるためなのだ。心して聞くがよい』
「はぁ」
『今晩、私の使いである妖精が二匹そちらで厄介になるのだ。妖精の名はラエブとマク。そのため夕飯を二匹分多めに作っておくようになのだ』
『あと、その二匹は何度も言うように神さまの使いなのです。くれぐれも粗相のないように媚びへつらうですー。分かったら返事!』
「あ、ハイわかりました!」
『出迎えは玄関で土下座、入ってきたら靴を舐めるですー。』『ちょっマク!それはやりすぎじゃぁ『これくらいがインパクトあっていいですー。わかったですかー。もしコレを守らなかったらお前の身に恐ろしいことが降りかかるですよ』
「ヘ、恐ろしいことって?」
『昼夜問わずこの念話を使って大音量で電波ソングを垂れ流してやるですー』
「ゴクリ…恐ろしすぎる…」
『約束を守れば良いのですー』
「ところで神さま、一つ聞いて良いですか」
『何なのだ』
「さっきの電子音みたいなのって」
『私の趣味ですー』
9 哀れみとコントん
「できたー、ヤタラ特製オムライス完成!!」
「なんか予定より時間かかってたみたいね、どうしたの?」
「いや、急に2人分追加で作らなくちゃならなくなってね。待たせてごめんよエイヴィー」
「なんで2人分追加したの?」
「何でも神さまの使いが来るらしいんだよ、ついさっき天啓が下ったのさ」
「え、ハハ…そうなんだ…(ついに頭が…かわいそうな人…ダメ、哀れんじゃダメよ、私!)」
「なんでかわいそうな人を見る目でこっちを見てるんだよ。耳元で電波ソング流されても知らないぜ」
「フフ…そうね…(ああ、なんか涙が…)」
ガチャン
「エイヴィー!晩御飯食べに来たのだー」「エヴォルさーん、かわいい妖精が来たですよー」
「あらラエブとマクじゃない。またえらく急に来たわね」
「いらっしゃったぞ!神様の使い様だぁー!靴を舐めまするぅーーーー!」
「ひ…、怖っ、この人ホントに狂ってる!?」
「ぬ、どうしたエイヴィー。よしよし、泣くな、何があった…って何をやっておるのだ貴様!」
「お、ユキメラ、お前も神さまの使いの前なんだから土下座しろよ」
「男が簡単に土下座などするでない!恥を知れ恥を!」
「…騒がしい、なにが、あった…?」
「収拾着かなくなってきたのだ。この状況、どうするのだマク?」
「クックック、いい感じにカオスになってきたです」
10 閑話と休題
「結局妖精のいたずらだったってことね」
騒がしくも何とか状況を整理した一同はリビングの机を囲みようやく落ち着いた。
「こんなチビどもにも舐められるオイラって…」
そういって肩を落とすのは雪男だが、周りは特に気にもかけていない。彼がすぐにでも気をなおすことを皆知っているからだろうか。出来たばかりとはいえ、他人同士とはいえ、そこには確かに小さな家族としての姿があった。
「とりあえず準備も出来たことだし、晩餐を始めましょうか。」
「…もう、お腹と背中が、炉心融解しそう…」
「いいんだオイラなんか…どうせ…」
「バカは放っといて、では、手を合わせてください」
「「「いっただきまーっす!」」」
*
「断然クモワシだな!」
「…う、うまい…」
「濃厚でいて舌の上でとろける様な深い味は市販の卵とははるかに段違いだ!!」
ヤタラは市販の卵で作ったオムライスも作って食べ比べができるようにしておいたらしい。あいつはヘタレだが細かいところに気が付く。
「それにしてもマク達が入ってきたときのあの雪男の顔、何度思い出しても吹くですー」
「マク、ボクは本当にマクが敵でなくて良かったと思うのだ…」
羽虫二匹は本当に騒々しい、けれど奴らが来てこの家の雰囲気は以前のような重苦しさが全くと言ってなくなった。
「…む、ヤタラ、このクモワシの卵、ケモ爺の所から…」
「まぁまぁ、ムヤミ。細かい事はこの場では言いっこなしだぜ。」
「…確かに、ご飯が、まずく、なる…」
「だろ?わかるようになったじゃん」
「…だから、食べ終わってから、折檻…」
(食べ終わったら逃げよう、捕まったら殺られる…)
ムヤミの好戦的な性格は厄介だが、エヴォルの前ではなぜか大人しくしているようだ。傍から見ると本当の姉妹のようにも見える。
「ユキメラ、さっきから黙っちゃってどうしたの?」
そしてニコリと笑いかけてくる少女、エヴォル・エキル。その笑顔から以前のような陰は感じなくなった。
「うむ、夕飯の味が思ったよりいいものでな」
「フフ、何よソレ。余りの美味しさに声も出ないって?」
「おおっユキメラもわかるか!そんなに喜んでもらえてオイラ感激!」
「ぬぉ!食ってる最中に背中をバシバシ叩くな!」
*
ユキメラは思った。
解決しなければならないことはまだたくさんある。この生活があとどれくらい続くのだろう。エヴォルが人間として暮らすのならいつかはこの繋がりも解かなくてはならない。
だけど今はこの小さな小さな笑顔を守っていこう。そう思った。
第2.5話 おわり
「なぁマク、ボク達完全に登場するタイミングを見失ったと思うんだけど」
「このままではまずいですー。なんとかして自然にあの雪男達に自己紹介を済まさないとどんどんマク達の出番がなくなるのは目に見えてますー」
「まったくなのだ、作者の力量からしてこのままボクらをフェードアウトさせていく可能性もあるのだー」
「まぁ、ラエブ落ち着くです。マクにいい考えがあるです」
「いい考え?」
「新キャラの度肝を抜く登場の仕方ですー、これでやつらの脳裏に僕らの姿を焼き付けてやるですー」
「それはwktkなのだ!早くその方法を教えるのだ!」
「かくかくしかじか」
「ふむふむ」
…
6 ムヤミヤタラとユキメラ
「なぁユキメラ、さっきエイヴィーにな。オイラがたまに人間の里まで降りることがあるって話をしたんだけど」
「それがどうした」
「そん時に、エイヴィーの表情が陰ったんだよ。何か知らねぇか」
「…ぬぅ。見かけによらずよく細かいところによく気づくものだな」
「女の子の表情の変化を見逃さない、コレナンパの初歩ネ。で、どうなんだ?」
「その話なんだがな、正直吾輩にはどうしてよいものか…。実はな…」
*
「村人に疎まれてる…か。確かに難しい問題だなぁ」
「吾輩が人前に出るわけにもいかんしな」
「…力で、抑え付けて、しまえば、いい…」
「うわ、ムヤミ!?急に背後から登場するなよ」
「発想が野蛮だな…。それにエイヴィーが支配者になるところなど想像できんぞ。もっと根本的な解決法を考えてくれ」
「…そう、かしら…?」
「じゃあこれからはオイラがエイヴィーの代わりにお使いに行くってのはどうだ」
「あの子と人里を遠ざけてもしょうがないだろう」
「…逆らう奴は、皆殺し…」
「発想が野蛮だな!」
「ムヤミ、頼むからボソリと怖いことを言うのは止めてくれ…」
7 ヤタラ様とお料理教室
「さぁ、エイヴィーたん! 覚悟しやがれ!このヤタラ様がタップリと料理してやるぜェ~ッ!!(ちゃんと見てろよ的な意味で)」
「次はキサマだッ! ニンジン野郎!人間みてーなその名前 まったくフザけた野郎だぜ!」
「半熟卵にデミグラスソース、パセリでトドメだ! どうだまいったかッ!ハハハハハハ… ハァーッハッハッハッハッハッハッ!!」
*
「何アレ…さすがに引くわ」
8 天啓と妖精プロジェクト
「いっざすっすむっぜーキッチーン♪よーっし夕飯も大体完成かな」
「今ですラエブ!あのアホ面雪男が陽気な内にやるです!」
「よし、いくのだ。虫の知らせスウァニーチ、yatara!」
ピキーン!イチマンネントニセンネンマエカラアイシテールー♪
「む、なんだ?変な電子音がするぞ」
『ヤタラよヤタラ、聞こえるか』
「うわ!?一体なんなんだ!?頭の中で声がする!?」
『私は神なのだ』
「えっ!?カミサマ!?じゃあオイラも神だ!?」
『気づかなかった…。って違う違う!何をテンパってるのだヤタラよ。まずは落ち着くのだ』
「は、はい。そんで神さまが一体オイラに何の用で」
『それは貴様に天啓を与えるためなのだ。心して聞くがよい』
「はぁ」
『今晩、私の使いである妖精が二匹そちらで厄介になるのだ。妖精の名はラエブとマク。そのため夕飯を二匹分多めに作っておくようになのだ』
『あと、その二匹は何度も言うように神さまの使いなのです。くれぐれも粗相のないように媚びへつらうですー。分かったら返事!』
「あ、ハイわかりました!」
『出迎えは玄関で土下座、入ってきたら靴を舐めるですー。』『ちょっマク!それはやりすぎじゃぁ『これくらいがインパクトあっていいですー。わかったですかー。もしコレを守らなかったらお前の身に恐ろしいことが降りかかるですよ』
「ヘ、恐ろしいことって?」
『昼夜問わずこの念話を使って大音量で電波ソングを垂れ流してやるですー』
「ゴクリ…恐ろしすぎる…」
『約束を守れば良いのですー』
「ところで神さま、一つ聞いて良いですか」
『何なのだ』
「さっきの電子音みたいなのって」
『私の趣味ですー』
9 哀れみとコントん
「できたー、ヤタラ特製オムライス完成!!」
「なんか予定より時間かかってたみたいね、どうしたの?」
「いや、急に2人分追加で作らなくちゃならなくなってね。待たせてごめんよエイヴィー」
「なんで2人分追加したの?」
「何でも神さまの使いが来るらしいんだよ、ついさっき天啓が下ったのさ」
「え、ハハ…そうなんだ…(ついに頭が…かわいそうな人…ダメ、哀れんじゃダメよ、私!)」
「なんでかわいそうな人を見る目でこっちを見てるんだよ。耳元で電波ソング流されても知らないぜ」
「フフ…そうね…(ああ、なんか涙が…)」
ガチャン
「エイヴィー!晩御飯食べに来たのだー」「エヴォルさーん、かわいい妖精が来たですよー」
「あらラエブとマクじゃない。またえらく急に来たわね」
「いらっしゃったぞ!神様の使い様だぁー!靴を舐めまするぅーーーー!」
「ひ…、怖っ、この人ホントに狂ってる!?」
「ぬ、どうしたエイヴィー。よしよし、泣くな、何があった…って何をやっておるのだ貴様!」
「お、ユキメラ、お前も神さまの使いの前なんだから土下座しろよ」
「男が簡単に土下座などするでない!恥を知れ恥を!」
「…騒がしい、なにが、あった…?」
「収拾着かなくなってきたのだ。この状況、どうするのだマク?」
「クックック、いい感じにカオスになってきたです」
10 閑話と休題
「結局妖精のいたずらだったってことね」
騒がしくも何とか状況を整理した一同はリビングの机を囲みようやく落ち着いた。
「こんなチビどもにも舐められるオイラって…」
そういって肩を落とすのは雪男だが、周りは特に気にもかけていない。彼がすぐにでも気をなおすことを皆知っているからだろうか。出来たばかりとはいえ、他人同士とはいえ、そこには確かに小さな家族としての姿があった。
「とりあえず準備も出来たことだし、晩餐を始めましょうか。」
「…もう、お腹と背中が、炉心融解しそう…」
「いいんだオイラなんか…どうせ…」
「バカは放っといて、では、手を合わせてください」
「「「いっただきまーっす!」」」
*
「断然クモワシだな!」
「…う、うまい…」
「濃厚でいて舌の上でとろける様な深い味は市販の卵とははるかに段違いだ!!」
ヤタラは市販の卵で作ったオムライスも作って食べ比べができるようにしておいたらしい。あいつはヘタレだが細かいところに気が付く。
「それにしてもマク達が入ってきたときのあの雪男の顔、何度思い出しても吹くですー」
「マク、ボクは本当にマクが敵でなくて良かったと思うのだ…」
羽虫二匹は本当に騒々しい、けれど奴らが来てこの家の雰囲気は以前のような重苦しさが全くと言ってなくなった。
「…む、ヤタラ、このクモワシの卵、ケモ爺の所から…」
「まぁまぁ、ムヤミ。細かい事はこの場では言いっこなしだぜ。」
「…確かに、ご飯が、まずく、なる…」
「だろ?わかるようになったじゃん」
「…だから、食べ終わってから、折檻…」
(食べ終わったら逃げよう、捕まったら殺られる…)
ムヤミの好戦的な性格は厄介だが、エヴォルの前ではなぜか大人しくしているようだ。傍から見ると本当の姉妹のようにも見える。
「ユキメラ、さっきから黙っちゃってどうしたの?」
そしてニコリと笑いかけてくる少女、エヴォル・エキル。その笑顔から以前のような陰は感じなくなった。
「うむ、夕飯の味が思ったよりいいものでな」
「フフ、何よソレ。余りの美味しさに声も出ないって?」
「おおっユキメラもわかるか!そんなに喜んでもらえてオイラ感激!」
「ぬぉ!食ってる最中に背中をバシバシ叩くな!」
*
ユキメラは思った。
解決しなければならないことはまだたくさんある。この生活があとどれくらい続くのだろう。エヴォルが人間として暮らすのならいつかはこの繋がりも解かなくてはならない。
だけど今はこの小さな小さな笑顔を守っていこう。そう思った。
第2.5話 おわり