カイムたちは自分たちの教室の1年3組に向かっていた。その教室には春たちにはたいしたものはないように思えていたのかもしれない。
しかし違った。少なくともカイムには違うように感じていた。なぜなら持っているから・・・・
これから行われる退学を賭けた戦いをするにあたって、カイム側はほぼ常勝できる賭けを行う道具・・・・それがカイムの机の中に入っているのである。
将棋である・・・・
そう、カイムは将棋が強いのだ。中学の県大会でベスト4に入るほどの実力だ。
しかし、そんなちからをもってしてもカイムには不安があった。
それは・・・・・
まだ将棋で勝負をするとは決まっていないということだ!
カイムは将棋が強いというのは、おそらくばれていないだろうが、こちらが強いということを、こちらから将棋を提案することでばれてしまう可能性があるからだ・・・
「なぁ春・・・」
「名前をなれなれしく呼ぶなって言っただろうが!」
「・・・・・・」
(じゃあなんて呼べばいいんだよ・・)
「今回の退学を賭けた勝負・・・一帯何で決めるんだよ?」
カイムは恐れているようなふりをして聞いてみる。
「そうだな・・・・3組で1番はじめに見つかった勝負できそうなものにしよう。」
(やった!!!)
カイムは心の中で安心した。
(これなら1番に将棋盤を出せばいいだけじゃないか!)
(もう勝ったも同然!)
しかし・・・カイムは考えが浅かった。
確かにこの状況では必ず将棋ができるように感じる。
しかし、そんなに甘かっただろうか?
いやちがう。そんなに甘くない・・・人はそうそう人に権利を与えない・・・・何も与えてやらないのだ、金持ちだって政治家だって、与えてくれるのはたいしたこと無いものばかり、ましてやこんな重要なギャンブルの種目を決める権利なんて与えてくれないのだ。
そしてカイムはせっかっくのいろいろ考える時間を無駄にして教室についてしまった。
そして春がドアを開ける。
「さぁ、賭けに使えそうなものを探そうか・・・・」
春のこの掛け声に対して走り出したかったカイムだが、土壇場でこの行動に対して怪しいと思われて、こっちが何で賭けるか決める権利が、ないことにひっくり返されてはいけないと思ったので、慎重に探しているふりをした。
カイムは先に春が何か見つけてしまうか心配で心配で心臓が張り裂けそうだった。
(頼む・・・俺が先に・・・・先にたどり着くんだ!)
カイムはたどり着いた!自分の机の前まで!
(やった!後は取り出すだけ!)
そして手に取る!念願の将棋盤!
さっそくカイムは提案してみる。
「なぁ・・・・この将棋なんてのはどうだ?」
「お前・・・・本気で将棋できると思ってんの?」
カイムの背筋に何かが走った。
「え・・・・どういうことだよ?
1番最初に見つけたじゃないか、
それにこれなら勝ち負けが明確だ。
何の不満がある?」
カイムの声はすでに震えていた。しかしそれ以上前からずっと震えていたのはアスランとモロクである。なぜならカイムはこの作戦のためにアスランとモロクには、
(何もするな!)
この一言を小さな声で回りに聞こえないように伝えただけである。当然作戦の内容も知らないので臨機応変に対応することもできず、ただ間抜け面をして突っ立っていることしかできなかったのだ。
「お前さ・・・そこの二人のツレの動きのなさ、
お前の机から出てきた将棋盤・・・・
こんだけあれば誰だって気づくだろ?」
「・・・・・」
カイムはもう目を瞑っている。悔しそうにしている。
「お前・・・将棋強いだろ?
それだから将棋で勝負しようって言ってきてるだろ?」
「カ・・カイムさん・・・
俺たちのせいで・・・
ばれてしまった・・・」
「いや・・お前たちのせいじゃないよ。」
「え?」
春の突然の言葉にみな動揺する。
「正直、あんたたちが何を出してこようが受ける気はなかった。」
「うそでござるよね?
だって一番先に見つけたものって・・」
「は?お前らそろってクズか?
いや、クズだったな・・・
なんであたしがクズの言うこと聞かなきゃいけないわけ?
あんたらに権利なんて与える必要ないんだよ!」
春の罵声にカイムたちは退いた。
(くそっ!気づくのが遅すぎた!
その可能性の考えていれば、移動時間にまだまだほかの事は考えれていたのに・・・
なぜ考えなかったんだ!)
「もうさすがに気づいてると思うけど、何で勝負するかは決まってるよ。」
「え?
まさかカイムさんの苦手分野で・・・」
「モロク・・・それはない。」
「なんでですか?
カイムさんの苦手なとこをつくのが最善じゃないですか。」
「それはな・・・」
カイムが話そうとしたときに馬鹿にするような口調で春が割って入った。
「お前らがクズだからだよ!」
「???」
アスランとモロクは理解できていない。
「お前らみたいなクズの情報なんて、
知る必要もないし知りたくもない。」
アスランとモロクはやっと気がつく、
カイムがそれに補足する。
「それに、
今回俺たちと賭けをすることになったのは偶然だ。
それならまず情報なんてもってない。
それなら・・・・
自分の得意分野!それしかない!」
(もしくはイカサマ!
いや、もうほとんどイカサマだ!)
カイムは念のためにイカサマの可能せいについては伏せておいた。またこれもイカサマがばれそうならちがうギャンブルに変えられる可能性があるからだ。
カイムは質問する。
「で、どんなギャンブルだよ?」
「じゃあ・・・紹介しよう・・・
わかってると思うけど、
これはあたしたちが熟知しているギャンブル。
だからほとんど負けない。
ある意味イカサマ・・・」
(!!自分からイカサマの言葉を使ってきた?
どういうことだ?
もとから意識されてるならこっちからいいだしたほうが自然ということか?)
「そのギャンブルの名前は・・・」
「もったいぶってないで早く言えよ!」
「お前ら・・・まだ立場わかってないのか?
心配しなくてもいますぐ教えるよ・・・」
「・・・・・」
「そのギャンブルの名前は・・・
鉄アレイ落とし!」
「・・・・・」
「わからないだろうな・・・・
いますぐ説明するよ、ルールを・・
おい!鉄アレイ落とし機をもってこい!」
春の命令ですぐにたらい落とし機はもってこられた。
「おい・・・・なんだよこれ・・・・」
「たらい落とし機と言っていたでござろう・・・・」
その機械は電話ボックスを3個くっつけたような形をしていて、前に3本のロープが張ってあって、ボックスノ上には、鉄アレイがぶら下がっていた。そして鉄アレイのそれぞれの下にイスがあった。
「もうわかると思うが、
そのイスには人が座って、
間違えると鉄アレイが落ちてくる・・・
いや、正確には、当てられると落ちてくる。」
「ふざけるな・・・こんな危険な勝負受けるわけないだろ!」
「じゃあ、退学したくなるまで毎日仲間が袋叩きになるけど、
それでもいいんだ・・・・へ~・・・・」
「やるしか・・・ないのか・・・」
カイムはしぶしぶ納得する。
「じゃあ詳しいルールを説明するからよく聞けよ。」
「わかった。」
そしてカイムは戦いの渦に引き込まれていく・・・・