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後悔

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「ふぁ……ここはどこですか?」
「あぁ、ラミア。起きた? いま家に帰ってるから」
「そうですか……なんだか、あったかいですぅ……」
 ねぼけながら話す。
「そりゃそうだよ。ボクの背中だからね」
「そうなんですかぁ……って、えぇ!」
 慌てて降りようとする際にボクの体勢が崩れた。
「ちょっと! そんなに暴れないでって、うわぁ!」
 どさり、となんとか護ろうとがんばってみたが頭をぶつけないようにするのが精一杯だった。
「……」
「……」
 無言になったのはラミアをかばったときにボクがラミアの上に覆いかぶさるような体勢になってしまったからだ。不覚にも鼓動が早くなる。
「だ、大丈夫?」
「えぇ。燕尾さんがかばってくれたおかげでなんとかなりました」
 初々しくなってしまい会話が続かなくなる。
「あの、燕尾さんはいままでどこに?」
「え、あ、いや、ちょっと病院に……」
 病院というワードにラミアは敏感に反応する。
「なにかあったんですか!? 燕尾さんどこか怪我しましたか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「……燕尾さんがなにかあったのはいってくれないんですか? そんなに頼りないですか?」
 いかん。今にも泣きそうだ。ボクは一息ついて淡々と話した。
 昔、母さんが死んでその時には借金を抱えて、実の妹京螺を引き取れなかったこと。その数ヵ月後京螺が性染色体劣性遺伝型筋ジストロフィーといういまの医療では決して治ることのない病気に罹ったことも。
 全て。
 なにもかもラミアに話した。
 話すたびに心の闇が晴れていくようだった。
 全て話し終わったころには家についていてボクは泣きそうな鼻声になっていた。
「……少し、長くなったね。さぁ、もう寒いし家に入ろう?」
 立ち止まって玄関に入ろうとしないラミアがいた。
「どうしたの?」
 だが、ラミアは俯いたまま喋らない。
「わたくしは、ここにいていいんでしょうか?」
「は?」
 突然の言い出しにボクは驚く。
「だって、わたくしは何も燕尾さんのことなにも知らなくて自分勝手にここに残ってしまいました。もし、アナタの迷惑になるんだったら……わたくしは静かに立ち去ります」
「……そんなわけない。だって……」
 だって、ラミアのおかげで少しは救われたんだ。しかもいまのキミは泣きそうじゃないか、帰りたくないって思ってるじゃないか。
「ボクは、帰って欲しくない。ラミアにまでいなくなったらどうにかなりそうだ。だから少しでもいい。いっしょにいてくれ」
 手を差し伸べる。
「アナタさえ、よければ」
 顔を上げニコリと微笑みかける。
「それじゃあ、お風呂入って明日に備えよう」
「そうですね」
 ボクの手を取りいっしょに玄関に入っていく。



「燕尾さん」
「ん?」
 風呂から上がりコーヒー牛乳を飲んでいるボクにラミアが話しかける。なにかいいたそうだったのでラミアが座っている向かい側のソファに座る。
「燕尾さんは、このままでよろしいのですか?」
「このままって、何が?」
「……妹さんのことについてです」
 京螺、とは読んではくれないやはり父親にまで隠されていたことにショックだったんだろう。
「しょうがないよ……ボクが悪いんだし。それに顔を合わせたって京螺は絶対に悲しい顔を浮かべるだけ。そんな顔もう、見たくないんだ」
「本当に、いいんですか? アナタは納得できるんですか?」
 その言葉にボクは何もいえない。
 だが、次第にボクが持っていた不平不満が言葉となってにじみ出ていった。
22, 21

  

「……いいわけないだろ!? アイツが苦しんでいるのわかっていたうえでボクは言ったんだ! 本当なら病院に行って、土下座でも何でもして謝って! 大好きな京螺が行きたい場所へ行かせてやりたいんだよ! それが……できないんだ……アイツはもうボクを許してくれないんだよ……だからボクは、オレは大人しく遠くから京螺の幸せを見ていくことしかできないんだよ」
「それじゃあ、明日謝りに行きましょう? わたくしもついていきます。謝って、謝ってそれで許してもらいましょう?」

 ――できるなら、そうしたいよ

「できないんだよ! アイツは、泣いていた……ボクを見て泣いていたんだ……」
「それは、アナタがいなくなったことに後悔したんじゃないんですか?」
 そんなわけないだろう。
「もう、止めてくれ。この話は、終わりだ」
 自室へ戻っていく。こんな話聞きたくない。
 パタンと和室に続く戸を閉める。
「おやすみ、なさい」
 最後に聞こえたのはこの言葉だった。
 ボクはどうすればいいのだろう。ラミアの言ったとおり謝りに病院へ行けばいいのかもしれない。むしろそれが正しい答えだ。答えが見つかっているのにボクは行かない。回り道をしている。


 ――なんで、ラミアの言動に振り回されているんだろうか?


 ボクはふと疑問に思う。
 前のボクならばたとえさっきのように京螺に見放されても平気だったはずだ。しかしラミアというボクの脳内に入ってきてからボクの歯車が少しずつかみ合ってきたという錯覚を覚える。
 根拠なんてないのに。
 だけど、もしラミアが言ったとおり京螺の涙が後悔の涙なら、ボクはアイツのために泥水をすすって花梨の言いなりにでもなろう。
 でも、京螺が本当にボクのことを軽蔑したのなら二度と会わない。だから、明日謝りに行こう。一人じゃ不安だからラミアも連れて。
 彼女がいればボクは安心して謝れる。無駄な意地を見せないで素直に謝れるような気がする。
 ボクにしては甘いことを述べているのかもしれない。だけどいまのままじゃ京螺はもっと深いところまで闇に潜ってしまうようになる。
 悲しみの深い深海に行って欲しくないから。
 苦しみがある深海にだけは行って欲しくないから。
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