懺悔
「え~! 燕尾くんなんで帰れないの!?」
昨日あれだけいったのにまだ帰ろうとせがんでくる瑠佳がいた。まるで昨日のことなんかなかったように。
「ごめん。他によるところがあるんだ」
「むぅ……その様子じゃあただ事じゃないな? しょうがないかぁ」
あっさりと折れてくれたことに少々の感謝を心に示した。心じゃわかんないだろうけどね。
「また今度ね」
瑠佳に向かって手を振りラミアを連れて目的の病院に急ぐ。
「大丈夫ですか?」
なるべく不安をみせないようにしていたのだが感覚が鋭いラミアにはすべてがお見通しだったらしい。
「うん。少し不安なんだ。変だよね~いざとなるとちょっと緊張しちゃって……」
そういうともっと心臓の鼓動が早くなる。喉がかわく。できることならいますぐにでもやめて家に帰り優雅にコーヒーでも飲みたい気分だ。
わかっていても歩みはとめられない。こんな問題が起きたのは自分のせいだから自分で解決するしかないんだ。
生唾を飲み込む。
「大丈夫。アナタならできます」
コツンとボクの額とラミアの額が軽く当たる。
「大丈夫……」
ニッコリと笑う。不安を取り除こうとしてくれているのだろうか。
「ほら、もう病院に着きました。行きましょう」
ボクの手を引いて先に歩んでくれる。
「……うん」
やはり歩くたびにボクは暗くなってしまう。
第一治療室へと辿り着く。
昨日あれだけいったのにまだ帰ろうとせがんでくる瑠佳がいた。まるで昨日のことなんかなかったように。
「ごめん。他によるところがあるんだ」
「むぅ……その様子じゃあただ事じゃないな? しょうがないかぁ」
あっさりと折れてくれたことに少々の感謝を心に示した。心じゃわかんないだろうけどね。
「また今度ね」
瑠佳に向かって手を振りラミアを連れて目的の病院に急ぐ。
「大丈夫ですか?」
なるべく不安をみせないようにしていたのだが感覚が鋭いラミアにはすべてがお見通しだったらしい。
「うん。少し不安なんだ。変だよね~いざとなるとちょっと緊張しちゃって……」
そういうともっと心臓の鼓動が早くなる。喉がかわく。できることならいますぐにでもやめて家に帰り優雅にコーヒーでも飲みたい気分だ。
わかっていても歩みはとめられない。こんな問題が起きたのは自分のせいだから自分で解決するしかないんだ。
生唾を飲み込む。
「大丈夫。アナタならできます」
コツンとボクの額とラミアの額が軽く当たる。
「大丈夫……」
ニッコリと笑う。不安を取り除こうとしてくれているのだろうか。
「ほら、もう病院に着きました。行きましょう」
ボクの手を引いて先に歩んでくれる。
「……うん」
やはり歩くたびにボクは暗くなってしまう。
第一治療室へと辿り着く。
目の前に行くと息が詰まりそうだ。ボクの周りだけ空気が重くなっていくようなイメージだ。
大きく息を吸い、ドアノブに手をかける。
「お兄ちゃん」
「うおぁ!?」
不覚にも部屋にはおらず廊下で会ってしまった。
「何しにきたの?」
冷徹な眼だ。
「あの、昨日のことで……謝りにきたんだ」
「……帰ってよ。嘘つき。じゃまだからどいてくれない?」
冷水を浴びせられたように冷たく当たられる。でもボクは逃げない。ここで逃げたらゲームオーバーになってしまう。
「ごめん……ごめんな」
「うるさい。帰ってよ!」
何度も謝る。
だが、一向に許してくれる気配はない。
「そっか……じゃあ、今度こそ……お別れなんだな?」
「そうよ。アンタなんか消えればいいのよ」
京螺の顔はくしゃくしゃしていた。ボクの心もくしゃくしゃになりそうだった。
あぁ、昔はボクによく笑顔をみせてたよな。微笑んでいたよな。それが今じゃどうだ?
目が赤くなっていてなんだか腫れぼったい。何時間も泣いていたように、顔がむくみが上がって髪もボサボサ。中学生のころは少しふくよかだったが今はやつれている。
こうしたのは誰だ? 可愛い妹をここまで追い詰めたのは誰だ?
―――オレじゃないか………
親父に何の相談もせずに己の自己判断だけで突き通し、挙句の果てに京螺にだってそのことをまったく話さなかった。
もう一度、話したいと思った。
だけどもう京螺はボクがいるだけで怒った顔と悲しい顔しかみせてくれない。
だったらボクは消えてしまえばいい。
「あなたは、本当によろしいのですか?」
唐突にラミアが話し出す。
大きく息を吸い、ドアノブに手をかける。
「お兄ちゃん」
「うおぁ!?」
不覚にも部屋にはおらず廊下で会ってしまった。
「何しにきたの?」
冷徹な眼だ。
「あの、昨日のことで……謝りにきたんだ」
「……帰ってよ。嘘つき。じゃまだからどいてくれない?」
冷水を浴びせられたように冷たく当たられる。でもボクは逃げない。ここで逃げたらゲームオーバーになってしまう。
「ごめん……ごめんな」
「うるさい。帰ってよ!」
何度も謝る。
だが、一向に許してくれる気配はない。
「そっか……じゃあ、今度こそ……お別れなんだな?」
「そうよ。アンタなんか消えればいいのよ」
京螺の顔はくしゃくしゃしていた。ボクの心もくしゃくしゃになりそうだった。
あぁ、昔はボクによく笑顔をみせてたよな。微笑んでいたよな。それが今じゃどうだ?
目が赤くなっていてなんだか腫れぼったい。何時間も泣いていたように、顔がむくみが上がって髪もボサボサ。中学生のころは少しふくよかだったが今はやつれている。
こうしたのは誰だ? 可愛い妹をここまで追い詰めたのは誰だ?
―――オレじゃないか………
親父に何の相談もせずに己の自己判断だけで突き通し、挙句の果てに京螺にだってそのことをまったく話さなかった。
もう一度、話したいと思った。
だけどもう京螺はボクがいるだけで怒った顔と悲しい顔しかみせてくれない。
だったらボクは消えてしまえばいい。
「あなたは、本当によろしいのですか?」
唐突にラミアが話し出す。
「誰?」
不機嫌そうな顔でボクに問いかける。多分関係のない赤の他人だと思っていたんだろう。
「………………京螺の義理の姉になるラミアだ…………」
そう簡潔に述べた。
「父さん新しい女の人作ったんだ」
そりゃそうよね。母さんを捨てたんだから、と皮肉をいう。
「違います。パパはそんなこといっていませんでした。よくケイラさんのことはパパから聞かされていましたよ。いつもいつもケイラさんのこと気にかけていました。それにケイラさんの費用も少しはお金を出していると思います」
自分で働いていましたし、と思いもかけない言葉がでてきた。
「とーちゃん……仕事してたの!?」
「えぇ、燕尾さんの学費も時々は出していると申していましたよ」
確かに時々、本当に時々だが花梨がすでに学費が払われていたことに不満を漏らしてたのを思い出した。けどそれがあのちゃらんぽらんのとーちゃんが払っていたのは初耳だった。
「……とーちゃんは知っていたのか? その……京螺の病気のことも……」
ラミアは当然のようにうなずく。
「パパはなんでアメリカに来たのか聞いたところケイラを助けるために、少しでも償うためにきたと仰っていました」
つまり京螺の病気も、母の死もすべて知っていたというのか……
「お兄ちゃん」
京羅に目を向けると涙目になっていた。
「お兄ちゃん……わた、わたし……捨てられてないんだよね?」
切れ切れになりながらも話を続けた。
「わたし、お荷物じゃないんだよね? 生きて、いいんだよね?」
抱きしめる。
「当たり前だよ。京螺はお荷物でもないし、捨てられてもない。ましてや、生きていい? 何てそんな悲しいことを聞かないでくれ……」
ボクの胸の中で声を押し殺しながら泣いていた。叫んでいた。
「ラミア」
ボクは呼ぶ。ラミアはいつもと変わらない表情でニッコリと微笑んでくれる。
「ありがとう」
それだけいうと京螺に視線を戻し子供をあやすようになでた。
ボクは本当に感謝した。
ラミアがいなければ本当にボク達兄弟の絆も終わっていた。
でもどうしてキミは突然見知らぬ土地で一人なのにも関わらず会って間もないボクのことを助けてくれたんだ?
この疑問を純粋に問いかける。問いかけたのは散々京螺と泣きおわったあと家に帰る途中に聞いてみた。
「そんなの決まっています。わたくしは彼方を慕っているためです。好きだからです」
夜のまやかしの光より何十倍も輝いて見えた。
「じゃあさ、お礼になにかしたいんだ。なにかして欲しいことある?」
しばらく考える間を置く。どうやら真剣に悩んでいる様子だった。
「そうですね……」
「なに?」
――思い出を、ください……
不機嫌そうな顔でボクに問いかける。多分関係のない赤の他人だと思っていたんだろう。
「………………京螺の義理の姉になるラミアだ…………」
そう簡潔に述べた。
「父さん新しい女の人作ったんだ」
そりゃそうよね。母さんを捨てたんだから、と皮肉をいう。
「違います。パパはそんなこといっていませんでした。よくケイラさんのことはパパから聞かされていましたよ。いつもいつもケイラさんのこと気にかけていました。それにケイラさんの費用も少しはお金を出していると思います」
自分で働いていましたし、と思いもかけない言葉がでてきた。
「とーちゃん……仕事してたの!?」
「えぇ、燕尾さんの学費も時々は出していると申していましたよ」
確かに時々、本当に時々だが花梨がすでに学費が払われていたことに不満を漏らしてたのを思い出した。けどそれがあのちゃらんぽらんのとーちゃんが払っていたのは初耳だった。
「……とーちゃんは知っていたのか? その……京螺の病気のことも……」
ラミアは当然のようにうなずく。
「パパはなんでアメリカに来たのか聞いたところケイラを助けるために、少しでも償うためにきたと仰っていました」
つまり京螺の病気も、母の死もすべて知っていたというのか……
「お兄ちゃん」
京羅に目を向けると涙目になっていた。
「お兄ちゃん……わた、わたし……捨てられてないんだよね?」
切れ切れになりながらも話を続けた。
「わたし、お荷物じゃないんだよね? 生きて、いいんだよね?」
抱きしめる。
「当たり前だよ。京螺はお荷物でもないし、捨てられてもない。ましてや、生きていい? 何てそんな悲しいことを聞かないでくれ……」
ボクの胸の中で声を押し殺しながら泣いていた。叫んでいた。
「ラミア」
ボクは呼ぶ。ラミアはいつもと変わらない表情でニッコリと微笑んでくれる。
「ありがとう」
それだけいうと京螺に視線を戻し子供をあやすようになでた。
ボクは本当に感謝した。
ラミアがいなければ本当にボク達兄弟の絆も終わっていた。
でもどうしてキミは突然見知らぬ土地で一人なのにも関わらず会って間もないボクのことを助けてくれたんだ?
この疑問を純粋に問いかける。問いかけたのは散々京螺と泣きおわったあと家に帰る途中に聞いてみた。
「そんなの決まっています。わたくしは彼方を慕っているためです。好きだからです」
夜のまやかしの光より何十倍も輝いて見えた。
「じゃあさ、お礼になにかしたいんだ。なにかして欲しいことある?」
しばらく考える間を置く。どうやら真剣に悩んでいる様子だった。
「そうですね……」
「なに?」
――思い出を、ください……