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サナトジウム

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サナトジウム

私は灰を被って、灰色の大地に横たえられていた。
それに気がつくと、みっともないので起き上がった。
今まで夢のなかで歩いていたすさまじい大地の一画に、小さくもない白亜の邸第があって、それが私の目に驀然と飛び込んできた。
私は、 ああ・・・と情動も薄くただぼんやりと、突然出現したこの巨大な屋敷を眺めていた。不安が頭の中に薄くひろがった。
気がつくと私の隣に紳士風の男がいた。私は静寂を逸するのが怖ろしく、ずっと時が止まっていたらいいのにと思った。ので、気付かれないようにひっそりして彼の容姿を観察する。
(この人は誰だっけ・・・?)
紳士らしく脱ぐ為の帽子をしゃんと被り、黒で統一したスーツと、紅いネクタイをプットオンし、一点のスキも無いぐらい決まっている。上着の後ろのほうは、何故か二つに分かれている。顔には・・・見覚えがない。中年で中性的な顔立ちをしている。
「初めまして」
と彼が唐突に言いこちらを見て微笑む。ぞっとしない笑みだ。
濡れぬ先こそなんとやらで、こちらも負けないようにラウドに話しかける。
「どうも始めまして、ところで私、こんな所にいていいのでしょうか?」
すこし婉曲な質問になってしまった。
「これは あなたの  家です」
その質問にそう答えられて首を斜にする。声は出なかった。何故?と訊こうとして何拍もたった矢先に
「少し 訳ありでして」
と言われた。
「じゃあ、ここしか住む場所がないってことですね?」
よかった、とつとつにならずにすんだ。彼が答えた。
「此処は、夢の中ではありません  魔法で作られた場所です この中で説明を受けると思いますが この空間では魔法が主導ですから、 色々と面白いですよ  実は  私も   魔法でつくられたんです 」
「え、えっと、つまりここは何処なの・・・?・・・魔法?」
「現実に戻りたいですか?」
そう聞かれたとき、心臓がドクンと鳴った。その音に身の毛がよだった。それはウォーターハンマーを起こしたときの音とよく似ていた。全身の血液が一瞬にして止まったかのような激しい音が、あの地の底から響くような低い音が、確かに自分の胸から聞こえたのだ。
「戻りたいですか?」
「え・・いや。えっと・・。」

「それは ご主人様に  相談してください      デハ」
そう言い残すと、その紳士はネジが切れたかのように忽然と姿を消した。
白い屋敷の庭へあしを踏みいれると、そこはひっそりとしているが、もやがかかっていないので太陽がよく届き、明るく晴れ晴れとしている。屋敷の玄関のまえまで来る。高級な造りのようで、チャイムは金細工、扉の取っ手には宝石がちりばめられていて、まだ新品同様だった。ベルを押しながら、これからどうなるのだろうと思った。まさかここが地獄というわけでもあるまい。
驚いたことに、独りでに玄関が開いた。ここは魔法の世界なんですよ、
とさっきあの紳士に謂われた言葉を思い出した。
だが彼は結局魔法で作られたただの案内人だった。面白い丗界だ。

新品同然の廊下の、突き当たりを左方に曲がってみる。
あかカーペットや、天井の幻妙な象篏や、絢爛な調度が空間にほどよく配置されているリビングらしき部屋にたどり着く。
「ようこそ、夢と現の境界へ」
そう言われて見てみると生身の人間がいた。
6, 5

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