みんな泣いてる。
ボク以外、みぃ~んな泣いてる。
どうして泣いているんだろう?
どうして悲しいんだろう?
その気持ちはどこからやってくるんだろう?
「なんでないてるの?」
幼いボクはなんのためらいもなく親に聞いてみた。正確な答えが返ってくるわけでもないのに。
母親はぐしゃぐしゃの顔で
「それはね……」
「どわぁ!!」
夢から叩き起こされる。
いや、自分にとって不都合な夢だったから起きた……っていう方があってるのかも。
「んむ……どしたぁ?」
下のベッドで寝ていた神藤 慶介(しんどう けいすけ)がボクに向かって寝ぼけ気味に話してきた。
「いや、なんでも……」
あんな夢をこいつに話したらややこしくなるだけだ。
「そっか……んじゃあ、オレはもう一眠りでもしよう。昼まで寝ようっと」
おいおい。一応ボク達全寮制の学生なんだけどな。
時刻は朝の3時。
眠いんだけどまた寝てわけのわからない夢をみるのは正直うんざりだ。
「そうだ。図書室の鍵でも開けてなにか読みにいこう」
誰に言うわけでもなく独り言を喋った。
慶介を起こさないように慎重に制服に着替え、部屋をあとにした。
先生にばれないように静かにドアを開けた。
「よし。誰もいない。……って当たり前か」
乾いた笑みを浮かべる。
中に入ればカーテンで見つからないので堂々と本を読む。
本を読み始めて2時間くらい経っただろうか。ドアがなんの前触れもなく開いた。
ボクは一瞬ドキッとした。まさか宿直の先生が来て見つかってしまうのだろうか。
そんな思いとは裏腹に現れたのはガタイのいい先生じゃなくて一人の女子生徒だった。
黒髪でクセ毛が一本大きくみえるのが特徴的で眼が釣りあがっていて少し怖かった。
「……」
彼女は何も言わずボクの一個離れた椅子に座った。
ボクは少し気になったのだが彼女も本に夢中になっているしそれよりもボクの読んでいる推理小説がクライマックスにさしかかっていたので声はかけなかった。
ただひとつだけ問題があった。
季節は夏。時期的にも時間的にも蝉の鳴き声が聞こえ始める。
図書室の室内の温度も高くなっている。ましてや先生にみつからないように窓を閉め切っていた。汗がでるのはしょうがないことだ。
ふと、彼女をみると汗一つかかずに黙々と本を読んでいる。
ボクはそれをじっと見ていた。気づかない方がおかしいくらい。
それでも本に目がいったままだ。
時刻を見ればあら不思議。いつのまにか朝ごはんができている頃だった。
そろそろ行こうか……、そう思って立ち上がった。
彼女はボクに見向きもせずもしくは本より興味がないように動じなかった。