体中の血液が沸騰しているかのように熱かった。
熱湯だ。
熱湯が身体の中を駆け巡っている。
身体が自分のモノではないかのように、軽快に動く。力も湧き上がってくる。
あの糞アマが俺に何をしたのかは知らないが、一つだけ分かることもあった。
俺は今、最高にハイってヤツだ。
何もかも溶かす謎の力と、この膂力があれば怖いものなど何も無い。
四枚目の扉をぶち破り次の通路に出る。
――どこへ行こうか、この破壊衝動を連れて。
思案する俺の脳みそに、破裂音が鳴り響く。
左脚に衝撃。
そして無様に転倒。
「あれ……」
脚、脚が無くなっている。
左脚の、膝から下が綺麗さっぱり消えている。
「う、動かないで!」
振り返ると、どこかで見たような気がする、金髪ドリルの少女が立っていた。
――誰だっけか。
少女の震える腕から伸びる大口径のハンドガンが、俺を捕らえている。
――そんなに震えてたら暴発するぜ。
俺は少女から、無くなってしまった自分の脚に視線を戻した。
千切れた足の先からは大量の血――ではなく、光る液体が流れ出ている。
「は――――」
声が聞こえる。
「はっ! ははっ! ははははは――!」
耳元で聞こえるバカみたいな笑い声がうるさい。
誰だ、馬鹿笑いしてる野郎は。
――ああ、俺か。
脚の断面から流れる液体は瞬く間に脚を形成し、元の俺の脚を復元させた。
あっという間に元通りだ。
笑える。
最高に笑えるぜ。
「笑えるよな?」
俺はまだ銃を構えていた少女に向かって、微笑みかけた。
たった今、思い出した。
この金髪ツインテが、俺をこんな素敵な身体にしてくれやがった張本人だ。
俺は笑顔で話しかけてやっているのに、少女はどうやら笑っていないようだった。
――俺はこんなに最高の気分なのに。
「バケモノ……」
少女は吐き捨てるように、俺をそう呼んだ。
「お前が――」
立ち上がり、叫ぶ。
「お前がしたことだろうが」
俺の指が触手のように伸びて、少女の首に絡みついた。
首を絞められ宙吊りになった少女の脚が、無様に宙を蹴る。
それをただ、呆然と眺めた。
――指が勝手に伸びた。
俺の意思とは関係なく、勝手に――。
今まで散々熱せられていた腹の底に、冷水が広がっていく。
俺は、バケモノになったのか。
そんな馬鹿な話があるだろうか。
そんな馬鹿な話が――。
少女の見下すような視線が、俺を突き刺す。
――そんな目で、俺を見るな。
触手が――俺の伸びた指がギリギリと力を込めて、少女の華奢な身体を締め上げる。
――やめろ、俺はそんなこと望んじゃいない。
少女の服が、溶け始める。
辛うじて聞こえる、細い呼吸の音が小さくなる。
「やめろ……」
少女の全身に絡みついた俺の指から伝わる、命の鼓動が徐々に小さくなる。
「やめろっ……やめろよ……!」
ほとんど溶けてしまった高そうなブレザーが、重力に引かれて床に落ちる。
「やめ……」
そして、目に飛び込んでくる、少女の裸体。
「いいぞ、もっとやれ」