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ラジオ人形(作:ゆゆゆ)

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「午前10時。それは誰もが望む至福の時間。晴れた日に開け放った窓のように、清々しい時間をお約束しましょう。」



午前6時、起床。今日も会社に行かなくちゃ。安月給のくせに、毎日8時には職場に着いてせっせと働かなくちゃならないってんだからあほらしいよな。ほんと。
そうは思いながらも、もう身体の中で出来上がってしまった体内時計に逆らうことはできず、俺は仕事に行く準備をする。
「行ってきます。」
誰に宛てたわけでもなく発した言葉。かつてはそれに答えてくれる大切な人がいたのだが、今となっては、自分への慰め言葉にしかならない。

人形師。それが俺の仕事だ。かつてはマネキンと呼ばれていたでくのぼうのヒトガタも昨今の技術革新により、今はより人間に近く、精巧に造られた”人形”がその役目を担っている。
そしてそれを製造、点検するのが俺の役目であり、今の会社の社長に引き抜かれてその技術を得た。
昔からモノを作ったり絵を描くことが好きだったので、なんとか今までやってこれた。もちろん苦労はあったが、この仕事が好きなので気にはしなかった。
それでも世間における”人形師”という仕事は認知されがたく、風当たりは冷たかった。
そのせいで彼女とケンカになり、出て行かれた。まあ朝から晩まで”人形”の制作にあたり、最後に出来上がるのは容姿端麗な人間そっくりのものである。
いくら俺が説得しようとそれが理解されないのは仕方のないことだ。

「俺は本当にツイてないな」

自宅である安アパートを見上げながらふと、口にしてしまった。



朝あんなことを言ったからだろうか、仕事で些細なミスを犯してしまった。そしてその些細なミスがだんだんと大きくなっていった。
俺の担当していたプロジェクトだった。まだ若造の自分が初めて重要な役割につけた仕事でもあった。その時はやっと組織の一員になれた、と喜んだものだ。
それをこんな少しの失敗で棒に振ってしまうとは。近い未来の予想図は空しく消え去っていった。

だがこんなところでくじけてはいられない。早く気持ちを切り替えなければ。
そう思えるような人間であったなら、俺はもう少しうまく立ち直れただろう。

課長から長いお叱りを受け、俺はすっかり塞ぎこんでしまっていた。

「おいおいしっかりしろよ。何も明日死ぬって言われた訳じゃないんだ。ほら、とりあえず気分転換だ!」
そんな俺を見かねてか、同僚がくれたものは、俺の好きな炭酸飲料と一つの携帯型ラジオだった。



午前7時半、起床。朝起きたらまず窓を全開にする。それが私の習慣だ。朝の新鮮な空気を吸いながら、今日はどんな話をしようか考える。
思ったことをそのまま喋るのも楽しいが、大抵は台本作りをして仕事にはいる。
ひとつ気になるのは、私の話を聴いてくれている人がいるのか。誰も聴いていなければ、ただの自己満足と変わらない。
いつか感想なんかも聞いてみたいな。そんな想像をしながら彼女はお気に入りの椅子に腰掛ける。
もう時刻は午前9時59分をまわっている
「さぁ、楽しいラジオの時間ですよ。」
彼女は楽しそうに言った。



「っはぁ」
俺は一気に炭酸飲料を飲み干したかったが、喉が焼ける感覚に襲われ、途中で飲むのをやめ、同僚にお礼を述べた。
「いやいや、どういたしまして。じゃあ、また後でな。」
彼は俺の言葉を聞くと、満足げに笑い、デスクに戻って行った。
おかげでだいぶ気分が良くなった。やっぱり持つべきものは良き友人であり良き同僚であり良き人間だな。と心の中でもう一度彼にお礼をし、一緒にもらったポケットラジオの電源を入れる。

『当部門では仕事中の音楽、ラジオを聴くことが認められています。』

壁に張ってあるポスターに目をやる。もとよりパソコンに向かうか、設計図を描くか、実際に組み立てるか。この3つが主な業務になっている。それに技術力と少しのセンスが必要だ。
そういった意味では、音楽を聴いたりラジオを聴いたり、リラックスすることが重要なのだろう。これが無くなったら確実にストライキが起こるであろう。

よく見ると手づくりか、しかも適当にチャンネルボタンを長押しすると勝手に放送が入るタイプらしい。

皆知ってるような大手FM放送局、手慣れた感じやしっかりした喋りで聴きやすいが、気分じゃない。次。
こうして多数の放送をはしごして聴いてみる。すると慣れた喋りに混じって、緊張しているのかどこかうわずったような声で話している女の子の放送が入った。
少し気になり、手動で細かくチャンネルを合わせる。 話している内容は他愛のないものだが、しゃべりに一生懸命さが伝わってきて、俺はその放送局をブックマークに追加した。



「今日の放送はいかがだったでしょうか?それではまた来週お会いしましょう。ばいばい。」
約3時間の放送を終え、ほっと一息ついた。この放送は日替わりで人が変わっていく、明日はDJデュラさん。私は来週の月曜日までお休みだ。一週間もあれば話のタネは沢山浮かんでくる。
早くも次の放送のことを考え、つい微笑んでしまう。
「なーにニヤニヤしてんだ。さては次の放送が楽しみで仕方ないのかぁ?」
「ピアはいつもそうだからな。お疲れ。」
「アンタの放送にはロックが足りないのよぉおおおおお!」
DJ仲間が騒いでいる。放送終了後は大抵こんな感じで、私はそれが楽しくて仕方がない。
いきなり呼ばれてびっくりしたけど、私ピアって名前だっけ?
「明日はアタシのロックを脳内再生させてやるわっ!!!!」

名前なんてどうでもいい。私は今が充実してればそれで満足だよ。



俺はあのミスを犯し、重要な役目から降ろされた日に偶然聞いたラジオによって少しづつ元気づけられていった。
毎日その放送局の番組を聴いているが、やはり彼女、DJピアの放送が一番好きだ。週一なのが残念なところだが、好きなものは最後まで取っておく俺の性格にぴったりだ。しかも聴くごとにうまくなっているんだ。
アマチュアの放送局なのか、始まる時間はバラバラだが、彼女だけは朝の10時きっかりに始める。そこも気に入っていた。
とはいえ仕事上の信頼はコツコツ回復していかなければならないもので、俺は会社という組織からひとりはずされたような気になっていた。

今日も楽しそうな彼女の声が聴けると思っていた。
そのあと会社で聞かされる一報がこんなものであるなんて



昔お父さんに、ウサギのぬいぐるみが欲しい。と頼んだことがある。すると彼は突然泣き出して「やっと喋れるようになったんだね」と濡れた手で頬を撫でてくれた。私はわけがわからなくなったが、黙っていた。
それからもなにかあるごとに、彼は泣きながら私のことを喜んだ。そのたび私は私でなくなる感覚に襲われた。

ある時気づいたのだ



私は人間では、無いと。



「私は今年で19歳になります。幼少から父にたくさんの愛を受け、またたくさんの心配をかけ、生きて参りました。母のことは覚えてはいません。父は、私が何も言わなくても私のほしいものがわかっており、記念の日ごとに
たくさんの贈り物をいただきました。私にピアという名前をつけてくださったのも父でございます。今思えば私を産んだのも父ではないかと思います。何を言っているのかわからないかもしれませんが、そう思うのです。」
「今まで放送を聴いてくださった方、ありがとうございました。ばいばい。」

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
【私は親に殺されてぇ臓器オ売り払われエエえ】
〔               〕
{キャキャキャキャキャカッヤアアア}



その放送を聴き俺は呆然とした。言いようのない不安感と、あきらかにピアの声ではない複数のものが絶叫を上げている。頭がおかしくなりそうだった。
そのときだった。社内放送がはいる。緊急のようだ。




「社長が死んだ」


そのようなことを言っていた気がする。もうよく覚えていないが俺は社長室へ走った
あまりにもよく出来すぎちゃいないか?もし彼女の父が社長だとしたら、もし彼女が―

扉を開けた。
できればこんな会いかたはしたくなかった。



広い社長室の椅子にもたれかかるように座るドールカンパニーの若き社長マリグラントの姿とそれに寄り添う色白の少女ピアの姿だった。

「あなたは誰で・・・?」

「おれはただのリスナーだよ。『あなたの』ラジオの。」

「『わたしの』?そう。」
あまり興味がなさそうに言う。

「ねえ、あたしは誰なの?」
「あなたは社長の娘だ。」

もともとこの会社は人形をつくる会社であった、マリグラントは天才的な人形師であり、この職業を広めた第一人者である。
だが、その裏の噂も絶えなかった。出産時に妻を亡くした彼は、一人娘につきっきりという話を聞いた。

その一人娘というのがピアなのだが・・・

「でも私は人形だもの、頭はピアって子のだけど」
「あとはすべて粘土細工のようなもの。いくら精巧な細胞をつくり、筋肉をつくり、組織を作ったって、私の意識の及ばないところにそれらはいるのよ。私は月曜日にしか話せない。
そのほかの日は色んな人の意識が移るのよ。ねえ。あなたは、何の・・・ために・・ここに・・来たの?」

「それはね」

俺はできる限り冷静を保ちつつ、言った。



 


「なにそれ、こわーい」
「・・・・・・・」
「絶対嘘でしょー?」
「ぐすん」

子供たちの反応は様々である。その子供たちの表情を見るのが毎回楽しい
「だからね、自分に嫌なことがあっても、それを口にしてはいけないよ。」

『はーい』

「ねぇ、その人はそのあとどうなったの~?」

「それはね」
俺は時計を見た、時刻は午前9時55分。俺は昔からずっとブックマークに入っている周波数につなぐ。

「さあ、楽しいラジオの時間だ。」

「午前10:00それは誰もが望む至福の時間。今日もこの私、ピアとゆったりした時間を過ごしましょう。」
子どもたちが笑顔の花を咲かせた。それにつられて俺も少し微笑んだ。







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「ラジオ人形」採点・寸評
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1.文章力
 55点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 話は面白いと思いますが……
 途中までは丁寧にお話を進めていて、好印象でした。なので、どうせならもう少しゆっくり展開して欲しかったところです。
 急にお話が転がって、急に終わってしまった感じで、もったいないですね。

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1.文章力
 60点

2.発想力
 60点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 何となく興味をそそられ、何となく怖そうで、何となく裏がありそうな作品ですが、いかんせん「作者様の脳内」で完結している描写が多く、引き込まれることはありませんでした。全部じゃなくてもいいので、あと2~3箇所馬鹿でも分かる構成にして頂ければ良かったと思います。
 どんな話か気になりますのでネタバレを希望しますw

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1.文章力 40点
2.発想力 60点
3.推薦度 60点
4.寸評
 もうちょっと整頓して欲しかったです。話の流れと構成がごちゃごちゃしている感じで、すんなりと脳に入ってこなかったです。

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1.文章力 45点
2.発想力 70点
3.推薦度 55点
4.寸評

 残念だったのは、「人形」というものに対しての説明がほとんどなかった点だ。
 現代の中で使われる「人形」とそれを扱う会社、そこで働く「人形師」の主人公。
 いい世界観を築けそうなパーツはいくつもあるのに、圧倒的に言葉が足りていないと感じた。簡単な言葉で説明は片付けられ、主人公が実際に仕事をしている描写や、人形がどのように働いているかといった描写もない。主人公の仕事中の描写といえば、普通のサラリーマンと同じように同僚と休憩しているか、ラジオを聞いていただけである。これではあまりに寂しい。
 物語としての構成も、社長の登場や説明、展開が唐突過ぎて、読者を置いてきぼりにしている感がある。また、物語のキーであるラジオに関しても、「どうこうという話をしていた」というのは説明があっただけで、実際の話として描かれていないのが残念だった。
 そういった構成面、言葉の足りなさからこの文章点とさせてもらった。文章自体はそこそこ読みやすかったと思う。
 どうも、この企画のサイズとして書くには向かなかったのではないかという印象を受けた。作品のキモとも言える世界観の描写や説明、細かく部分を足してもっと話に厚みを出せていたなら、評価は全く変わっていたかもしれない。

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1.文章力 40
2.発想力 40
3. 推薦度 60
4.寸評
 文章が震えていた。ここがピン、と伸びると内容の張りがよくなりそう。
 作品としては説明不足が否めない。けれど個人的には好み。
 そこで感想を述べると、このくらいでもいいのだが。

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各平均点
1.文章力 48点

2.発想力 60点

3. 推薦度 59点

合計平均点 167点
129, 128

  




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 あとがき

 『「珠玉のショートショート七選」は文芸新都入門用となるようなショートショート集を作る目的で企画いたしました。』
 僕がこの文章を読んだとき「初心者の自分でも参加できるんじゃないかwwww」と思いました。『書き手』の入門と勘違いしてました。すみません。


 もともとこの話はもっとドロドロした奇妙な作品になるはずでしたが、期日も迫っていたこともあり、気持ちのいい作品を書いてみようと思い、発想を転換させて書きました。 
 
 ネタバレというか自分の中の世界設定みたいなものを。

 何故この物語でラジオがこんなに栄えているかというと、まぁネトラジのようなものです。誰もが自由に喋り、好きな音楽をかける。映像を作るよりはるかに簡単で多くの人を楽しませることができる。そしてそんな無数に流れるラジオを受信できる小型チューナーがあったらいいですよね。
毎週マンネリ化したテレビよりそれは遥かに楽しいことでしょう。そんな理由です。さらに手放しで楽しめることを考えると、多くの人々に人気があったようです。
 主人公の男、彼が働いている会社はかなり大きな"人形"に関する会社です。プログラムを組み、そしてそれを制御するコンピュータを作り、身体を形成する。この一連の作業を自社で全てやっているからこそ大きな会社になれたのでしょう。
ちなみに彼は決して安月給で働いている訳ではありません。

 人形について。基本見た目は人間と同じです。機械人形と考えて頂ければいいでしょうか。作中では詳しく説明がありませんが、プログラムさえあればどんな動きでもします。
顔や身体は思う通りになります。そしてそれをするのが人形師といったところです。もちろんプログラム無しでは動くことさえできません。機械なので。自分の中では『人格のない人間』という位置づけです。ありがちですが。
この物語の主人公はピアと男なので人形に関する細かい設定などは考えてませんでした。


 ピアは身体の組織ほとんどが自分のものではなく、父であり会社の社長であるマリグラントに生きた人形にされた結果であります。彼の狂気を書けなかったのも残念です。
どうして突然発狂してしまったかというと、臓器は生もの、定期的に交換が必要だったからです。脳は交換できないので頭はピアのものです。他の臓器達はマリグラントを憎んでいます。
そして愛娘のメンテナンスをしていたのは父だったと。

 ちなみにピアは軟膜、マリグラントは悪性腫瘍を意味しています。もじってはいますが。
 もう少し各ストーリーを長くして人間味を持たせたかったなあ。でも今考えてみると書きたいことを全て書くと中編くらいにはなりそうですね。
 いろいろ雑なので書き直したいです。
 本当にこの企画に参加してよかったと思います。読んでくださった皆様、レビューして下さった皆様、ありがとうございました。
 また、編纂者様方、企画者の飯倉さわら様本当にお疲れ様でした。
 では、おやすみなさい。
 
 ゆゆゆ
130

みんな+編纂者一同 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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