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駆け出し技術者の情景(作:acht)

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(はあ、もう零時か…)
 三月末、少し暖かくなってきており深夜でエアコンが切れても不快ではなくなった室内でカタカタとキーボードを叩く手を休めて時計を眺めた青年は深く息を吐いた。幼い頃からの夢であった機械設計という職に就き、憧れである松方重工の作業服に袖を通している彼だったが唯一叶わなかったのが設計している製品だった。
「鈴木君、新入社員発表のパワーポイントは?」
 二次元から飛び出てきたのではないかと思うぐらいのイケメンが話しかけてきた。
「あ、真田さん。大分できました。いい発表にしてみせますよ」
「期待してるわ。といっても、君は来週から配置転換で志望している部署にいけるようになったじゃないか。そこまで力まなくてもいいんじゃないか?」
「……いえ、そうはいきませんよ。この発表はちゃんとしたいんですよ。宮城さんと一緒に出張いって客先で物を見てきたんですから」
「……そうか」

三週間前

 いつものように寝癖で頭がぼさぼさの状態で出社した鈴木は自分のパソコンを立ち上げメールソフトを開き、新着メールを眺めた。
(部長からだ…)
 メールのタイトルは『訃報』となっており、鈴木はどこの部署の人が亡くなったのだろうと内容をみると

訃報

○月○日
宮城参事が交通事故で亡くなられました。
葬儀は―――

(え、何?宮城さん?の親族が亡くなられたんじゃ?)
 何の冗談でもなく葬儀は執り行われ、鈴木もその葬儀に参列した。
 泣き崩れる親族、目の前の遺影といい、当初鈴木はどうしても実感がわかなかったが日々仕事を重ねていくうちにぽっかりと大きな穴ができていることに気付き、宮城が居なくなったことを実感した。

 葬儀からこれまでの時間を回想し、パソコンのディスプレイをぼーっと眺めていた鈴木に真田が話しかける。
「……そうだな、宮城さんに見せても恥ずかしくない出来にしよう。来週から俺も鈴木君の指導員ではなくなるけど出来る限り手伝うわ」
 という言葉の後、鈴木と真田は発表用のスライドと提出資料を作成し午前一時まで作業を続け、ひと段落ついた。
「そろそろ帰ろうか?もう帰りのバスないだろ?送っていくよ」
 真田の言葉に甘えて鈴木は送ってもらうことにした。真田の車で送ってもらう最中、鈴木はふと思ったことを真田に聞いた。
「真田さん、宮城さんも俺もいなくなって今の製品は真田さんだけになったんですけど、誰か来るんですか?」
 鈴木が神妙な面持ちで聞くと真田は前方を向いたまま一寸置いて
「まあ、いずれは来るだろうけど、今すぐは無いだろうね」
「……な、そんな…今、忙しいのにあれだけのオーダを一人でなんて…」
「やるしかないさ」
 どことなく諦めているのか達観しているのか分からない表情で真田が答えた。鈴木は車のドアに肘を当てて頬杖を突き、宮城といった出張先でのことを思い出していた。

(この製品はどこの会社も真似できないけど、あまり利益率がよくないからね。他の部署でもこの製品に人を宛がうことをしなくてね。サービス部も人を出してくれないから、こうやって設計が現地調整にいかないといけないんだよね。でも、まあ鈴木君も入ってくれたから、少しは楽になるかな?早く一人前になって真田君を楽にしてやってくれ)

 鈴木は来週から配置転換となり現在の担当製品から外れることとなる。今は亡き宮城の言いつけも守れないことの悔しさから泣きそうになったが真田に悟られないようにドアの窓から外の景色を眺めた。

発表当日

 鈴木の発表の順番は設計部門ラストとなっており、とうとうその順番が回ってきた。鈴木は大きなスクリーンと繋がっているパソコン端末にUSBメモリを挿し、発表用スライドのデータをパソコンに移し動作確認を行った。指導員である真田はサポートとしてパソコンが置いてある席に座った。

「それでは発表を始めてください」

 司会者の合図の刹那、鈴木は真田を見てからゆっくりと頷き、手にしているワイヤレスマウスで発表用スライドを動かした。
 鈴木の扱っている製品は会社の中ではメジャー製品ではないので、製品の簡単な説明から始まり用途や今後の展開などについて述べた。10分という短い時間で何とか伝えたいことは言えることが出来た。

「それでは質疑応答を」

 中年の一人の男が手を挙げた。
「利益率は?」
 鈴木は少しムッとしつつも
「原価の20%です」
「値段は?」
 流石にはっきりとした値段を覚えていなかった鈴木は言葉に詰まり俯いてしまったが一寸置いてから喋り始めた。
「……それって、この製品が儲けないってことを言わせたいんですか?それだったらはっきりと儲けがない製品だといったらどうですか!」
 強い口調で鈴木がいうと、質問した中年の男は少し驚いたものの
「いや、別にそんなことはいってない」
 シラをきるような言い方に鈴木はたがが外れて大声で喋り始めた。
「ええ、確かに儲けがない製品ですよ!ええ!でもね、発表をちゃんと聞きましたか!?この製品はウチにしか出来ないし、どこも真似できない技術的に優れた製品なんですよ!!この技術のお陰で日本の産業機械の技術レベルは一歩前進したんです!!この会場には技術者がほとんどですよね?なのに最初に聞くのが金のことですか!?ああ、そういえば貴方は生産技術でしたね。さぞかしコストを抑えることしか考えられず可哀想だとお察ししますよ。拝金主義が仕事になっていることにね。ところで生産技術には世界に誇れる技術ってあるんですか?ないですよね?生産技術なんて名前じゃなくていっそのこと生産経理とかに名前変えたほうがいいんじゃ――」
 大型ダムが決壊したかの如く堰を切って叫び続けた鈴木を真田が羽交い絞めにした。
「鈴木君もういいから、もう終わろう」
「なんで止めるんすか、真田さん!だって俺は来週からもうこの製品担当じゃないし、これやるの真田さん一人じゃないですかっ!儲けが無いからって理由で人削られて……サービスだって宛がわれないから現地調整行って、それで設計の仕事できなくって業務進まなくて……」
 気がつくと鈴木はボロ泣きしながら嗚咽混じりで叫んでいた。質問した中年の男はばつが悪そうな顔をして、
「少し、大人気なかった。事情も知らなかった。悪かった」

四月

「真田さん、さっき例のサーボの件で現場から連絡があったんですけど」
「そうか、じゃあちょっと見に行ってみようか?勉強も兼ねて」
 そういって真田はヘルメットと保護メガネを取り出すと話しかけてきた相手を引率して設計事務所を後にした。



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「駆け出し技術者の情景」採点・寸評
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1.文章力
 90点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 100点

4.寸評
 とっても熱いです。こういうのが読みたかった。
 文章力について注文はありません。過不足なく物語を表現できる書き手さんだと思います。
 発想力を低めに付けているのは、アイデアが目新しいわけではないから――ですが、そんなことは些細な問題でして。ここまで人間が描けていて、尚且つ感情移入して読ませてくれて……それで十分すぎるほどです。書き手さんも技術者なんでしょうね。よく分かりますよ。
 後半の質疑応答のシーンは本当に素晴らしかった。最初読んだ時、鈴木に貰い泣きしそうになりました。恥ずかしながら……
 気持を包み隠さず物語を書くと、「(物語をコントロールすべき書き手として)抑えがきいてない」「もっと冷静に」と言われるのですが、それでも筆者はこんな作品が大好きです。読ませてくれてありがとう。

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1.文章力
 70点

2.発想力
 40点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 文章は及第点ですが、自分のイメージするショートショートの感じと違うので、発想力と推薦度は低めにしてあります。普通の短編という感じですね。
 また、作者様の本業なのかは知りませんが、マニアック(専門用語が多かったり等)な内容に対して一般読者への読みやすさが不足している気がします。業種が違ったり学生だったりしたらちんぷんかんぷんな部分が多いのではないでしょうか。
 最後に、自分が同じことをしたら間違いなく路頭に迷うことになるな、と思い、甘い会社だなというか違和感を感じました。

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1.文章力 60点
2.発想力 70点
3.推薦度 60点
4.寸評
 読点が足りない部分が見受けられます。綺麗に終わり、非常に読後感はいいのですが、鈴木の熱弁が社会的に見て、ありえない、という突っかかりが残ります。一個人の感情で、会社製品の開発有無が決定されるとは思えないのです。

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1.文章力 40点
2.発想力 20点
3.推薦度 5点
4.寸評

 まず、読点が少なすぎて読んでいて少し息苦しく感じた。!マークの後にスペースを置かなかったり、時系列を表す方法が安易だったり、小説を書き慣れていない作者なのだろうかと思ってしまう。
 それは構成に関しても言えることで、内容に関しては後述するが、この終わり方がぶつ切れとしか言いようがない。主人公のその後も分からず、唐突に「なんだかよく分らないけど新人も来てうまく終わった」というエピローグを取って付けられても、読者は完全に置いてけぼりだ。
 推薦度が著しく低い理由は、私がこの主人公とほぼ同種の職に就いているからで個人的な好みになるのだが、正直言って私は主人公に対して不快感しか湧かなかった。
 製品のコストというものは、その製品に携わる人間全てが考えるべき問題だ。コストや利率は、製品を導入するかどうかを決めるもっとも重要な点と言ってもいい。当然設計も深く関与するべきだし、生産技術がどうのというのは完全にお門違いで、むしろ製品の説明発表にその点を明記していなかった主人公の落ち度であるのは明白だ。
 製品の良さは技術的な優劣だけではない。会社にどれだけ貢献できるかが重要なのだ。金銭的な問題を省いた『商品』などあり得ないのだから。
 そして、いくらその製品に思い入れがある描写があっても、相手のたった二言で逆ギレする社会人など非現実的すぎる。しかも、自社の都合や傍にいる先輩の立場も弁えずに、他の客にまで暴言を吐く。普通ならこの後、非常に厳しい処分を受けてもおかしくはないだろう。だから、なぜか報われたような終わり方も気に食わなかった。
 もう少し主人公が激昂するまでの流れをしっかり作るか、内面描写を深くしてはどうだろうか。

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1.文章力 30
2.発想力 20
3. 推薦度 20
4.寸評
 所々で文章が壊れているので、出来れば修正がほしい。
 物語の方は作者の愛を強く受けた。だが感動させるには長さが足りない。

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1.文章力 (60)

2.発想力 (50)

3. 推薦度 (50)

4.寸評 
句読点の付き方が悪く、不恰好な文章になってしまっていて勿体無いと思います。内容自体は頭の中に入ってくるのですが、自分の個人的な趣向とかけ離れているせいか面白味を感じられませんでした。それとも何か隠された意味があるのでしょうか。

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各平均点
1.文章力 58点

2.発想力 44点

3. 推薦度 47点

合計平均点 149点
19, 18

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