トップに戻る

<< 前 次 >>

間違い封筒(作:へーちょ)

単ページ   最大化   

 ある日、一人暮らしの男のところに一通の封筒が届いた。なんの変哲もない茶封筒に、手書きで宛名と住所が書かれている。しかし、その宛名も住所もどちらともまるで見覚えのないものだった。どうやら誤配達のようだ。
 しかし、正しいあて先へ連絡を取るのも、郵便局へ返しに行くのもどちらも面倒臭いように思えたので、男は中身も見ないでその手紙を捨ててしまった。
 それから数日後、男のもとへ一人の若者が尋ねてきた。
「どうもすみません。実は、わたし宛の郵便物がここに間違えて配達されてしまったようなのですが、ご存知ありませんか?」
 今更捨ててしまったなどと言うのも気が引けて、男は嘘をつくことにした。
「いいえ、知りませんね」
「確かにここに配達されているはずなのです」
「知らないといったら知らないのです」
 若者はなおも食い下がろうとしたが、取り付く島もない男の態度に、肩を落として、帰っていった。
 可哀相なことをしたかな、と少しばかり心が痛んだが、たかが手紙だ、そんなに大したことではない、と結論づけてすぐに忘れてしまった。
 一週間後、またあの若者が男の家を訪ねてきた。
 呼ぶ声に応じてドアを開けてみると、若者はどこか様子がおかしい。今の彼の表情は青ざめていて、今にも泣き出しそうにも見えた。
「どうかされたのですか?」
「わたしの命が危ないのです」
「それはいったいどうしたことです?」
「もとはといえばあなたのせいですよ! あなたがわたし宛の手紙を勝手に処分してしまったから……もうお終いだ!」
「落ち着いてください、事情を話してはいただけませんか?」
「他人の手紙を勝手に処分するような人に、事情なんて話せるものですか! いいですか、もし僕に何かあったら、それは全部あなたのせいだ! 覚えていてください!」
 若者はそう吐き捨てるように言い残して、帰っていった。
 一体、自分は何をしてしまったのだろう。
 それを処分してしまったことによって、命を狙われることになる手紙とは、一体どういうものなのだろう。
 男は若者の言葉が気になってしかたがなく、何日ものあいだ眠れない夜を過ごした。
 それからまた一週間後、またあの若い男が尋ねてきた。
 今度はなぜか喜びを満面にたたえた表情で、男に握手を求め、まるで盆と正月がいっぺんにきたようなはしゃいでいた。
「今度はどうされたのですか?」
「いやあ、実はですね、あの後ちょっとした変化があって、わたしの命は救われたのです。それどころか、莫大な資産が転がり込んでくることになりまして! それもあなたがあの手紙を処分してくれたおかげです! いやあ、人生何が幸いするかわからないものですな!」
 そういったことをまくし立てるように喋った。
 男は自分のせいで人が死ななくてすんだことにほっとする反面、あの手紙の内容が、ますます気になってくる。
「無事ですんだのなら何よりです。ところで……もし、よろしかったらその手紙の内容を教えてはいただけませんか」
「いくら恩人とはいえ、わたしの命より大事な手紙です。ただでは教えられませんな」
 若者はもったいぶって、指で輪を作って見せる。
 つまり、教えてもらいたいなら金を払えということだろう。莫大な資産が転がり込んでくると言ったばかりなのに、なんてけちな奴だろうと思ったが、結局男は彼にいくらかのお金を払うことにした。それほどまでに、あの手紙の内容が気になってしかたがなかったのだ。
「さあ、これでいいでしょう。教えてください」
 お金を受け取ると手紙の男はにんまりと笑って、
「あの手紙の内容はですね、祖父からの時候の挨拶です。筆マメな人でね、どうしても文章が長くなるものだから、あんな封書で送ってきたそうです」
「そんな手紙で、一体どうして命が危うくなったり、莫大な資産を手に入れたりすることになるのです?」
 手紙の男はますます笑みを深めて、
「先に嘘をついたのはそちらでしょう?」
 そして若者は男から受け取ったお金をポケットにしまって、上機嫌で帰っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「間違い封筒」採点・寸評
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力
 80点

2.発想力
 75点

3. 推薦度
 80点

4.寸評
「パラシュート」よりこちらの方がずっと出来が良いです。
 これはなかなか巧い騙しですね。ただ、金払ってまで知りたいか? というと微妙なのですが。それでも、この設定で話に疑問を感じることなく最後まで読み切らせることが出来た点は、高く評価したいと思います。文章の読みやすさも奏功したのではないでしょうか。
 短編は題材が大事だ、と再確認しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力
 80点

2.発想力
 90点

3. 推薦度
 70点

4.寸評
 書留でもないのにやな奴!w と思いましたが、全体的にとても面白い作品でした。普通だったら嫌な奴で不愉快な話という読後感になるはずです。素晴らしいです。
 前作もそうですが、作者様はテンポよく面白く読みやすくまとめるのがとても上手ですね。多分複数本の作品を投稿し最も優れた作者を選ぶ、という形式だったら私は迷わず作者様を選びます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 70点
2.発想力 50点
3.推薦度 60点
4.寸評
 この手紙は若者が狙って男の家へ投函したのでしょうか? でないと、本当に男のところに届いたのか分かりませんよね。もしくは局員に聞いたとかでしょうか。その辺の説明の有無で、内容や若者に対する印象、強いては作品全体の印象が随分変わってくると思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 85点
2.発想力 65点
3.推薦度 70点
4.寸評

 よくまとまったショートショートだと思う、しかし、オチの弱さが多少気にかかった。
 この話はいわゆる、「持ち上げるだけ持ち上げて肩すかし」というタイプだ。これは確かに意外性を感じるのだが、今まで引っ張ってきた伏線をすべて「ウソでした」で丸投げしてしまえるのが、個人的に好きではなかった。
 また、肩すかしは肩すかしでしかなく、驚きや感動などの衝撃がないため、読者としては印象に残りづらいということもある。面白いには面白いのだが、後を引くような余韻を感じなかったのだ。
 少々辛口気味だが、これは全体としてレベルが高いからだと言える。起承転結はしっかりしているし、短くまとめられてこの企画にも適している作品だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.文章力 50
2.発想力 50
3. 推薦度 60
4.寸評
 簡潔的。好ましい作品だ。
 ただおかしな箇所が幾つか見られたので、そこが直されると更に良い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
各平均点
1.文章力 73点

2.発想力 66点

3. 推薦度 68点

合計平均点 207点
75, 74

みんな+編纂者一同 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る