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無罪殺人(作:トリポカ)

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無罪殺人(作:トリポカ)

「あの、僕をころしてください」
 そいつが俺の服のすそを強く掴んだ。やめろ服が伸びる。
「断る」
 んで、俺はそいつを殺した。
 だからといって、殺人犯になった訳じゃない。
 いやいや、別に殺した相手が人間じゃなかったとかそんな突拍子も無い事を言うつもりじゃない。
 ほら、殺してくれって言ってた訳だし、むしろ協力者?
 平成は安楽死もある世の中なんだい! と、思いきや。
「どーも警察っす、逮捕しますねー」
 あ、警察。早いね。そりゃ下は大騒ぎだもんね。
「ほいほい、手錠よろー」
 俺は逮捕された。殺人の容疑がかかっているらしい。
 ――留置場で寝そべりながら考える。コンクリートの床がひんやりとしていて心地よい。
 その冷たさ加減を味わっていると、取調べ室に移動させられた。さようなら俺のユカ。
「罪を認める気になったか?」
 コワモテの警官が俺を睨み付ける。やめろ、漏れる。
「罪はありませんよ」
 人を勝手に殺人犯にするな。冤罪だろうが。
「お前が殺したんだろう?」
「まぁ……殺してますね。罪にはなりませんけど」
 結果としてはそうかもしれんが、死んだし。
 それから、延々とコワモテ警官に罪を認めろと脅された。
 だが! 俺は! 屈しなかった!
 お陰でまた対面することが出来た。ユカと。
「ひんやりするわぁ。お前まるで死体みたいだよ」
 そんな事を一人で言っていると、隣の部屋に留置されてる奴が俺に話しかけて来た。
「なんだぁ? おまえ人殺しか!」
 しゃがれた老婆の声だった。
 うんざりしながら、俺はユカに頬を擦り付けながら答える。
「まぁ殺しはしたけどね。殺人犯になるつもりはないよ。いらん罪を着る予定は無い」
「よく言うのう! フォゴッ! グフォッ!」
 うっとうしい上にうるさい。本当に不快な老婆だ。
 んで、俺は老婆を殺した。
 死体が発見されたのは翌日の朝だった。
 ――何故か、容疑をかけられた。
 またこの前のコワモテ警官だ。うっとうしい。言葉の通じない筋肉馬鹿は嫌いだ。
「二人も殺しておいてしらばっくれる気か!? いい加減にしろ!!」
「いや、確かに殺しましたけど、罪には問われませんよ? 弁護士を呼ぶ権利を主張します」
「誰が認めるか!!」
 顔を真っ赤にして怒っている。いい加減にしてほしい。
「言葉も通じないとは、お話になりませんね……」
「――ッッッッ!!」
 さらにコワモテ警官は俺を怒鳴りたて続けた。おいおい血管切れるぞ。
「弁護士よばせてもらえません? そもそも罪は犯してませんからね。法廷で話し合えば分かる事なんですけど……」
「――――ッッッッ!!」
 ああ――もうこいつは駄目だな。
 んで、俺はコワモテ警官も殺した。
 ――コワモテ警官は死んでしまった訳だから、当然、俺の取調べをする警官も代わることになった。
「弁護士ですか? はい、では――」
 今度の警官は物分りが良く、弁護士を呼ぶ権利も認めてくれた。
 ありがたいことだ。
 ――そして法廷、俺が呼んだ弁護士は主張する。
「藤宮祐真さん、菊池トメさん、権田剛三さんに対する殺人の容疑ですが、これは全くもって見当違いです」
 ――主張は認められた。俺は無罪放免、ようやく自由の身だ。
 家に着くと俺はベッドに倒れこんだ。
「しかし、面倒な数日間だった」
 俺は屋上で飛び降り自殺した奴をただ見ていただけだし、留置所の隣の婆さんがむせだして喉を詰まらせたのも面倒だから放っておいただけだ。コワモテ警官に至っては勝手に顔を真っ赤にして、頭の血管を切って死んだだけ。
 全く、それなのになんで俺が罪に問われなきゃいけないんだ。
 俺は三人を見殺しにしただけなのに。



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「無罪殺人」採点・寸評
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1.文章力
 65点

2.発想力
 75点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 この物語は、最後の数行だけが全てと言ってもいいくらいですが、あまり上手いやり方とは思いません。持って行き方がイマイチなのです。
 留置所に入るまでは良いです。問題は、老婆のシーンです。ほとんどの読者は、殺人容疑のかかっている主人公が留置所内で再び殺人を犯すことなどあり得ないと考えるでしょう。それ故、オチに意外性がありません。
 発想はなかなかだと思います。物語の組み立て方次第でもっと深みが出ましたよ。

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1.文章力
 50点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 50点

4.寸評
 発想はオチの上手さを含め悪くないと思います。(特にオチは見事)
 ただ文章が足を引っ張っています。無意味なカタカナとか、決して楽しいとは言えないお遊び的な文章はマイナスですね。
 オチのブロックの文章クオリティに全体を合わせてほしかったと思います。

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1.文章力 60点
2.発想力 75点
3.推薦度 50点
4.寸評
 冒頭で「断る」ことをした主人公が、次の文章で殺した。一見すると、矛盾に思える所にこの作品の面白さがあるように思えます。読み終えてはじめて分かるという部分。ちょっと危険な賭け(謂わばいきなりオチを言っているようなものなので)にも思えるこの冒頭に、私は評価をしたいです。
 ですから、物理的にどうやっても殺せないはずの老婆を「殺した」と表現してしまう事で、せっかくの冒頭部を台無しにしているように思えます。つまり、ここでオチが分かってしまう。そこが少し勿体無いなと感じました。あと、罪を感じていないならば、逮捕される時点で何らかのアクションを起こさなければおかしいです。軽いノリで逮捕される人なんていません。

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1.文章力 50点
2.発想力 50点
3.推薦度 35点
4.寸評

 文章に多少気になる部分はあったが、一人称の口語としてはギリギリ許容範囲。オチも無理やりな感は多分にあったが、意外性もあるにはあった。では、何故この話が全く面白く感じないのかと聞かれれば、語り部である主人公に全く同調できないからであろう。
 そもそも一人称の強みとは、語り部である登場人物の心象描写を分かりやすくし、読者の共感を得やすくする部分だと私は考えている。ショートショートでよく見られる、限定的な(そう見せない工夫をもちろんして)状況描写で意外性のあるオチへ持っていく手法は、あくまでこの共感の前提があった上で、主人公と読者が見ていたもののズレをいきなり提示されるから驚くのだ。
 しかし、この話はオチまで主人公の行動内容がほとんど分からない上に、一人喋りの内容はといえば周りの人物の不理解に対する愚痴ばかりだ。読者はその主人公の説明不足のせいで話の内容が理解できずにいるのだから、共感などできるわけがない。
 また、明らかに主人公の言い回しがオチへ持っていくためのもので、あまりにセリフとして不自然だった。オチを知って読み返しても、お前のほうが日本語通じてないんじゃないかと言いたくなる様なセリフもいくつかある。オチが無理やりに感じるのは、そこまでの流れが無理やりだからだろう。
 主人公が気に食わなかった、という部分もあるが、作品全体の説得力をしっかり固めて欲しいと感じた作品だった。

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1.文章力 30
2.発想力 30
3. 推薦度 30
4.寸評
 多少、乱れはありますが、文章のスピーディーさが心地よく、楽しんで読むことが出来ました。
 欠点はそこから来る軽さだと思います。描写や説明が色々な箇所から抜け落ちているという印象で、納得までには行き着けませんでした。

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各平均点
1.文章力 51点

2.発想力 60点

3. 推薦度 45点

合計平均点 156点
91, 90

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