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5月

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海の見える崖。
いつの間にかそこが俺達の居場所になっていた。

「今日はいくのか?」
俺の問いに彼女はいつものように無表情で、
「さぁ、どうだろうね。」
と応えてくれた。

それでもやっぱり彼女の足は前へは進まなかった。

いつものように彼女との時間が始まる。
別に何かするわけでもなかった。何も出来なかった。

そういえば彼女とは会話らしい会話というものをしたことがあっただろうか。
いつも崖の前で一言交わすがそれ以外は話した事が無い。
だけど俺には彼女の寿命が正確に分かっていた。
俺にはそれが出来る能力みたいなものがあったから。
どうやら彼女はあと1年もしないうちに自然死するようだ。

「ねぇ。」
「!?・・・なんだ?」
不意に話しかけられて驚いた。
「あなたは名前はなんて言うの?」
「あぁ・・・俺の名前は・・・」
俺の名前は・・・そういえば俺の名はなんと言ったか・・・
随分と人に関っていなかったから忘れてしまった。
「名前は?」
彼女が繰り返す。
「・・・吾妻 叶」
今自分のいる場所を適当に文字って名前を作った。
「あずま きょう?」
「あぁ・・・それでお前の名前は?」
「え?」
予想外、という顔をしている。
人の名を聞いたのだから自分の名を聞かれることくらい予想できるだろうに。
「あ・・・私の名前は・・・御崎 神無」
と言いながら左手を出してきた。神無の手には白いテープが巻かれていた。
神無の名前と血液型それと見慣れない病院の名前が書き記されていた。
おそらくその病院の入院患者の印のようなものだろう。
そのときなぜか俺はその腕輪に見入ってしまった。
そしてそのときの神無の悲しそうな顔も忘れられない。
2

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