5話-俺の世界
とりあえず。
腹と知識は満たされたさ。
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さて、とりあえずは朝食で腹を満たそう。
「腹が満たされないと脳が動いてくれない・・・」
なんか俺は食欲ばっかりだな。昨日といい今日といい。
「まぁ、そうですね。食べることも大事ですよ」
まったく。朝食はのんびりくえそうに無いとか言ってたが・・・
皆・・・
食べるのに夢中かよ・・・
聞こえてくるのは食器の音だけ。
と思えば
「さて、本題ですが」
と切り出された・・・
「この世界・・・もぐ・・・・での・・・もぐ
私たちの仕事・・・もぐ・・・・は、ですねぇ」
たのむ。イメージ崩壊はやめてくれないか?
食うかしゃべるか・・・
「すいまへん」
口に物いれたまましゃべらないでって・・・
「ふぅー。お茶とかありますか?」
やばい。イメージとお別れみたいだ。
今までのイメージはもろくも崩れ去った。
食欲に勝てないのかそれとも・・・
さようならお嬢様。ようこそ一般人・・・?
酷いわ・・・酷いよ・・・
鑑がお茶をもってきた。
「さ、では。
この世界での私たちの仕事を説明しましょう。
簡単に言ってしまえば"観察"です。
あえて複雑に言うのであれば。
並行世界との関係。
および因果、命運などについての観察。
要するに"向こう"と"こっち"との
関連性の調査、ということになっています」
長いよ。なげぇよ。でもまぁ。わからんでもない。
要するに"向こう"と"こっち"の間違い探し。
その観察対象として俺みたいなのがいるってことか
「そういうこと。ですね。
大まかに言うとそうですし、
世間体にはそう伝わっています。
知られてはいないのですが」
どっちなんだよ・・・
「"石川"はあなたのような"向こう"の方には一部伝えています。
また、ヒントを与えています。
そしてその後の心境を多少観察しています」
おれは鑑のついで来たお茶をごくりと飲んで
「ふむ。ってことは、
俺にも質問がありまくるってことかな?
そして"石川"は俺の心をあさってたと?」
あさられていい気分はしないだろうに。
「あくまで調査上、です。
上司の命令でもありますし。
彼の場合趣味が大前提ですが」
いやな奴だな。
石川、ね。覚えとくよ。
「彼も彼なりに努力しています。
それに。心を見たといっても
表面の強い心だけです。
怒り、悲しみ、戸惑い。その程度です。
・・・
たぶん。」
いや、たのむからそこは言い切ってくれて欲しかった。
たぶんじゃ安心して考え事もできない。
と、
横から聞いていたあまり関係のない鑑から
「聞きたいことがあるならずばっと効いちまえばいいじゃねぇか」
と。
全くだな。
俺は残っていたお茶を飲み干し
質問に備えた。
「では。
"あなたはどういった原理で"力"を使えるのですか?"」
む・・・
たしかに、そうだろう。
ここにいる俺以外の人ならばなぜか疑うはずだ。
鑑も俺を凝視している。
そして俺は今朝気付いたことがある
それも説明してやればいい。
「"向こう"では寝ている間に夢を見る。"こっち"ではない。
夢っていうのは"ありえないものでもありえる"っていう
実際には記憶の整理をしている際の空想。
ということは、それと此処は酷似していないか?と。
つまり、"まるで夢のようだ"ってことだ」
これはありのままの想像だ。
ただの仮定であり、想像。妄想。
食卓を囲む俺達は黙っていた。
考え込んでいるのだろうな。
ふと、
「・・・"夢"ですか・・・
おかしいですね・・・?」
ん?
「なにが?"唯可"さん?」
「"唯可"で結構です。
そうでないと年上みたいで嫌です」
ああ、デリカシーってやつだな。
「すいません。乙女心はいまいちわからないんで」
するとそっけなく
「わかってます」
・・・余計なお世話だ。
「おかしい・・・といいますのは。
記憶が飛んでいるはずなのに
"向こうでは夢を見る"との記憶があるからです」
いわれてみればたしかに。
おれは思い返してみる、記憶を。
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"天神"
なぜその土地名を覚えている?
俺の妄想癖の記憶
なぜある?
"痛い子"
どうしてその記憶が?
その記憶が必要だとすれば
答えは1つ
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「むぅ。」
唯一つ。
「どうです?何かわかったことはありますか?」
答えたくは無かった。
この導き出した答えは
言いたくない。
そうでないと信じていたい。
「1つ。
俺は"向こう"の記憶が一部ある
それは、"こっち"で生きていくのに必要なだけ。だ。
名前はいらない。自分自身の出身も。
"こっち"でいるのは
此処の土地勘。
最低限の教養。
"夢"見る"力"。
都合が良すぎないか?
ということは。
おれは"こっち"を望んできたんだ。と仮定できる。
そうすれば。すべてにつじつまがあってしまう。
そして自ら記憶をなくした。
つまり。
"俺は自らの記憶を断ってまでして、この世界へとやってきた"」
みんなが絶句していた。
この突飛な考えにだろうか。
それとも、俺のこの"痛さ"だろうか。
すると。唯可が
「そうだとすれば、です。
あなたは帰るためには自己満足。
しかも此処に来る前に抱いていたものを達成しなけれれば
帰れないということになります。
その記憶はあったらスグに帰ろうとする。
そのことから記憶がないはず。です。
あなたの使命は、
それを発見次第解決すること。」
その通りだった。
そのためにも
「じゃぁ。お前の記憶には無い。
"こっち"限定のスポットに
お前とデートすりゃぁいいわけだっ!
こりゃぁいいぞぉ。」
などと鑑が。
間違っては無い。
それにあながち冗談ではないだろう。
「ああ。そうだな。」
それにはまず
朝食からだ。
「さ、堅苦しい話はやめて、
とりあえず飯で・・・」
気がつけば。
時計の針が9時半を回っていた。
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