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彼女データベース

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周りの友達が彼女を作っていく中で僕だけが取り残されていた。
高校に上がっても彼女ができる兆しの欠片も見えなかった僕にようやく彼女が出来た。高二の夏のことだった。
彼女の名前は和田優子、大学一年で今時珍しい黒髪でショーットカットの僕には不釣り合いな可愛い人だった。
彼女は活発でよく僕をいろんなところに連れて行ってくれる。
僕と彼女が知り合ったのは夏休みに親戚の家に行った時だった。
親戚の家には大学生のお姉さんがいてたまたまお姉さんの友達が来ていた。それが優子さんだった。
地味で口下手な僕と活発な優子さん、正反対の二人が付き合うことになったきっかけは漫画だった。
親戚の家ですることがないのは目に見えていたので持参した漫画を読んでいると優子さんが僕に声をかけてきた。
『その漫画好きなの?』
人見知りな僕は答える代わりに頷いた。
『私も好きなんだよね、それ』
それからたちまち意気投合して、すぐ付き合うことになった。
彼女は元気で可愛くて誰からも愛されるような存在だったけど僕だけのモノだった。
何故なら彼女は僕にしか見えないからだ。
和田優子なんて実在しない。つまり全部僕が考えた嘘ということだ。
夏休みに親戚の家に行ったのは本当だし大学生のお姉さんがいるのも本当だけど友達なんか来ていなかった。
僕はどうしても彼女が欲しかった。だから作ったのだ。
すぐに嘘だと分かるようなモノじゃ駄目だと三日かけてようやく作り上げたのがが和田優子だった。

夏休みが開けてすぐ僕は友達に彼女が出来たことを伝えた。
友達は一瞬驚いた顔をした後、
「ようやくお前にもできたか。良かったな」
と言ってくれた。
それから優子さんのことについて話した。優子さんの外見や特徴、知り合ったきっかけなど。
友達が一番驚いていたのは大学生だと言うことだった。
一通り話し終えると友達が訊いてきた。

「お前の彼女、どこ大学の人?」

僕は言葉に詰まった。どこの大学かなんて設定は決めてなかったからだ。
友達は僕を怪しそうに見てから口を開いた。
僕はバレたと思った。嘘をついたことを責められると思った。
でも、友達が口にしたのは全然別のことだった。

「もしかして訊いてねえの? そこは訊いとけよ。
だってその人まだ一年生なんだろ。お前が大学生になるときその人もまだ大学生だぜ。
だったら一緒の大学行くっきゃないだろ」

僕は友達に合わせ適当な相槌を打った。どうやらバレなかったようだ。

僕はその日の学校からの帰り道、文房具屋に立ち寄ってノートを買った。
家に帰るとすぐにそのノートに優子さんの設定について書き込んだ。
今日はたまたまバレなかったけれど、もっと深く設定を考えなきゃすぐバレる。
でも設定が増えていけば覚えきれなくなる。
しかし、忘れてはいけない。
だから、彼女データベースを作ることにした。
ノートに書き込んで置けば忘れることはない。
僕は次々と新しい設定をノートに書き加えて言った。誕生日に血液型、家族構成、ペットについて
何か大事な事を忘れてないか何度も確認しながら。
不意に肩を叩かれた。
振り返ると優子さんが立っていた。実際にはいないが僕には見えるのだ。

『もう一時だよ。寝ないの?』

設定を考えるのに夢中でいつのまにか日付が変わっていた。
僕は優子さんにおやすみと言って布団に入り眠りについた。

それから僕はノートを肌身離さず持ち歩き、ことあるごとに設定を追加していった。
友達に今度会わせろよとか写真見せろよとか言われても
「彼女、大学生だから忙しいんだ」とか「写真は嫌いなんだって」とかと言って上手く誤魔化した。
優子さんのことがバレることは一向になかった。

学校から帰り部屋に入るとすぐ優子さんが話し始める。

『今日の学校はどうだった?』
『私はこんなことがあったの!』
『昨日のあのテレビがね』
『見てみてこの漫画面白いよ』

優子さんはお喋りで僕が返事をする暇すら与えないくらいだった。
彼女が出来てから僕の生活は順風満帆、幸せに満ち溢れていた。
がしかし、そんな生活も長くは続かなかった。

ある日のことだ。
クラスメイトがふざけていて僕の机をひっくり返し中身をぶちまけてしまった。
別のクラスメイトが放り出された中から一つのノートを拾った。
彼女データベースだった。
僕が返せと近寄ると面白がってノートを回し始め、とうとう中身を見られてしまった。

終わった

何もかもが終わった。優子さんが、僕に本当は彼女がいないということがバレてしまったのだ。
当然僕は虐められた。
ノートはコピーされて学年中に回された。
僕は学年中の嘲笑の的になった。
それまでの友達もみんな離れていった。
でも、優子さんだけは側にいてくれた。優子さんがいたから僕は虐めにも負けなかった。
ノートはクラスメイトが持ったままだった。
どうしても返して欲しくてその事を言うと放課後校舎裏で待ってると言われた。
言われた通りに待っているとクラスメイト達がぞろぞろとやってきた。

「気持ち悪いんだよ、てめぇ」
「脳内彼女かよ、キメェ」

よってたかって殴られた、蹴られた。
優子さんが僕を庇ってくれたがクラスメイトの拳は優子さんをすり抜けて僕に当たった。
痛みで意識が朦朧とする中で僕は言った。

「ノート返して」

クラスメイトは大笑いし始めた。

「こんなにされてんのにノートかよ。頭おかしいんじゃねぇの?」

なんと言われようとノートは大切なのだ、僕にとってなによりも。

「そんなに大切ならよぉ、持ち運ぶのに便利なように小さくしてやんよ!」

クラスメイト達は僕のノートを破り始めた。

『痛い! やめてっ、痛いの』

優子さんが悲痛の声を上げた。
ノートは謂わば優子さんそのものだった。
そのノートが破られているということは優子さんが破られているということだ。

「やめろー!」

僕はクラスメイト達に突っ込んだ。しかし、あっさり倒されてしまう。

「たかがこんなもんでムキになってんじゃねぇよ。
マジでキメェんだよ!」

そう言って彼等はビリビリに破ったノートにライターで火をつけた。

『嫌、いや、イヤっ!
熱い! 消してっ、消してっ、やめてー』

みるみるうちに優子さんが炎に包まれていった。

『お願い、助けて……』

優子さんは消えてなくなった。それと同時に僕の中で何かが生まれた。

「うおぉぉぉぉ」

僕は近くに落ちていた長い木の棒を振り回して突っ込んだ。

「うわっ、やめろ! 当たったらシャレになんねぇよ」

シャレにならない? お前達は既に優子さんに対してシャレにならないことをしたじゃないか。
棒で殴られるくらいなんだっていうんだ。
一人を捕まえると一心不乱に棒で殴り続けた。棒が折れると今度は自分の手で殴り続けた。
手がみるみるうちに赤く染まった。それでも僕はやめなかった。

「優子さんの痛みはこんなもんじゃなかったんだ。
お前等なんか……死ねっ!しねっ!シネ!シね!」


取り逃がした他の奴等が教師を連れてきて僕は取り押さえられた。
そこからはよく覚えてなかった。



気が付いたら狭い部屋の中にいた。死んだはずの優子さんと一緒に
優子さんは言った。


『コレからもズット一緒よ』
5

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