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楽しい学校生活

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「ジャンケンで負けたほうが昼飯奢りな」
 俺と吉原は食堂の食券の自販機の前で今まさに臨戦体勢に入ろうとしていた。
「いいか?吉原。俺はグーをだすぞ」
 そう言うと吉原はフンっとバカにしたように笑った。そんな手に引っ掛かる僕じゃないさ!と言いたげに
「じゃぁぁぁん!けぇぇん!」
 闘いの火蓋がきっておとされた。
 俺は宣言通り握ったままの拳を突きだしていた。
 吉原の拳は最初パーの形をとっていたが『ポン』と同時に何故かチョキへと変えていた。
「ぬぁんでだぁぁぁ!?」
 それは俺が言いたい。
「だって、グーを出すって言えばこっちがパーを出すから実際のお前の手はチョキだからその裏をかいて………あれ?わからなくなってきたぞ」
 一人で色々考えた挙げ句失敗という結果に終わり吉原は床を転げ回っていた。
「おい、奢れよ」
 と言うと吉原は転げ回るのを止め渋々と起き上がり制服のポケットから財布を取り出そうとした瞬間待ったの声がかかった。
「ちょっと待ったー!」
 声の主はひかりだった。
 ひかりはズンズンとこちらによってきて俺達の前まで来て言った。
「かずき!奢りたくないわよね?」
 かずきってのは吉原の下の名前だ。
 勿論吉原はひかりの質問に頷いた。
 するとひかりは
「フフフ、それでいいわ。
 もう一回あんたにチャンスをあげるわ!」
 と言ったが吉原はポカンとアホみたいに口を開いていた。いや、実際アホなのだが……
 仕方ないので俺が代わりに説明してやった。

「つまりひかりは私と勝負しなさいって言ってるんだよ。じゃんけんのお前が勝てばひかりが昼飯を奢ってくれる。でも、負ければ二人分奢らなくちゃいけない。わかったか?」
 吉原は状況を飲み込むと嬉々とした表情で勝負を受けた。
「いいか?ひかり。僕はグーをだすからな」
 吉原は今さっき俺がやったことをしようとしていた。
 結果は当然ひかりが勝ちだった。
 ひかりは恐らく俺と吉原の勝負を見ていたのだ。
 それで吉原は単純だから俺の真似をすると踏んでチャンスをあげるわなんて言ってきたのだろう。
 なんともしたたかな女である
「ぬぁんでだぁぁぁ!?グーを出すって言ったのになんでパーをだすんだ?深読みしろよ!杏ひかりの単細胞っ」
 ナイスなハイキックが吉原の顔面を捉え、吉原は2メートルほどふっとんだ。
 お前に言われたくないだろう……俺の真似したくせに。
「クソ、仕方ないけど奢ってやろう。ありがたく思えよ!」
 負けたクセに偉そうだなと俺が言おうとした瞬間、吉原は吹っ飛んでいた。
「なんで蹴るんスか!?」
 そう、またひかりのハイキックが炸裂していたのだった。
「なんか偉そうだったから、つい」
 ひかりが答え、俺が頷きながら相槌をうつ。
「そりゃあ仕方ないな」
「何が仕方ないんスかねぇっ!」
 吉原は不服そうだったが無視した。
「とりあえず奢れよ、金づる」
「そんな風に思ってたんスか!?」
「「何を今更?」」
 俺とひかりの声が重なる。
「あんたたち……」
 吉原は泣きながら券売機に五千円を投入し、選べよと言った。
「俺はラーメン……とおしんこ!おしんこ!おしんこ!おしんこ!おしんこ!おしんこ!おしんこ!おしんこ!」
「あたしはねぇ、カレー……と、つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!つくだ煮!」
 二人で連打できるだけ連打した。食堂で不味いと評判のおしんことつくだ煮を
「あんたたち何してるんスかぁぁぁぁぁ!!」
 いきなり吉原が叫ぶ。
「何って食券買ってるんだけど……見て分かんないのか?」
 そうそうとひかりも頷く。
「そう言うこと言ってんじゃねぇよ!何連打してんだってことだよ!」
「「面白いから」」
 またハモった。
「あんたらは面白くても僕は全く面白くないんスけど」
「え?Mなのに?」
「そうそ、こういうのが快感なんでしょ?」
「違いますからっ!」
 驚愕の事実だった。
 俺とひかりはMの吉原のためを思って高校に入ってから二年間したくもないイタズラをしてきたというのに実は快感を感じていなかったとは………
「したくもないってついさっき面白いからって言いましたよね?ていうか、これイタズラの域越えてますから!」
 僕、おしんこもつくだ煮も嫌いですしね!と付け足すように言った。
「まぁまぁ。悔しいならお前もやり返してみろよ」
 俺がそう言うと「目にものみせてやる」と言って怒った様子の吉原は食堂を後にした。
「なぁ、ひかり。あいつ……」
「えぇ………」
 俺とひかりは顔を見合せた。まさかあんな風に思ってるとは思わなかった。深刻な状況だった。
「おしんことつくだ煮嫌いなんてな……」
「せめて納豆にしてあげるべきだったわね……」
「他に言うことあるでしょ!あんたらはっ」
 消えたと思った吉原が息を切らし戻ってきてツッコミを入れ、またどこかに行ってしまった。
 お前のほうが他に言うことあるだろ……
 ―――
 ――
 ―
 昼飯も食い終わり、教室でひかりと話していたところに吉原が戻ってきた。
「おい、お前と話したいって女がいるから放課後屋上来いよ!いいな?」
 それだけ言うと吉原は返事も聞かずまたどこかに行ってしまった。
『女の子の呼び出しと聞いて喜んで屋上に行くが待てども待てども女の子は現れない。
 途方にくれているところに僕が現れ「ひっかかったな!全部僕が仕組んだことさ」って言った時のあいつの顔が楽しみだぜ、ヒヒヒ』

「……なんてことを考えてるに違いない。だから、逆に罠にはめてやるんだ。ひかり、耳貸せ」
 俺の作戦はこうだ。
 吉原の作戦にひっかかったと見せ掛けて屋上に行く。
 頃合いを見計らって現れるであろう吉原にあらかじめ屋根部分でスタンバってたひかりがバケツ一杯の水をかけさせる。
 まさに孔名の罠。
「どうだ?」
 と一応訊いてみると愚問ねって感じの表情を返された。



 そしてあっという間に放課後。
 結局吉原は午後の授業には出なかった。どこかで作戦の準備でもしているんだろう。
 俺はというと屋上に来ていた。ひかりもスタンバイOKでくるならいつでもこいって状態なのに吉原はなかなか姿を現さなかった。
 一時間くらいして陽も落ち始め空が赤く染まってきた。
 俺がもう帰ろうぜとひかりに声をかけようとしたまさにその時、屋上の扉がゆっくりと開いた。
 俺もひかりも「やっときた」と思った。
 しかし、扉から姿を現したのは吉原ではなく、見ず知らずの女の子だった。
「え?」
 俺は一瞬の硬直の後目線を上へスライドさせた。
 ひかりは気付いておらずバケツをひっくり返すモーションに入っていた。
(クソッ、間に合え!)
 俺は女の子に向かって走り出していた。
 俺の様子を見てひかりもしまったという顔をしたが時既に遅し。
 水は女の子目掛け落下していた。

  水の掛かる音がする。

「フーッ」
 間一髪、女の子に水が掛かる寸前に突飛ばし女の子は濡れることはなかった。女の子は。
 女の子を庇ったおかげで俺はびしょ濡れになっていた。
 ひかりが屋根部分から飛び降り女の子に大丈夫か?と聞くと女の子はなにがなんだかわからなそうにしながら大丈夫ですと答えた。
 そしてバカみたいな高笑いと共に吉原が現れた。
「フハハハハっ!掛かったな!バカめっ!」
 言い返す言葉が無かった。
 まんまと吉原の作戦にひっかかってしまったのである。
 まさか本当に女の子を使ってくるとは思わなかった。
 俺を誘き寄せる餌としてでなく、俺を陥れる最後の駒として使ってくるとは。
 つまり、吉原は俺があいつのイタズラに対してイタズラを仕掛けることを見越し、更に第三者が巻き込まれそうになったとき俺の性格からして庇うことを頭に入れ作戦を立てていたってことだ。
「吉原、俺のま……」
 俺の負けだと言おうとした瞬間、スカーンと気持ちいい音をたて空のバケツが吉原の頭にぶつかった。
 投げたのは勿論ひかりだった。
「いつまで笑ってんのよ!バカズキ」
 一応補足しておくとバカかずき縮めてバカズギだ。
「だって見ろよ?こいつびしょ濡れだぜ。俺の完全勝…グハァッ!」
 言い切る前にひかりの拳が吉原のテンプルを打ち抜いた。
「だ~れのおかげだと思ってんの?」
「……ひかり様です」
 は?
「約束忘れてないでしょうね?」
「ハイ。三ヶ月昼飯代払わせていただきます」
 ハ?
 全く意味がわからなかった。
 何の話をしてんだこいつら?
 するとひかりが俺のほうを見て言った。
「別にかずきがあんたの作戦を読んで裏をかいたわけじゃないから安心しなさい」
 ひかりの説明によると先程の約束と交換に俺の作戦をリークして更に俺に一泡吹かせる作戦を与えたということだった。
 マジでしたたかすぎる、この女……
「だって今回はあんたと組むよりかずきのほうが割がよかったんだもん。まぁ、良いじゃない?ちょっとびしょ濡れになっただけで私達三ヶ月も昼食代が浮くのよ」
「ちょっと待て!ひかり。私達ってなんだよ?」
「え?あたしとこいつ」
 俺を指さし言う。
「聞いてないぞ!そんなの」
 ポンと吉原の肩を叩き言ってやる
「ゴチになります」
「Nooooooo!!!!」
 赤く染まる夕焼け空に吉原の叫び声がこだましたとさ。
6

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