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第一章:久しぶりの戦い

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「お待たせ」

 とあるカードショップのデュエルスペース。
俺は山田と戦うべく、約束を取り付けていた。

「俺がやってた頃から比べると、随分と種類が増えたもんだな」

デュエルスペースに向かう途中にあるガラスケースには、見たことがないカードがずらりと並んでいた。

「そうだな!といっても俺は最近まで買うだけはしてたから、お前ほど目新しいものは無いよ」

「そうか」

返事をしながら山田の対面に座る。

「さっそくだが、やろうか?」

言いながらデッキを取り出す。
当時使っていた白単色のデッキだ。

 ここで大まかだが基本的なルールや流れを説明しよう。
 まず、プレイヤーは各自、ライフを20所持した状態から始まる。
勝敗の条件は様々だが、基本はこのライフを失ったほうが敗北、ということになる。
プレイヤーは、カード60枚以上で構成された「デッキ」、の中からカードを引いていき、
引いてきたカードを駆使して戦略を広げる。
カードの種類は大きく分けて二つ。「呪文」と、そのコストを払うための「土地」だ。

二人でダイスを振る。
俺が5、山田が3の目を出した。

「俺の勝ちだな。先攻を貰おう」

各プレイヤーは基本、初手に7枚のカードを持った状態からスタート。
ゲームはターン制で行われ、ダイスやジャンケン等で先攻後攻を決める。
相手より先に展開を進められるため、勝者は基本的に先攻を選ぶことが多い。

「平地をセット、タップして輝くオオヤマネコを召喚。エンドだ」

山田の顔色が変わる。

「白か?にしても、なんだそのクリーチャは・・・」

疑問に思うのも無理は無い。それだけ採用に疑問を持たれるクリーチャであった。
 
 俺のとった行動の内容は、
土地(平地)を場にセット。これはこのゲームの基本行動になる。
基本的な土地は5種類存在し、

平地=白
山 =赤
島 =青
森 =緑
沼 =黒

というように色分けがされている。
土地をタップ(横に向ける)することにより、色に対応したマナ(通常は1)を生むことができる。
このマナを使用し、クリーチャと呼ばれる召喚カード、あるいわソーサリー等という呪文を使う事になる。

 俺は平地をタップすることで白マナを1生み、その1マナで使用が可能な召喚カードを使用した、というわけだ。
場に召喚されたクリーチャは、言わばそのプレイヤーの兵士。それらに対戦相手を攻撃させ、相手のライフを削っていく。
召喚したカードには召喚酔い、というものがあり、召喚して間もないクリーチャに、いきなり行動をとらせるのは通常不可能。

行動をするには基本的にマナがいる。序盤ならば特に。土地をタップすれば生めるマナは無い。
することが無くなった為、俺は自分のターンのエンドを宣言したのだ。

「まあいいか、俺のターンだな。ドロー」

自分のターンに回ってきた際、プレイヤーはデッキから1枚引くことができる。
つまり後攻の場合、は1ターン目からカードを引ける。これは後攻の不利を和らげる意味が強いと思われる。

「島をセットしてエンド」

島だと・・・?厄介な・・・

「アンタップ、アップキープ、ドロー」

 自分のターンが回ってきた際の行動は大まかに三つ。
 まずはタップ(横に向ける)していた土地、クリーチャ等をアンタップ(縦に起こす)する。
こうすることでこのターン行動、あるいはマナを生むなどが可能となる。
また、召喚酔いしているクリーチャも1ターンの経過で行動が可能になる。
 アップキープは、通常は何もすることは無いが、カードの指定にアップキープに処理する項があった場合などはこの場面で行われる。
 ドローはそのまま、デッキから1枚引く行動。

(青が相手か、さて、どうしたものか・・・)

 色には当時から役割というものがあった。
俺のイメージでは、

白=守りが強く、速度が速い、大量破壊が可能
赤=攻めが強く、速度が速い、呪文でのプレイヤー直接攻撃が得意
青=守り、特に妨害が強い、ドローにより優位性を保ちやすい
緑=攻めが強く、クリーチャの性能に優れる、マナを大量に作れる
黒=攻めが強く、クリーチャの除去、手札破壊が優秀

といった感じだ。これは個人差があるだろうし、役割は変遷するので明確には出来ないだろう。
相手が青、という事は、つまり妨害が多くなるという事だ。
青にはお得意の呪文として、こちらの召喚や呪文の発生前に打ち消す、対抗呪文というカードがある。
対抗呪文以外にも打ち消しの呪文は多数有り、そのほとんどが青の呪文である。
青を使っていながら打ち消しを採用しないということはあまり無い。
もちろん採用してない場合もあるが、、相手が青を使うと解った時点で、打ち消しを警戒するのは当然だろう。

(だが、まだ1マナしか生めない。今のうちに動くか)

「平地をセット、タップで白2マナ生んで青の防御円をプレイ」

「青の防御円!?マジっすか!!」

様子を伺う。

(カウンターは無い、か・・・)

 山田が驚くのも無理は無い。
「青の防御円」はエンチャントというカテゴリに属す。
エンチャントはクリーチャのように攻撃をするわけでは無いが、場やクリーチャに、なんらかの付与効果を永続意的に与えるというものである。
その中でも、「青の防御円」は場に効果を与えるものである。
効果は、無色(色はなんでもいい)1マナを払う事で、青の発生源のダメージを軽減し0にするというもの。
つまり、青のクリーチャや呪文によるダメージを適当な色のマナを1払えば0に出来るということだ。
当然、青以外の色の攻撃は軽減できない。しかし、名前からも解るように、青以外の防御円ももちろん存在する。

「今ので解ったかもしれないが、このデッキは所謂地雷デッキだ」

相手が常に一定の色以外使わないと解っていれば、防御円の採用もありうるだろう。
しかし、初めてやりあう相手に採用されるような代物ではない。
そういった通常ありえないようなカードが採用されているデッキは「地雷デッキ」などと呼ばれたりする。

「輝くオオヤマネコでアタック、エンド」

「エンド前、青1マナ、選択」

 山田が俺のターンエンド前に呪文を使用した。
 呪文のカテゴリのインスタントというものがある。
インスタント呪文は相手のターン中や、アップキープ中など実に様々なタイミングで使用することが可能な呪文だ。
相手の呪文を妨害する、打ち消し系の呪文も当然この中に属している。
山田の使用した、「選択」の効果は、簡単に説明すると、自分のデッキの1番上を見た上で気に入ったらそのまま、気に入らなかったらデッキの一番下に置き、その上で1枚引くというもの。
山田はそのまま引いたようだ。

「アンタップ、アップキープ、ドロー」

先ほど「選択」を使った際タップした島を起こす。
俺がエンドする際に呪文を使った意味はこうゆう部分にある。
生めるマナが無いという状況は、イコール隙を与える事に繋がる。
しかし、相手のエンド前に呪文を使うことで、その隙をかなり減らす事が出来る。
自分のターンになった瞬間に土地が起こせるからだ。

「島をセットしてエンド」

 これで対抗呪文を代表とする、打ち消し呪文を打てる状態が出来上がった。
 打ち消し呪文は2~3マナで使用されるものが多い。
島が2枚セットされてる現状、最低でも1回は打ち消される可能性がある。
 しかし、まだ序盤。防御円が打ち消されなかった事を考えると、相手の手札には打ち消しが無い、
もしくは少ないのだろう。後でどうにでもなると考えたのかもしれないが・・・
 相手に打ち消される可能性がある、といっても、警戒して手を緩めれば、それこそ相手の思う壺。
俺は手を緩める気は無かった。
そのまま3~5ターンを、細かいクリーチャを召喚しながら戦いを優位に進めて行った。

しかし、6ターン目に状況は覆った。

3, 2

  


いや、正確には5ターン目、山田の設置した火薬樽から状況は変化していたと言える。

 当時、金も少なく、やる気もそこまでは無かった俺には、なんだあれ?という印象だった。
しかし、テキストを読めばその危険性はすぐに解った。

火薬樽は無色2マナで使用可能なアーティファクト。
アーティファクトは呪文のカテゴリの一つで、場に設置する、道具や機械のようなものだ。
能力だが、まず、自身のアップキープ開始時にカウンターを一つ乗せることができる。
さらに、火薬樽自体をタップし、生贄に捧げる事で、乗ってるカウンターの数と等しいマナ域の
アーティファクト、クリーチャを破壊する、というもの。

 正直、青にバウンス(手札に戻される)以外でクリーチャに対処されるとは思っていなかった。
苦し紛れに解呪(対象のエンチャントかアーティファクトを破壊するインスタント)を打ったが
これは当然のように打ち消された。

「ようやく手札が潤ってきたぜ・・・」

 6ターン目、山田は1マナ域のクリーチャを火薬樽で破壊し、さらにもう一枚の火薬樽をセット。
苦しい状況になってきた。
 俺のライフは20、場は現在、「青の防御円」「崇拝」「白騎士」「輝くライオン」。
対する山田のライフは14。場には「火薬樽」、そしてクリーチャ化する土地、「隠れ石」。
一見するとまだ優位だが、火薬樽の存在が厄介だった。
壊そうとしても、潤沢なマナ、手札の前を持つ山田がそれを許すとは思えない。
頼みの綱の青の防御円も、「隠れ石」が殴ってきた場合、ダメージを軽減することは出来ない。
正直、何をどうやっても勝てる気がしなかった。

さらに9ターン目。

「変異種をプレイ」

とても見たくないものを見てしまった。
こいつは、通称「青い悪魔」と呼ばれる、カード知識に乏しい俺でも知っている、最悪極まりない
クリーチャだ。
詳しい説明はしないが、こいつ1枚で自身の強化、飛行能力付加、呪文対象外化、アンタップ
などと、実に様々な能力を持っている。
俺はこの時、山田のライフを8まで削っていたが、こいつが出た以上、俺にダメージを通す術は
ほとんど無かった・・・




「いやいや、参ったよ」

 俺たちは結局、3戦程戦って店を出た。
今は牛丼屋で反省会である。

 あの後、俺は細かいクリーチャを召還し、数で押し切ろうとするも、ことごとく打ち消され
続けた。現状のクリーチャだけで隙を突いて殴ろうともしたが、変異種アンタップで軽く凌がれ、
ついには「転覆」という呪文を使い回され、場をほぼ空にされてしまったのだ。

「まさか、メガパーミッションとはな・・・。正直、あそこまで打ち消され続けると軽く絶望
するな」

「ははは、俺のデッキも十分地雷の素質はあったわけだ!そっちには負けるがな」

「まあな。あのデッキは、ダメージによる勝ち手段しかないデッキを黙らせるデッキなんだ」

 俺のデッキは、死に難いクリーチャを並べ、崇拝(クリーチャーさえいればダメージでは
死ななくなるエンチャント)や最下層民(エンチャント。自身へのダメージをエンチャント
されたクリーチャに移し変える)などで防ぎつつ、少しずつ相手のライフを削るデッキ。

「確かに。プロテクションクリーチャ並べられたらダメージで勝つのはかなりしんどいだろうな」

 当時、中学生時代になるが、周りにはダメージ以外で勝つようなデッキを使っている奴はほとんど
いなかった。そういった環境だったからこそ生まれたデッキとも言える。

「俺だって最後はヒヤヒヤしたぜ?まさか「目には目を」が飛んでくるなんて思いもしなかった」

 終盤、「転覆」の使用、変異種の強化をしてマナを1マナしか残してない状態で山田が攻めてきた。
俺はその時、最後の切り札として用意していた「目には目を」を2枚使用した。
「目には目を」はダメージの発生源一つが自分にダメージを与える際、同じダメージを相手に
与えるという呪文。
俺のライフはその時9。山田は8。変異種と隠れ石のダメージ分を相手に与えれば俺の勝利だった。

「あれに賭けてたからな。しかし、そこは「青い悪魔」見事にやられたよ・・・」

 実際、俺は勝ったと思った。長時間戦っていたし、いくらなんでも、10枚近い打ち消しを
使用した後に1マナ以下の打ち消しが飛んでくるとは思わなかったからだ。
しかも山田は、打たれた直後、本気でどうしようか悩んでいたのだ。

だが・・・

「呪文対象外になった変異種で、あの能力を使うことになるとは思わなかったぜ!」

 そう言って声を出して笑う。
 変異種の能力には自身の攻撃を下げ、体力を上げるという能力が備わっていたのだ。
山田は俺にダメージを与える瞬間、その能力を使い、ダメージを下げてライフを1残した。

「一見するとどうにもならないように見えて、考えると実は道が残されていたりする。
やはりMTGは奥が深いな・・・」

「でも、最後の試合は悔しかったな!まさか「奈落の王」出されるとは・・・」


俺はその後の2試合を、もう一つ持っていたデッキ、黒単色に変え挑むことにしたのだ。
5, 4

  


 俺が使用した黒単色のデッキは純粋なビートダウン(クリーチャで殴り勝つ)デッキ。
シャドー(シャドーを持つクリーチャはシャドーを持つクリーチャにしかブロックされず、
ブロック出来ない)を持つクリーチャで序盤から一気に押し切るのが勝ちパターン。

 対する山田が使用したのはカウンターモンガーというデッキ。
このデッキは青黒緑で構成されており、打消しをしつつ、厄介なクリーチャ「魂売り」で
フィニッシュするのが勝ちパターン。

「山田・・・、メガパーといい、コントロール系が好きなのか?」

「おうよ」

コントロールとは相手の行動を妨害し、ゲームの流れを支配して勝利することを目指すデッキを指す。
一度ペースに嵌ると抜け出すのは至難。

「長引けば不利。一気に攻めさせてもらう・・・。ダウスィーの匪賊を出してエンド」

「出た、1ターン目から空気読めてないやつ(笑)」

「ダウスィーの匪賊」はシャドー持ちの攻撃3、タフネス1のクリーチャ。
シャドーを持つ為ブロックされ難く、序盤に出されるとうっとおしい事この上ない。

(恐らくはどっかで吹っ飛ばされるだろうな・・・。序盤でどの程度ダメージを稼げるか・・・)

俺はその後、「ダウスィーの殺害者」、「邪悪なる力」などで攻め立てるが、残りライフ8にした
時点で「破滅的な行為」で全て吹き飛ばされてしまった。

「まあ、こうなるよな・・・」

「ああ、「魂売り」召還してエンド」

 「変異種」といいコイツといい、クリーチャの性能が違いすぎるな・・・
 俺は手札に「恐怖」「悪魔の布告」というクリーチャ除去カードを持っていたが、「恐怖」は
黒とアーティファクト以外のクリーチャのみしか除去できない。「悪魔の布告」なら除去は可能
だが、十中八九は打ち消されるだろう。

結局、この試合はライフ3以下になった俺が呪文を打った瞬間、「蝕み」という打消しながら
相手のライフを3減らす呪文を喰らい、敗北した。

 3試合目、俺は黒単色、山田は再びメガパーミッションを使用した。

 俺の初手は「暗黒の儀式」「ダウスィの匪賊」「沼」「沼」「ダウスィの殺害者」「悪魔の布告」
「睡蓮の花びら」。

「沼をセット。「暗黒の儀式」をプレイし、またしても「ダウスィの匪賊」」

「げげげ、このデッキ相手にその開始は厳しいな・・・」

 俺は2試合目同様、最も理想的な試合開始をした。
「ダウスティの匪賊」の召喚マナコストは黒1、無色2だ。通常、1ターン目に召喚するのは困難
だが、その直前に使用した「暗黒の儀式」によりそれを可能としている。
「暗黒の儀式」のはインスタント呪文である。その性能は、黒マナを3生むというもの。
「暗黒の儀式」自体のコストは黒1マナ。つまり、効力的には、黒マナを2増やす感じだ。
他にもマナを増やす手段は多数あるが、これは最もポピュラーな増やし方の一つだろう。

(さっき見た感じだと、除去は「火薬樽」と「転覆」くらいだ。こっちが数回召喚を使えば
対処は厳しいはず・・・)

 実際、山田は火薬樽を出すには出したが、その表情には苦しいものが含まれていた。
その後は場に「ダウスィーの殺害」だけが残った状態となり、山田のライフは徐々に削られていった。
しかし、5ターン目、

「「変異種」を召喚。こうなったら殴り合いで強引にいくぞ!」

(「変異種」か・・・。このまま進めば、いくら「変異種」と言えど、ダメージレースでは俺が
勝つ。まあ、恐らくはなんらかしらの算段があってのことだろうが・・・)

「土地フルタップか。その隙が命取りだな。沼をセットし、0マナで「睡蓮の花びら」をプレイ。
さらに、「睡蓮の花びら」を生贄に捧げて黒1マナを生み、そのマナから「暗黒の儀式」をプレイ。
ここまではいいか?」

「・・・OK」

 恐らく、山田は打ち消しを使用出来る。

(まあ、「目くらまし」だろうな・・・)

「目くらまし」は、セットしてある自分の島を手札に戻すことにより、マナコストを払わず使用可能
な呪文(ピッチスペル)。効果は相手が無色1マナ多く払わない限り、その呪文を打ち消すというもの。
効果としてはやや物足りないが、打ち消しの気配を消しつつ使用出来るため侮れない。
最も、それ以上の性能を持つピッチスペルも存在するが、小中学生が簡単に手を出せるカードでは
無かった為、考えからは外していた。

「OKか。打ち消しは1枚ってところか?まあいい、「暗黒の儀式」で生んだ3マナに加え、
沼を4枚タップ。「奈落の王」召喚だ」

「な、「奈落の王」・・・!?」

 山田は、無駄と感じつつも「目くらまし」を使用した。しかし、俺は「睡蓮の花びら」を使用した
ことで、1マナ余分に残していた。
ここで余裕ぶって「睡蓮の花びら」を温存などしていたら、「目くらまし」の餌食だったろう。

「こいつは流石の「変異種」でも止められないだろう?」

山田は苦虫を噛み潰した表情をし、十数秒の逡巡の後、投了を宣言した。
7, 6

九傷 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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