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★そのにじゅうなな〜さんじゅうはち

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「ちよー、ちょっとそれ取ってー。」
「はーい」

「ちよー、この味どうかしら?」
「ちょっとうすいー」

今日はちよちゃん、お母さんのお手伝いをしています。
時計の針ははなればなれ、お夕飯の仕度です。
いつもよくお手伝いをするちよちゃんですが、お料理の手伝いは初めてです。
食卓で待つお父さんも、何だか落ち着かない様子で台所を気にしています。

「はい、できた。ちよ、これ運んで運んで。」
「はーい」
「気をつけて運ぶのよ?」
「はーい」
「ちよ、お父さんが運ぼうか?」
「お父さん、じゃましないの。」
「はーい。」

お夕飯は、何だかいつもよりちょっとだけ、美味しく感じました。


その後、お片付けの手伝いもしたちよちゃんは「つかれたつかれた」とお部屋に戻りました。
そして床にぽんと座ると、突然「はい!」と言って両手を前に出しました。
目の前にはかみさまがぷかぷかと浮かんでいます。
かみさまはちよちゃんの手の中をのぞき込みました。
そこには小さなおにぎり。
ちよちゃんがかみさまにと、こっそり握ってきたのです。
「どうぞ」
にこにことしているちよちゃんから、かみさまはとまどうようにおにぎりを受け取りました。
ちよちゃんは何かを期待するような目でかみさまを見ています。
かみさまは、しばらく悩むようにおにぎりを見つめていましたが、
おもむろに空いてる方の手でおにぎりをすっとなでました。
おにぎりは、音もなく消えてしまいました。

「…おいしかった?」

少し考えてから、ちよちゃんがおずおずと聞きました。
食べたのかどうかもわからないので、不安そうな顔です。
そんなちよちゃんに、かみさまははずむような歌をうたいました。
ちよちゃんはそれを聴くと、「ごちそうさまは?」と言って笑いました。

「どうしていつもそうなの?」
「今そんな事言ったって、仕方ないだろう。」
「仕方ないって事無いじゃない。」

いつも仲良しのお父さんとお母さんが、めずらしくケンカをしています。
ケンカといってもささいなもので、きっかけだってつまらないものです。
だけど、やっぱり、ちよちゃんは少しかなしい気持ちでした。

ちよちゃんは少しはなれた場所でテレビを見ています。
けれど内容はぜんぜん頭に入ってきませんでした。

(ふたりとも、こどもなんだから)

そう、ちよちゃんは思いました。
思ってから、ちょっとだけ笑いました。
かみさまは、そんなちよちゃんをじっと見ています。
それに気づいたちよちゃんは、かみさまの方をむくと、
(ねー)
と、小さな声で言いました。
それを聞いてか、かみさまはやめていた歌をうたい始めました。
それはやけに明るい歌でした。
かみさまの歌に合わせるように、テレビではただ楽しいだけの番組が流れています。

お父さんとお母さんは、いつの間にか笑って、ちよちゃんといっしょにテレビを見ていました。
ちよちゃんはまた、
(ふたりとも、こどもなんだから)
と、笑いました。
30, 29

  

「ちよ、もうこれでいい?」
「やだっ」
「もー、出かけるの遅くなっちゃうわよ?」
「でもかわいくないんだもん」
「もー。」

今日はお出かけのちよちゃん。
お母さんに髪を結ってもらっているのですが、なかなか気に入った風にならないようです。

「ほら、ここ止めて、これで良いでしょ?可愛いじゃない。」
「かわいくないっ」

もう出かける予定の時間は、ちょっと過ぎてしまっています。
お父さんは時計を気にしながらちよちゃんを待っています。

「ちよー、もう行くぞー。」
「ほら、ちよ、お父さん怒っちゃうわよ?」
「うー…」

ちよちゃんは鏡を見つめたまま、ちょっと涙目になっていました。
そんなちよちゃんを見かねてか、かみさまはそうっと、ちよちゃんの髪を撫でました。
すると、お母さんの結った髪がするりととけて、さらりと肩に落ちました。

「あー、おかーさーん」
「なあに?」
「これー」
「あら、ほどけちゃったの?」
「うん…」

ちよちゃんはうつむいてしまいました。
お父さんはそんなちよちゃんに優しく声をかけました。
「ほら、ちよ、行くよ。大丈夫、そのままでじゅうぶん可愛いぞ?」
「ほんと…?」
「もちろん!」
笑顔でこたえるお父さんに、ちよちゃんはちょっと寂しそうに笑いました。
そして何も言わずにお父さんの手を握りました。
「よし、行こう!」
「うん!」
ちよちゃんは、今度は元気にこたえました。
靴をはいて、玄関を開けて、ようやく準備完了です。

「おとうさんおかあさんはやくー」と手を振るちよちゃんの姿を見ながら、
お母さんとお父さんは顔を見合わせて「やれやれ」とため息をつきました。

「きもちーねー」

夕日に包まれた部屋の中、ちよちゃんは窓を開けて外を眺めていました。
いつの間にか季節は、涼やかな風を吹かせ、どこかで虫の鳴き声もします。
ちよちゃんは窓枠にもたれ、ぼんやりと、まだ青い庭の木や目の前を過ぎるトンボなんかを見ていました。
道を行く友達がちよちゃんに手を振っています。
ちよちゃんも手を振りかえしました。

「またあしたねー」
「うん!あしたねー」

その子は大きめのカーディガンを風に膨らませながら、お母さんの背中を追いかけて帰ってゆきました。

「ふー」

大きく息を吐いて空を見上げると、千切れた雲がゆっくりと流れていました。
台所では、お母さんがお夕飯の支度をしています。

(おてつだいしようかな…)

ちよちゃんは立ち上がると、台所へ行こうとしました。
そんなちよちゃんに、かみさまがすうっと近づいてきました。

「なあに?」

かみさまは、首を傾げるちよちゃんの肩を優しく叩きました。

「?」

ちよちゃんはかみさまが何をしたのかわからず、頭にハテナを浮かべたまま台所へ行きました。

「おかーさんてつだうよー」
「あら、ちよ助かるわ。ありがとう。」
「へへー」
「ただいまー」
その時、玄関からお父さんの声がしました。
「あっ、おとうさんだ!おかえりー」
「ちよ、ただいま」
「お帰りなさい。」
「うん、ただいま。ほら、ちよ、お土産だぞ。」
「ケーキだ!」
「あら、ケーキなんてどうしたのよ、珍しい。」
「何か急に食べたくなっちゃってさ。ちよ、後で食べような。」
「うん!」

ケーキは、ちよちゃんの大好きなモンブランでした。

お夕飯のあと、美味しそうにケーキを食べるちよちゃんをみつめながら、かみさまは優しい歌をうたっていました。
庭では、秋の虫がうたっています。
その歌は、夏よりも賑やかに、夜を彩っていました。

32, 31

  

ある、朝の話です。

「ちよー、起きなさい…って、あらもう起きてたの?」
「うん!」
「ちゃんとお着替えまでして…どうしたの?」
「なんかね、めがさめちゃったの」
「そうなの?眠れなかった?」
「ううん。だいじょぶだよ」
「そ。でもちよ、そのかっこおかしいわよ。こっちのシャツに着替えたら?」
「えー」
「着替えたらご飯だからね。」
「はーい」

ちよちゃんはしぶしぶ、お母さんの選んだ服に着替えました。


「あれ?ちよ、お箸の持ち方ちゃんとしたんだな。」
「え?あらほんと。昨日までおかしかったのに。」
「おかしくないよー」
「ちよ昨日までこーんな持ち方してたぞー?」
「してないもん」
「練習させたわけじゃないのに、不思議ねぇ。」
「まぁそろそろ直さなきゃって思ってたし、手間がはぶけて良かったじゃないか。」
「それもそうね。」

ちよちゃんはどこか得意げに、ご飯を食べています。

その時、ふいにかみさまがトントンとちよちゃんの肩を叩きました。
「?」
ちよちゃんが振り向くと、かみさまはテレビを指差しています。
「お、ちよ、今日の占い一番だぞ。」
「えっほんと?」
ちよちゃんがテレビを見ると、確かにちよちゃんの今日の運勢は最高なようです。
「恋愛運も最高かー、お父さん、心配だなぁ。」
「お父さんたら、バカな事言ってないで早く食べちゃいなさい。」
「はいはい。」
ちよちゃんはそんな二人の会話を聞きながら、まだテレビを見ていました。
占いのコーナーが終わり、ニュースに変わったのを確認すると、ちよちゃんはかみさまの方を振り向きました。
そして、
「ありがとね」
と呟きました。

ちよちゃんよりは少し良くなかったけれど、お父さんとお母さんの運勢もなかなか良く、特に恋愛運は最高でした。
そんな食卓をぷかぷかと見守りながら、かみさまはおかしな歌をうたっていました。

「ねぇ、ないしょだよ」

ちよちゃんがぽつりと呟きました。
時刻は真夜中近く。
ひとりお部屋の布団の中で、ちよちゃんはかみさまにいいました。

「ちよね、けんたくんとけっこんするの」

けんたくんとはちよちゃんのお友達で、かけっこの得意なぼうず頭が可愛い男の子です。

「ないしょなんだよ」

ちよちゃんはかみさまの方を見ずに続けます。

「ちよね、おとうさんとけっこんしてあげるってやくそくしてたからね、
おとうさんないちゃうからね、ないしょなんだよ?」

しゃべりながら、ちよちゃんのまぶたはどんどん重くなっていきます。

「ちよね…けんたくんがね…」

いつの間にか、ちよちゃんは眠ってしまいました。
そんなちよちゃんを見つめながら、かみさまはくるっと、空に円を描きました。
するとその円の中が、まるでスクリーンのようになり、何かを映し出しました。
そこにはひとりの女の子が映っています。
その女の子はぬいぐるみを抱いて、笑顔でこう言いました。

「あたしね、すてきなおよめさんになって、かっこいいだんなさんと、こどもとね、一緒にくらすの!
こどもはね、おんなのこでね、あたしににてかわいいの!」

映像は、しばらく続きました。
それを見ずにかみさまは、窓の外を見つめていました。
窓の外にはまぁるい月。
その中では、誰かが嬉しいようなかなしいような歌を、いつまでもいつまでもうたっていました。

34, 33

  

「ちよ、起きろ!ほら、ちよ。」

ある朝の事。
お父さんがちよちゃんを慌てたように起こしています。

「うー…」

ちよちゃんはまだ起きたくないと言うように、頭までお布団をかぶりました。

「ちよ、起きろって。外、雪降ってるぞ!」

「ゆき…?」

雪という言葉に反応して、ちよちゃんはお布団の上に起き上がりました。
そしてふらふらと立ち上がると、これまたふらふらと窓の方に近寄りました。

「ちよ、目閉じたまま歩いちゃ危ないって。」

お父さんが優しくちよちゃんを支えます。

「…わぁ」

窓枠につかまって、眠い目をこすると、窓の外には大粒の雪が舞っていました。

「ちよ、見えるか?」
「うん、ゆき」
「ちよ雪好きだろ?」
「うん」
「外行って見るか?」
「うん」
「よーし、じゃあまず着替えないとな。」



お着替えをすませてちよちゃんは、お父さんと一緒にお庭に出ました。
雪ははらはらと、ちよちゃんのかみの毛に、体にとまっては消えてゆきます。
「きれー…」
「ほら、上ばっかり見て歩いてると転んじゃうぞ?」
「はーい」
ちよちゃんは立ち止まって、空を見上げました。
そんなちよちゃんの肩を、かみさまがぽんと叩きました。
「なぁに?」
ちよちゃんが振り向くと、かみさまは空を指差しています。
「ゆきでしょ?」
そういってまた空を見上げたちよちゃんの鼻先に、ふわりと舞い降りたものがありました。
それは小さな、真っ白い羽でした。
「あっ」
よく見ると、今までふっていた雪は、すべて真っ白な羽に変わっています。
ちよちゃんは口をあけたまま、その光景に見とれていました。

そんなちよちゃんを見つめながら、お父さんは複雑そうな顔で笑っています。
そして、「積もっちゃうかなぁ…」と呟き、時計に目を落としました。

その時、お父さんの口からこぼれた真っ白なため息は、
景色を少しかすませてから、じわりと空気に溶けてゆきました。

「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにつくろー、なにつくろー」

ちよちゃんがお歌をうたいながら一人、遊んでいます。

「みぎてはぱーでー、ひだりてもぱーでー、ちょーうちょー、ちょーうーちょー」

ちよちゃんはひらいた両手を合わせて、ぱたぱたと動かしました。
それを見ていたかみさまも、ちよちゃんと同じように両手を合わせると、奇妙にそれを動かしました。
すると、

「あっ、ちょうちょ」

なんとかみさまの合わせた両手のすきまから、薄ピンク色のちょうちょがひらひらと飛び立ちました。
ちよちゃんはそれを目で追いながら、つかまえようと身構えています。
そんなちよちゃんの肩をぽんと叩き、かみさまが右の手をくるっと回しました。
するとちょうちょは音もなく空気に溶けてゆきました。

「あー」

ちよちゃんは非難するような目でかみさまを見ると、こう言いました。

「もう、どうしてころしちゃったの?」

かみさまは何も言わず、じっと自分の手を見つめました。
そしてちよちゃんの方を見ました。
ちよちゃんはもうすっかり今の事を忘れてしまったようで、また一人楽しそうに遊んでいます。

「ぐーちょきぱーでー、ぐーちょきぱーでー、なにつくろー、なにつくろー」

かみさまはそれからしばらくの間、自分の手をじっと見つめていました。

36, 35

  

「ねぇ、ちよちゃんはおとなになったらなにになりたい?」

あやちゃんがちよちゃんに聞きました。
今日はあやちゃんのおうちに遊びにきているのです。

「おとなになったら?」

ちょっと散らかし過ぎてしまった部屋を片付ける手を止めて、ちよちゃんは首をかしげました。

「うん、おとなになったら。あたしはね、せんせいになりたいなぁ」

「せんせぇ?」

「そう、おとうさんみたいなせんせいになりたいの。それにね、おかあさんもむかしせんせいだったんだよ」

「そうなんだぁ」

「で、ちよちゃんは?なにになりたい?」

「えっとねぇ…」

「はーい、二人ともおやつよー。」

その時、あやちゃんのお母さんがおやつを持ってきました。
「あら、お部屋片づけてたの?二人ともえらいじゃない。」
「へへー」
二人は顔を見合わせて笑いました。
「でも二人とも、お片付けはえらいんだけど…」
お母さんは部屋を見渡して苦笑い。
「すみに寄せるだけじゃなくて、ちゃんともとの場所にしまおうね?」



「あのね」

おやつもすっかり食べ終わって、お片付けも終わった頃、ちよちゃんがぽつりと言いました。

「あたし、おかぁさんになりたいなぁ」
「おかあさん?」
「うん!」
ちよちゃんは元気よくこたえました。
「やさしくってね、おりょうりがじょうずでね、かっこいいだんなさんがいてぇ…」
「うんうん」
「それでね、かわいいおんなのこのね、おかあさんになるの」
「おんなのこの?」
「うん!」

笑顔で話すちよちゃんを、かみさまたちは穏やかな歌をうたいながら、じっと見守っていました。
外には冷たい、風が吹いていました。

「ちよ、起きろ!ほら、ちよ。」

ある朝の事。
お父さんがちよちゃんを慌てたように起こしています。

「うー…」

ちよちゃんはまだ起きたくないと言うように、頭までお布団をかぶりました。

「ちよ、起きろって。外、雪降ってるぞ!」

「ゆき…?」

雪という言葉に反応して、ちよちゃんはお布団の上に起き上がりました。
そしてふらふらと立ち上がると、これまたふらふらと窓の方に近寄りました。

「ちよ、目閉じたまま歩いちゃ危ないって。」

お父さんが優しくちよちゃんを支えます。

「…わぁ」

窓枠につかまって、眠い目をこすると、窓の外には大粒の雪が舞っていました。

「ちよ、見えるか?」
「うん、ゆき」
「ちよ雪好きだろ?」
「うん」
「外行って見るか?」
「うん」
「よーし、じゃあまず着替えないとな。」



お着替えをすませてちよちゃんは、お父さんと一緒にお庭に出ました。
雪ははらはらと、ちよちゃんのかみの毛に、体にとまっては消えてゆきます。
「きれー…」
「ほら、上ばっかり見て歩いてると転んじゃうぞ?」
「はーい」
ちよちゃんは立ち止まって、空を見上げました。
そんなちよちゃんの肩を、かみさまがぽんと叩きました。
「なぁに?」
ちよちゃんが振り向くと、かみさまは空を指差しています。
「ゆきでしょ?」
そういってまた空を見上げたちよちゃんの鼻先に、ふわりと舞い降りたものがありました。
それは小さな、真っ白い羽でした。
「あっ」
よく見ると、今までふっていた雪は、すべて真っ白な羽に変わっています。
ちよちゃんは口をあけたまま、その光景に見とれていました。

そんなちよちゃんを見つめながら、お父さんは複雑そうな顔で笑っています。
そして、「積もっちゃうかなぁ…」と呟き、時計に目を落としました。

その時、お父さんの口からこぼれた真っ白なため息は、
景色を少しかすませてから、じわりと空気に溶けてゆきました。

38, 37

  

「あめなめたいなぁ」
ちよちゃんがぽつりと呟きました。
かみさまはそんなちよちゃんを見るでもなく、ぷかぷかと浮かんでいます。
ふぅっと、ちよちゃんはため息をつきました。
そしておもむろに、部屋のすみに散らかったおもちゃを片付け始めました。
ぬいぐるみにビーズのネックレス、プラスチックの指輪をおもちゃ箱に詰めると、部屋はすっかりかたづきました。
「おっ、えらいな、ちよ。いつの間にかきれい好きになっちゃって。お母さんには似なかったのかな?」
お父さんです。
お父さんはまたえらいと言って、ちよちゃんの頭をなでました。
そして、
「あ、今のお母さんに言うなよ。」
と言って、小さなメロン味のあめ玉をくれました。
ちよちゃんは、
「ありがと」
と、お父さんにお礼をいいました。

そんなちよちゃんの後ろで、かみさまはまたおかしな歌をうたっています。
その歌声は、ふわりと空気に乗って、遠い誰かまで届きそうな、そんな歌声でした。

ちよちゃんがお庭のすみにしゃがみ込んで、にこにことしています。
季節は春。
去年ちよちゃんが咲かせた花が、今年もきれいに咲きました。
「この子、普段はぼんやりしてるくせに、こういう事はマメよねー。」
お母さんが言いました。
この花は、去年枯れてしまった花が実を付け、その種をちよちゃんが埋めて育てた花。
雨の日も風の日も、大事に大事に世話をして咲かせた花です。
「旅行にまで持ってくって言ったときは焦ったわよ。でも、咲いて良かったわね、ちよ。」
「うん!」
ちよちゃんは元気に返事をしました。

次の日もその次の日も、ちよちゃんはお庭でにこにこしていました。
けれどそのまた数日後。
ちよちゃんがお庭にでると、大切なお花がうつむいています。
「あら、ちよ、お花元気なくなってきちゃったの?」
「うん…」
ちよちゃんは寂しそうにうなづきました。
「また、来年も咲かせようね。」
そう言って、お母さんはちよちゃんの頭をなでました。
「うん」
ちよちゃんは笑って返事をしました。

それからさらに数日後。
お花からは最後の花びらが落ちようとしていました。
ちよちゃんはそれをじっと見つめています。
やがて、春風はそっと、最後の花びらをちぎってゆきました。

「またね」

ちよちゃんはそう呟きました。
その時、静かに浮かんでいたかみさまが、すうっと手を伸ばし、花に触れようとしました。
それを見てちよちゃんは言いました。

「だめだよ」

かみさまは一瞬、動きを止めました。
それからゆっくり、伸ばした手をちよちゃんの頭に持って行くと、ぽんぽんと優しくなでました。

暖かな風は、そんな二人を包むように吹いています。
かみさまの体の向こうには、舞い散る桜が、ぼんやり透けて見えました。

40, 39

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