勇(いさみ)の場合 1
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-1
『あの瞬間に戻りたい』
苦しい――息ができない――冷たい。
冷たい路面に転がったまま、俺は苦痛にあえいでいた。
このままだと俺は死ぬ。確実に、命がなくなる。
せっかく…成功したのに。
やっと…告白できたのに。
先ほど見たばかりの、みすずの笑顔がまぶたに浮かぶ。
できるなら。もしできるなら。
『あの瞬間に戻りたい…』
それは、ほんの数分前のことだった。
「俺と、付き合って下さい!!!!!!」
日暮れ時。いつもの神社の境内で。
俺は彼女に、すべての想いを打ち明けた。
必死でそこまで言い切って、俺は思い切り頭を下げた。
「はい」
その声に、顔を上げると彼女がにっこり笑っている。
「わたしも、あなたがすき。
私も頑張り屋さんが大好きなの。だからわたしも、あなたがすき。
こちらこそ、おねがいします。私とお付きあいして」
――ああ、女神だ――
俺の脳天はその瞬間天空に舞い上がった。
これが女神の微笑みなんだ。ああ、神様仏様ありがとう。おめでとう俺、ありがとう君。
(今朝見たびみょーにヤな夢は、つまりやっぱり逆夢だ。このすばらしい瞬間の逆説的なんとやらだったのだ!!!)
もちろん俺は頷いた。首が取れるんじゃないかと思うほど。
「ふふっ。
…でもうれしいな。
ここで初デートの場所決めちゃいたいけど、今日はもう遅いから、明日またね。
あしたゆっくり決めよう。いっしょにお昼しながら。ねっ」
「ああ。
また、明日な」
「明日ね!」
消え行く残照のなか、短めのプリーツスカートと、大きめのリボンを結んだうしろ髪がはためいて。
彼女は身軽に走り去っていった。
文芸部員とは思えないほどの(?)軽やかさ。
彼女――みすずは、いつもこんな風に走り回っているのだ。
俺もけっこーイケイケ(死語)だけど、あいつはいつもあんな風に走り回って、一生懸命頑張ってる。
勉強もスポーツも、もちろん部活も。
まあだから、まわりともめることも結構あるけど…
ていうか、俺なんか一度ぶん殴られたことあるけど(爆)…
でもそれは、あいつがあくまで真剣だから。
ちゃんと、フォローもするし。
それもそれで一生懸命に。
…だからみんな、あいつのことは尊敬してるし、すきなんだ。
そう、だから。
俺もあいつが好きなんだ。
誰よりも、なによりも…
「おい」
シアワセ気分に浸っていると、後ろから声がした。
そこにいたのは、俺と同じ制服を着た少年。
その名も淳司(あつし)。
幼なじみでクラスメイト…というより、物心ついていらいのクラスメイトという腐れ縁だ。
「なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
にっこり笑うカオはちょっと可愛いが、口を開くとこの通りの毒舌家。
おまけに、スポーツは下手じゃないのに足は俺よりなぜか遅くてしかもびみょーに間が悪い(今朝みた夢の中でまで、車にひかれかけていた!)。
それでもこいつは、頼りになる親友だ。
今日のことだってこいつが背中を押してくれたから……
「そうだよ。
ありがとな淳司!」
「……
あ、ああ。
そ、そうか、上手くいったんだ。
へーそっかー。あはは、そっか~」
「そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまでうまくいっちゃったんですよ」
「そっか~。そっかそっかそっか~。
あー……っとりあえずおめでとう。」
「ありがとう!
はーもー俺はいまもーれつに感動した!!」
「あはは何のパクりだよそれおまえ」
「しらねーよ。
…あ、じゃここでな」
盛り上がってたら、あやうく分かれ道をとおりすぎるとこだった。
っても、ここで曲がるのは俺じゃなくって淳司なんだが。
「あ、…
あ、ああ。悪い。ぼーっとしてた」
「おまえがぼーっとしてどーすんだよ。
んじゃ、また明日な」
「ああ。じゃ」
淳司と別れ、俺はひとり家路を急いだ。
しかし…。
俺は途中で足をとめ、星空に向けて思っきしバンザイしていた。
はーシアワセだ!!
どーしても顔が(いやマジでカオぜんぶが)ゆるむぜ!!
あいつが。
みすずが、今日から俺の彼女!
明日は多分初デート!!
自分の想いに気づいてから苦節半年くらい、やっとやっと報われたのだ!!!
これでもなんつーか、けっこー必死こいて『パラメータ上げ』したんだぜ。
勉強もスポーツも、あいつにせめて追いつくようにって。
あいつってば可愛い顔して文武両道でさ~もー苦労したぜ~。
まあ、淳司の奴も応援してくれたし。今思えば楽しい苦労だったワケなんだが。
もしゲームだったら、ぜってーセーブするよな、これは!
「っていうか、セーブしてぇ~!!」
「できますよぉ♪」
「え゛?!」
勇(いさみ)の場合 1-1
『あの瞬間に戻りたい』
苦しい――息ができない――冷たい。
冷たい路面に転がったまま、俺は苦痛にあえいでいた。
このままだと俺は死ぬ。確実に、命がなくなる。
せっかく…成功したのに。
やっと…告白できたのに。
先ほど見たばかりの、みすずの笑顔がまぶたに浮かぶ。
できるなら。もしできるなら。
『あの瞬間に戻りたい…』
それは、ほんの数分前のことだった。
「俺と、付き合って下さい!!!!!!」
日暮れ時。いつもの神社の境内で。
俺は彼女に、すべての想いを打ち明けた。
必死でそこまで言い切って、俺は思い切り頭を下げた。
「はい」
その声に、顔を上げると彼女がにっこり笑っている。
「わたしも、あなたがすき。
私も頑張り屋さんが大好きなの。だからわたしも、あなたがすき。
こちらこそ、おねがいします。私とお付きあいして」
――ああ、女神だ――
俺の脳天はその瞬間天空に舞い上がった。
これが女神の微笑みなんだ。ああ、神様仏様ありがとう。おめでとう俺、ありがとう君。
(今朝見たびみょーにヤな夢は、つまりやっぱり逆夢だ。このすばらしい瞬間の逆説的なんとやらだったのだ!!!)
もちろん俺は頷いた。首が取れるんじゃないかと思うほど。
「ふふっ。
…でもうれしいな。
ここで初デートの場所決めちゃいたいけど、今日はもう遅いから、明日またね。
あしたゆっくり決めよう。いっしょにお昼しながら。ねっ」
「ああ。
また、明日な」
「明日ね!」
消え行く残照のなか、短めのプリーツスカートと、大きめのリボンを結んだうしろ髪がはためいて。
彼女は身軽に走り去っていった。
文芸部員とは思えないほどの(?)軽やかさ。
彼女――みすずは、いつもこんな風に走り回っているのだ。
俺もけっこーイケイケ(死語)だけど、あいつはいつもあんな風に走り回って、一生懸命頑張ってる。
勉強もスポーツも、もちろん部活も。
まあだから、まわりともめることも結構あるけど…
ていうか、俺なんか一度ぶん殴られたことあるけど(爆)…
でもそれは、あいつがあくまで真剣だから。
ちゃんと、フォローもするし。
それもそれで一生懸命に。
…だからみんな、あいつのことは尊敬してるし、すきなんだ。
そう、だから。
俺もあいつが好きなんだ。
誰よりも、なによりも…
「おい」
シアワセ気分に浸っていると、後ろから声がした。
そこにいたのは、俺と同じ制服を着た少年。
その名も淳司(あつし)。
幼なじみでクラスメイト…というより、物心ついていらいのクラスメイトという腐れ縁だ。
「なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
にっこり笑うカオはちょっと可愛いが、口を開くとこの通りの毒舌家。
おまけに、スポーツは下手じゃないのに足は俺よりなぜか遅くてしかもびみょーに間が悪い(今朝みた夢の中でまで、車にひかれかけていた!)。
それでもこいつは、頼りになる親友だ。
今日のことだってこいつが背中を押してくれたから……
「そうだよ。
ありがとな淳司!」
「……
あ、ああ。
そ、そうか、上手くいったんだ。
へーそっかー。あはは、そっか~」
「そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまでうまくいっちゃったんですよ」
「そっか~。そっかそっかそっか~。
あー……っとりあえずおめでとう。」
「ありがとう!
はーもー俺はいまもーれつに感動した!!」
「あはは何のパクりだよそれおまえ」
「しらねーよ。
…あ、じゃここでな」
盛り上がってたら、あやうく分かれ道をとおりすぎるとこだった。
っても、ここで曲がるのは俺じゃなくって淳司なんだが。
「あ、…
あ、ああ。悪い。ぼーっとしてた」
「おまえがぼーっとしてどーすんだよ。
んじゃ、また明日な」
「ああ。じゃ」
淳司と別れ、俺はひとり家路を急いだ。
しかし…。
俺は途中で足をとめ、星空に向けて思っきしバンザイしていた。
はーシアワセだ!!
どーしても顔が(いやマジでカオぜんぶが)ゆるむぜ!!
あいつが。
みすずが、今日から俺の彼女!
明日は多分初デート!!
自分の想いに気づいてから苦節半年くらい、やっとやっと報われたのだ!!!
これでもなんつーか、けっこー必死こいて『パラメータ上げ』したんだぜ。
勉強もスポーツも、あいつにせめて追いつくようにって。
あいつってば可愛い顔して文武両道でさ~もー苦労したぜ~。
まあ、淳司の奴も応援してくれたし。今思えば楽しい苦労だったワケなんだが。
もしゲームだったら、ぜってーセーブするよな、これは!
「っていうか、セーブしてぇ~!!」
「できますよぉ♪」
「え゛?!」
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-2
『ハリセンを抱いたティンカーベル(仮)』
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
げっまじ恥ずい独り言叫んだおまけに聞かれたっていうか誰もいないぞなんなんだ。
そう、俺はとりあえず声のした方を見たんだが、そこには誰もいないのだ。
「そうか、これは妄想だな。はははははは」
「違いますよぉ。あたしはここにいますぅ。よーく見てくださいっ」
ちょっと怒ったような調子になって、声がまた聞こえてきた。
同時になにかが俺のみみたぶをぐいっとひっぱった。
そうしてムリヤリ首の向きを変えられた俺の視界に、ティンカーベル(の親戚みたいの…つまりいわゆる妖精っていめーじのヤツ)が飛び込んできた。
「もー。小さいからってムシしないでくださいぃ。ムシじゃないんですからぁ。
ってこれっておやぢぎゃぐかしら~まっいいかぁ☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、ぺしっと(どっかから取り出した)ハリセンで自分のおでこを叩いた…
そうか、妄想だな。(納得。)
「やーん行かないでくださいぃあたしが悪かったですぅぅ」
きびすを返し、立ち去ろうとする俺の目の前にもういちどティンカー(仮)が飛び出してくる。
「ほらっちゃんっとセーブストーンさしあげますからぁ! だからそんな遠い目をしてあたしを諦めないでくださいぃぃ」
そしてティンカー(以下略)はどっからともなく濃紺色の飴玉を取り出して、俺の目の前に差し出した。
「悪いけどお兄さん、紺色の飴玉は食べないから」
「ちーがーいーまーすぅ。『セーブストーン』ですぅ。
ほらここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですぅっ」
「はぁ」
ティン(以下略)は器用にも空中に浮きつつ、両足で飴玉をはさんで支え、ばしばしとその銀色の部分を叩いてみせる。
「も~~~。反応鈍すぎ!!
こないだのカレはもっと食いつき良かったのにぃ。セーブしたくないんですかぁ?」
――そうだ。
俺はこのシアワセな瞬間をセーブしたいと思っていたんだ!!
そう思った瞬間、俺はティン(以下略)を捕獲していた。
「きゃ! なにするんですかぁ~。いくらあたしが魅力的だからってそんなの駄目ですぅ☆」
「それください!! おいくらですか?!」
「あ~んそんなあ。お金を積んでまで求められちゃうなんてあたしってなんて罪なオ・ン・ナ…」
俺はヤツが腰に差しているハリセンでもってヤツに突っ込みをいれた。
「もーじょーだんですぅ。
…セーブストーンね。
規定により、いまのあなたの全財産、つまり2589円いただきます」
「………」
俺はおもわずサイフをとりだして確認していた。
たしかに2589円だ。
俺はもちろんこう言った。
「…端数まからない?」
「…2590円(ぼそ)」
「だあああすみませんすみません」
「わかればよろしい。」
ヤツが小さな指をひとふりすると、俺の財布の中身が消えた。
かわりに、そこにはさきほどの濃紺色の飴玉がおさまった。
指先でつまむと、その表面はつるつると冷たい。
どっちかっていうと、飴玉よりはビーダマ。そんなカンジだ。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ。
あ、あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だが)なんでアプリコットでプリカなんだ。
まあいいか。
「セーブロードはこの銀色の部分に指を置いて念じればできるんだな?」
「はいぃ。セーブ! ロード! でOKですよぉ。」
よしよし。俺は深く息を吸った。
「いくぞー。“セーブ”!!」
すると手の中のビーダマは一瞬青白い光を放った。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。」
「“ロード”」
念のため、俺は速攻ロードをこころみた。
すると手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と、ヤツが数秒前のセリフを繰り返しはじめた――予想通り。
どうやら成功、こいつはホンモノであるらしい。
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。…ってこれ一回言いましたよね」
っは?!
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんかよくわかんないけど、まあいいか。
「それじゃ俺、うち帰るから。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
ひとり盛り上がってるヤツを残して、俺はちょっとげっそりしながら家路のつづきをたどりはじめた。
向こうにみえる、あの角を曲がると俺のうちだ。
そうだ、すっかり時間を食ってしまった。
歩きながら、セーブストーンをもう一度夜空にかざしてみて。
そいつと、からっぽのサイフをポケットに突っ込んだそのとき、俺はとんでもない場所にいることに気づいた。
そこは車道のどまんなか。いやもっと正確にいえば、そこを走ってきたばかでかいトラックの正面だった。
クラクションの音が耳をつんざく。
ライトに目が眩み、立ち尽くす俺を衝撃が襲った。
トラックは走り去り、俺はひとり路上に取り残された。
苦しい――息ができない――冷たい。
全身の苦痛に喘ぎながら、俺はなぜかはっきりと悟った。
『助からない』と。
(ソウコレハ、夢デハナク現実ダカラ、ツマリコレッテヤッパ正夢?!)
…って、冗談だろ?!
やっと告白したんだぞ。しかもOKしてくれたんだぞ。
しかもそいつはついさっきのこと。
こんなのってあるか?! あってたまるか!!
くそ、できるなら戻りたい。
あの瞬間に。
みすずが俺に笑ってくれた、あの瞬間に!!!
そうだ。
俺はポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
感覚がなくなっていく指を、銀色の部分に置く。
(ソウ今朝ノ夢デモミタヨウニ)
頼む。
俺を戻してくれ。
女神が俺に笑ってくれた、あの瞬間に!!
黄色い閃光がオレをつつんで…
『LOAD!』
勇(いさみ)の場合 1-2
『ハリセンを抱いたティンカーベル(仮)』
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
げっまじ恥ずい独り言叫んだおまけに聞かれたっていうか誰もいないぞなんなんだ。
そう、俺はとりあえず声のした方を見たんだが、そこには誰もいないのだ。
「そうか、これは妄想だな。はははははは」
「違いますよぉ。あたしはここにいますぅ。よーく見てくださいっ」
ちょっと怒ったような調子になって、声がまた聞こえてきた。
同時になにかが俺のみみたぶをぐいっとひっぱった。
そうしてムリヤリ首の向きを変えられた俺の視界に、ティンカーベル(の親戚みたいの…つまりいわゆる妖精っていめーじのヤツ)が飛び込んできた。
「もー。小さいからってムシしないでくださいぃ。ムシじゃないんですからぁ。
ってこれっておやぢぎゃぐかしら~まっいいかぁ☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、ぺしっと(どっかから取り出した)ハリセンで自分のおでこを叩いた…
そうか、妄想だな。(納得。)
「やーん行かないでくださいぃあたしが悪かったですぅぅ」
きびすを返し、立ち去ろうとする俺の目の前にもういちどティンカー(仮)が飛び出してくる。
「ほらっちゃんっとセーブストーンさしあげますからぁ! だからそんな遠い目をしてあたしを諦めないでくださいぃぃ」
そしてティンカー(以下略)はどっからともなく濃紺色の飴玉を取り出して、俺の目の前に差し出した。
「悪いけどお兄さん、紺色の飴玉は食べないから」
「ちーがーいーまーすぅ。『セーブストーン』ですぅ。
ほらここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですぅっ」
「はぁ」
ティン(以下略)は器用にも空中に浮きつつ、両足で飴玉をはさんで支え、ばしばしとその銀色の部分を叩いてみせる。
「も~~~。反応鈍すぎ!!
こないだのカレはもっと食いつき良かったのにぃ。セーブしたくないんですかぁ?」
――そうだ。
俺はこのシアワセな瞬間をセーブしたいと思っていたんだ!!
そう思った瞬間、俺はティン(以下略)を捕獲していた。
「きゃ! なにするんですかぁ~。いくらあたしが魅力的だからってそんなの駄目ですぅ☆」
「それください!! おいくらですか?!」
「あ~んそんなあ。お金を積んでまで求められちゃうなんてあたしってなんて罪なオ・ン・ナ…」
俺はヤツが腰に差しているハリセンでもってヤツに突っ込みをいれた。
「もーじょーだんですぅ。
…セーブストーンね。
規定により、いまのあなたの全財産、つまり2589円いただきます」
「………」
俺はおもわずサイフをとりだして確認していた。
たしかに2589円だ。
俺はもちろんこう言った。
「…端数まからない?」
「…2590円(ぼそ)」
「だあああすみませんすみません」
「わかればよろしい。」
ヤツが小さな指をひとふりすると、俺の財布の中身が消えた。
かわりに、そこにはさきほどの濃紺色の飴玉がおさまった。
指先でつまむと、その表面はつるつると冷たい。
どっちかっていうと、飴玉よりはビーダマ。そんなカンジだ。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ。
あ、あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だが)なんでアプリコットでプリカなんだ。
まあいいか。
「セーブロードはこの銀色の部分に指を置いて念じればできるんだな?」
「はいぃ。セーブ! ロード! でOKですよぉ。」
よしよし。俺は深く息を吸った。
「いくぞー。“セーブ”!!」
すると手の中のビーダマは一瞬青白い光を放った。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。」
「“ロード”」
念のため、俺は速攻ロードをこころみた。
すると手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と、ヤツが数秒前のセリフを繰り返しはじめた――予想通り。
どうやら成功、こいつはホンモノであるらしい。
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。…ってこれ一回言いましたよね」
っは?!
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんかよくわかんないけど、まあいいか。
「それじゃ俺、うち帰るから。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
ひとり盛り上がってるヤツを残して、俺はちょっとげっそりしながら家路のつづきをたどりはじめた。
向こうにみえる、あの角を曲がると俺のうちだ。
そうだ、すっかり時間を食ってしまった。
歩きながら、セーブストーンをもう一度夜空にかざしてみて。
そいつと、からっぽのサイフをポケットに突っ込んだそのとき、俺はとんでもない場所にいることに気づいた。
そこは車道のどまんなか。いやもっと正確にいえば、そこを走ってきたばかでかいトラックの正面だった。
クラクションの音が耳をつんざく。
ライトに目が眩み、立ち尽くす俺を衝撃が襲った。
トラックは走り去り、俺はひとり路上に取り残された。
苦しい――息ができない――冷たい。
全身の苦痛に喘ぎながら、俺はなぜかはっきりと悟った。
『助からない』と。
(ソウコレハ、夢デハナク現実ダカラ、ツマリコレッテヤッパ正夢?!)
…って、冗談だろ?!
やっと告白したんだぞ。しかもOKしてくれたんだぞ。
しかもそいつはついさっきのこと。
こんなのってあるか?! あってたまるか!!
くそ、できるなら戻りたい。
あの瞬間に。
みすずが俺に笑ってくれた、あの瞬間に!!!
そうだ。
俺はポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
感覚がなくなっていく指を、銀色の部分に置く。
(ソウ今朝ノ夢デモミタヨウニ)
頼む。
俺を戻してくれ。
女神が俺に笑ってくれた、あの瞬間に!!
黄色い閃光がオレをつつんで…
『LOAD!』
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-3
『消えた月曜日(前)』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
黄色い光が引くと同時にほとんど全てが変わった。
あたりの暗さはほぼそのままだが、場所はさっきの路地に。苦しさと身体の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなあいつがいる。
「ってこれ言うの3回目ですねぇ。なんかすっごい音してましたけどひょっとして事故ったりしてました? よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
そうか、成功したんだ。
俺、助かったんだ。
と思ってると、ヤツ――アプリコットが小さな手で、ぺしぺしと俺のほっぺたをはたいてきた。
「んもーぼーぜんとしてない!!
今度はちゃんと気をつけてかえってくださいねっ。
まったくも~、世話が焼けるんだからぁ」
「はいはい」
っていうかなんだってコイツはこうハイテンションなんだろう。
ひとり盛り上がってるヤツを残して、俺は(ふたたび)ちょっとげっそりしながら家路のつづきをたどりはじめた。
向こうにみえる、あの角を曲がると俺のうちだ。
すっかり時間を食ってしまった。サイフとセーブストーンをポケットに突っ込み、俺は慎重にその角を曲がる…
と。
目の前をでかいトラックがえらいスピードで過ぎ去っていった。
「………………………」
俺はつい数分(秒?)前のアレを思い出し、自分を抱きしめていた。
もう二度とあんなのはごめんだ(少なくとも現実では)。これからは道を歩くときもっと気をつけよう。
なんていうと殊勝なようだが、ホントにマジで心底そう思った俺は、その後もゆっくり気をつけて自宅を目指した。
翌朝は(っていうか、“も”)、すごくいい天気だった。
まるで俺のココロを映し出しているように。
さて、今日は俺の新たな人生のスタートだ!!
学校に行けば、そこには俺の彼女となった彼女が待っている。
――みすず。
はあ、幸せだ!!
今日みすずに会ったら、まずなんて声をかけよう。やっぱふつーに「おっす」かな。それともちょっとカッコつけて「おはよう」かな。いやまて、こういうときなら「ぐっどもーにん☆まいはにー」ってのもすてがたいのでは。
うーむ、シアワセって大変だぜ!!
なんだか気味悪げな両親と兄貴と弟をあとに、俺は(もちろんかばんは持って!)玄関を飛び出した。
しばらく走ると俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、追いついてぽんっと肩を叩く。
と、奴はなぜかとんでもない声をあげて飛び上がった。
「い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
ふりむいた淳司の顔は、なんか赤い。明らかに赤い。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
俺がおでこに触ると、淳司はひくっと息を飲んだ。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないよ」
やけに早口でそう言い、逃げるように一歩後退。
「えっと…そう、昨日親戚んちで飲まされちゃってさ。ちょっと二日酔いぎみなんだよ」
「マジ?!」
一応未成年なのであまり大きな声では言えないが、ヤツは酒豪だ(爆)。
そのヤツを二日酔いにするとは…いったいご親戚のうちではいくつの酒樽が空になったのだろうか(マジ)。
「っていうかなんだって平日に墓参り? いや昨日ガッコきてたよな?」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー。海外旅行でも行ってきたのか?」
「んな金ねーって」
「だから密航。」
「するかっちゅーの!」
ようやく淳司にいつもの毒舌が戻ってきた。顔の赤みも引いているカンジだ。
「ってか、だいじょぶそうか?」
「ああ。
いや~学生はつらいよなー。二日酔いじゃ学校休めませんからな~」
「あははは。
んじゃ行くか」
「うぃっす!」
今日が月曜? そんなはずないよな。
だってオレには昨日の記憶がはっきりある。
(さっきは、会話の流れでそれ以上つっこまなかったのだが…)
なんかど~も奇妙なカンジだが、ま、いいか。
今日の淳司は体調がいまいちなのか、じゃなけりゃきっと新ネタなのだ(爆)
とにかく俺は、みすずと両想いになれたんだから!
それさえあれば、あとはもーなんだっていーぜ(笑)
俺は淳司とならんで歩きながら、なんとはなしにポケットに手を入れた。
上着の右ポケット。昨日セーブストーンを入れた場所。
つるつるとしたビーダマの感触はそこにあった。
が同時に、何か紙のようなものも手に触れた。
つまんで引っ張り出してみると、それは見覚えのある封筒。
表書きは俺の字で、『西崎みすず様』。
「あ!!」
と、淳司がまたしても、派手な驚きの声を上げる。
視線の先には、俺の持つらぶれたぁ。
「なんだよ淳司。これが何か…?」
「…あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?」
「あ、ああ」
一応うなずきつつも、俺は内心うなっていた。
これは、俺が書いた、呼び出しの手紙、だ。
しかし俺の記憶によれば。
俺はきのう、みすずにこれを出した。はずだ。
勇(いさみ)の場合 1-3
『消えた月曜日(前)』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
黄色い光が引くと同時にほとんど全てが変わった。
あたりの暗さはほぼそのままだが、場所はさっきの路地に。苦しさと身体の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなあいつがいる。
「ってこれ言うの3回目ですねぇ。なんかすっごい音してましたけどひょっとして事故ったりしてました? よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
そうか、成功したんだ。
俺、助かったんだ。
と思ってると、ヤツ――アプリコットが小さな手で、ぺしぺしと俺のほっぺたをはたいてきた。
「んもーぼーぜんとしてない!!
今度はちゃんと気をつけてかえってくださいねっ。
まったくも~、世話が焼けるんだからぁ」
「はいはい」
っていうかなんだってコイツはこうハイテンションなんだろう。
ひとり盛り上がってるヤツを残して、俺は(ふたたび)ちょっとげっそりしながら家路のつづきをたどりはじめた。
向こうにみえる、あの角を曲がると俺のうちだ。
すっかり時間を食ってしまった。サイフとセーブストーンをポケットに突っ込み、俺は慎重にその角を曲がる…
と。
目の前をでかいトラックがえらいスピードで過ぎ去っていった。
「………………………」
俺はつい数分(秒?)前のアレを思い出し、自分を抱きしめていた。
もう二度とあんなのはごめんだ(少なくとも現実では)。これからは道を歩くときもっと気をつけよう。
なんていうと殊勝なようだが、ホントにマジで心底そう思った俺は、その後もゆっくり気をつけて自宅を目指した。
翌朝は(っていうか、“も”)、すごくいい天気だった。
まるで俺のココロを映し出しているように。
さて、今日は俺の新たな人生のスタートだ!!
学校に行けば、そこには俺の彼女となった彼女が待っている。
――みすず。
はあ、幸せだ!!
今日みすずに会ったら、まずなんて声をかけよう。やっぱふつーに「おっす」かな。それともちょっとカッコつけて「おはよう」かな。いやまて、こういうときなら「ぐっどもーにん☆まいはにー」ってのもすてがたいのでは。
うーむ、シアワセって大変だぜ!!
なんだか気味悪げな両親と兄貴と弟をあとに、俺は(もちろんかばんは持って!)玄関を飛び出した。
しばらく走ると俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、追いついてぽんっと肩を叩く。
と、奴はなぜかとんでもない声をあげて飛び上がった。
「い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
ふりむいた淳司の顔は、なんか赤い。明らかに赤い。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
俺がおでこに触ると、淳司はひくっと息を飲んだ。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないよ」
やけに早口でそう言い、逃げるように一歩後退。
「えっと…そう、昨日親戚んちで飲まされちゃってさ。ちょっと二日酔いぎみなんだよ」
「マジ?!」
一応未成年なのであまり大きな声では言えないが、ヤツは酒豪だ(爆)。
そのヤツを二日酔いにするとは…いったいご親戚のうちではいくつの酒樽が空になったのだろうか(マジ)。
「っていうかなんだって平日に墓参り? いや昨日ガッコきてたよな?」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー。海外旅行でも行ってきたのか?」
「んな金ねーって」
「だから密航。」
「するかっちゅーの!」
ようやく淳司にいつもの毒舌が戻ってきた。顔の赤みも引いているカンジだ。
「ってか、だいじょぶそうか?」
「ああ。
いや~学生はつらいよなー。二日酔いじゃ学校休めませんからな~」
「あははは。
んじゃ行くか」
「うぃっす!」
今日が月曜? そんなはずないよな。
だってオレには昨日の記憶がはっきりある。
(さっきは、会話の流れでそれ以上つっこまなかったのだが…)
なんかど~も奇妙なカンジだが、ま、いいか。
今日の淳司は体調がいまいちなのか、じゃなけりゃきっと新ネタなのだ(爆)
とにかく俺は、みすずと両想いになれたんだから!
それさえあれば、あとはもーなんだっていーぜ(笑)
俺は淳司とならんで歩きながら、なんとはなしにポケットに手を入れた。
上着の右ポケット。昨日セーブストーンを入れた場所。
つるつるとしたビーダマの感触はそこにあった。
が同時に、何か紙のようなものも手に触れた。
つまんで引っ張り出してみると、それは見覚えのある封筒。
表書きは俺の字で、『西崎みすず様』。
「あ!!」
と、淳司がまたしても、派手な驚きの声を上げる。
視線の先には、俺の持つらぶれたぁ。
「なんだよ淳司。これが何か…?」
「…あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?」
「あ、ああ」
一応うなずきつつも、俺は内心うなっていた。
これは、俺が書いた、呼び出しの手紙、だ。
しかし俺の記憶によれば。
俺はきのう、みすずにこれを出した。はずだ。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-4
『消えた月曜日(後)』
昼休みの終わりに、こっそりと下駄箱に入れて。
淳司だって見ていたはずだ――ていうかこいつに現場押さえられてからかわれたし(爆)。
それはともかく、待ち合わせは放課後、いつもの神社の境内で…
そこで俺は告白して、みすずがOKしてくれて。
このシアワセをセーブしたい~なんつってると妖精が出てきて、セーブアイテムを売ってくれて。
そのあとトラックにひき逃げ食らった俺は、必死で直前のデータをロードし、あやうく一命を取り留めた。……
っって、ありえねぇ!!!
すくなくともこの終わりの部分はぜってーに!!!!
「なるほど、アレはぜんぶ予知夢だな。(納得。)」
「は……?」
そうだ。あれはつまり、夢なのだ。
後ろの方がなんかはちゃめちゃなのが、夢である何よりの証拠。
このビーダマは、ただ偶然、弟がポケットにつっこんでいた(弟…悠樹はまだ小さいため、たまにひとの服のポケットに勝手におもちゃをいれたりするのだ。どうもわが一族の幼児は、代々それをするらしい)、まったくふつーのビーダマなのだ。
ひとり納得した俺は昨日の変な夢を、かいつまんで淳司に話した。
「……………… へ~~~………………」
と、いぶかしげだった淳司の表情は、冷や汗さえ浮かべた? ひきつり笑いに変わった。
(コイツにしてはちょっとめずらしい)その笑顔のまんま、のたまわられるコメントは。
「なんかさー…
マジだいじょぶか? やめといたほうがいーんじゃないの?
いやさー、ほら、みすずだってこんな超ぶっとんだ超ドリーマーなハナシ聞かされたら引くと思うぞー絶対」
「そうだよな。やっぱこれは言わないほうがいいよな」
「だろっ?」
「ああ。
よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?」
「えっと…まあ…はぁ……」
「よーし、俺はやるぞ!! うっしゃー、学校までダッシュだぁ!! うりゃ~~」
俺は封筒をポケットに入れ直すと、走り出した。
俺はやるぞ。
まってろよみすず。
今日こそ俺は、お前に……
かくして告白は、成功した。
まったくの、予知夢どおりに。
境内で幸せにひたっていると、淳司がくるのもそのまんまだった。
交わした会話(ってかあの妙なぼけっぷり)も、分かれ道での別れかたも。
だから俺は、言ってみた。
予知夢どおり、ひとりきりの路地で、おもっきしバンザイをして。
「『っていうか、セーブしてぇ~!!』」
「できますよぉ♪」
声のした場所には、はたしてアレがいた。
ティンカーベルの親戚みたいなイキモノが。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
ヤツはどっからか取り出した応援セット一式でどんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~をかまし(やがっ)た。相変わらずの、ぶっ壊れたハイテンション。
って、ちょっと待てよ。
俺の記憶では、この会話はこうじゃなかったような。
っていうか絶対違う!!
(そもそもどうして初対面のはずの俺たちがふつーにこうお知り合い的会話してるんだ?? しかも相手は見知らぬティン(以下略)のハズなのに!)
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆
だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
アプリコットがどっか間延びした口調でまくしたてる前で、俺は頭を抱え込んでいた。
いったいどうなってるんだ?
どうなってるんだこれは?
予知夢を見た…んじゃなかったのか??
だって俺、みすずに手紙は出したはずなんだぞ昨日。
それが今朝、ポケットに入ったままの状態だった。
だとしたら、アレは予知夢、てことになる…よな??
俺が手紙を出して、みすずに告白したのは昨日、月曜日。
――のはずだ(った)。
でも、現実には今日が月曜日。
そして、手紙はポケットに入ってた。
俺はきょう、みすずにその手紙を出して、告白した。
つまり俺は、予知夢見た、てことになる…はずだ。
――でも。
セーブストーンはここにある。
予知夢の中で買ったけど、この現実ではまだ買っていないはずの、セーブストーンをすでに俺は、ここにもってる。
俺は“ビーダマ”をポケットから取り出した。
光の文字を透かす濃紺色の球体、ガラスのようなつるつるした感触のそれは、たしかに今、ここにある。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
アプリコットが静かに告げる。
となれば。
セーブストーンがここにあるからには。
俺は、確かに『現実で』アプリコットからセーブストーンを買っていたのだ。
つまり。
『予知夢』は『予知夢』なんかじゃなく、紛れもなく実在した、俺が体験した『現実』だった、ということになる。
なぜなら、セーブストーンがここにあるから。
…ってことは、つまり???
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
アプリコットのその言葉に、俺はぽんっと(マジで)手を打った。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そう、だな。
俺も“昨日”、それで生命が助かったんだし…」
よく考えたら、おかげでみすずのあの笑顔を2回もみれちまったんだ。トクをしたといえなくもない。
「こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。ディナーのおさそいでもOKですよぉ、なんてきゃっ、あたしってば☆」
勝手に盛り上がるヤツをおいて、俺は続きの家路をたどりはじめた。
もちろんゆっくり慎重に。トラックにひき逃げされて死にかけるなんて、人生一度で充分なので。
勇(いさみ)の場合 1-4
『消えた月曜日(後)』
昼休みの終わりに、こっそりと下駄箱に入れて。
淳司だって見ていたはずだ――ていうかこいつに現場押さえられてからかわれたし(爆)。
それはともかく、待ち合わせは放課後、いつもの神社の境内で…
そこで俺は告白して、みすずがOKしてくれて。
このシアワセをセーブしたい~なんつってると妖精が出てきて、セーブアイテムを売ってくれて。
そのあとトラックにひき逃げ食らった俺は、必死で直前のデータをロードし、あやうく一命を取り留めた。……
っって、ありえねぇ!!!
すくなくともこの終わりの部分はぜってーに!!!!
「なるほど、アレはぜんぶ予知夢だな。(納得。)」
「は……?」
そうだ。あれはつまり、夢なのだ。
後ろの方がなんかはちゃめちゃなのが、夢である何よりの証拠。
このビーダマは、ただ偶然、弟がポケットにつっこんでいた(弟…悠樹はまだ小さいため、たまにひとの服のポケットに勝手におもちゃをいれたりするのだ。どうもわが一族の幼児は、代々それをするらしい)、まったくふつーのビーダマなのだ。
ひとり納得した俺は昨日の変な夢を、かいつまんで淳司に話した。
「……………… へ~~~………………」
と、いぶかしげだった淳司の表情は、冷や汗さえ浮かべた? ひきつり笑いに変わった。
(コイツにしてはちょっとめずらしい)その笑顔のまんま、のたまわられるコメントは。
「なんかさー…
マジだいじょぶか? やめといたほうがいーんじゃないの?
いやさー、ほら、みすずだってこんな超ぶっとんだ超ドリーマーなハナシ聞かされたら引くと思うぞー絶対」
「そうだよな。やっぱこれは言わないほうがいいよな」
「だろっ?」
「ああ。
よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?」
「えっと…まあ…はぁ……」
「よーし、俺はやるぞ!! うっしゃー、学校までダッシュだぁ!! うりゃ~~」
俺は封筒をポケットに入れ直すと、走り出した。
俺はやるぞ。
まってろよみすず。
今日こそ俺は、お前に……
かくして告白は、成功した。
まったくの、予知夢どおりに。
境内で幸せにひたっていると、淳司がくるのもそのまんまだった。
交わした会話(ってかあの妙なぼけっぷり)も、分かれ道での別れかたも。
だから俺は、言ってみた。
予知夢どおり、ひとりきりの路地で、おもっきしバンザイをして。
「『っていうか、セーブしてぇ~!!』」
「できますよぉ♪」
声のした場所には、はたしてアレがいた。
ティンカーベルの親戚みたいなイキモノが。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
ヤツはどっからか取り出した応援セット一式でどんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~をかまし(やがっ)た。相変わらずの、ぶっ壊れたハイテンション。
って、ちょっと待てよ。
俺の記憶では、この会話はこうじゃなかったような。
っていうか絶対違う!!
(そもそもどうして初対面のはずの俺たちがふつーにこうお知り合い的会話してるんだ?? しかも相手は見知らぬティン(以下略)のハズなのに!)
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆
だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
アプリコットがどっか間延びした口調でまくしたてる前で、俺は頭を抱え込んでいた。
いったいどうなってるんだ?
どうなってるんだこれは?
予知夢を見た…んじゃなかったのか??
だって俺、みすずに手紙は出したはずなんだぞ昨日。
それが今朝、ポケットに入ったままの状態だった。
だとしたら、アレは予知夢、てことになる…よな??
俺が手紙を出して、みすずに告白したのは昨日、月曜日。
――のはずだ(った)。
でも、現実には今日が月曜日。
そして、手紙はポケットに入ってた。
俺はきょう、みすずにその手紙を出して、告白した。
つまり俺は、予知夢見た、てことになる…はずだ。
――でも。
セーブストーンはここにある。
予知夢の中で買ったけど、この現実ではまだ買っていないはずの、セーブストーンをすでに俺は、ここにもってる。
俺は“ビーダマ”をポケットから取り出した。
光の文字を透かす濃紺色の球体、ガラスのようなつるつるした感触のそれは、たしかに今、ここにある。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
アプリコットが静かに告げる。
となれば。
セーブストーンがここにあるからには。
俺は、確かに『現実で』アプリコットからセーブストーンを買っていたのだ。
つまり。
『予知夢』は『予知夢』なんかじゃなく、紛れもなく実在した、俺が体験した『現実』だった、ということになる。
なぜなら、セーブストーンがここにあるから。
…ってことは、つまり???
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
アプリコットのその言葉に、俺はぽんっと(マジで)手を打った。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そう、だな。
俺も“昨日”、それで生命が助かったんだし…」
よく考えたら、おかげでみすずのあの笑顔を2回もみれちまったんだ。トクをしたといえなくもない。
「こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。ディナーのおさそいでもOKですよぉ、なんてきゃっ、あたしってば☆」
勝手に盛り上がるヤツをおいて、俺は続きの家路をたどりはじめた。
もちろんゆっくり慎重に。トラックにひき逃げされて死にかけるなんて、人生一度で充分なので。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-5
『あの夕方に戻っちまえ』
今度こその翌朝は(っていうか、“も”)、すっごくいい天気だった。
まるで俺のココロを映し出しているように。
さて、今日こそほんとに俺の、新たな人生のスタートだ!!
学校に行けば、そこには俺の彼女となった彼女が待っている。
――みすず。
はあ、幸せだ!!
みすずに会ったら、まずなんて声をかけよう。やっぱふつーに「おっす」かな。それともちょっとカッコつけて「おはよう」かな。いやまて、こういうときなら「ぐっどもーにん☆まいはにー」ってのもすてがたいのでは。
うーむ、シアワセって大変だぜ!!
気味悪げな両親と兄貴と弟(無理もないけどまっいーか)をあとに、俺は玄関を飛び出した。
しばらく走ると俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、追いついてぽんっと肩を叩く。
と、奴はとんでもない声をあげて飛び上がった。
「い、勇(いさみ)!
ああ、おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
ふりむいた淳司の顔は、またしてもなんか赤い。明らかに赤い。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
俺がおでこに触ると、淳司はひくっと息を飲んだ。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないって」
やけに早口でそう言い、逃げるように一歩後退。
「え? お前昨日、ガッコ来ただろ??」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー…」
淳司は腕時計を示した。
デジタル表示はたしかにMonだ。
「おいおいうそだろ」
しかし、俺の時計の表示もMon。
――俺はぼうぜんとしていた。
なんでだ?
どうしてまた、月曜日なんだ??
また誰かがデータロードしやがったのか?
だとしたら…なんてことだ。
ポケットに手を突っ込んでみると、またしてもらぶれたぁはそこにあった。
おいおい、カンベンしてくれよ。
いくらみすずのあの笑顔が見れるから、ったって…
告白なんて、あんな心臓に悪いもの、3回も5回もぶっつづけでできてたまるか。
俺はそっと、ポケットのなかのセーブストーンをにぎりしめた。
悪いが、俺は戻らせてもらうぜ、謎の誰かさん。
昨日はお宅へのはなむけのつもりでデータロードしなかったけど、もーいーかげんいーだろ。
俺は『明日』がみたいんだ。
俺の彼女になったみすずと、デートの約束したいんだ。
あの瞬間に戻りたい。
みすずへの告白が成功した、あの日暮れどきに。
いけっ!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはとっぷり暗くなり、場所はあの路地に。目の前には淳司(あつし)でなく、ティンカーベルの親戚みたいなあいつがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。さすがに告白3連はきっついか~。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
ていうか、ホントにハイテンションな奴だぜこいつ。
と思ってると、ヤツ――アプリコットが小さな手で、ぺしぺしと俺のほっぺたをはたいてきた。
「んも~すかーとのすそにばっかみとれない!! 中身はべつだん、イサミたちと変わらないんだからぁっ」
… へ?
「まそれはそーとして、帰るなら早くかえっていーですよぉ。
別段あたしに用はないでしょ、今回はぁ」
「…あ、ああ」
そう言うとなぜか、アプリコットはぷいっとそっぽを向いた。
「ふ~んだ。イサミなんかさっさとかえって惰眠をむさぼるがいいのですっ。明日になったらミスズちゃんとらぶらぶふぃーばーいえーいですぅ~。ふ~んだ~」
「おいおい…」
なんなんだ一体。
…でも、一応こいつは恩人だ。
こいつが俺にセーブストーンを売ってくれた、そのおかげで俺は命が助かってる。
むげにはできん、と思って手を伸ばす、が、ヤツは「ぷ~んだ」なぞといいつつ、虚空に消えてしまった。
こうなったら仕方がない。俺はあきらめて歩き出した。
今度会ったときに飴玉でもやるか。そんな風に考えながら、慎重に、ゆっくりと。
勇(いさみ)の場合 1-5
『あの夕方に戻っちまえ』
今度こその翌朝は(っていうか、“も”)、すっごくいい天気だった。
まるで俺のココロを映し出しているように。
さて、今日こそほんとに俺の、新たな人生のスタートだ!!
学校に行けば、そこには俺の彼女となった彼女が待っている。
――みすず。
はあ、幸せだ!!
みすずに会ったら、まずなんて声をかけよう。やっぱふつーに「おっす」かな。それともちょっとカッコつけて「おはよう」かな。いやまて、こういうときなら「ぐっどもーにん☆まいはにー」ってのもすてがたいのでは。
うーむ、シアワセって大変だぜ!!
気味悪げな両親と兄貴と弟(無理もないけどまっいーか)をあとに、俺は玄関を飛び出した。
しばらく走ると俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、追いついてぽんっと肩を叩く。
と、奴はとんでもない声をあげて飛び上がった。
「い、勇(いさみ)!
ああ、おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
ふりむいた淳司の顔は、またしてもなんか赤い。明らかに赤い。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
俺がおでこに触ると、淳司はひくっと息を飲んだ。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないって」
やけに早口でそう言い、逃げるように一歩後退。
「え? お前昨日、ガッコ来ただろ??」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー…」
淳司は腕時計を示した。
デジタル表示はたしかにMonだ。
「おいおいうそだろ」
しかし、俺の時計の表示もMon。
――俺はぼうぜんとしていた。
なんでだ?
どうしてまた、月曜日なんだ??
また誰かがデータロードしやがったのか?
だとしたら…なんてことだ。
ポケットに手を突っ込んでみると、またしてもらぶれたぁはそこにあった。
おいおい、カンベンしてくれよ。
いくらみすずのあの笑顔が見れるから、ったって…
告白なんて、あんな心臓に悪いもの、3回も5回もぶっつづけでできてたまるか。
俺はそっと、ポケットのなかのセーブストーンをにぎりしめた。
悪いが、俺は戻らせてもらうぜ、謎の誰かさん。
昨日はお宅へのはなむけのつもりでデータロードしなかったけど、もーいーかげんいーだろ。
俺は『明日』がみたいんだ。
俺の彼女になったみすずと、デートの約束したいんだ。
あの瞬間に戻りたい。
みすずへの告白が成功した、あの日暮れどきに。
いけっ!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはとっぷり暗くなり、場所はあの路地に。目の前には淳司(あつし)でなく、ティンカーベルの親戚みたいなあいつがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。さすがに告白3連はきっついか~。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
ていうか、ホントにハイテンションな奴だぜこいつ。
と思ってると、ヤツ――アプリコットが小さな手で、ぺしぺしと俺のほっぺたをはたいてきた。
「んも~すかーとのすそにばっかみとれない!! 中身はべつだん、イサミたちと変わらないんだからぁっ」
… へ?
「まそれはそーとして、帰るなら早くかえっていーですよぉ。
別段あたしに用はないでしょ、今回はぁ」
「…あ、ああ」
そう言うとなぜか、アプリコットはぷいっとそっぽを向いた。
「ふ~んだ。イサミなんかさっさとかえって惰眠をむさぼるがいいのですっ。明日になったらミスズちゃんとらぶらぶふぃーばーいえーいですぅ~。ふ~んだ~」
「おいおい…」
なんなんだ一体。
…でも、一応こいつは恩人だ。
こいつが俺にセーブストーンを売ってくれた、そのおかげで俺は命が助かってる。
むげにはできん、と思って手を伸ばす、が、ヤツは「ぷ~んだ」なぞといいつつ、虚空に消えてしまった。
こうなったら仕方がない。俺はあきらめて歩き出した。
今度会ったときに飴玉でもやるか。そんな風に考えながら、慎重に、ゆっくりと。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-6
『また、消えた』
翌朝起きるとやっぱりいい天気だった。
これまでとうりふたつの晴れ具合に、俺は不吉な予感を禁じ得ない。
「おい勇、どーしたよ?
さっきからすっげーカオで空にらんで」
兄貴がぶきみそーにしながら俺に問う。
俺は不安を抑えつつも兄貴にきいた。
「兄貴。
今日って何曜日だ…?」
「………
月曜日だけど??」
「のあああああ!!」
俺は思わずのけぞった…あのドジめ(っても誰だか知らないけど)!!
くそ、もうくりかえすのは面倒だ。
今日はてきとーなとこでフケて、1日寝てよう。
みすずのキモチはわかってるんだ。明日あらためて、告白すればいい。
たのむから今度こそ上手くやれ、どっかの誰か!!
俺は朝飯もそこそこに、かばんをつかむと学校へ向かった。
しばらく歩くと俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「おいっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、小走りで追いついて、ぽんっと肩を叩く。
と、奴はやっぱりとんでもない声をあげて飛び上がった。
「いっ、勇(いさみ)!
…ああ、おはよ。いや、なんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
ふりむいた淳司の顔は、やっぱり赤い。
「熱あんだろ? だったら休んだ方がいいんじゃないか?
出席日数は足りてんだしよ」
「…。」
ここでおでこを触ると淳司がイヤがる(…嫌がってたんだと思う、多分)のを知っていた俺は、あえて触らずそう言った。
すると、淳司のヘンジはない。むすっと黙っている。
「おい、マジ大丈夫か?
送ってってやるよ。どうせ俺今日はフケる予定だし」
「えっ?!
し…しないでいいのかよ告白!」
「ああ、今日はちょっと、諸般の事情で。
まあみすずのキモチはわかってんだし、明日以降にしちゃろっかなと」
「余裕かよ…」
「ま、オトコの度量ってヤツですな。ってどこ行くんだよ」
淳司は皆まで聞かずきびすをかえし、ずんずかと歩き出した。
「帰るんだよ! …ついてくんな、彼女でもあるまいし」
「淳司! おいどうしたんだよ!」
すごい怒ってる。
なぜかわからんが淳司の奴は怒ってる。
「わ、わかった! 俺が悪かった!!
逃げません。告白はちゃんとします!! だから…」
淳司が振り向いた。
なぜかさらに怒った様子で俺を睨み付けている。
「…なんだよ…」
淳司は口を開いた、しかし何かを言うことはなく、再び閉じて。
そのままもう一度きびすを返した。
ポケットに手を入れ、すごい勢いで歩いていく。
「おい!」
その瞬間、黄色い閃光が俺をつつんで…
気がつくと俺は、ベッドのなかにいた。
うちだ。――朝だ。
カーテンを開けると、空はいままでとうりふたつの晴れ具合で晴れている。
俺はパジャマのまま部屋を飛び出した。
「のわっ、勇(いさみ)!
どうしたんだ血相変えて」
そこで出くわしたのは新聞を持った親父。
俺は親父の手から新聞をひったくった。
はたして、曜日は。
「…月曜日…
おやじ、これ今日の新聞だよな?!」
「当たり前だろ。
新聞というからには最新版だ。それより古けりゃ旧聞だがな」
どっかできいたよーなオヤジギャグにツッコミをいれつつ(←習慣)も、俺は愕然としていた。
なんでだ?
どうしていきなりこんなことに?
俺はただ、淳司と話していただけなのに…。
俺は急いで部屋にもどり、制服の上着の右ポケットをさぐった。
みすずへのらぶれたぁはとりあえず脇に置き、濃紺の球体を俺は手に取る。
あいつの言ってたことが正しければ、これであいつを呼び出せるはずだ。
心の中で俺は、ティンカーベルの親戚のようなあいつを呼んだ。
『アプリコット!!』
勇(いさみ)の場合 1-6
『また、消えた』
翌朝起きるとやっぱりいい天気だった。
これまでとうりふたつの晴れ具合に、俺は不吉な予感を禁じ得ない。
「おい勇、どーしたよ?
さっきからすっげーカオで空にらんで」
兄貴がぶきみそーにしながら俺に問う。
俺は不安を抑えつつも兄貴にきいた。
「兄貴。
今日って何曜日だ…?」
「………
月曜日だけど??」
「のあああああ!!」
俺は思わずのけぞった…あのドジめ(っても誰だか知らないけど)!!
くそ、もうくりかえすのは面倒だ。
今日はてきとーなとこでフケて、1日寝てよう。
みすずのキモチはわかってるんだ。明日あらためて、告白すればいい。
たのむから今度こそ上手くやれ、どっかの誰か!!
俺は朝飯もそこそこに、かばんをつかむと学校へ向かった。
しばらく歩くと俺は、前方を歩く淳司(あつし)に気づいた。
「おいっす!」
「ひゃあっ!!」
いつもどおり、小走りで追いついて、ぽんっと肩を叩く。
と、奴はやっぱりとんでもない声をあげて飛び上がった。
「いっ、勇(いさみ)!
…ああ、おはよ。いや、なんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
ふりむいた淳司の顔は、やっぱり赤い。
「熱あんだろ? だったら休んだ方がいいんじゃないか?
出席日数は足りてんだしよ」
「…。」
ここでおでこを触ると淳司がイヤがる(…嫌がってたんだと思う、多分)のを知っていた俺は、あえて触らずそう言った。
すると、淳司のヘンジはない。むすっと黙っている。
「おい、マジ大丈夫か?
送ってってやるよ。どうせ俺今日はフケる予定だし」
「えっ?!
し…しないでいいのかよ告白!」
「ああ、今日はちょっと、諸般の事情で。
まあみすずのキモチはわかってんだし、明日以降にしちゃろっかなと」
「余裕かよ…」
「ま、オトコの度量ってヤツですな。ってどこ行くんだよ」
淳司は皆まで聞かずきびすをかえし、ずんずかと歩き出した。
「帰るんだよ! …ついてくんな、彼女でもあるまいし」
「淳司! おいどうしたんだよ!」
すごい怒ってる。
なぜかわからんが淳司の奴は怒ってる。
「わ、わかった! 俺が悪かった!!
逃げません。告白はちゃんとします!! だから…」
淳司が振り向いた。
なぜかさらに怒った様子で俺を睨み付けている。
「…なんだよ…」
淳司は口を開いた、しかし何かを言うことはなく、再び閉じて。
そのままもう一度きびすを返した。
ポケットに手を入れ、すごい勢いで歩いていく。
「おい!」
その瞬間、黄色い閃光が俺をつつんで…
気がつくと俺は、ベッドのなかにいた。
うちだ。――朝だ。
カーテンを開けると、空はいままでとうりふたつの晴れ具合で晴れている。
俺はパジャマのまま部屋を飛び出した。
「のわっ、勇(いさみ)!
どうしたんだ血相変えて」
そこで出くわしたのは新聞を持った親父。
俺は親父の手から新聞をひったくった。
はたして、曜日は。
「…月曜日…
おやじ、これ今日の新聞だよな?!」
「当たり前だろ。
新聞というからには最新版だ。それより古けりゃ旧聞だがな」
どっかできいたよーなオヤジギャグにツッコミをいれつつ(←習慣)も、俺は愕然としていた。
なんでだ?
どうしていきなりこんなことに?
俺はただ、淳司と話していただけなのに…。
俺は急いで部屋にもどり、制服の上着の右ポケットをさぐった。
みすずへのらぶれたぁはとりあえず脇に置き、濃紺の球体を俺は手に取る。
あいつの言ってたことが正しければ、これであいつを呼び出せるはずだ。
心の中で俺は、ティンカーベルの親戚のようなあいつを呼んだ。
『アプリコット!!』
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-7
『行動開始』
「はぁ~い☆ よばれてとびでてにゃにゃにゃにゃ~ん♪ ってやっぱこれパクりかしらね? まいっかぁ~☆☆」
手にしたハリセンでぺしっとおでこを叩きつつのたまわるヤツ。
俺はなんとなく脱力した。
しかし、言うべきことは言わねば。
「アプリコット。この状態はどうにかならないのか?」
「え? それってぇ、あたしとイサミがドアしめた寝室にふたりっき」
「俺はいまそーゆう精神状態じゃないんだ。」
「はうっすみませんすみません。
……で? この状況の、どのあたりをどうしたいんですか?」
「昨日…っていうかこれからっていうか、俺にとってはさっきなんだが……
またいきなり戻されたんだ。“今”に。
時間がおなじ、月曜の朝。てことはまた、昨日の…っていうか、つまり一回まえの、あのドジ野郎の仕業だよな?」
まあ、そいつが誰かはわかんないんだけど(爆)。
「ええ、ほぼ全く同じ時間ですから、そうだと思われますね」
「そのドジ野郎をなんとかする方法はないのか?
あきらめさすとか、手助けしてやるとか……。
こう何度も戻されちゃ俺がもたない。っていうか俺はいーかげんみすずとでーとがしたいんだ」
「う~ん……
できないことは、ないです。
ただ……
微妙な問題になるかもしれません」
「?」
「セーブストーンのデータをロードすると、事実上『時が戻り』ますね?
でも、そういうふうになるのは、当事者だけのはずなんです」
アプリコット、いきなりどっからか、小さいホワイトボードと眼鏡(←?)を取り出して、かきかき板書しながら解説を始めた。
「つまり、『時が戻る』のは、
1.ロードしたヒトご本人 とか……
2.前略ご本人が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってたヒトやモノ とか……
3.セーブまたはロードの直前とかに、前略ご本人となんかイベント起こした(爆)ヒトやモノ とか……
だけなんですね。
具体例として、イサミのふぁーすとっていうか正確には二回目のろーどを例にとりますと――
イサミがしたロードで『時が戻る』のは
1-A.イサミ
(本人)
2-A.イサミひき逃げ犯(ともちろんそのトラック)、いれば、目撃者
(リセットしたい事件に関わってたヒトとモノ)
3-A.あたし
(セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物)
だけなんですねぇこれが。
それ以外のヒトには、なんとなく、でじゃびゅちっくな想いが残るだけ。
つまり、イサミともーちょっとまえにイベントしてたミスズちゃんやアツシちゃんは、なんかちょっとぼーっとしちゃった~、くらいしか思ってないんです。
これをあてはめてかんがえますと、
1-B.=ご本人
はトーゼン“そのドジ野郎さん”ですから……」
俺は
2-B.=“そのドジ野郎さん”が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってた人物
か
3-B.=“そのドジ野郎さん”が、セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物
ということになる、わけか。
「はい、そのとおりですぅ。
でもぉするってぇと“そのドジ野郎さん”はイサミの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“そのドジ野郎さん”がデータロードしてる原因は、イサミが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ……」
アプリコットはここで眼鏡を外した。
「つまり、ヘタにかかわるとシュラバです。
人生決定的にかわっちゃうかもです。
それよりは、ひとを信じ、願いを込めてもう一度今日を繰り返した方が無難は無難です。
……いまならまだ間に合いますよ。平穏な今日を繰り返す選択」
って……
一世一代の告白の日が平穏な1日でたまるか。
ヒトの一世一代の告白をおじゃんにされまくって黙ってられるか。
俺はやるぜ。
身近な奴が悩んでるなら。
俺が原因で悩んでる奴がいるなら。
俺もやる。解決してみせる。
「いつわりの平穏な今日なんかいらない。
俺はやる。その問題解決する。
それがどんなのだって、俺は負けない」
――俺はみすずがすきだから。
みすずとの明日を、手に入れるためにも、こんなとこでうだうだしてはいられない。
「決意は固いようですね。……わかりました。
方策をお教えします。
“今日”をくりかえしてください」
勇(いさみ)の場合 1-7
『行動開始』
「はぁ~い☆ よばれてとびでてにゃにゃにゃにゃ~ん♪ ってやっぱこれパクりかしらね? まいっかぁ~☆☆」
手にしたハリセンでぺしっとおでこを叩きつつのたまわるヤツ。
俺はなんとなく脱力した。
しかし、言うべきことは言わねば。
「アプリコット。この状態はどうにかならないのか?」
「え? それってぇ、あたしとイサミがドアしめた寝室にふたりっき」
「俺はいまそーゆう精神状態じゃないんだ。」
「はうっすみませんすみません。
……で? この状況の、どのあたりをどうしたいんですか?」
「昨日…っていうかこれからっていうか、俺にとってはさっきなんだが……
またいきなり戻されたんだ。“今”に。
時間がおなじ、月曜の朝。てことはまた、昨日の…っていうか、つまり一回まえの、あのドジ野郎の仕業だよな?」
まあ、そいつが誰かはわかんないんだけど(爆)。
「ええ、ほぼ全く同じ時間ですから、そうだと思われますね」
「そのドジ野郎をなんとかする方法はないのか?
あきらめさすとか、手助けしてやるとか……。
こう何度も戻されちゃ俺がもたない。っていうか俺はいーかげんみすずとでーとがしたいんだ」
「う~ん……
できないことは、ないです。
ただ……
微妙な問題になるかもしれません」
「?」
「セーブストーンのデータをロードすると、事実上『時が戻り』ますね?
でも、そういうふうになるのは、当事者だけのはずなんです」
アプリコット、いきなりどっからか、小さいホワイトボードと眼鏡(←?)を取り出して、かきかき板書しながら解説を始めた。
「つまり、『時が戻る』のは、
1.ロードしたヒトご本人 とか……
2.前略ご本人が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってたヒトやモノ とか……
3.セーブまたはロードの直前とかに、前略ご本人となんかイベント起こした(爆)ヒトやモノ とか……
だけなんですね。
具体例として、イサミのふぁーすとっていうか正確には二回目のろーどを例にとりますと――
イサミがしたロードで『時が戻る』のは
1-A.イサミ
(本人)
2-A.イサミひき逃げ犯(ともちろんそのトラック)、いれば、目撃者
(リセットしたい事件に関わってたヒトとモノ)
3-A.あたし
(セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物)
だけなんですねぇこれが。
それ以外のヒトには、なんとなく、でじゃびゅちっくな想いが残るだけ。
つまり、イサミともーちょっとまえにイベントしてたミスズちゃんやアツシちゃんは、なんかちょっとぼーっとしちゃった~、くらいしか思ってないんです。
これをあてはめてかんがえますと、
1-B.=ご本人
はトーゼン“そのドジ野郎さん”ですから……」
俺は
2-B.=“そのドジ野郎さん”が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってた人物
か
3-B.=“そのドジ野郎さん”が、セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物
ということになる、わけか。
「はい、そのとおりですぅ。
でもぉするってぇと“そのドジ野郎さん”はイサミの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“そのドジ野郎さん”がデータロードしてる原因は、イサミが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ……」
アプリコットはここで眼鏡を外した。
「つまり、ヘタにかかわるとシュラバです。
人生決定的にかわっちゃうかもです。
それよりは、ひとを信じ、願いを込めてもう一度今日を繰り返した方が無難は無難です。
……いまならまだ間に合いますよ。平穏な今日を繰り返す選択」
って……
一世一代の告白の日が平穏な1日でたまるか。
ヒトの一世一代の告白をおじゃんにされまくって黙ってられるか。
俺はやるぜ。
身近な奴が悩んでるなら。
俺が原因で悩んでる奴がいるなら。
俺もやる。解決してみせる。
「いつわりの平穏な今日なんかいらない。
俺はやる。その問題解決する。
それがどんなのだって、俺は負けない」
――俺はみすずがすきだから。
みすずとの明日を、手に入れるためにも、こんなとこでうだうだしてはいられない。
「決意は固いようですね。……わかりました。
方策をお教えします。
“今日”をくりかえしてください」
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-8
『捕捉、半落ち』
アプリコットが言うには。
『イサミはそのひとと直接イベントを起こしているか、そのひとに関わる重要なイベントを起こしているはずです。
“今日”をくりかえしなぞりながら、身の回りに目を光らせてください。
イサミが会話したひとか、イサミがしたことでダメージをうける誰かが、探しているそのひとです』
……激、地味だ。
しかし、運命向上委員会とやらにおいても、顧客情報はカンタンには開示できないらしく、現時点では、これしか取れる方法がない。
俺は制服に着替えて朝飯をかき込むと、かばんを掴み飛び出した。
淳司と漫才(爆)しつつ、学校へ行く。
授業を受ける(睡眠込み。これには努力が要らないあたりオノレの器を痛感する…)。
淳司、みすず(+その他若干名)と、部室の外の芝生で昼飯。
昼休みの終わりに、みすずの下駄箱に手紙を入れ、淳司にみつかりからかわれる。
放課後、いつもの神社に行く。
俺はこれまで2回と同じく、大鳥居にもたれて“みすずを待っ”た。
――最初の時はどきどきして何もみえなかった。
告白が、受け入れてもらえるか心配で。
次のときは、もっとどきどきしてもっと何も見られなかった。
あの告白を、再現できるか心配で。
だが今は。
そのときとくらべて格段に冷静な俺の目は、社殿の影でちらりと動いたそれを見逃さなかった。
俺の制服と同じ黒。
俺と同じ制服の、肩。
「……おい!!」
俺は走り出した。
黒い布地がびくんとふるえる。ヤツは一瞬ひるんだようだが、白いスニーカーがいちどだけ翻るのと同時に完全に姿を消した――社殿のむこうに。
俺はストレートに追いかけることはしない。奴が走ってゆくはずの、社殿の反対側へと回り込む。
はたしてそいつは、社殿の角の向こうからこちらへ駆けてきた。
目の前の俺に――追跡者の間合いに自ら飛び込んでしまったと気づくと、愕然とした様子で立ちすくむ。
俺とおなじ、黒の詰め襟。
いつもの白いスニーカー。
俺と同じような背格好、にっこり笑えばちょっと可愛い見覚えのある、ありすぎる顔。
それらはすべて、これまでみすずへの恋を応援してくれていたはずの、腐れ縁の幼なじみで悪友で、そして一番の親友の――ものだった。
足は、淳司より俺の方が早い。逃げるのを諦めたらしく、その場でうつむく淳司に、俺は震えをおさえて、問いを投げかけた。
「淳司……。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
俺は記憶を探り、そして切り札を見つけ出した。
今だから分かる、あの変な発言。
そうだ。間違いない。
犯人はコイツだ。
俺はゆっくりとひとつ深呼吸し、頭の中で罠を組み立てた。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
……もし、そうでなかったら……
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと……
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
淳司はびくっと体を震わせた。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく……」
あわあわとそこまで答えて、淳司は口元をおさえた。
「語るに落ちたな」
本当になにも知らないなら。
――みすずへの告白のことで、データロードしていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
『なんとなくデジャヴュめいたもの』以上のものが、そんなふうに記憶に残っているはずがない。
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
「………
そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「……え?」
返ってきたこたえに、俺は拍子抜けした。
「………あ、その……
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
「じゃあ…なんで……?」
「………
言えないよ」
淳司は首を左右した。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
自分は理由を言わないで、俺には告白をやめろという。
冗談だろう。納得がいくもんか!!
俺は奴を捕まえようとした。だがその瞬間、奴はポケットに手を滑り込ませ……
勇(いさみ)の場合 1-8
『捕捉、半落ち』
アプリコットが言うには。
『イサミはそのひとと直接イベントを起こしているか、そのひとに関わる重要なイベントを起こしているはずです。
“今日”をくりかえしなぞりながら、身の回りに目を光らせてください。
イサミが会話したひとか、イサミがしたことでダメージをうける誰かが、探しているそのひとです』
……激、地味だ。
しかし、運命向上委員会とやらにおいても、顧客情報はカンタンには開示できないらしく、現時点では、これしか取れる方法がない。
俺は制服に着替えて朝飯をかき込むと、かばんを掴み飛び出した。
淳司と漫才(爆)しつつ、学校へ行く。
授業を受ける(睡眠込み。これには努力が要らないあたりオノレの器を痛感する…)。
淳司、みすず(+その他若干名)と、部室の外の芝生で昼飯。
昼休みの終わりに、みすずの下駄箱に手紙を入れ、淳司にみつかりからかわれる。
放課後、いつもの神社に行く。
俺はこれまで2回と同じく、大鳥居にもたれて“みすずを待っ”た。
――最初の時はどきどきして何もみえなかった。
告白が、受け入れてもらえるか心配で。
次のときは、もっとどきどきしてもっと何も見られなかった。
あの告白を、再現できるか心配で。
だが今は。
そのときとくらべて格段に冷静な俺の目は、社殿の影でちらりと動いたそれを見逃さなかった。
俺の制服と同じ黒。
俺と同じ制服の、肩。
「……おい!!」
俺は走り出した。
黒い布地がびくんとふるえる。ヤツは一瞬ひるんだようだが、白いスニーカーがいちどだけ翻るのと同時に完全に姿を消した――社殿のむこうに。
俺はストレートに追いかけることはしない。奴が走ってゆくはずの、社殿の反対側へと回り込む。
はたしてそいつは、社殿の角の向こうからこちらへ駆けてきた。
目の前の俺に――追跡者の間合いに自ら飛び込んでしまったと気づくと、愕然とした様子で立ちすくむ。
俺とおなじ、黒の詰め襟。
いつもの白いスニーカー。
俺と同じような背格好、にっこり笑えばちょっと可愛い見覚えのある、ありすぎる顔。
それらはすべて、これまでみすずへの恋を応援してくれていたはずの、腐れ縁の幼なじみで悪友で、そして一番の親友の――ものだった。
足は、淳司より俺の方が早い。逃げるのを諦めたらしく、その場でうつむく淳司に、俺は震えをおさえて、問いを投げかけた。
「淳司……。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
俺は記憶を探り、そして切り札を見つけ出した。
今だから分かる、あの変な発言。
そうだ。間違いない。
犯人はコイツだ。
俺はゆっくりとひとつ深呼吸し、頭の中で罠を組み立てた。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
……もし、そうでなかったら……
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと……
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
淳司はびくっと体を震わせた。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく……」
あわあわとそこまで答えて、淳司は口元をおさえた。
「語るに落ちたな」
本当になにも知らないなら。
――みすずへの告白のことで、データロードしていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
『なんとなくデジャヴュめいたもの』以上のものが、そんなふうに記憶に残っているはずがない。
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
「………
そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「……え?」
返ってきたこたえに、俺は拍子抜けした。
「………あ、その……
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
「じゃあ…なんで……?」
「………
言えないよ」
淳司は首を左右した。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
自分は理由を言わないで、俺には告白をやめろという。
冗談だろう。納得がいくもんか!!
俺は奴を捕まえようとした。だがその瞬間、奴はポケットに手を滑り込ませ……
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
勇(いさみ)の場合 1-9
『To The Last Lot』
気がつくと俺は、ベッドのなかにいた。
うちだ。――朝だ。
カーテンを開けると、空はいままでとうりふたつの晴れ具合で晴れている。
また、戻されたのか。
くそ、淳司の奴!!
俺は飛び起きた。
手近にあったところで制服に着替え、取りあえずカバンをつかむ。
向かうは淳司の家だ。
「おはようございます!! 淳司いますか?!」
出てきたのは淳司のおばさんだった。
「あら~いっちゃん、今日はどうしたの?」
「淳司にハナシがあるんです!! って淳司!!」
おりよくも? まさにそのとき廊下の角を曲がって淳司があらわれた。
「さっきのこと!! ちゃんと聞かせろよな!! おい淳……」
淳司はびくりと立ちすくむと、いきなり逃げ出した。
「え? さっきって……??」
おばさんはきょとんとしている。(無理もないけど……)
ごめんおばさん。説明できないんだ。
俺は靴を脱ぎ捨てると、淳司を追いかけた。
「淳司!!」
淳司が消えた廊下の角を曲がる、と同時に…
黄色い閃光がひくと、俺はまたしてもベッドのなかにいた。
こんなんであきらめるもんか!
俺は速攻着替えて淳司の家へ。
「あら? いっちゃ」
「おじゃまします!!」
そう、こーなったら速攻だ。俺は靴を脱ぎ捨て、ごーいんにおばさんの脇をすりぬけて(ごめんおばさん)、淳司の家に上がり込んだ。
廊下の角を曲がる。
するとそこには、ヤツがいた。
「淳司!!」
淳司はひっと息を飲む。慌てた様子でポケットに手を入れる。
同時にまたしても黄色い閃光が襲い、俺はベッドにもどされていた。
「~~~あのやろ~~~……」
くやしい。むちゃくちゃくやしい。
……くやしいが、これではだめだ。
俺がヤツをとりおさえようとしても――いままでのでわかったとおり――俺に怯えたヤツが、反射的にポケットに手を入れて、ロードを実行する方が早いのだ。
これは、作戦が必要だ。
すくなくとも、こうして突進するだけでは、事態は永久に進まない。
なんとか穏やかに奴に近づき、ハナシをしなければ。
そのためには……。
俺はとりあえず学校に行くことにした。
淳司はみょ~なところでマジメなやつだ(俺から逃げるためどっかに消えるのではなく、早く学校に行こうとしてたのがその証拠)。
つまり、この事態でもふつーに学校には、いくはずなのだから。
俺が通学路で淳司と会うことはなかったが、教室にはすでにいた。
しかし、話し掛けてはこない。目を合わせようとも、しない。
だがちらちらと視線はこちらに走らせ、右手はつねにポケットに入っている…
まあ、そうだろうな。
だがこのぶんだと、うかつに近寄っていったらその時点でロードされかねない。
――作戦が必要だ。
俺はとりあえず、教室を出た。
そして放課後、いつもの神社の境内で。
俺は大鳥居にもたれて待ち人を待っていた。
社殿の影でちらりと動いた影に、俺はあえて知らん振りをする。
俺の制服と同じ黒。
俺と同じ制服の、肩。
一度はひっこんだそれはしかし、じぶんの本体をひき連れて俺の前に姿をあらわした。
「勇……」
現れたのは、淳司だった。
ひどく警戒したようすで、ポケットに手を入れている。
「よ。」
俺はつとめてなんでもないように声をかけた。
「なん、で…
みすずに告白するんだろ?」
「しねぇ」
「っ!」
淳司はびくんと大きく目を見開く。
いつもより大きな反応。
奴は、ひどく疲れているのだと感じる。
……そりゃ、同じクラスの奴を1日警戒すればな。
俺はちょっとだけ胸が空く、と同時に、ちょっとだけ奴がかわいそうになった。
「したって同じだろ。戻されちまうんだからよ」
「…………。」
「お前、悩んでるんだろ」
「……。」
「なに、悩んでんだよ。
ひとりで悩んでんだよ。
お前のそれ、解決しないことには、俺のシアワセなあしたはソンザイしないんだ。
だからどんなことだって聞くぜ。
いちお、いちばんの親友だしな」
「…………だめだよ。
聞いたらなくなる……
勇のシアワセなあした。…それに、おれのあしたも」
淳司は首を振る。
「だからって、じゃあずっとくりかえすのか?
…セーブデータだったら俺も持ってる。繰り返しになるだけだぞ」
「………………………」
「お前は“今日”をくりかえすことで、俺を根負けさせようとしたな。
でも同じ事は、俺にだってできるんだ」
「…………………」
俺はポケットに手を入れ、繰り返す。
「お前が何も言わなければ、繰り返しになるだけだぞ」
「…言えるもんか。
こんなことぜったいいえない。
繰り返しになるとしても、ぜったいに」
淳司はあくまでかたくなだ――しかたがない。
俺はセーブストーンを握り締め念じた。
『LOAD!』
黄色い閃光が視界を覆う。
しかし一瞬後に、もうひとつのそれがおしかぶさって……。
俺は、ベッドのなかにいた。
見るまでもなく、空は晴れている。いままでとまったくおなじ晴れ具合で。
俺は着替えて朝飯を食い、かばんを掴んで玄関を出た。
内職と昼寝込みで授業を受け、昼飯を食い、手紙を手にして下駄箱へ。
下駄箱には淳司が潜んでいるのを俺は知っている。
みすずへの手紙など、入れるだけ無駄だ。
そのかわり俺は、淳司の下駄箱に“それ”を入れた。
わざとゆっくり立ち去り、廊下の曲がり角に身を潜めて様子を伺う。
怒った様子で下駄箱にかけよった淳司は、乱暴にそれを引っ張り出し、しかしそれの形状を見て、ぼうぜんと立ち尽くす――
ここまでを確認して俺は、教室に戻った。
これで淳司は、俺の呼び出しを無視できない。
今日の放課後、かならず……
境内には奴の方が先に来ていた。
大鳥居にもたれていた奴は、俺の姿を確認すると、跳ね上がるように身を起こした。
「勇っ…!!」
その声はなかば裏返っている。
その顔は真っ赤になっている。
――夕映えはもう夕暮れに変わっている。だから夕陽の光で赤いのでは絶対にない。
なにより気配が表情が、とてつもなく煮えくり返っている。
「おまえ…おまえ…どういうつもりだよ!!!」
震える手に握られていたのは、俺が淳司の下駄箱に入れた手紙。
…っていうか、その封筒。
淡い水色と柔らかなカットで、なんとも優しい印象のそれは、ぶっちゃけ“らぶれたぁを入れるために生まれたよーな”シロモノだ。
すくなくっともふつー、ヤローがヤローにあてる手紙に使うもんでは決してない。
――なのになんだってこんなもんを使ったのかというと。
「いや、これならお前を引っ張り出せると思って」
長年の付き合いで俺にはわかっていた。こんなみょーなもんで呼び出されたら、好奇心の強い淳司は、その変人を見にこっそり現われる、と。
「……おまえっ……」
「まあ、お前は怒るだろうとは思っていたけど、ハナシすらできないんじゃどうにもならないだろ? お前も俺も、このまんまでいいわけはないんだし」
「…………んな…」
そう言うと淳司はうつむいて、何かを呟いた。
「ふざけんなっ!!!!」
にらまれた怒鳴られた突如。
身の危険さえ感じるほどの迫力。
一番最初の今日、トラックにひかれる直前感じたのを超えるほどのそれはシロモノ。
怒っている。史上最高に怒っている。
「な、…なんでそんなに怒るんだよ。これはその……」
おもわず俺はへどもどと言い訳をしようとしていた。なんでなんだ。俺の経験から言うと、淳司は俺のウィットに笑ってツッコミくれて、そっから和やかに会話が始まるはずなのに。
しかし。
「冗談だとしてもあんまりだろ!!
好きでもないのにこんなふうに…よりによってこんなのっ……
……あんまりだ」
更に悪いことに、淳司は突然がくりとうつむいて俺に背を向けた。
肩が、泣くときのリズムで、大きく震える。
「淳司…まさか。お前が好きだったのって、……」
淳司は激しく首を横に振った。首が取れてしまうのではないかというほどに。
だがその激しさこそが、それがただの虚勢である、ということを物語っていた。
そうだ。
今更ながらに思えば思い当たる。
――淳司は告白の背中なんか押してない。
『よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?』
『えっと…まあ…はぁ……』
そのときの淳司の笑顔は、ひきつっていた。
――それ以前に。
『なんだよ淳司。これが何か…?』
『…あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?』
『あ、ああ』
このときの淳司の笑顔も、ひきつっていた。
『えっ?!
し…しないでいいのかよ告白!』
このときの淳司の目はそれこそぱっと輝いてた。
『なんでだ!!
お前まさか…
ホントはみすずのこと』
『ちっちがうよ!! そんなことはない!!』
このときの淳司はホンキで大慌てで。
『い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ』
『んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…』
あわてたようにふりむいた淳司の顔は、明らかに赤かった――
俺はぼうぜんと淳司を見る。
他に、どうしていいのかわからなかった。
「おかしい…よな。
おれはお前のこと――みすずとのこと、ホンキで応援してた。
リロード…したのだって、最初はそんなんじゃなかったんだ。
おまえが…死に掛けてたから…
おれのこと車からかばって、ひかれて、死にそうになったから…」
そんなイベントあったっけか。俺は何度も繰り返された今日の記憶をたぐる。
…まあ、そう言われてみれば、そんな夢を見ていたような気がしないでもない。
「おれはセーブストーンもってるから、ひかれたって平気なのに。
『お前も、大事な、やつだから』って……」
あんまり何度も今日を繰り返しているから、記憶があいまいなんだろうか。
でも、淳司の声は、真剣だ。
たぶんそれは、本当にあった、“きょう”のハナシ。
「そういう大事じゃ、ないのにな。
変だよな、おれ。
…嫌いになったよな、おまえ。
なくなっちゃったよ。おれのあした。お前の平穏無事で…幸せだったはずの明日……」
俺はその場に立ち尽くしていた。
淳司は鳥居にすがって肩を震わせ、声を詰まらせながら笑っていた。
~To Be Continued~
勇(いさみ)の場合 1-9
『To The Last Lot』
気がつくと俺は、ベッドのなかにいた。
うちだ。――朝だ。
カーテンを開けると、空はいままでとうりふたつの晴れ具合で晴れている。
また、戻されたのか。
くそ、淳司の奴!!
俺は飛び起きた。
手近にあったところで制服に着替え、取りあえずカバンをつかむ。
向かうは淳司の家だ。
「おはようございます!! 淳司いますか?!」
出てきたのは淳司のおばさんだった。
「あら~いっちゃん、今日はどうしたの?」
「淳司にハナシがあるんです!! って淳司!!」
おりよくも? まさにそのとき廊下の角を曲がって淳司があらわれた。
「さっきのこと!! ちゃんと聞かせろよな!! おい淳……」
淳司はびくりと立ちすくむと、いきなり逃げ出した。
「え? さっきって……??」
おばさんはきょとんとしている。(無理もないけど……)
ごめんおばさん。説明できないんだ。
俺は靴を脱ぎ捨てると、淳司を追いかけた。
「淳司!!」
淳司が消えた廊下の角を曲がる、と同時に…
黄色い閃光がひくと、俺はまたしてもベッドのなかにいた。
こんなんであきらめるもんか!
俺は速攻着替えて淳司の家へ。
「あら? いっちゃ」
「おじゃまします!!」
そう、こーなったら速攻だ。俺は靴を脱ぎ捨て、ごーいんにおばさんの脇をすりぬけて(ごめんおばさん)、淳司の家に上がり込んだ。
廊下の角を曲がる。
するとそこには、ヤツがいた。
「淳司!!」
淳司はひっと息を飲む。慌てた様子でポケットに手を入れる。
同時にまたしても黄色い閃光が襲い、俺はベッドにもどされていた。
「~~~あのやろ~~~……」
くやしい。むちゃくちゃくやしい。
……くやしいが、これではだめだ。
俺がヤツをとりおさえようとしても――いままでのでわかったとおり――俺に怯えたヤツが、反射的にポケットに手を入れて、ロードを実行する方が早いのだ。
これは、作戦が必要だ。
すくなくとも、こうして突進するだけでは、事態は永久に進まない。
なんとか穏やかに奴に近づき、ハナシをしなければ。
そのためには……。
俺はとりあえず学校に行くことにした。
淳司はみょ~なところでマジメなやつだ(俺から逃げるためどっかに消えるのではなく、早く学校に行こうとしてたのがその証拠)。
つまり、この事態でもふつーに学校には、いくはずなのだから。
俺が通学路で淳司と会うことはなかったが、教室にはすでにいた。
しかし、話し掛けてはこない。目を合わせようとも、しない。
だがちらちらと視線はこちらに走らせ、右手はつねにポケットに入っている…
まあ、そうだろうな。
だがこのぶんだと、うかつに近寄っていったらその時点でロードされかねない。
――作戦が必要だ。
俺はとりあえず、教室を出た。
そして放課後、いつもの神社の境内で。
俺は大鳥居にもたれて待ち人を待っていた。
社殿の影でちらりと動いた影に、俺はあえて知らん振りをする。
俺の制服と同じ黒。
俺と同じ制服の、肩。
一度はひっこんだそれはしかし、じぶんの本体をひき連れて俺の前に姿をあらわした。
「勇……」
現れたのは、淳司だった。
ひどく警戒したようすで、ポケットに手を入れている。
「よ。」
俺はつとめてなんでもないように声をかけた。
「なん、で…
みすずに告白するんだろ?」
「しねぇ」
「っ!」
淳司はびくんと大きく目を見開く。
いつもより大きな反応。
奴は、ひどく疲れているのだと感じる。
……そりゃ、同じクラスの奴を1日警戒すればな。
俺はちょっとだけ胸が空く、と同時に、ちょっとだけ奴がかわいそうになった。
「したって同じだろ。戻されちまうんだからよ」
「…………。」
「お前、悩んでるんだろ」
「……。」
「なに、悩んでんだよ。
ひとりで悩んでんだよ。
お前のそれ、解決しないことには、俺のシアワセなあしたはソンザイしないんだ。
だからどんなことだって聞くぜ。
いちお、いちばんの親友だしな」
「…………だめだよ。
聞いたらなくなる……
勇のシアワセなあした。…それに、おれのあしたも」
淳司は首を振る。
「だからって、じゃあずっとくりかえすのか?
…セーブデータだったら俺も持ってる。繰り返しになるだけだぞ」
「………………………」
「お前は“今日”をくりかえすことで、俺を根負けさせようとしたな。
でも同じ事は、俺にだってできるんだ」
「…………………」
俺はポケットに手を入れ、繰り返す。
「お前が何も言わなければ、繰り返しになるだけだぞ」
「…言えるもんか。
こんなことぜったいいえない。
繰り返しになるとしても、ぜったいに」
淳司はあくまでかたくなだ――しかたがない。
俺はセーブストーンを握り締め念じた。
『LOAD!』
黄色い閃光が視界を覆う。
しかし一瞬後に、もうひとつのそれがおしかぶさって……。
俺は、ベッドのなかにいた。
見るまでもなく、空は晴れている。いままでとまったくおなじ晴れ具合で。
俺は着替えて朝飯を食い、かばんを掴んで玄関を出た。
内職と昼寝込みで授業を受け、昼飯を食い、手紙を手にして下駄箱へ。
下駄箱には淳司が潜んでいるのを俺は知っている。
みすずへの手紙など、入れるだけ無駄だ。
そのかわり俺は、淳司の下駄箱に“それ”を入れた。
わざとゆっくり立ち去り、廊下の曲がり角に身を潜めて様子を伺う。
怒った様子で下駄箱にかけよった淳司は、乱暴にそれを引っ張り出し、しかしそれの形状を見て、ぼうぜんと立ち尽くす――
ここまでを確認して俺は、教室に戻った。
これで淳司は、俺の呼び出しを無視できない。
今日の放課後、かならず……
境内には奴の方が先に来ていた。
大鳥居にもたれていた奴は、俺の姿を確認すると、跳ね上がるように身を起こした。
「勇っ…!!」
その声はなかば裏返っている。
その顔は真っ赤になっている。
――夕映えはもう夕暮れに変わっている。だから夕陽の光で赤いのでは絶対にない。
なにより気配が表情が、とてつもなく煮えくり返っている。
「おまえ…おまえ…どういうつもりだよ!!!」
震える手に握られていたのは、俺が淳司の下駄箱に入れた手紙。
…っていうか、その封筒。
淡い水色と柔らかなカットで、なんとも優しい印象のそれは、ぶっちゃけ“らぶれたぁを入れるために生まれたよーな”シロモノだ。
すくなくっともふつー、ヤローがヤローにあてる手紙に使うもんでは決してない。
――なのになんだってこんなもんを使ったのかというと。
「いや、これならお前を引っ張り出せると思って」
長年の付き合いで俺にはわかっていた。こんなみょーなもんで呼び出されたら、好奇心の強い淳司は、その変人を見にこっそり現われる、と。
「……おまえっ……」
「まあ、お前は怒るだろうとは思っていたけど、ハナシすらできないんじゃどうにもならないだろ? お前も俺も、このまんまでいいわけはないんだし」
「…………んな…」
そう言うと淳司はうつむいて、何かを呟いた。
「ふざけんなっ!!!!」
にらまれた怒鳴られた突如。
身の危険さえ感じるほどの迫力。
一番最初の今日、トラックにひかれる直前感じたのを超えるほどのそれはシロモノ。
怒っている。史上最高に怒っている。
「な、…なんでそんなに怒るんだよ。これはその……」
おもわず俺はへどもどと言い訳をしようとしていた。なんでなんだ。俺の経験から言うと、淳司は俺のウィットに笑ってツッコミくれて、そっから和やかに会話が始まるはずなのに。
しかし。
「冗談だとしてもあんまりだろ!!
好きでもないのにこんなふうに…よりによってこんなのっ……
……あんまりだ」
更に悪いことに、淳司は突然がくりとうつむいて俺に背を向けた。
肩が、泣くときのリズムで、大きく震える。
「淳司…まさか。お前が好きだったのって、……」
淳司は激しく首を横に振った。首が取れてしまうのではないかというほどに。
だがその激しさこそが、それがただの虚勢である、ということを物語っていた。
そうだ。
今更ながらに思えば思い当たる。
――淳司は告白の背中なんか押してない。
『よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?』
『えっと…まあ…はぁ……』
そのときの淳司の笑顔は、ひきつっていた。
――それ以前に。
『なんだよ淳司。これが何か…?』
『…あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?』
『あ、ああ』
このときの淳司の笑顔も、ひきつっていた。
『えっ?!
し…しないでいいのかよ告白!』
このときの淳司の目はそれこそぱっと輝いてた。
『なんでだ!!
お前まさか…
ホントはみすずのこと』
『ちっちがうよ!! そんなことはない!!』
このときの淳司はホンキで大慌てで。
『い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ』
『んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…』
あわてたようにふりむいた淳司の顔は、明らかに赤かった――
俺はぼうぜんと淳司を見る。
他に、どうしていいのかわからなかった。
「おかしい…よな。
おれはお前のこと――みすずとのこと、ホンキで応援してた。
リロード…したのだって、最初はそんなんじゃなかったんだ。
おまえが…死に掛けてたから…
おれのこと車からかばって、ひかれて、死にそうになったから…」
そんなイベントあったっけか。俺は何度も繰り返された今日の記憶をたぐる。
…まあ、そう言われてみれば、そんな夢を見ていたような気がしないでもない。
「おれはセーブストーンもってるから、ひかれたって平気なのに。
『お前も、大事な、やつだから』って……」
あんまり何度も今日を繰り返しているから、記憶があいまいなんだろうか。
でも、淳司の声は、真剣だ。
たぶんそれは、本当にあった、“きょう”のハナシ。
「そういう大事じゃ、ないのにな。
変だよな、おれ。
…嫌いになったよな、おまえ。
なくなっちゃったよ。おれのあした。お前の平穏無事で…幸せだったはずの明日……」
俺はその場に立ち尽くしていた。
淳司は鳥居にすがって肩を震わせ、声を詰まらせながら笑っていた。
~To Be Continued~