一人で自宅へと歩みを進めていると、後ろから無駄に元気な声が聞こえてきた。
「おーす!裕次くん!!そんなしめっぽい顔してどうしたのだね?」
話しかけてきたのは、幼馴染でありお隣さんの有沢遥子(ありさわようこ)だった。
「遥子か、今日は一人で帰りたい気分なんだ。そっとしておいてくれ」
「えー?酷いなぁ…。何かヤな事でもあったんでしょ?話してよ」
「…話したくない」
遥子は明るくて人柄もいい、誰からも好かれるようなやつだ。
髪はセミロングでさっぱりしていて、背丈は俺より少し低いくらいか。
俺の身長が170程度だから160ちょっとくらいだろう。
プロポーションもよく、運動も出来る。
勉強の方は残念な感じのようだが、それでも確実に異性からモテていると伺える。
そんな奴に俺の気持ちが分かってたまるか。
遥子はほっぺたを膨らましながら、自分のカバンを漁り出す。
「そんな暗ーい裕次くんには、これをあげよう!」
ジャーン、と言いながら遥子が取り出したものは、食べかけのあんパンだった。
「なんだよ、これ」
「私のお昼のあんパン!餡子好きだったよね?」
「…そんな気分じゃない」
流石に振られた後に、食物を喉に通す気分にはなれない。
「ねぇ、何があったか話してよ。私気になって夜も眠れなくなっちゃうよ?」
「話したくないって言ってるだろ」
少しきつめに言って、若干ではあるが歩くスピードを早めた。
「ヤな事あったんなら、誰かに言っちゃった方が楽になるよ?だからさー」
「………」
「聞かせてよー。ゆ」
「振られたんだよ!!」
裕次と遥子は歩みを止め、辺りはしん…と静まり返った。
「…誰かに話した方が楽になるって言うなら、山城と石原に話したよ。楽にはならなかったけどな」
「ご…ごめん…。裕次…」
「…じゃあな」
俺は早歩きで、遥子との距離を開けていった。
遥子が俺を気遣って言ってくれていたのは分かっていた。
でも、やっぱり今はそっとしておいて欲しかった。