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第六廻「有沢遥子の場合」

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 2009年9月23日18:10

それが私がタイムリープして辿り着く時間。
何故決まってこの時間に遡るのかは分からないけど、絶対にこの時間以外には飛ばない。
私が時間移動する条件は、“大きなショックを受けること”。
そして、私が何の目的でタイムリープをしているのか。
それは…好きな人がいるから。
その人と付き合いたいけど、何回ぶつかっていっても、上手くいかないんだよね。
やっぱり、恋愛対象として見られて無いのかな…。
 私の好きな人は、明日、私以外の人に告白する。
でも、絶対に振られてしまう。
それを利用して、振られた直後に私が告白するのがベストだと思うの。
振られて傷ついた心の隙を突くみたいで、なんだか悪い気もするけど仕方ないよね。
そこまでしないと、絶対上手くなんていかないもん。
私には分かる。
長年一緒にいるから、裕次のことは何でも分かるよ。

 …違う。
分かっている気になってるだけだ。
いつも、分かっている気になって、裕次を怒らせちゃう。
私の知らない裕次が、いつだって、どんな時だっているってこと、忘れちゃいけない。
現に今日の裕次の発言、行動、私はまったく予想出来なかった。

『そ…そうか。ひとつ頼みがあるんだが、いいか?』

『心細いから、一応俺が告白しているところを、影で見ていてくれないか?』

今までたくさんのタイムリープをしてきて、こんな発言は一度もしたことがない。
いままでの経験上、私以外の人物はある程度同じ行動、発言をしてきたのに。
 どうして今回は違ったの?
時間移動のしすぎで、世界がなんらかの支障をきたしてしまった?
もしそうだとしたら、今後、タイムリープをするのは危険を伴うかもしれない。
今回のチャンスを最後にするべきなのかな…。
 とりあえず、絶対信じてもらえないだろうけど、明日裕次にこのことを相談しよう。
一人でこんな“世界規模の危険”を察知してしまった不安を溜め込むのは、怖すぎる。
まだ、本当に“世界規模の危険”が起こるかどうかはわからないけど、ううん。
多分起きない。と、思う。
私一人が、ちょっと時間を遡ったくらいで、
世界がどうにかなったら、たまったもんじゃないよ!
で、でも一応裕次には相談しよう。
可能性が0%じゃない限り、この不安を一人で抱え込むなんてキツすぎるもん。
 明日、学校が終わったら相談しよう。
そう、明日。
今日はもう、体を休ませよう。


 日本がその全身を、黒で染められる時間。
短針はもう、軽々と坂を登りきり、後は落ちていくだけとなっている。
外と同じ色をした、薄いカーテンが夜風を受けながら踊っていた。
「困ったわ。まったくの想定外。こんなこと、私のシナリオには含まれていなかった筈なのに…。」
その美しく腰まで伸びた銀色の一本一本が、風に揺らぐ度に月光を反射する。
「あなたが一度もないことは、当然私にとっても一度もないこと…。
そしてそれは、決して起きてはいけない禁忌。
それが起きてしまった。
修正するのは私なのよね。面倒だわ。」

闇のどこか一点を見据えながら、こぼした言葉。
手に持ったワイングラスの温度と、同じかそれ以下か。
グラスに入った深紅が、絶えず波紋を描いていた。
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