「つまりモッチーに明日告白したいけど、上手くいく自信がない…と」
「そういうことです」
俺は、自分の部屋に遥子を招いて、相談を受けてもらっていた。
眉間にしわを寄せ、
顎に手を当ててうーん、と唸っている様子を見ると、真剣に考えてくれているみたいだ。
遥子と持田は結構な仲良しで、ちょくちょく一緒に帰っているところを見かける。
どうせ相談するなら、もっと早くにしていれば良かったな。
相談すれば心強い味方になってくれたのは想定出来たが、
なんとなくこいつには相談しづらかった。
からかわれると思ったから…かな。
それとも、長年の友人に自分が困っている姿を見せたくなかったから…。
まぁ、理由はいまいち分からないが、
遥子にこの相談を持ちかけるのは、抵抗があった。
「告白する時に、何かプレゼントするとか…、あの子の好きな物なら教えてあげられるよ?」
「プレゼントか」
やはり遥子に相談するのが正解だな。
あいつらより全っ然頼りになる。
実は、山城達や遥子に相談を持ちかけるのは初めてではない。
これまで、タイムリープしてきて、何度か相談をしたことがある。
その度に、もっと早く相談を持ち掛けていれば良かったと思うのだが、
時間を遡ってたどり着くのは、決まって告白の前日。手遅れな話だ。
こうして、タイムリープ出来ていることすら奇跡なんだ。
贅沢は言えない。
「…ねぇ、裕次はモッチーのどんなところを好きになったの?」
「どんなところって…、なんで?」
「えっ、あの…、ほら、何かの参考になるかも知れないし…」
「参考になるかねぇ?」
「なるよ!多分!きっと!」
いつの間にか、遥子の顔がポッキーゲームが出来るくらいの距離まで寄っていた。
興奮しすぎだろお前…。
「いや、ちょっと近いぞ」
「あ、ご…ごめんっ」
はっ、として遥子は顔を遠退けた。
若干顔が赤くなっている。
やはり興奮しすぎだ。
遥子は、結構な恋愛話好きだから、仕方ないと言えば仕方ないか。
「持田の好きなところねぇ…」
「うんうん」
「おしとやかなところ、とかかな」
「ほぉー。裕次はおしとやかな子が好きなんだ」
ニヤニヤと嬉しそうな顔をしている。
くそ…、なんだか恥ずかしくなってきた。
「モッチーの好きなタイプは、男らしい人っていってたかなー?」
「なるほど、俺って男らしいか?」
「うーん、時と場合によるかな」
「そ…そうか。ひとつ頼みがあるんだが、いいか?」
何故か遥子は、驚いた顔をしていた。
一拍置いて、遥子が口を開く。
「…どんなこと?」
「心細いから、一応俺が告白しているところを、影で見ていてくれないか?」
遥子は、その一言を聞いて、面を食らったような様子を見せた。
「おかしい…こんなこと今まで一度もなかったのに…」
遥子が蚊の鳴くような声で、何かを呟いたが、聞き取れなかった。
「…?。あ、嫌だったらいいんだぞ?
別に、お前に俺の頼みを聞き入れなければいけない理由もないし…」
「…嫌ってわけじゃないけど…、ただ…」
「ただ?」
遥子は目を閉じて、うつむいている。
点けていたテレビ番組が、20時からの番組に移り変わった。
「あ…もうこんな時間じゃん!ご飯食べてないし、私帰るね」
「ご飯くらい俺の家で食べていけばいいぞ?」
「ありがたいけど、早く家でやりたいゲームがあるから、やっぱり帰るよ」
このゲーム中毒者め…。
遥子はカバンを肩にかけると、玄関まで送ってくれなくていいから。と言って階段を降りていった。
「あ、おじゃましてます」と言う声が微かに聞こえたのは、帰りにお袋に挨拶していったからだろう。
おじゃましましたー、とはきはきとした声とともに、玄関がガチャンとしまった。
俺の部屋から、遥子が家を出たのを確認すると、ふぅ、と一息ついて、ベッドに倒れこんだ。
「今まで一度だって、あんなことを言う時はなかった…。
裕次は毎回同じ様な行動をとってきたのに、どうして今回は…」
自宅につき、ベッドの上で大の字に寝ころんだ遥子は、ずっと考えていた。
「…今日はゲームする気になれないや」
遥子は、ゆっくりと瞼を落とした。