「遥子ー!」
あ、モッチーがこっちに駆けてくる。
とってもせわしない表情だけど、どうしたんだろう?
…うん?
ぽつんと寂しそうに建ってる小屋と、広々とした草原。
なんかこのシーン見覚えがあるなぁ…。
デジャヴってやつ?
「遥子、こっち来て!」
「う、うん」
んんー?
なんかこのモッチー小っちゃい気がするぞ?
どうみても小学生くらい…。
あっ。
私も小さい。
まず手が小さい。
視界もいつもより低い。
周りに対象物が少ないから分かりにくいけど、これは私の背丈が低いんだ。
「遥子!早く!」
私はモッチーに手をひかれて、果てしないくらい広い草原を走った。
「どこまでいくの?モッ…」
――――そういえば小学生の時ってモッチーのこと由実って呼んでた。
「…由実」
…ぷっ、なんか久し振りで変な感じ。
「真実が…、真実が大変なの!!」
まみ?まみって誰だろう?
でもなんか聞いたことあるような…。
私たちは走った。
どれくらい走ったか分からないくらい走った。
ずっとずっと走ってたどりついた場所はとても険しい崖だった。
まるで世界の果てまできてしまったような、深くて底の見えない崖。
下を見ているとどうしても不安になってしまうようなそんな崖。
「ほら!あそこを見て!」
由実が指さした先には、まだ幼い女の子が崖の底に落ちまいと必死に岩場にしがみついていた。
「真実…」
「どうしよう遥子!?このままじゃ真実落ちちゃうよ!!」
「真実…、由実の妹の真実…?」
「何言ってるの!?遥子っ!?」
「そうだ…、真実はここで死んじゃって…、私も由実もずっと忘れて…」
「遥子っ!!」
これ昔の記憶なんだ…。
忘れちゃいけないけど、忘れなきゃいけない記憶。
この事件以来、由実はずっと暗いままで、
私が由実をモッチーって呼び始めたのも僅かでも真実のことを思い出させないため。
由実と真実ってなんとなく似てる気がすると思って呼び方変えたんだっけ。
今になってみるとそこまでする必要もなかったかな?
「お姉ちゃん!もう我慢できないよぉ!」
「真実!頑張って!!今なんとかするからっ!」
「でも…、でも手から血が出てるし、もう疲れたよぉ!!」
「真実…っ!遥子ぉ!!何かいい方法考えてよぉ!」
「いい方法って言われても…」
無理だよ…。
私たち子供の力だけじゃどうしようもないよ。
「うぅ…もう…ダメ…」
「真実ぃ!!」
これって夢なのかな?
夢だとしたら、夢の中でだけでも助けたい!
「あ…あ…落ちる…」
ずるっ
「真実っ!!」
バッ!
私は真実に向ってとんだ。
身体が宙に浮き、そして真実の身体をしっかりと掴んだ。
「もう…大丈夫だよ」
「遥子お姉ちゃん…」
ゴオオオオオッという音とともに、風が耳の横を通り過ぎて行く。
「くぅ…っ!」
どさっ!!
―――アレ…?助かった?
下は固くごつごつした岩盤だったが、何故か助かった。
流石夢、というべきか。
「真実…大丈夫?」
「…」
「…っ!?」
―――ゾクッ―――
私は背筋が凍るような感覚に見舞われた。
私が大事そうに抱えていたものは、真実ではなかった。
屍。亡骸。骸骨。ミイラ。
どの言葉が一番適切かは分からないが、生命といえるようなものではなかった。
「ナ ン デ ア ノ ト キ ミ ゴ ロ シ ニ シ タ ?」
「いやあああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
真実。ごめんなさい。