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第六話 キセル

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 その後三人は結局また別の居酒屋へと入った。先ほどの居酒屋からは歩いて十分ほどだ。三人はビールとおつまみを頼み、飲み食いする。
 三人は雑談をし、結構な量なビールとおつまみを各々の胃袋におさめた。木島は少し膨らんでいる自分のお腹が気になったが、すぐ忘れた。
 酒で顔を赤らめた浜田がふと、木島にたずねた。
「なあ、反社会同盟って一体どういうことするんだよ。反社会的なことをするってことか。そもそも反社会的なことって何なんだ。」
 木島はここが居酒屋で、この会話が聞かれているかもしれないということも忘れてこう叫んだ。
「反社会的行為とは……そうだキセルだ。キセルだ。キセルをするぞ!」
 反社会的行為がキセルというのはまったくもって意味の分からない理屈だが、何せ三人とも泥酔していた。どんどん勢いがついていく。浜田は大きくうなずき言った。
「そうだ国鉄を倒そう」
 篠崎はつぶやいた。
「国鉄か。懐かしいな。そういえば国鉄でも闘争があったんだっけ」
 木島は思い出した。新宿騒乱事件を。同じように思い出した浜田が言った。
「そうだ。そうだ。俺たちは高校三年生だから、参加してなかったけど、テレビで見た。すごかったよな」
 篠崎が答えた。
「先輩の話によると、すごい興奮と高揚だったらしいな」
 そんな二人の会話を聞いていた、すっかり酒で顔が赤くなっている木島が二人に呼びかけた。
「あんなことはもう起こらない。そう言う人もいるだろう。が、何事もやらなければ始まらないのだ。同志早速駅へ行こう」
 三人は意気揚々と店を出た。そして、駅へと向かって歩いていく。三人はキセルに対する熱気を語り続けた。篠崎が言った。
「国鉄、いや今はJRか。JRの連中はろくなもんじゃねえ」
 木島はうなずき、浜田が枝豆をつまみながら答えた。
「そうだ。態度が悪すぎる。こっちはお客様なんだ」
 木島が思い出したように言った。
「そういえば、大学に入ってすぐのときに国鉄の職員に質問したらうるせえって言われたよ」
 篠崎が言った。
「そりゃひどい」
 木島は残っていたビールを一気飲みし、言った。
「よし。行こう。俺たちをなめてた連中を見返してやるんだ」
 二人もビールを一気飲みし、言った。
「よし。やろう!」

 三人は店を出て、最寄りのJRの駅へと向かった。三人は酔っていたのでよろよろ歩きながら、向かった。また、JRへの悪口をぐだぐだ言い続けた。長い時間を描けやっと駅に着いた。
 木島が小声で二人に耳元でささやく。
「お前ら二人の後に俺が続く。だからお前らは普通に通ってくれ」
 篠崎は答えた。
「分かった」
 が、浜田はうつむきながら小声でおずおずとこう答えた。浜田は酔いから醒め始めているようだった。
「やっぱり、こういうことは良くないんじゃないか。俺たちもういい大人なんだし……。子供もいるんだ」
 木島は怒った。顔が赤いのは酒のせいかもしれないが、顔を赤くしてこう大声で言った。
「同志浜田よ。ここであきらめてはいけない。闘争は一日にしてならんのだよ」
 駅の入り口周辺にいた人たちが怪訝な目で木島達をみた。木島は大声で怒鳴った。
「なんだ。お前ら見せ物じゃないぞ!見るな!」
 篠崎が続く。
「そうだ。そうだ。見るな」
 木島が感激しながら、篠崎に抱きつき言った。
「同志よ。ありがとう」
 篠崎も木島を抱き返した。
 周りの人たちから見たら、さぞ気持ち悪かったことだろう。還暦近い頭の薄い中年のおっさん二人が抱き合っているのは。
 
 浜田はしぶしぶ二人に従った。篠崎、浜田はそれぞれPASMO,Suicaを使って、改札を通り抜ける。木島は素早くその後ろにつき、なんなく通り抜けた。やった。木島はそう思った。俺は国鉄に勝ったのだ。権力に勝ったのだ。やった。体制に勝ったんだ。
 だが、しかし電車に乗って酔いが醒めてくるにつれ、木島は自分がとんでもないことをしてしまったのではないかという思いがわき上がって来た。いつの間にか三人の会話は少なくなっていった。
 ふと木島が浜田と篠崎を見ると二人とも顔が青ざめていた。木島は勇気を振り絞り、二人に力なく言った。
「次の駅で降りようか」
 二人も力なく答える。
「ああ……。そうしよう」

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