ザイルは賞金をもらうと手早く出て行こうと、闘技場の門の下を歩く。
「おい!待て!」
呼び止めたのは先ほどまで倒れていた山崎武。
「お前やっぱりゴッドアイランドの住人だったのか!」
「だからどうしたって言うんだ?俺は金がほしかったから戦っただけだ。用がなくなったからもう行くぜ・・・」
「待て!」
その声を発したのは山崎ではなかった。行く手をふさいでいる数人の兵士の後ろから聞こえてきた。
「貴様、何故このような西の偏狭の地に来るか!神の面を被った悪魔めが!ひっとらえてくれるわ!」
ゴッドアイランドは山を隔てた東の国のさらに東の海の果てに在るといわれているため、西の国では東の国を嫌うものたちの中で「ゴッドアイランドに行けるのは東の国の悪魔の力を持ったものだけ」とされている。
そのため、ゴッドアイランドから帰ってきザイルを悪魔と呼んだのだ。
しかし、ザイルは悪魔などではない。あくまで人間だ。
「お前何わけのわからないことをいってるんだ・・・そこをどけ!」
「むむ・・・どくわけにはいかぬぞ!この先には民の暮らす村が多数あるのだぞ!悪魔をそこに解き放てば田畑を食い荒らすであろうが!貴様は軍で処分する必要がある!」
「お前俺が闘技場で言ったこと聞いてなかったのか?俺は南部の島の手品師だから棒を伸ばすぐらいできるんだよ!」
しかしこのような言い訳は聞き入れるはずがない。
「ええい!こやつの言うことなど無視しろ!早く殺せ!」
命令と共に5・6人の兵士が襲い掛かってきた。
「ジャマすんじゃねぇ!」
ザイルは掛け声と共に棒を伸び縮みさせ、兵士達の至る所を突きまくり、蹴散らした。
「お前ら何をやっておる!早く殺せ!」
「でも!リーチが違っ・・・!」
気づけば兵士はみな倒れ、立っているのは三人(ザイル、山崎、命令してた貴族)だけになった。
「ヒッ!ヒィッ!誰か!こいつを・・・!そこ!そこのデカイお前!こいつを殺せ!」
貴族の男は必死に助けを求めた。
「貴族さんよ・・・悪いがそれは無理だ。俺は東の国から来た者でな、宗教の関係でゴッドアイランドの住人を神のように扱ってるんだ。ボウズの助けをすることはできても貴族さんの助けはできない。」
「貴つ様っも敵っかふッ!フヒィァッ!フッ!ヒッ!ああああ~~~~!!!」
貴族の男は這いずって逃げた。
「ふぅ・・・俺も東の人間ってばれたから逃げないとな・・・あれ?ボウズは・・・?」
ザイルはすでに門を抜け、走り出していた。
「お~い!待てよ~!俺も連れていけ~!」
「なんで憑いてくるんだよ・・・これもしかたがないことなのか・・・?」
ザイルは肩を落とした。
ザイルは山道を歩き、ボロ小屋へと入った。
「こんなボロ小屋がボウズの家なのか?」
「違う、今一時的に待ち合わせ場所に使っているだけだ」
「きたか・・・」
「どこだ?どれ?」
ザイルは外の上のほうを指差したがその先には空と雲しか見えなかった。
「いや、誰もいないだろ。俺をおちょくるのはやめてくれ」
「誰も居ないことないわよっ!ってか、アンタ誰よ!ザイルの敵!?」
そこに居たのは蝶の羽のようなものが生えた10cmほどの人が居た。それは妖精だった。
「安心しろルーシー、こいつは敵かもしれないが俺を殺す気は無い、それにルーシーじゃ戦力にならないだろう・・・」
するとルーシーはザイルの目の前まで飛んできて反論した。
「むっき~!アタシだってね、ちゃんと戦えるんだからっ!ジャブ!ジャブジャブ!」
ルーシーはザイルの鼻っ柱にジャブを浴びせたがザイルは無視して山崎に話しかけた。
「こいつはルーシー、見てのとおり妖精だ。もうわかっていると思うが、お前は俺がゴッドアイランドの住人だったことを知ってるんだから仲間もどきにすることにした。下手に言いふらされたら困るからな」
その言葉に山崎の口元が緩んだ。
「あったりめぇだ!力ずくでもそうさせたさ!ゴッドアイランドの住人なんて普通会えるもんじゃねぇ!そんな面白い奴と一緒にいないわけがないだろうがっ!」
「ところでザイル、お金はもらえたの?」
「ああ、たんまりとな」
「ボウズ、賞金だけじゃそんなにもらえないだろ?」
ザイルはルーシーに対してうつむきながら言った。
「邪魔をしてきた貴族から少しばかり拝借した・・・」
「ザイル!盗みなんて犯罪じゃない!なんでそんなことしたのよ!お母様が聞いたらどのような顔をするか・・・」
ルーシーは哀れむように言ったが、ザイルは母という単語が出た瞬間に顔から闇が吹き出た。
「ルーシー、俺の母親の話は俺がどんな反応をするかわかって言ったのか!?」
「う・・・ごめんなさい、忘れてたわ・・・」
「おい、ボウズは親子喧嘩でもしてるのか?」
「そんなとこだ・・・」
日も沈み、空は橙色になり、ザイル達は日を炊き、食事を初めていた。
「山崎、お前は俺たちの仲間もどきになったんだから今晩中にゴッドスキルを身に着けてもらう」
山崎は首をかしげた。
「ゴッドスキル?」
「お前たちがゴッドアイランドに行けば手に入れられると言っている能力のことだ」
「ん?じゃあ俺はゴッドアイランドに行けるのか!?」
山崎は自分がゴッドアイランドに行けると気づくと興奮して話し出した。
「いや、ムリだ」
また山崎は首をかしげる。
「ん?んん?ゴッドアイランドには行けないが・・・ゴッドスキルを身につける・・・んんん???」
少し笑うようにしてザイルが話し出した。
「すまない、順を追って説明する。まず、別にゴッドアイランドに行かなくてもゴッドスキルは身につけれるんだ。つまり基本的にはゴッドアイランドじゃないと必要条件がそろってないだけなんだ」
「で、その必要条件は?」
「自分の持てるたった一つのゴッドスキルを知ること、ちなみにそれは妖精に血を飲ませればすぐにわかる」
「それだけ?」
「それだけだ」
「何か儀式見たいなものは?」
「無い、強いて言えば妖精に血を飲ませることぐらいだな」
「なんだ簡単じゃないか。ホレ」
山崎はすぐに指先をナイフで切ってルーシーに差し出した。それに対してルーシーはふざけるようにして答えた。
「え~、なんかばっちぃ気がするから飲みたくないんだけど」
当然山崎は怒って返した。
「なんだと~!確かに洗ってないが十分キレイだよ!」
「ルーシー、わがまま言うな、いいから飲め」
「は~い」
ルーシーは仕方が無いという顔をしながら自分の細い指で血に触れ、その指を口に運んだ。
「ん~・・・はい、出ました。『パワフル』です!」
「それだけ?」
山崎の質問に対してルーシーは少し低い声で答えた。
「それだけだ」
その会話がおかしかったのか、ザイルはクックックと笑いながら言った。
「本当にそれだけなんだよ。俺のときは『伸ばせる』としかわからなかった、その後色々試して円柱状のものを掴んだときにだけ伸ばせるってことがわかったんだ」
めんどくさそうな顔つきで山崎が質問する。
「じゃぁよ、どっかの学者みたいに一つ一つ実験しないといけないのか?」
「そうだ。まぁ、俺に比べてわかりやすかったじゃないか、地道にやろう」
そして3人は外に出てさっそく実験を始めた。