午前四時、暗闇の中目覚まし時計の音に煽られて、俺は目を覚ます。
「葵チャン、時間だから早く起きてください」
坂下柳の声と同時に、いいにおいがしてきた。
「今日は何を作ってくれたんだ?」。
俺はそういいながら、Tシャツに袖を通していた。
「今日はシンプルにご飯と味噌汁、それに鮭の塩焼きにしてみました」
「お、いいねぇ、俺鮭大好きだよ」
俺は扉を開け、さらにいいにおいが立ち込める中、いすに座り、いつもの食卓が始まる。
{いただきます}
二人の声が重なり合う、これもいつものことだ。
俺には時間がそれほど余裕はないので、用意されたご馳走を、味わいながらも急いで食べ、急ぎすぎて喉に詰まらせて、それを見て柳が水を持ってきて、それを飲んで一息つき、そしてまた食べ始め、食べ終わる。
「ご馳走様でした」
一足先に食べ終えた俺に、柳が問いかけてきた。
「どうでした、お味のほうは」
「ああ、うまかったよ」
「そうですか、よかったー」
「いつもすまねぇな」
「いえいえ、好きでやってますので、それに、一応居候の身ですし」
そんなことをいいつつ、俺は洗面所へ向かった。
いつものように顔を洗い、そして自室へ戻り荷物を持って玄関へ向かうと、いつもこの時間は台所にいる柳がいた。
「はい、これ」
「?、なんだこれ」
受けとったものは少し地味な色をしているカーディガンだった。
「今日は冷えるらしいから、これもってって」
「柳、お前男の癖に相変わらず器用だよな」
「葵チャン!時間時間」
「お、やべぇ、これ以上しゃべってる暇ねぇな、いってきます!」
「いってらっしゃーい」
男勝りな女の子、葵と、女っぽい感じの男、柳の一日の始まり。