満月がぷかりと浮かぶ静かな夜。
月明かりに照らし出されたほのかに青い空に陽気な歌声が聞こえてくる。
その歌声は何の変哲も無い一軒家の屋根から発せられていて。
月の光に照らし出されるは五人の奇妙な格好をした団体。
陽気な歌声が聞こえてくる。
「これは僕の帽子」「これは僕のケープ」
「ここに僕の髭剃り」「リンネルの袋に入れて」
「さあ、運命の女神さま、この僕を途方も無い旅に駆り立てておくれ。地平線の果て、謎に満ち足りて」
複雑な歯車がきりりと鳴り時計の針は逆に回り、時刻は丁度二十四時間前へと遡り。
奇妙な格好をした団体はゆきつけのプールバーで恐ろしきマフィアのボスに出会った。
「君達が例のお人よし集団か。頼みがある」
そう言って、渡されたのは可愛らしいリボンでラッピングされた、
両手で抱えるほど大きなプレゼント箱だった。
とある日本に住む少女に明日の誕生日が終わる前に
これを渡して欲しい。そう言って、ボスは気恥ずかしそうに頬を掻く。
どうやら、このボスは刑務所から逃げ出してきたそうだ。
しかも、これからテロリスト行為を行うというとんでもない噂を引きずって。
奇妙な団体は話し合い、たった一分で決着ついた。
シルクハットを被ったリーダーが「あの恥ずかしそうな顔を信じようじゃないか」と言ったから。
かくして、奇妙な団体はプレゼント箱を持ち、プールバーを出た。
その数秒後に待ち伏せしていた生真面目な敵対マフィアに追われるハメとなり、側を通りかかった哀れで可哀想な少年ギャングの車を強引に借り受けて、
横殴りに降り注ぐ銃弾の雨の間を潜り抜けて、左に右に揺れる車を操り空港へ。
キャッチミーイフユーキャンの如く、偽名パスポートでお菓子とジュースを共に飛行機へ。
金属ゲートを潜った瞬間、鳴り響く忌々しいアラーム。双子ハゲの馬鹿め。銃を隠し忘れていたのか。
俺、男も女もいけるんだ。どうだい、天国へ一緒に行かないか。
奇妙な団体で一番のイケメンが両手を挙げながらそんな事を言っても、法の番人は許しちゃくれない。
「どうするの」「どうしようか」「どうやろうか」「こうやろうか」「そうしよう」
五人の服の裾からぽぉんぽぉんとカラフルなスーパーボールが躍り出る。
それが破裂し、カラフルな煙が辺りを包む。咳き込む警官の隣に五人の奇妙に大きな老人達が横切った。
ようやくたどり着いた麗しき日本。空は既に真っ赤に染まって。
舞い上がった奇妙な団体はプレゼント箱を抱え、HENTAI本を買いあさり、ついでに扇子も買って。
マフィアのボスの隠し姫が暮らしているお城へやってきた。
あとはプレゼントを渡すだけ。でもその前にちょっと人助け。
お城から泣きそうな顔で出てきたのはお姫様の母様。
そのお姫様は反逆を起こしたマフィアの部下によって囚われの身となっていた。
さあ、俺達の本領発揮だ。
人助けこそが俺達の生き様。
優しさにみちた偽善で、面白くも無い世の中を面白く痛快に。
俺達がハッピーエンドと呼ぶ偉大なる終末に向けてあるがままに生きるために。
酷薄非情な悪の本拠地は港の第十三番倉庫。
悪態をつくマフィアの部下に向かって、奇妙な団体はこう吐き捨てた。
「覚悟しな。悪人共。俺達ゃ、救い主様だぜ」
無責任な親によってスラム街に捨てられた双子の兄弟は、ご自慢の体術を使い並みいる敵をなぎ倒し、
使われるだけ使われて国に見捨てられたスパイのイケメンはスパイ七つ道具を駆使し、敵を翻弄し、
国王殺しの汚名を着せられた元トップアイドルの紅一点は投げナイフで敵を縛りつけ、
正義の味方になってこの世を守るという今どきのガキでも夢見ない野望を持ち続け、
あろうことか叶えてしまったシルクハットのお面リーダーは手に持ったご自慢のステッキで敵を支配し、
ついには囚われのお姫様を救い出した。
泣き疲れてすやすやと眠るお姫様をベッドに横たえて、傍らに綺麗なプレゼント箱をそっと添えて。
屋根の上で奇妙な団体は陽気な歌を歌う。
「そういえばプレゼント箱の中身ってなんだったんだろうな」
「さあね、でもそれは俺達が知らなくてもいいことさ」
「そうそう。野暮ってものよ」
「さあ、みんな帰ろうじゃないか。俺達はもっともっと人を救いたいんだ」
これにてカーテンコール。