「えー…で、あるからして…」
先生の授業など一体何人が聞いているんだろう。
それほどまでに、暑い。
只今、気温40℃。
あかん、死ぬ。
こういうときは、ご都合的な自己紹介でも頭に浮かべて、精神を暑さから遠のけるんだ…
僕は普通の男子高校生。学年は2。
名前は田原幸雄(タハラ ユキオ)。
タハラ、と苗字で呼ばれるのがニックネームの普通の男で、強いて言うなら黒縁メガネが唯一特徴的なパーツだろう。
ルックス、普通。
学力、普通。
体力、普通。
なにをとっても普通な僕は、この先も普通に大学に入って、普通に就職して、普通に結婚して、普通に死んで…
まぁ、それが一番なんだろう。
人間、慣れないことをするもんじゃない。
でもまぁ、高校生なんだし、彼女くらいはほしいよなぁ…
そしたら、手とか握っちゃって…
あわよくば、キ、キスとかもしちゃって…
その後は…うひょひょひょひょ!!!!!
キーンコーンカーンコーン…
そんなくだらないことを考えていると、授業が終わった。
授業中の半分はこういうくだないことを考えてしまうのは、僕だけだろうか。
嗚呼、暑い。もう本当にどうでもいい。
僕は教室の外に出て、窓を開ける。
廊下には同じく暑さに耐え切れずに外に出ている生徒がチラホラいた。
教室にクーラーがないのは、非常に辛い。
大体、今時クーラーがないってどういうことなんだ。
教室にはないのに、職員室にはあるというのもムカつく。
そんなとき、何者かが僕に膝カックンをしてきた。
暑いのにそんなくだらないことをされてキレないやつはいない。
大体見当はついていたが、俺は後ろを振り返り、犯人を睨みつけると、
そいつは小柄で可愛らしく、まるで妖精のような美少女だった…
ワケがなく。
むしろゴツくて金髪ツンツンヘアーの、まるで鬼のような男だった。
「なんだ、お前かよ…」
そいつは幼馴染の夏川竜彦(ナツカワ タツヒコ)だった。
僕とこいつは10年くらい付き合いが続いてる腐れ縁で、僕の唯一の友達といえるヤツだ。
まぁ、見た目がびっくりするほどDQNなので、実はあまり町で会いたくない。
一回コイツに町で声かけられて、心の底からびびったことがあるのは、僕と君だけのヒミツだぞ!
「相変わらず、小学生かよ、タツ。」
「まぁまぁ、そういうなよ。ユキオちゃーん。」
かっかっか、と笑いながら、団扇をパタパタさせている。
「なんの用だよ。」
僕がイライラしながら答えると、
「お前さ、今日暇?」
「暇だけど。」
「じゃあさ、ちょっと楽器屋、一緒にいかね?」
「はぁ、楽器?」
なにをいってるんだ、コイツ。
タツが楽器…だと…?
いつもはマクドかゲーセンくらいしか行かないのに。
「いやさ、俺、最近ギターやろうって思ったんだよ。」
「なんでまた急に…」
「おいおい、ユキオ。」
タツヒコは急に真面目な顔になって、
「お前だってさ…モテたい、だろ…?」
コイツはホントに大馬鹿野郎である。
「いやさ、さっきの時間あまりにも暑かったから、ご都合的自己紹介頭に浮かべた後、なんか彼女が欲しくなってさぁ。やっぱモテるための一番の近道はギターだろ。」
まさか、コイツとさっきまで考えてたことがまったく一緒だなんて、口が裂けても言えなかった。
「ていうか、お前彼女ぐらいいるんじゃないの?」
「あのな。俺は外見がこんなんだから、女の子たちが怖がって、まだ一回も、手をつないだことさえ…グスッ」
ゴリラみたいな太い腕をしているのにもかかわらず、案外ピュアなハートをしているヤツだよなぁ…。
ちなみにタツの趣味は「小鳥のエサやり」だ。
「まぁ、わかったよ。いいぜ。楽器屋な。」
「マジか!流石は俺のアイボウだぜ!心の友よ~」
タツは大喜びして俺に力任せに抱きついてきた。
ベキベキ。
「折れる!折れるぅううううううううううううううう!!!!!!!」
俺の絶叫が校舎内に響き渡った。