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01 数奇な出会い

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体育館には始業式のため、約400人の生徒が並んでいる。
明日の入学式では約200人の新入生を迎え、来週の朝礼では約600人の生徒が並ぶ事になる。
俺は、式の後の試験の事を考えていた。
すると壇上に立っていた校長が頭を下げ、壇上を降りた。

さあこれで教室へ戻る事ができる、そう思った時、生徒指導の教師がそれを遮った。

「ここで、新学期からこの高校へ編入してきた生徒を紹介する。」
教師の言葉に体育館がどよめきに包まれた。
その教師がこの場を鎮めた。
そして編入生は現れた、
…どうやら女子のようだ。

編入生は壇上へは上がらず、生徒達のすぐ手前に立ち、一礼し自己紹介を始めた。

「宮崎 千歳(みやざき ちとせ)といいます。一年の間ですが、よろしくお願いします。」
彼女はハッキリとした、よく通る声で言った。
生憎、俺は視力がよろしくなく、自分の位地からは彼女の容姿をはっきり認識することはできなかったが、肩まで届く黒の長髪が印象的だった。

「話の通り彼女は3年生だ。
彼女は、以前在学していた高校ではトップの成績だったと聞いている。
受験を控えている3年生は彼女に負けないよう、がんばること。以上、解散」
生徒指導の教師が補足をつけた。
まあ俺とは別のクラスということで、まるで関係のない話だった。




午前の試験が終わり、昼休みとなった。
筆記用具などの片付けを済ませ、昼食のパンの入ったレジ袋を手に取った。
そして「あの場所」へ向かおうとしたその時、
「長野 剛志(ながの つよし)」が俺の机を叩いた。


「岡山、午前の試験どうだった!?手応えはあったかい?」
「長野か、…数学は数B中心だと聞いていたけど、数Ⅲも多くて、少し驚いたよ、まあなんとかなったかな」
「そうか、流石だなあ。俺は対応できなかったよ、もっと勉強を重ねるべきだった」
彼は頭を抱えた。

「それより長野、この教室にいるって事は…」
「そうなんだよ!今年も同じクラスだ、これで3年連続だな、ていうか気付かなかったのか」
「ああ、クラスメートにはあまり興味なくてさ」
「ハハ、相変わらずだな。他に3年間同じなのは…岩手さんと、ジャイアンか」
「今日早速ヒドイ目にあったよ、ジャイアンの奴なに考えてるんだか…」

その時、教室の外から長野を呼ぶ声がした。
「それは大変だったな、じゃあ俺行くわ」
そう言うと彼は仲間の元へ行った。

彼は、自分で言うのもなんだが、俺と同じで成績優秀だった、しかし俺とは正反対にクラス中の男子に慕われる、いや、女子からも慕われる人気者だった。

その人気は彼の誰とでも気兼ねなく会話できる性格からきていた。
そのため、彼は俺と友好関係のある唯一の人物だった。





廊下とは違うヒンヤリとした雰囲気のあるこのトイレの1番奥の個室の中で、
俺は、洋式の便器に腰掛けてパンを頬張っていた。
ここは進学校だというのに、昼休みに教室に教師がいないのをいいことに生徒達は教室で好き勝手に騒ぎ立てていた。
俺はそれが嫌で、去年の2学期頃から、昼休みになると教室を離れ利用者の少ないこのトイレを選んで、篭っていた。
この空間は喧騒もなく気楽で、いわばこの俺、「岡山 健(おかやま けん)」専用の空間だった。
誰にも邪魔されない俺だけの…




漢字検定の準1級。それはなかなかの厄介者だった。
俺は昨年の暮れに一度受験したのだが、あっさりと撃沈。
再来月に再び行われる試験に向けて今日から俺は少しずつ準備をしていた。

まずは国語の教科担に頭を下げ、一週間に一度補修を行っていただく事にした。

補修と言っても、ただ繰り返し問題を解くという簡素な内容だったが4時から6時半過ぎまでの、長い補修となった。
教科担にお礼を言って、教室を出て、校舎から出た。
グランドでは、野球部はランニング。サッカー部は片付けにを始めていた。
そんな光景を横目に俺は、さっさと校外に出た。
その後俺は検定の対策テキストを購入するため、最寄りの本屋へ向かった。
教科担から借りてもよかったのだが、自腹の方が気合いが入りそうだったので、購入することにした。

入店する前は、夕陽が半分ほど、沈んでいたが、
テキストを購入して、外へ出る頃には空は真っ暗な闇に包まれていた。
携帯で時間を確認すると、8時を回っていた。
テキストひとつで随分と悩んだものだ。
結局手にしたのは、
よく見かける黄色の表紙が特徴のテキストだった。

俺は、自分の住処である実家の遠い生徒向けに設けられている寮へ向かった。
外出許可もしっかり取っているのでゆっくり帰る事にした。

遠くでバイクのマフラーから出る轟音が響いた。
轟音がいくつか重なって聞こえる、暴走族か何かだろう。
何が楽しくて走り回っているんだろうか、そんな時間があるなら働けばいい。
あんな奴らがなるものはどうせフリーターかドカタだろうけど。

しばらく歩いていると、2年間通ってすっかり慣れたいつもの道に入った。
夜になると、燈される光の弱い電灯が等間隔に並ぶ不気味な道だ。

その時遠くを走っていた筈の暴走族らしき軍団が近づいてくるのが分かった。
もし絡まれたりしたら面倒なので、早く帰る事にした。

…やはり近づいているようだ
考えている内に、とうとうバイクは俺の前方にその姿を表した。

大丈夫だ、絡まれる事は無いさ。
そう思っていた。

しかしバイクの集団は通り過ぎる事なく、なんと俺を囲んだ。

4台のバイクだった。服装は全員控えめで、漫画に出るような派手な集団ではなかった。その中の一人が安っぽいヘルメットを外し、バイクを降りた。

不清潔な顔をした20代前後に見える男だった。
「まー、そんな驚かないでよ。キミに何かしようてわけじゃない。ただ聞きたい事があるんだ」
男はバイクにまたがったまま言った。へらへらした口調に少し腹が立った。
「…なんですか?」
「キミ、そこの寮の高校の生徒でしょ?」
「そうですが」
「その高校の生徒がさあ、俺らの縄張り荒らしてくれたんだよね、その人知らない?」
コイツは何を言ってるんだ、そんなの知る訳ない
「…知りませんよ」
風が吹いてで彼のボサボサした髪がなびいた。
「そっかあ、まあいいや。ところでキミ金持ってない?少し貸してよ」
なんでそうなるんだ、わけが分からない。
連れの連中がにやにや笑う。

いやです、俺は一言で断った。

すると、彼は俺のすぐ傍に駆け寄った。

「いいから貸せって言ってんだよ」
俺は彼に思い切り腹を殴られた。
俺が怯んだその隙に、学生鞄を取られた。
抵抗したいが痛みで体の自由が利かない。
男は俺から離れていく。

「触るな、負け組が!」
やっとの思いで言葉が出た。

俺の言葉に怒ったのか彼はその場に学生鞄を落としてこちらへ来た。確かに負け組は言い過ぎたかもしれない。
だが、こういう男は許せなかった。

「…キミ、よく見るといい顔してるじゃない。女の子にモテるんじゃないの?腹立つなあ、」
男は俺のすぐ近くで言った。
彼の右手には、バタフライナイフが握られていた。
「傷をつけちゃうと女の子に恨まれるかな?」
男はニヤッとしてナイフを構えた、

逃げないと、しかしいつの間に動いていたのか、男の仲間に俺の体を捕らえられた。

マズイ、そう思って目を閉じた。その時

吹いていた風が止んだ。

すると俺の前方から鈍い音がした。
ゆっくり目を開くと男が倒れていた。

俺の体を掴んでいた男も驚いて、その光景をずっと見ていた、すると今度はその男が吹き飛んだ。

何が起きているのかサッパリ分からない。
未だバイクにまたがっていた慌てて2人は逃げ出した。

「怪我はない?」
背後からの声に俺は、慌てて振り返った。

そこには一人の黒髪長髪の美少女が立っていた。
俺と同年代くらいか少し年上に見える
その整った顔立ちは紛れも無い美人だった。

「まさか、あんたが?」

彼女は俺に近づいて綺麗な唇で笑顔をつくった。

「そうよ、怪我はない?」

「…ああ、大丈夫です」
とても信じられなかったが、
とりあえずお礼を言った。
そして近くで見ると彼女がかなり長身であることが分かった。

「そう。じゃあ気をつけてね」

「あ…。」
彼女の迫力に圧倒され、俺は黙って見送った。
遠ざかっていく背中を見て、彼女は白のコートを羽織っていて、そのコートからはミニスカートが延び、
更にスカートの下には青のジャージという、残念な格好をしている事に気がついた。

彼女の背中が見えなくなると、鞄を拾って地面でのびている男2人に1発ずつ蹴りを入れ、
寮へ急いだ。

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