むかし昔、あるところに一本のりんごの木がありました。りんごの木には、りっぱな果実が鈴なりになっていました。
ある日のこと、りんごの木の前を二人の旅人が通りかかりました。いちにちじゅう歩きどおしで、おなかを空かせていた二人は、りんごの木をみつけると、すぐにその赤い実に手を伸ばしました。しかし、とんでもはねても、手はりんごに届きません。幹をのぼろうにも、つるつるとすべり落ちるばかりです。ぐうぐうなるおなかを押さえ、背の低い旅人が背の高い旅人にもちかけました。
「あんた、おれを担いでおくれよ。そしたら、おれがあの実を取って、きっとあんたにやるからさ」
「きっとだぞ」
背の高い旅人がこたえました。
「おまえさん、おれに言ったことをお忘れでないよ。おまえさん、おれにりんごをくれなきゃ、二人とも飢えで死んでしまうよ」
そして、背の高い旅人は背の低い旅人をりんごの木の上に担ぎ上げました。背の低い旅人はよく熟れた実をひとつもぐと、大きな口でかじりました。その果実の甘くみずみずしいことといったら、いくらでも食べられそうです。背の低い旅人は背の高い旅人との約束を忘れて夢中でりんごを食べました。背の高い旅人は、りんごを取るのがあんまり遅いものだから、
「おまえさん、りんごはまだ取れないのかい」
と、下から声をかけました。
「まあまあ、そう慌てなさんな」
と、背の低い旅人がへんじをしました。
「あんたに一番いいりんごを選んでやっているところだからね」
しかし、いくら待っても背の低い旅人は背の高い旅人にりんごを渡そうとしません。かわいそうに、背の高い旅人は、とうとう飢えで死んでしまいました。
さて、困ったのは背の低い旅人です。一人ではりんごの木からおりることができません。それに一度おりてしまったら、もうりんごの木にのぼることはできません。背の高い旅人が言っていたように、背の低い旅人はまもなく飢えで死んでしまいました。