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第十二話 キチガイ火事

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 村で火事が起きた。放火だった。それはキチガイ火事と呼ばれた。犯人がキチガイだったからだ。
 何故放火したのかを説明するのは長くなる。が、それを書かないわけにはいかない。
 これからの話には伝聞が多く含まれているが了承してほしい。

 まず、犯人は二人だったのだ。それは前述のキチガイ美人と山崎医師だ。彼らは出来ていたのだった。そして彼らには子供がいた。十歳ぐらいのね。
 ここらへんはよく分からないが実は彼らは病院が出来る前からの仲だったんだと思う。そうじゃないと計算が合わないからね。出会ってばかりで十歳の子供が出来るわけはない。

 原因にはわしが深く関わっている。なんでもそのキチガイの子供は崖を降りる冒険をしたらしい。わしと同じようにね。そして上の子供たちを挑発したらしいのだ。わしは何故かは覚えておらんがちょうどそのときいなかった。
 そして挑発に乗った子供の一人がびくびくしながら崖を降り始めた。だが、半ば頃にその子供が滑って、転落してしまった。血がだらだら流れていたらしい。
 皆大慌てだ。なんとか子供は病院の立派な階段を使って上に運ばれた。そして病院に運ばれた。キチガイ病院だが、普通の治療もある程度出来るからね。
 幸い子供の命は助かった。だけれども、意識が戻らんかったらしい。
 
 そして、非難はそのキチガイの子供に集まった。そいつが挑発をしなければこんな事故は起こらんかったとね。
 そのときちょうど祭りが近づいていた。当然のように暴行の対象はその子供になるだろうと言われていた。そしてその噂はキチガイの両親にも知られた。また、こんな風にも言われたらしい。いっそ殺してしまえと。事故に見せかけろと。駐在も味方だ。どうにでもできると。
 だから、キチガイ両親は放火をしたのだ。子供を助けるためだ。

 こんなわけだからこの事件の原因にはわしが深く関わっているわけだ。わしが冒険を始めなければこんなことにはならんかったわけだからね。前にも言ったれんけど供養なのだ。この回顧録は。 

 では詳しい放火事件の経過を述べよう。この経過にもわしは詳しく関与しているのだ。
 事件が起こったのは夕方だった。突然家の中に山崎医師が入ってきた。彼は猟銃を持っていた。皆が悲鳴を上げた。
 彼は一言も言わずに粛々と銃を発砲し続けた。わしは必死で逃げた。橋を渡って森の方へと逃げた。一生忘れんよ。今でも鮮明に覚えとる。
 なんとかわしは家から逃げ出した。後ろを振り返るとなんと山崎は火をつけてるではないか。わしの家に。わなわなしながら必死に逃げた。

 そのあと分かった事はわしの家族は皆殺されてしまったという事だった。そしてわしは源田の両親の養子となった。
 なぜなら彼らもまた息子を殺されてしまったからだ。わしの親友である源田明を。だからわしは今源田照という名前なのだ。
 彼らと出会ったのは森の中だった。そして私たちは一緒に逃げ続けた。隣の村まで逃げた。
 そこで知ったのだ。家族の死を。三人とも。電話でね。
 そしてそのまま私たちは別の場所へと移り住む事にした。忌々しい村からはなれてね。村に残った財産は全部親戚にくれてやったらしい。
 幸い父は金を偶然持っていた。そして栃木へと向かった。
 その後のことはここで語る必要はもうないだろう。

 その後伝え聞いた話ではキチガイ家族三人の遺体は川の近くで見つかったらしい。
 遺体と言っても実質は原型を留めない骨の固まりだった。なんでも焼かれていたらしい。焼身自殺のうえの飛び降り自殺だったとか。考えるだけでも恐ろしいね。
 そんな有様だから身長すらよくわからなかったんじゃないかな。死体はバラバラにくだけ散ってしまった思う。
 また、放火の被害も甚大だった。女の方もたくさん放火したらしい。少なくとも数十人の死者を出したらしい。死傷者はそれよりも多い。
 なにしろ当時は消防車なんてものはなかったし、夕方だったから相当消火活動にも苦労したんじゃないかな。

 最後にやはりこんな風に語れてよかったと思うよ。死んだものたちも少しは浮かばれたんじゃないかな。


 
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