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第十六章 帝都潜入

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第16章 帝都潜入

帝都ガストラング

ガストラングは山々に囲まれた小高い高地に造られた城塞都市である。周りを高い城壁が覆い、その向こうに赤レンガの洒落た町並みが立ち並ぶ。そして、奥にそびえる巨大な建築物こそ、皇帝のおわす「ガストラング城」である。ロイドたち一行は洞窟を抜け、帝都の外壁近くに居た。

「この城壁の向こうが帝都ガストラングか・・・。」

ロイドは周りを見渡した。近くの門には帝国の衛兵2人が見張りに立っている。

「あそこ以外に入り口はなさそうだな。」

「それじゃあ、そっから入ろうぜ。」

マルスは城門に進んでいった。

「こら待て。勝手に行動するな。」

ロイドはマルスの拳法着の袖をつかんだ。

「お前達はいいかもしれんが、俺はこの格好ではエルロードの人間とバレバレだ。エルロードは敵国だからな。堂々と入っていけば捕まってしまう。」

「それじゃあ、どうするんだよ?」

マルスは尋ねた。

「ユリアを含め、お前達はビュリックから旅をしてきたと言って、先に中へ入れ。俺は後で何とかして潜入する。別行動になるから何か連絡手段が欲しいところだな。」

「それならいい道具があるよ。」

そう言ってワトソンは鞄から、長い棒のついた小さな黒い箱状の機械を2つ取り出した。

「これはトランシーバーって言って、離れた相手と話ができる機械だよ。」

ワトソンはその1つをロイドに渡した。

「このボタンを押してこの網の部分にむかって話せば、もう片方のトランシーバーに声が届くから。」

「分かった。潜入に成功したらこれで連絡をする。」

「それじゃあ、健闘を祈るよ。」

ワトソンたちは城門へ向かっていった。


「何だお前達は?見かけない奴等だな。」

衛兵はワトソンたちを呼び止めた。

「あの~、僕達はビュリックから来た旅の者です。」

「旅の者ね~。何の目的でここまで来たんだ?」

衛兵はワトソンたちをじろじろと睨みつけた。

「え~と・・・。僕は技術者なんですが、近年目覚しい発展をしているガストラングの工業技術を勉強しに来たのです。この人たちは僕の友達で、ついでに観光に連れてきました。」

ワトソンは必死に衛兵を説得した。

「ビュリックからの技術者とその仲間か・・・。別に怪しい者ではなさそうだ。いいだろう、入れ。」

こうしてワトソンたちは城壁の内側に入ることに成功した。

「とりあえず、手分けして帝国が隠し持つ王石のありかを探そうか。二時間後に城門前で落ち合おう。」

各自散らばって、情報収集に移った。

一方、ロイドは・・・。

「潜入するといったものの、どうすればいいものか。」

ロイドは再び辺りを見回した。

「城門には見張りが立っているな。他に入り口も見当たらない。城壁を乗り越えるしかないか・・・・。いや、この高さは無理がある。第一、城壁をよじ登るなんて行動は怪しすぎる・・・・。」

ロイドは腕組みをして考えた。ふと、足音が聞こえてきた。

「外壁の周りを歩いている、見回りの兵か・・・。こうなったら、少々強引だがあれしかないな。」

ロイドは静かに帝国兵の背後につけていくと、肩を軽く叩いた。

「何だ?交代の時、ぐはっ!!」

振り向きざまに、大剣の峰で帝国兵の顔面をしたたかに打ちつけた。帝国兵はそのまま気絶した。

「ふう、周りには気づかれてないな・・・。」

ロイドは茂みに気絶した帝国兵を引っ張っていくと、鎧を脱がし始めた。

「これでよしと。」

そして、自らでその帝国兵の鎧を着込んだ。帝国兵の兜は鉄仮面状になっていて顔が見えないのだ。

「あとは気付かれて騒ぎにならないようにと。」

最後に自分の鎧と聖剣イングラクト、気絶した帝国兵を茂みの奥に隠した。

「よし、いざ帝都ガストラングへ!!」

ロイドは帝国兵の鎧を着たまま、堂々と城門へ向かった。そう、大胆にもロイドは、帝国兵になりすまして潜入するという作戦に打って出たのだ。

「見張りご苦労様です!!」

ロイドは衛兵に敬礼して中に入った。衛兵も敬礼を返した。

「よし、うまく入れたな。」

ロイドは遥か先にそびえるガストラング城を見据えた。

「やはり、王石があるとしたらあそこか・・・。」

一方、ワトソンたちは・・・。

「結局、皆有力な情報が得られなかったか~。」

一行は城門前に集まっていた。

「おっと、ロイドから着信だ。」

ワトソンはトランシーバーを取り出した。

「こちらワトソン、どうぞ。」

「ロイドだ。皆いるのか?」

「うん、さっきの城門前にいるよ。」

「そうか、俺はガストラング城の前にいるんだが、中々警備が厳重だ。」

「一度、落ち合おうか。」

ワトソンは辺りを見回した。

「『兵士の詰め所』って宿屋で落ち合おう。」

「分かった。今から向かう。」


宿屋「兵士の詰め所」にて

「いらっしゃいませ。」

「帝国兵の『アーカード』だ。ワトソンという男はいるか?」

ロイドは受付に訪ねた。

「ええ、奥のロビーで待っております。」

ロイドはロビーに向かった。

「あれは、ガストラングの帝国兵。何故こっちに向かってくるんだ?」

ワトソンは帝国兵を見て驚いた。

「俺だ、ワトソン。」

「その声はロイ・・・。」

ロイドはワトソンの口を塞いだ。

「俺はここでは『アーカード』という帝国兵だ。俺の本名は口に出すな。」

「なるほど、帝国兵に変装しているわけだね。」

ワトソンは小声で言った。

「とにかく、部屋へ行こう。」

一行は部屋に移動した。

「それで、これからどうするのよ?何か手を打たないと、私達のエルロードが侵略されちゃうわ。」

ユリアは声を震わせて言った。

「俺の睨みが正しければ・・・。」

ロイドは静かに口を開いた。

「帝国が隠し持っている王石は、ガストラング城にある。だが、あそこは警備が厳重でとても入れそうにない。」

「なるほど、どうやって入るかが問題だね。」

「それなんだが・・・。俺が帝国兵になりすましガストラング城に潜入、そして王石を奪還してくる!!」

ロイドは立ち上がるとそう宣言した。

「そんな、危険すぎますわ!!たった一人で帝国の本拠地に潜入するなんて。」

ジョアンは反抗した。

「これは帝国の策略に気付かなかった俺の責任。この決着はエルロードの王宮騎士として、俺一人でつける!!」

ロイドは今までに見たことのない強い眼差しをしていた。

「ジョアン、止めても無駄だ。」

マルスは口を挟んだ。

「何を言ってるんですかマルス!! 下手したからロイドが捕まってしまうかもしれないのですよ!!」

ジョアンは涙目になりながら叫んだ。

「本当に行くのか?」

マルスはロイドの目を見た。

「もちろんだ。騎士に二言はない。」

しばらく部屋に沈黙が続いた・・・。


「分かった。俺はお前が生きて帰ってくるのを信じてるぜ。」

マルスが沈黙を破った。

「俺のわがままを聞いてくれて、すまない。必ず王石を奪還してくる。」

ロイドはそう言い残し自室へ戻った。

「いいのですか?」

ジョアンはマルスに尋ねた。

「止めても無駄だ。あれは、覚悟を決めた男の目だ。」

一行の不安を包み込むように、夜は静かに更けて行った・・・。


翌日

「それじゃあ、行ってくる。」

ロイドは帝国兵の鎧に身を包むと、仲間に別れを告げた。

「気をつけて下さいね。」

ジョアンは不安そうな顔をした。

「ああ、必ず戻ってくる。お前達は宿で待機していろ。」

ロイドはガストラング城へ足を早めた。

ガストラング城

ガストラング城は帝都を見下ろすようにそびえる城である。皇帝が住み、政治・軍事などを司る帝国の中枢となっている。伝統ある石造りのエルロード城と違って、ガストラング城は、近代技術を用いた鉄で作られた城である。文字通り「鉄壁の城塞」と言えるだろう。

「正門には衛兵が2人か・・・。だが、どこかに兵士の通用口があるはずだ。」

ロイドは城の裏に回ってみた。

「小さな扉に見張りが一人・・・。あそこなら入れるだろう。」

ロイドは見張りに敬礼をした。見張りも敬礼を返した。扉をゆっくりと引くと、軋んだ音を立てて通用口が開いた。

「ここがガストラング城内か。」

城内は一面鉄張りで、通路にそっていくつかの部屋があった。荘厳な装飾が無数にあるエルロード城と比べ、かなり無骨な作りであった。

「はっきり言って、潜入任務はやったことがない。だが、なんとしても俺は生きて帰らねばならない!!」

ロイドは気合を入れ直すとゆっくりと通路を歩き始めた。果たして、ロイドの単独潜入作戦はどうのような結末を迎えるのだろう・・・。

                                           第16章 完



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