第15章 人狼の洞窟
「ここか、人狼(ワーウルフ)の洞窟は・・・・。」
一行はマクレスの北の山脈地帯へとたどり着いた。帝都ガストラングは周囲を山に囲まれた高地にある街で、かつてはこの洞窟を通って人々が行き来していたらしい。鉄道が開通した現在は、洞窟を通るものはいなくなり、今では人狼たちの巣窟になっている。
「奴等の巣に入るなんて正気かよ? 人狼は獣人族の中でも一番凶暴なんだぞ・・・。」
ラッドは声を震わせて言った。
「しかし、ここを通らないとガストラングに行くことはできない。さっさと行くぞ。」
一行は恐る恐る洞窟の中へと入っていった。
洞窟の中は思ったより明るかった。通路にたくさんの松明が掲げてあるからである。暗闇で目の利きづらい人狼が住むための工夫であろう。
「入り口に見張りはいないようだな。だが、いつ見つかるか分からない警戒して進むぞ。」
ロイドたちはゆっくりと進んでいった。ふと、ケルベロスが吼え始めた。
「ケルベロスが足音が聞こえるといってるぞ、こいつは人間の何倍も耳がいいんだ。」
足音は次第にロイドたちにも聞こえてきた。
「近づいてきているな、構えろ!!」
暗闇から1匹の人狼が姿をあらわした。人狼とはその名のとおり狼の獣人で、銀色の毛並みに覆われ、強靭な爪と牙を持ち、2速歩行をする。顔は狼のそれである。ビュリックとガストラングの国境付近に生息し、縄張りに群れをなして住み、敵を見つけると容赦なく襲い掛かる。
「手にカンテラを持っているな、警備兵といったところか・・・。」
その人狼は左手にカンテラを持ち、右手にシミターと呼ばれる曲刀を持っていた。人狼はロイドたちを目にすると、咆哮を上げ猛然と襲い掛かってきた。
「雑魚の分際で・・・。」
ロイドは大剣を引き抜き、そのしのぎでシミターを受けるとそれをはじき返した。シミターは回転しながら飛んでいき地面に刺さった。
「ロザリオクロス!!」
その刹那に人狼の体を十字に斬り裂いた。人狼はゆっくりと倒れかかり、倒れこむ寸前に力を振り絞り遠吠えを上げた。それは洞窟中に響き渡った。
「まずいな・・・。」
ロイドは大剣を背中に納めると、つぶやいた。
「何がまずいんだ?倒したじゃねえか?」
マルスは不思議そうに言った。
「考えてみろ、今の奴はおそらく警備兵だろう。だとしたら、あの死に際の遠吠えは何らかの合図かもしれん。」
「つまり、敵の侵入を仲間に知らせたってことだね。」
ワトソンは察した。
「急ぐぞ、これから洞窟中の人狼たちが俺たちを探しに来る!!」
一行は駆け足で洞窟を進んでいった。しかし・・・、
「ケルベロスが通路の奥からものすごい数の足音が聞こえるって言ってるぞ。」
「ならば、これ以上奥に進むのは危険だな。」
ロイドは辺りを見回した。ふと、通路の左右に脇道を見つけた。
「二手に分かれよう。俺とラッドとジョアンは右へ行く、ユリア、ワトソン、マルスは左へ行ってくれ。」
「分かった。お互いの無事に出口にたどり着こう。」
一行は二手に分かれて、人狼を撹乱する作戦に出た。
ロイドたちは右へ曲がり脇道を走った。
「くそ、こっちにも回り込まれていたか・・・。」
目の前には数匹の人狼が弓を構えていた。人狼はロイドたちに狙いを定めると、一斉に矢を放った。
「プロテクトシールド!!」
ジョアンは光の盾を作り出し矢を受け止めた。
「こいつはおかしいぜ。」
ラッドはつぶやいた。
「人狼っていうのは本来は知能の低い獣人なんだ。これだけの道具を操る能力なんてないはずだ。」
「なるほど。やはり、また王石の守護者か何かか・・・。」
一方その頃、ワトソンたちは・・・。
「いったいなんなのよ。こいつらは!!」
ユリアの叫び声が洞窟にこだまする。目の前には鎧を着込み、槍をもった人狼の槍兵が立ちはだかっていた。
「ガタガタいっててもしょうがねえ、ぶっ潰すぞ。」
マルスはゆっくりと深呼吸をした、闘気が全身から放出される。やがて、それは燃え盛る炎となった。
「マ・・マ・・マルス、体が燃えてるわよ!!」
ユリアは驚いた。
「黙って見ていろ!!」
マルスは炎を纏いながら、襲ってくる槍をかわして突っ込んでいった。敵陣のど真ん中へいくと、体を回転させ始めた。
「これぞ、ウーフェイ流捨て身技、火炎闘舞だ!!」
マルスを包み込んでいた炎は燃え上がり、人狼たちを焼き尽くした。
「すごい荒業だね・・・、炸裂弾を使うまでもなかったよ。」
ワトソンは握っていたドレッドノートを腰にしまった。
「大丈夫なの、マルス?」
ユリアは心配そうに話しかけた。
「大丈夫だ。この炎は俺の闘気が具現化したもので、普通の炎とは違う。」
「さあ、先を急ごう。」
ワトソンたちはさらに奥へ進んでいった。
「ホーリーレイ!!」「セイントアロー!!」
一方、ロイドたちもなんとか人狼の弓兵を倒していた。
「嫌な予感がするぜ、さっさと行こう。」
一行もさらに奥へ進んでいった。
ワトソンたちは大きな広間に出た。
「あれは、王石!!」
王石は謎の魔方陣の上に置いてあった。
「そこまでですよ。」
ワトソンが王石を取ろうとした時、どこからか声が聞こえた。
突然、目の前に空間のひずみが現われ、フードを被った不気味な男が現われた。
「あなた達のお陰で貴重なデータが得られましたよ・・・。」
「データ、なんのことだ?それにお前は誰だ。」
ワトソンは拳銃を引き抜き、フードの男に突きつけた。
「私は帝国に仕える一介の魔術士・・・。む、来たな、ロイド・アルナス!!」
そこへロイド達が合流した。
「お前、何故俺の名前を知っている!! 何者だ!!」
ロイドは大剣を引き抜いた。
「何故名前をしっているかですと? 当然ですよ、貴様等エルロードの人間は帝国の宿敵ですから!!」
「さっき言ってた、データっていうのは何なんだ?」
ワトソンは尋ねた。
「かねてから、現皇帝は王石に大変興味を持っておられた。そこで、我々はこの洞窟にあった王石を持ち帰り、研究を始めたのです。その結果、王石には一つだけでもモンスターに強大な力を与える能力があることが判明しました。
我々帝国はこの力を応用し、モンスターどもを手なずけて帝国軍の戦力にしようという作戦を考えつきました。そして、手始めにここの人狼たちで実験していた訳ですよ・・・。」
フードの男は王石を握るとこう言った。
「人狼たちに道具と知能を与えてたのはお前だったのか、モンスターを手駒のように使いやがって!!」
ラッドは怒り、叫んだ。
「なんとでも言うがいいですよ。機が熟せば、モンスター軍を率いてお前たちエルロードを侵略する運びです!!さらに、あわよくば残りの王石を手に入れて、ガストラング帝国がラインガルトを支配するのです。それが皇帝の望みですから。」
フードの男はロイドを指差した。
「なんてことだ・・・。エルロードとガストラングが緊張状態なのは分かっていたが、侵略を企んでいたとは・・・。その上に、王石を集めるだと・・・。」
ロイドは頭が真っ白になり、その場に崩れ落ちた。
「さて、こんなところで油を売っている暇はありません。私は帝国軍魔術士部隊長『エリック』、以後お見知りおきを。」
そういうと、エリックは詠唱を始めた。
「おい、てめえ、王石を返しやがれ!!」
マルスはエリックに殴りかかろうとした。
「トランスポーテーション」
しかし、エリックは空間のひずみの中に消えてしまった。
「畜生、王石を持ってかれちまった!!」
マルスは悔しそうに拳を突き合わせた。
「ロイド、大丈夫?」
ユリアは心配そうにロイドの肩に触れた。
「ああ、大丈夫だ。急な事態に少し動揺しただけだ。」
ロイドは大剣を地面に突きたて、立ち上がった。
「このままガストラングに王石を持たせておけば、エルロードが侵略されてしまう。こうなった以上、帝都に王石を奪回しに行くしかない!!」
「上等だ!!やられっぱなしでたまるかってんだ!!」
「モンスターを手駒にするなんて許せねえぜ!!」
「どんな理由であれ、侵略なんてしてはいけませんわ!!」
「これ以上、王石の犠牲者を増やしたくはないんだ!!」
「侵略なんてされてたまるもんですか、あたし達の故郷を守るのよ!!」
ロイドは仲間たちの覚悟をしかと感じた。
「俺たちは一国を敵にまわすことになるかもしれない、覚悟はいいな・・・。」
こうして一行は、それぞれの思いを胸に帝都ガストラングを目指した。果たして、王石奪回は成功するのか?
第15章 完