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第五章 亡者の声

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第5章 亡者の声

ロイドは突然、地響きのような騒音によって目が覚めた。もう外は明るい、どうやら朝のようだ。
しかしやかましい、この音は何なのだろうか?

「おはよう、よく眠れた?」

ワトソンも目を覚ましていたようだ。

「よくは眠れたが、朝からこの騒音はなんなんだ?」

「これは居住区の隣にある工業区の工場から発生する機械の音だよ。早朝はすべての工場が慣らし運転で、一斉に機械を稼動させる上に、動き始めたばかりの機械はスムーズに動かないからこんなやかましい音が出るんだ。これもコルツワーヌの名物の一つさ。」

「こんなもので穏やかな朝を邪魔されるとは、ろくな名物じゃないな・・・・・。」

ロイドはふと心の中で思った。一方、ユリアはこんな中でもいびきをかいて熟睡している。全く、どういう神経をしているのか理解しがたい。

「おい、朝だぞ起きろ。」

ユリアは眠い目をこすりながらゆっくりと体を起こした。

「う~ん、おはよ~。」

4人は朝食の席に着いた。そして、朝食を取りながらワトソンが話し始めた。

「これからコルツワーヌの東にあるフォーロウ樹海に行こうと思うんだ。父さんの話ではそこに王石があるらしい。」

ロイドは食事の手を止め、言った。

「聞いたことがあるぞ、終末戦争期にビュリック軍とアルーウィン軍が激突した、『フォーロウ殲滅戦』があった所だ。噂によると、死んだ兵士達の亡霊がいまでも森を彷徨っているらしいが。」

ユリアは固まった。

「え~、オバケが出るの~。そんな所やめましょうよ。あたしオバケだけは大っっ嫌いなのよ~。」

「しかし、王石があるとなれば行くしかないだろう。幽霊ごとき怖がっているようじゃこの先持たんぞ。」

結局、ロイドたちはフォーロウ樹海へ向かうことにした。


フォーロウ樹海
コルツワーヌの東のはずれにある森林地帯。ここがフォーロウ樹海である。森はたくさんの陰樹林によって覆われ、昼間でも光がほとんど届かない。薄暗い森の中にはおびただしい数の白骨死体や戦闘服、兵器などの残骸が転がっている。いかにも何か出そうな雰囲気である。

「ここがフォーロウ樹海か・・・・・・。薄気味悪いところだな。」

ロイドはあたりを見回して言った。

「ねえ、やっぱり帰りましょうよ~。」

ユリアは全身をガクガク震えさせ、声を震わせながら言った。

「ここに王石がある以上引き返すわけには行かん、いくぞ。」

こうして、ロイドたち一行は奥へ進んでいった。しばらく進むと、なにやら不気味なうめき声が聞こえてくる。

「ワトソン、何か変な声が聞こえないか?」

「僕も気づいた、うめき声のようだね。」

そして、次の瞬間。突然、地面から骨だけとなった手が出てきた。

「キャーーーーー、出たーーーーーー!!オバケーーーーーーっ。」

ユリアは絶叫し、その場にへたり込んでしまった。

「来るぞ、構えろ!!」

ロイドは背中の大剣を引き抜き、ワトソンは腰から拳銃を抜いた。そして骨の手は地面をつかむと、地面の下から人間の骸骨の全身が現れた。

「怨念により骸骨となってもさまよい続けているモンスター、スケルトンか。」

スケルトンは、サーベルを振りかざし襲ってきた。ロイドはそれを剣で受け止め弾き返した。

「くらえ、ロザリオクロス!!」

素早くスケルトンの懐に飛び込むと、胸の辺りを縦に斬りつけ、横になぎ払った。

「ウウウ・・・・。」

胸に刻まれた十字架の聖なる力によって、スケルトンは光に包まれながら浄化された。しかし、突然地面からもう一匹のスケルトンが現れ、ワトソンを襲う!!

「しまった、もう一匹いたか。」

ワトソンはサーベルの一撃を横にかわすと、スケルトンを蹴り上げた。

「エアリアルショット!!」

まるで宙を舞うコインを撃つように、空中のスケルトンに銃撃を浴びせる。スケルトンはバラバラになりながら地面に落下した。

「おい、しっかりしろ。」

ロイドはユリアの肩を持って揺すってみた。しかし、ユリアは地面にへたり込んだままあさっての方向を見ている。

「うう・・ああ・・、オバ・・・オバ・・・オバケ。」

もはや、何を言ってるかよく分からない。ほとほと手がかかる女だ。

「しょうがない、ユリアが正気に戻るまで待つか。」

ロイドとワトソンは木陰に腰を下ろした。


しばらくして、ようやくユリアが落ち着いてきた。

「まったく、あのぐらいで気を失うとは。この先が思いやられる。」

ロイドは手で額を押さえて言った。

「しょうがないでしょ、オバケ大っっ嫌いなんだから!!」

ユリアは泣きながら叫んでいる。

「それより二人共、急がないとまずいよ。」

ワトソンは西の空を指差した。見ると太陽が西に傾きかけている。

「まずいな、日没までに樹海を抜けるぞ。急げ!!」

ロイドたちは早足で先に進んでいった。

ほどなく、広場のような場所に出た。ここだけ不自然に木が一本もなく、目に前には石碑のようなものがある。どうやら、人工的に作られた場所のようだ。

「これは、戦没者達の慰霊碑か。」

石碑を見ると、人名がずらりと刻み込まれている。

「ソノ通リ、コレハココデ死ンデイッタ者タチノ慰霊碑ダ。」

どこからともなく、不気味な声が聞こえた。

「誰だ!!姿を現せ!!」

ロイドが叫ぶと、突然地面からゆうに3mはあろうかという巨大な骸骨が現れた。その骸骨は夕闇の中で鈍い輝きを放つ大鎌を携え、漆黒の鎧とマントを身に着けていた。まさしく、おとぎ話の死神そのものだった。

「キャーーーーーーー、また出たーーーーーーーー!!」

ユリアはまた地面にへたり込んでしまった。

「ヨク来タナ、冒険者ヨ。貴様ラノ目的ハ分カッテイル。コレダロウ?」

そういうと、骸骨は鎌の柄にはまっている宝石を見せた。

「それは王石!!そいつをよこせ!!」

「ソレハ出来ンナ。貴様ラ愚カナ人間ドモノ仕業デ何人ノ命ガ犠牲ニナッテイルト思ッテイルノダ。私ハココデ死ンデイッタ者タチの怨念ノ集合体ダ。人間ハ醜イ。私利私欲ヲ貪リ、勝手ニ戦争ヲ繰リ返ス。二度トコンナコトガ起キナイヨウ、悪魔王メフィストフェレス様ヲ復活サセ、新シイ秩序ヲ作リ出スノダ!!」

「そんなことさせてたまるか。力ずくでも奪わせてもらう!!」

ロイドはそう言うと、背中の大剣を引き抜いた。ワトソンも拳銃を構える。

「人間トハドコマデモ愚カダナ。望ミドオリココヲ貴様ラノ墓場ニシテヤロウ。我ガ名ハ『スカルロード』、不死ノ王ナリ!!」

スカルロードは一声上げると、大鎌を横になぎ払った。

「来るぞ、伏せろ!!」

ロイドとワトソンは間一髪、大鎌の攻撃を下にかわした。攻撃の風圧で周りの木が音を立てて倒れた。

「あんなの食らったらひとたまりもない・・・・・。」

ロイドは固唾を飲んだ。

「ドウシタ?逃ゲテイルダケデハ、私ニハ勝テンゾ。」

スカルロードは、今度は大鎌を勢いよく振り下ろした。ロイドとワトソンは横に飛んで避けたが、衝撃で地面に大穴が開いた。

「くそ、これでは近づいて剣で攻撃することができない。」

「ハハハハハ。人間トハ虫ケラ同然ダナ。」

スカルロードは高笑いした。

「頼りになるのは、ワトソンの銃とユリアの魔法か。しかし、ユリアはあんな状態・・・。」

ロイドはワトソンの方をちらと見た。

「俺が囮になる。その隙に奴に銃撃を浴びせるんだ。」

ワトソンはこくりと頷いた。

「何ダ?作戦タイムカ?セイゼイアガクガイイ。」

ロイドは剣先に精神を集中し、詠唱を始めた。

「くらえ、セイントアロー!!」

剣先から光の矢が放たれ、スカルロードを貫く。

「ソノ程度ノ下級神聖魔法ガ私ニ効クトデモ・・・・・。」

「今だ、ワトソン!!」

スカルロードがロイドの方を向いた隙に、ワトソンが背後に回りこんだ。

「ファストブリンガー!!」

目にも留まらぬ連射でスカルロードの体に風穴を開けていく。

「グオオ・・・・。小癪ナ真似ヲ。」

今の攻撃はかなり効いたようだ。

「私ノ力ヲ見クビッテハ困ルナ。」

スカルロードはそういうと、詠唱を始めた。

「ダークエンブレム!!」

不気味な魔方陣がロイドとワトソンの下に現れた。そして、魔方陣が青く光ったかと思うと全身に痛みが走った。

「ただのこけおどしだ。一気に押すぞ!!」

ワトソンは更に一発銃を撃った。弾丸はスカルロードの肩に命中したかと思ったが・・・・・。

「ぐああ!!」

なぜかワトソンの右肩から血が吹き出た。

「これは・・・・どういう・・・・ことだ。」

ワトソンは右肩を抑え、その場に崩れた。

「ハハハハ。貴様ラハ呪イニカカッタノダ。ソノ呪イとは、私ニ対スル苦痛ガ全テ貴様ラに跳ネ返ルトイウモノダ。」

スカルロードはユリアの方へ歩いていった。

「コレデ貴様ハ手出シ出来ンナ。マズハコノ小娘ヲ血祭リニ挙ゲルカ。」

スカルロードは大鎌をユリアに突きつけた。

「ユリア、逃げろ!!」

ロイドは叫んだ。

「腰が・・・抜けて・・・。動け・・・ない。」

ユリアは目に涙を浮かべている。

大鎌は夕日を跳ね返して不気味に輝き、スカルロードは骨だけとなった上あごと下あごを合わせて、ケタケタと笑っている。この世のものとは思えない光景だった。

「俺には・・・なにも・・・できない・・・のか。」

ロイドは苛立ちを覚えた。

「オ祈りハ済ンダカ?デハ死ンデモラウカ。」

スカルロードは大鎌をゆっくりと振り上げた。

                                      第5章   完







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