第7章 死の鉱山
窓から射し込む朝日でロイドは目を覚ました。外を見ると、住人たちが教会へぞろぞろと向かっていく。エルカドムの朝は教会への礼拝で始まるのだ。ふと隣を見るとワトソンはすでに起きていて、銃の手入れをしていた。
「その銃、ずいぶんときれいだが、毎日そうやって磨いているのか?」
ロイドはワトソンの拳銃を見て言った。
「これは父さんの形見の銃なんだ。だから大切に扱わないと。」
そう言って、ワトソンは拳銃を上に構えた。
「そして、この父さんの銃で奴らに復讐をするんだ!!」
拳銃を見つめるワトソンの目は普段の穏やかな目とは違い、鋭さを持っていた。
「相変わらず、こいつはまだ寝てるのか・・・・・。」
ロイドはユリアの方を見て、ため息混じりに言った。
「おい、起きろ。出発するぞ。」
ロイドはユリアの肩を叩いた。
「う~ん・・・・。」
ユリアは眠い目をこすりながら、ロイドを見ると
「キャーーーーーー、なに襲おうとしてるのよ、変態!!」
叫び声を上げ、杖でロイドの腕を叩いた。
「失礼な、騎士であろう者が女性を襲うなんて真似するわけないだろう。」
なんて暴力的な女だ・・・・。ロイドはほとほと呆れた。
ひと騒動あったが、ロイドたちはなんとか宿を出た。
「これからどうするんだい?」
ワトソンが尋ねた。
「受付に聞いたところ、宿の前の道を少し行ったところに僧侶学校があるらしい。そこの教会で俺とワトソンの呪いを解呪してもらう。」
こうして3人は教会へ向かった。
しばらく歩くと、前方に大きな建物が見えてきた。赤レンガの壁に青い屋根、屋上には鐘もある。どうやらあれが僧侶学校のようだ。大きな門をくぐると、広い校庭がありその隣に教会らしき建物があった。ロイドはゆっくりと教会の扉を開けた。
「あら、いらっしゃい。」
中には修道女らしき女性がいた。教会はステンドグラスから柔らかい光が差し込み、奥には金色の像があった。神々の王「オーディン」の像である。ラインガルトの宗教では「オーディン」が創造神として人々に崇拝されている。
「すまないが、頼みがある。」
ロイドとワトソンは修道女のところまで歩いていった。
「なるほど、アンデットに呪いを掛けられたのですね。あなた達の体から邪気を感じます。」
修道女はロイドたちを見て言った。
「分かるなら話は早い。俺たちの呪いを解いてもらいたいんだが。」
「ええ、いいですよ。迷える子羊を救うことが私の使命ですから。」
修道女はにっこりと微笑んで言った。そして、ロイドたちに手をかざすとなにやら詠唱を始めた。
「オーディン様の加護があらんことを、キュア!!」
呪文を詠唱すると、ロイドたちの体が光に包まれ呪いが消えた。
「ありがとう、助かった。」
ロイドとワトソンはお辞儀した。すると、入り口の扉が開いた。
「シスター、庭の掃除終わりましたわ。」
そして、ユリアと同い年ぐらいの少女が入ってきた。どうやら僧侶学校の生徒のようだ。
「この方たちは、旅の方ですか?」
少女はロイドたちを見て言った。
「ええ、そうみたいね。」
修道女が答えると、少女はいきなり頭を下げ、
「お願いします、私を仲間に加えて下さい!!」
大きな声で頼み込んだ。3人は突然の出来事に唖然とした。
「すみません、突然こんなことを。私が理由を説明しますね。」
修道女は説明を始めた。
「実は、この娘はもうすぐ僧侶学校を卒業するんですが、それには卒業試験というのがあるんです。」
「卒業試験?」
ロイドは首を傾げた。
「卒業試験の内容は、世界を旅してその経験を論文にして提出するというものなのです。」
さらに、少女は付け加えた。
「だけど、今世界はモンスターだらけで、とても一人旅なんてできないのですわ。だからお願いします、私を仲間に加えて下さい!!」
ロイドは腕を組んでしばらく考えた。
「俺たちの旅は過酷だ。お前にそれだけの覚悟があるのか?」
ロイドは諭した。
「覚悟ならありますわ。絶対に一人前の僧侶になってみせます。」
少女は真剣な眼差しでロイドを見つめた。緊迫した空気の中でロイドは腕を組み沈黙していた。ワトソンとユリアはじっとロイドを見つめている。数分後、ロイドはついに決断を下した。
「分かった、ついて来い!!」
ロイドはそういって手を差し伸べた。
「ありがとうございます。」
少女はロイドの手を握った。
「私の名前は『ジョアン・ハーネット』。僧侶見習いですわ。」
「俺は『ロイド・アルナス』。エルロード魔法騎士団長だ。国王陛下の命を受けて王石を探している。」
「私は『ユリア・マーレック』。見習い魔術士よ。よろしくね~。」
「僕は『ワトソン・グレック』。自動車修理工をやっている。よろしく。」
それぞれの自己紹介が終わったところで、4人はエルカドムを後にした
「結局ここでは有力な王石情報は得られなかったか。ジョアン、ここから一番近い町はどこだ?」
「そうですわね~。エルカドムの北に『カントラ』という鍛冶屋の町があるそうですわ。」
ジョアンの提案で、4人はカントラに向かうことにした。
鍛冶の町 カントラ
カントラは今まで訪れたどの町とも違う雰囲気を持っていた。木でできた家には紙を張ったような窓があり、町行く人々は薄い布を羽織ったような簡素な服に、ひだがたくさん付いたロングスカートのようなものをはいている。一部の人は腰に曲刀のようなものを差していた。
「なんだ、この町は。ここは本当にラインガルトなのか?」
ロイドは見るもの見るものに目を奪われていた。
「カントラは昔から他の地域との交流を嫌い、自分たち独自の文化を発展させてきた町だからね。特に、この町の独特の鍛冶技術は凄いらしいよ。」
ワトソンはこう解説した。
「とりあえず、手分けして情報収集だ。1時間後にあの奇妙な鎧を着た銅像の前で落ち合おう。」
こうして、各自情報収集を始めた。
ロイドは剣好きの血が騒ぎ、武器屋へ入ってみた。
「いらっしゃい。珍しいな、あんたエルロードの者だな?」
中に入ると、いかつい親父が鉄を打っていた。店を見回すと、曲刀のようなものがずらりと並んでいた。曲刀といってもシミターやファルシオンのような片手で扱えるような大きさではない、とても刀身が長いのだ。
「この曲刀のようなものはなんだ?」
ロイドはそれを手にとって言った。
「あんた、日本刀も知らないんかい?」
「ニホントウ?」
そんな言葉をロイドは聞いたこともなかった。
「日本刀っつうのは、玉鋼っていう密度の高い鋼の鉱石に熱を加えて硬度を増強しながら、それを何回も叩いて薄く伸ばして作った最強の刃物だ。カントラ独自の鍛冶技術の集大成だな。」
そう言って、親父は奥からわら人形を持ってきた。
「試しに使ってみるか?」
ロイドは刀を大きく振りかぶり、わら人形目掛けて全力で振り下ろした。しかし、刀はわらの中に食い込んでしまった。
「どういうことだ、これは最強の刃物ではないのか?」
ロイドは親父の言葉を疑った。
「これだから素人は困る。馬鹿でかい両手剣振り回すような斬り方じゃ、日本刀は扱えねーんだ。」
親父はそう言って、刀を持った。
「いいか、まず地面と刀が水平になるように大きく振りかぶるんだ。そして剣先で弧を描くように、素早くかつ正確に真っ直ぐに振り下ろす。」
親父が刀を振り下ろすと、空を切る音とともにわら人形は真っ二つになった。
「なるほど、分かった。」
ロイドはそう言って再び刀を持った。わら人形に向かって斬りかかると、今度は見事に一刀両断された。
「あんた凄えな。普通、日本刀はちょっとやそっとで扱えるような代物じゃねーんだがな。一度見ただけで使いこなすとは、あんたみたいのが世に言う剣術の天才って奴か。」
親父はたいそう驚いた。
「おっと、大事なことを忘れていた。王石について何か知らないか?」
「きんぐすとーん?なんだそりゃ?」
親父は首をかしげた。
「これのことだ。」
ロイドは腰の袋から王石を取り出した。
「そいつなら見たことあるぞ。確か、拾参番鉱山の奥だったかな。」
「拾参番鉱山だな。協力感謝する。」
ロイドはそう言って店を出ようとしたが
「待ちな。拾参番鉱山へは近づかねーほうがいい。」
親父は引き止めた。
「何故だ?」
ロイドが質問すると、親父は椅子に腰掛けキセルを吸い、語り始めた。
「実は、今拾参番鉱山は廃鉱になっている。今は新しくできた拾四番鉱山から玉鋼を採掘してるんだ。なぜ廃鉱になったかというと、突然恐ろしい物の怪どもが住み着くようになったからだ。その後、原因を調査しようと何人もの人が入っていったが、誰一人として帰ってくるものは居なかった。それ以来、人々は拾参番鉱山を『死の鉱山』と呼び恐れるようになった。」
ロイドは息を呑んだ。
「だから兄ちゃん、悪いことは言わねえ。拾参番鉱山には近づくな。」
親父は忠告した。
「悪いが、俺は陛下から王石を集めるという使命を受けている。騎士として主君の命令に逆らうわけにはいかん。俺はその『死の鉱山』に挑む!!」
ロイドは決心した。
「安心してくれ、必ず生きて帰る。約束しよう。」
ロイドはそう言い残して店を後にした。
待ち合わせ場所の銅像の前にはすでに3人が待っていた。
「そっちは何か有力な情報が得られたか?」
「道行く人に聞いて回ったところ、皆口々に拾参番鉱山のモンスターについて話してたよ。なにか王石と関係ありそうだね。」
ワトソンは言った。
「私たちも茶屋でお団子食べてたら、店のご主人さんがその話をしてくれたよ。」
ユリアとジョアンはそんなことを言った。情報収集中に団子とは、のんきな2人だ。
「俺も武器屋の親父から、拾参番鉱山での王石の目撃情報が得られた。やはり、そこに向かうしかないな。」
こうして4人は拾参番鉱山へと向かっていった。死の鉱山の恐ろしさを4人はまだ知る由もなかった・・・・・・・・。
第7章 完