From:
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1件の未読メールがあります。
受信日時:本日 19時25分。
送信者:
件名:
内容:もしもし、もしもし。
こちら、yu-ka@xx-xxxx-xxxx
さんのお電話ですね。
こんばんは。彼が、まだ、帰っ
てきません。
どういう、こと?
さきほど、お伝えしたこと、
お聞き届け、くださらなかったので
しょうか?
そうでしたら、残念、です。
もう、電話をすることは、
ありません。
それでは、失礼、いたします。
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既読メール。
受信時刻:本日、16時55分。
送信者:
件名:
内容:もしもし、もしもし。
こちら、yu-ka@xx-xxxx-xxxx
さんのお電話でしょうか。
はじめまして。私、
??'$%#[)!] と申します。
…あら、まだ少し、上手くいきませ
んわね。
まぁいいです。貴女にお願いが
あります。今すぐ、家に帰りなさ
い。今すぐです。
隣にいるのでしょう、彼から
離れてください。
それでは、失礼、いたします。
「うん? もう八時か。そろそろ信也が帰ってくる頃か―――と、電話か、えぇい、面倒いの―――もしもし。猪口ですが」
『兄さん、私よ。元気?』
「美津子か?」
『えぇ、久しぶり』
「久しいの。元気にしとるか?」
『そうなのよ。私、やっぱり我慢できなくって』
「は? なんじゃ、いきなり?」
『だって本当に困るのよぅ、白い服と黒い服は、一緒に洗うと色落ちするから止めてって言ってるのに』
「また息子夫婦の愚痴かいな……ええ加減、ワシに愚痴るのやめぃ。その話、前にも聞いたで」
『お料理は上手なのよ。私のアドバイスもきちんと聞いて、味も合わせてくれるしねぇ。でもねぇ、他の家事がさっぱりなのよ』
「だから聞いたわ。息子の武クンが、休日は掃除、洗濯しとるいう話だろ? 別にええやないか、今時、女に家のこと全部任せるいうんも時代遅れじゃろ」
『それでね。休日は武に掃除と洗濯を任せっきりなのよ。武は気にしてないって言うし、旦那も適材適所だなんて言うんだけど、これってちょっとどうなのって思うでしょ?』
「……お前、ヒトの話を聞いとんか? ワシも暇じゃないんでな。飯作っとる最中じゃけん、一回切るぞ」
『まって。兄さん、一度こっちに遊―――これない?』
「なんじゃ?」
『―――たまには、いいでしょ。――――と、――――さんと、信―――一緒に揃っ―――』
「おい、なんかさっきから電話が遠いぞ。ハッキリ喋れ」
『――――――兄さ、兄さん!』
「なんじゃい」
『―――兄さんッッ!? 自分が何言ってるかわかってんの!?』
「……は?」
『手助―――んて!! 不要で―――!!! 誰――いで、!!―――と、思って―――!!』
「おい、美津子? ミツ? どうした?」
『私はねッ!! 考えを改める気はないわよッ!!!』
「今度はなんだ。騒々しい」
『落ち着いていられますかッ!! 私は――――を、起こ―――は、変わらな―――――』
「待て。お前どうしたんだ。電話も微妙に遠かったりで、上手く聞きとれんし。そっちの家でなんかあったんか?」
『当然でしょッッ!』
「わかったわかった。なんか急ぎみたいだが、ワシも飯の支度しとる途中なんでな。一回こっちからかけ直す」
『バカな事言わないで!! 今すぐこっちに来て――――の様子を、その目で確かめてみなさいよっ!!』
「なんの様子だって?」
『―――兄さん、一度こっちに―――これない?』
「はぁ? お前さっきからなに言うとんじゃ。ふざけとんのか?」
『――――――――――――今すぐこっちに来て―――――――――――――――――――――――――』
「いい加減にしろ。要領を得るように話せ。お前は昔から、怒ると自分を見失うからな」
『……兄さん』
「おう」
『―――助けて。今すぐに。来て。ください。お願い』
「……わかった。なんかよぅ分からんが、ジジィの手で良けりゃ貸してやる。急ぎの列車で向かえば一時間で着くから、少しの間待っとれ」
『はい』
「電話切るぞ、ええな」
『はい』