第二話
体が押された。足場がなくなり、僕は空中にいる。重力にしたがって体が落ちていく。
すごいスピードで地面が近づいてく。
う・・・そ・・?死ぬの?
怖くなって目をつむる。すると急につむじ風が僕を通り抜けていった。そして、落ちる感覚が抜けた。ゆっくり降りていく感覚に変わる。
「よう、久しぶりだな」
「今日はひとりじゃないんだな」
「めずらしい!」
三者三様の声がしたかと思うと、僕の目の高さあたりに、フェレットというか、オコジョのような生き物が三匹浮いていた。
「なっ」
「僕の友達のかまいたちだ。こちらは間 有馬」
「「「よろしくな」」」
地上にゆっくり着地した後、三匹のいたちが声をそろえて僕に小さな手を差し出してくる。
「間 有馬です・・・よ、よそしく。ってあれ?こんなところに傷が」
握手しようと、右手をさしだすと、親指の付け根あたりに大きな切り傷があった。でもなんでこんな大きな傷に気がつかなかったんだろう。血も出てないみたいだし。
「あぁ、それはかまいたちのしわざだよ。」
「おう」
「すごいだろ」
「あいさつがわりだ」
あっけにとられている僕をおいて、かまいたちたちはどや顔で僕を見る。そういえば聞いたことがある。かまいたちは三兄弟で、つむじ風に乗ってくる。一人目が人を転ばして、二人目が鎌で切りつけ、三人目が傷薬をぬっていくという妖怪だって。
みたまんまか。
「どう? これが異世界さ」
「す、すごいよ! だって目の前に・・・!てか浮いて!」
「異世界というのは、いつも見てる世界とは少しだけ違う世界。彼らはその住人たち」
界人はどこからおりてきたのか、気づくとさっきと同じ、僕の隣でさわやかに笑っている。
「ちょっといつもと違う場所、ちょっと違うことをすれば異界への道はひらける。だからキミは普段来ない屋上、しかも金網の向こうという普通じゃない場所にいて、そこから飛び出すことで、こっち側にこれたということさ」
まぁ、ほかにもいろいろ要因があるんだけどね。世間では神隠しとかいわれてたりするね、と界人は続けた。
だからって人を学校の屋上から突き落とさなくたって・・・
あたりを見回すと、学校の屋上から落ちたはずなのに、そこは時代劇みたいな空間だった。長屋がずらりと奥まで続いている。その往来にはあきらかに人ならざるものでにぎわっている。それに少し薄暗い。
「よう、お前さん人間かい? 珍しいな! 昔はよく、来たもんだけどなぁ!」
「うわぁ!」
急に後ろから話しかけられ、振り向くと赤い顔に鳥のくちばし、山伏の格好をしており、身長が百九十ぐらいの人(?)に話しかけられた。
「彼はここの出入り口の警備をしている鴉(からす)天狗(てんぐ)」
「よ、よろしくお願いします」
「おう!」
鴉天狗さんとわかれてから、界人といろいろなところを回った。
狸の家族が営んでいる土鍋屋さん、狐のおでん屋、呉服屋の座敷(ざしき)童(わらし)。そして一番面白かったのが定食屋の餓鬼(がき)。
自分は食べれないのに、食べ物をふるっているなんてシュールすぎる。
最初はびっくりしたり、怖かったりしたけど、時間がたつにつれ、どんどん面白くなった。
「おや、もうこんな時間か。そろそろ帰る時間だね」
「もうそんな時間なの?」
本当に楽しかった。みんなが知らないことを僕だけが知っている。僕を無視して優越感に浸っている奴らが、無知な奴らに見えてきて、なにも苦しいことをはないと思った。
「じゃあ帰ろう。また、一緒にくればいいさ」
「そういえばどうやって帰るの?もしかしてまた高いところから飛び降りなきゃ駄目なのかな?」
またあんな怖い思いをしなきゃいけないと思うと少し気が重い。
すると界人はいたずらっぽく笑ってから、ここから少ししたところに、河原があるからそこを渡るんだ。と教えてくれた。
「ここからはキミ一人でいくんだ。帰りは一人のほうが良い。むこう岸に着くまでけっして振り向いてはダメだよ。そしてむこう岸に着いたら石を四つ積んで、目をつむるんだ」
「わかった」
僕は言われるがままに、河原に着いた。
川は足首ぐらいの深さで、石がごろごろ転がっている。向こう岸は、石と砂利が地平線の向こうまで続いていて、他にはなにもない。
川岸まで進んで、石を四つ積んだ後目をつむった。
気がつくと学校の屋上にいた。屋上に出てすぐの、ちょうど影になっているところに座っている。ちょうど金網のむこうに界人を見つけた位置だ。風が前髪を揺らしている。
寝ていたみたいだ。あれは夢だったのかな。でも、夢にしてはリアリティあふれてたけど。