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第七回(アグヤバニ作)

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「グ……ッギギギ……!キサマ……!」
 黒いケモノは吼える。憎悪の眼を目の前の相手へと向けながら。
「無様ね。所詮上級悪魔と言えど、人語を話せる程度じゃ勝負にもならないわ」
 ワインレッドのコートに身を包み、背には光を担った女性は冷たく死の宣告を告げる。
「Erste offnung, ――Klinge des Lichtes.」
 悪魔へ向けた掌が光に包まれる。それは闇を裂く程の強烈な光。
 次の瞬間、女性の手に握られていたのは――


 空に舞う人は見下ろした、足下の二人を。
 今まさに、その片方がもう一方を消さんとばかりに獲物を取り出す。
『おー、凄いねえ。あれも宝具だよね?』
 どこからか幼さを残した少年の声が聞こえる。空に響いたその声は、風へと掻き消された。
「だろうな。見たところ何かの力を溶媒に形を変形させるタイプの宝具だろ」
 答え、手に持った大刀を振り上げた。。
 眼下で自分の相手を奪わんとする赤の人に向かい、問答無用の一閃を繰り出す。
 二つの影を襲うは風の刃。音速を超えるソレは一直線に――


「――――っ!?」
 手にある光の剣を振り上げた瞬間、それに気が付いた。
 何が起こったのかを理解する前にバックステップ。更に大きく背後へと跳躍。
 剥き出しの鉄筋へ足を乗せる頃には、先ほどまで自分の居た場所が大きく爆砕していた。
「っく……誰!?」
 手を横へ払い、手にした光の剣を霧散させる。
 そして視線は上空へ、そこに立つは風を放った黒の青年。
「おー、改造したって言うからどんなもんかと思ったが」
『ね?僕に任せて正解だったでしょ、トウヤ!』
「黒い翼?……貴方も――」
「ギャーギャーうっせーよ馬鹿。――まだ生きてっぞ」。
 言葉を遮り、トウヤは瓦礫の山を睨む。瓦礫がガタガタと動いたかと思うと、中から蠢く黒い悪魔が聳え立った。
「ギ、ッヒヒヒ……ヒャハハハハハ……!」
 妙な状況だと女性は思う。黒い翼を持つ青年が現れ、同じ黒い悪魔を薙ぎ払ったのだ。
 仲間割れか?と、思考の端を過ぎる予測は、耳元につけられたインカムから流れる女性の声で否定された。
『――違います。あの方は"テスタメント"下界第三支部実働部隊、第一階級天使"ファーレン"様です』
「"ファーレン"、ですって……!? ならあの翼は、噂に聞く封印指定された堕天の翼か!」
「そういうこった。っつーことで手を貸せ、色気付いた赤いねーちゃん」
 会話の先、瀕死の悪魔が姿を変える。
 背の翼は一回りも膨れ上がり、全身の筋肉が膨張してゆく。
 吐き出す息は瘴気、織り成す姿は正に異形。見るに耐えないおぞましいモノへと変化する。
「捨てても上級悪魔ってこった、変態気質だったとはな!」
「ギ……シカエシヲ、サセテモラウゾコムスメガ……!!」
 喉を上げ、空に吼える黒のケモノ。それに対し、トウヤは"コテツ"を構える。
『――アキナ様。ここは協力を得るのが最善だと判断します』
「……仕様が無いわね。第一支部所属、第二階級天使"ウテナ"、加勢する――!」
 言葉と同時、アキナは翼を拡げて跳んだ。
 空に舞い両手を体の前で組み、己の武器へと命令する。
 Ausserung(顕現せよ)、と。
「――Dritte offnung, Regen der Ruine……!」
 手を包む光が膨れ上がり、形を変える。
 しかし、それも数秒。光をガトリングガンへと変貌させたアキナは闘いのゴングを鳴らす。
「さぁ、――楽しみましょう?」

 直後、無数の弾丸が放たれた。
7

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