こんばんは。
千世子です。
また、こんな夜更けの更新です(汗)。
ちょっと聞いてください。
今日、ついに、ついに……うううっ。
ぺこっ。
『中華食べに行きましょう』
今日(水曜日のことですよ)、山崎くんから夕食のお誘いが来ました。最近は自席にいることが多いので、作業は落ち着いているのでしょう。
行くところもすでに決めて載せている要領の良さ。そして有無も言わせぬこのメッセージ。どうやら、桐子さんの良いところと悪いところを学んだようです。
『うん、いいよ』
実は、私は中華が大好きなのです。なので断る理由がありません。もう気まずさとかもなくなっています。……いえ、気まずさは違いますね。変に意識しなくなっただけです。
水曜日とはいえ、いつもより仕事の終わりが待ち遠しく感じました。
定時になりましたが、私はまだ少し作業がありました。中断しても問題はなかったのですが、キリが悪くなるので全部やってしまうことにしました。
早く終わらせたいのでやや本気モードっ。
「山崎くん、作業なくなった?」(小声)
「はい。何か手伝いましょうか?」(小声)
「うーん、これは無理だから……先に出とく?」(小声)
「はい、すみません……」(小声)
作業がないのに残業はツラいものです。先に退社してもらうことにしました。
30分ぐらいでしょうか、どうにか終わらせて、私も急いで外に出ました。
「あっ……」
外には、山崎くんが、いました。
「ごめん、待った?」
「いえ、コンビニで立ち読みしていました」
……つまり、待ったのでしょうか?
それからやや歩いて中華料理屋に着きました。今どきの小奇麗な作りです。
こっそりと店の外の看板を見て、紹興酒の有無を確認。ありました、ここは甕入りの紹興酒のようです。わかっていますね、実にわかっているところですね。
あー……前に中華街で買った甕入りの紹興酒、まだ開けてません(汗)。
「千世子さん、何を頼みますか?」
「餃子とビール」
というのは嘘で。
「……ウーロン茶」
苦渋の選択……! でも、カロリーが気になるのでウーロン茶というのは良い選択のはずです。
山崎くんはビール。あとは二人で選んでカニ玉、酢豚、八宝菜にカニスープ。実は中華料理は千世子流手料理のベースだったりします。なので夕食と共に研究なのです。
カニ玉はふわふわに焼きあがっていて、あんかけは鶏がらスープを使用しているのに、やけに透き通っていました。グリーンピースが入っていないのはポイントが高いです。
酢豚は黒酢を使用しているので、普通の酢豚とは口当たりが全然違います。パイナップルは賛否両論ですが、私は入っていないほうが好きです。
カニスープは白くてトロトロ、カニ身はぷりぷりっとしていました。あいからわず白湯系のスープは絶品ですっ。うっとりしてしまいますね……
そして八宝菜っ! 千世子流は八宝菜のお店のレベルがわかると説きましょうかっ。ここの八宝菜は野菜もシャキシャキで味も単品で食べてもご飯と食べても良い味っ! 言うことなしですっ!
「ここ、おいしいね」
「それは良かったです」
認めるしかありません……
前の焼き鳥屋もですし、一緒に行くランチのところも、山崎くんが選ぶところはおいしいところばかりです。
ちょっと悔しいです……
お皿も空いてきたので、あとは……デザートに杏仁豆腐ですねっ。
「おいしいところ、いろいろ知っているんだね」
「ええ、まあ」
「桐子さんに教えてもらったとか?」
このときは気づきませんでしたが、先週の金曜日、桐子さんと呑みに行った山崎くんに、私がこんなことを言うのって意地悪しているみたいですね(汗)。
「違います。いろいろ、おいしいと噂の店を調べたんです」
山崎くんがお箸を置きました。
「千世子さん」
「な、なに?」
「俺、嘘ついてました」
私は、目を伏せ、ため息を1つ。
お箸を置いて、山崎くんを見ました。
「何が、かな?」
声が、私の声が、とても冷たかったと思います。
「俺、あの日、『仕事をしている姿』が好きだ、と言いました」
「うん、そうだったね」
「あれ、嘘です」
「俺は、お酒を呑んでいる千世子さんが好きなんです」
「えっ?」
どれだけの時間、固まっていたのか。それは思い出せませんが、最初の一言がこれでした。
「私、お酒とか強くないよ?」
「強い弱いは知りませんが、千世子さん、お酒好きですよね?」
これを矢継ぎ早と言うのでしょうか。まるで押し迫るように言ってきます。
この自信……どこで確証を得たのでしょうか。ビアレストランの黒ビール。これは「めずらしいから」と言いました。焼き鳥屋の梅酒。これはある程度自然なはずです。
まさかビールの注ぎ方……と、いろいろ考えていたのですが。
「偶然だったんです」
続きの矢が、来ました。
「4月入る前、今の部署に来る前ごろでした。
終電帰りの日があって、電車の中でビールを呑んでいる千世子さんが見たんです」
……み、見られてたっ?
「人違いじゃない?」
「チーズ食べてましたよね?」
あ、間違いなく私ですね……
「その、ビール呑んでいるときの千世子さんが、すごく魅力的に見えました。
一目ぼれ、だったんだと思います。
それから、ついつい目で追うようになったんです。
宴会のとき、焼き鳥屋のとき、ランチのとき。
おいしそうに食べて、おいしそうに呑んで。
俺は、そんな千世子さんのことが、好きなんです」
「山崎くんっ」
ちょっと声を荒げてしまいました。
……思えば。
焼き鳥屋で、ビール頼みますか? と言ったのも。
ビアレストランで、2杯目はハーフ&ハーフですか? と言ったのも。
すべて確信犯だったみたいです!
「は、はいっ」
「……定員さん、呼んで」
「何か……頼むんですか?」
「杏仁豆腐」
というのは嘘で。
「餃子とビール!」
ごきゅごきゅっ。
「……~~~っ!」
ぱくりっ、ごくん。
ごきゅっ。
「くぅぅっ……っ」
餃子とビールはちょっと反則な組み合わせですねっ。あっという間にジョッキが空いてしまいます。
「キミは、こんな私のお酒呑んでご飯食べてるところがいいの?」
「はいっ、そんなところが好きなんです」
臆面もなく言われると、こちらが恥ずかしくなってきます……
しかしこれは……フェチ、ってものではないのでしょうか。
「さて、餃子もビールもなくなったわけだし……」
「出ますか?」
山崎くん、そこそこお酒を呑めるようですが、わかっていませんね。
「締めはラーメンでしょうっ」
バレました……そんな出来事でした(汗)。ラーメンを食べているときに訊きましたが、最初の告白のセリフは、私がお酒好きを隠していたので、気を遣ってくれていたみたいです。
あと、今日の中華料理、本当の想いの告白とかは、桐子さんからアドバイスを受けていたらしいです。……困った先輩ですね。
あ、でも、勘違いしてはいけませんよ?
「お酒好きってのは、もうキミには隠さないけど……これが返事じゃ、ないからね?」
私は別れる間際、ちゃんとこう言いました。
「ええ、わかっています」
……このときの笑みが、妙に頭に残っています。
本当に、嬉しそうな、笑みでした。
「それと、またあの店行くからね。まだ紹興酒呑んでないんだから」
「はい、ご一緒します」
ちゃんと約束もできました。山崎くんはフットワークが軽いので、気楽に誘えるところが良いところです。
まあ、こんなところなわけですが……
勘違いしちゃダメですよ?
まだ、私は返事はしていませんっ。
……わかりましたね?