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2010/03/27/21:14(土)「いつもの酒屋さん」

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 こんばんは。
 千世子です。

 いつものコンビニ、いつもの定食、いつもの時間に待ち合わせ。どんな人でも「いつもの」を使うような、馴染みのものや場所があると思います。
 私にも酒屋さんはココ! という場所があります。いつもの酒屋さん、ですね。
 今日は私が通っている酒屋さんを紹介します。


◆いつもの酒屋さん『赤霧酒店』

 電車に乗って三駅。そこから10分ほど歩いたところに「赤霧酒店」(仮名です)というところがあります。
『赤霧酒店』と書かれた大きな看板。外から中が見渡せるようなガラス張り。中に入ってまず目に入るのが、ひな壇に並んでいる日本酒、焼酎、ウィスキー。そこを囲うように、冷蔵室やワインクーラーが並びます。
 なんだかごちゃごちゃしていそうに感じますが、そこは狭すぎず、でも広すぎず。どれもきっちりと並んでいるけれど、決して圧迫感はありません。
 ざっと見て数十本でしょうか。その1本1本に店長さんの手書きの説明文が添えられています。口当たりや香り、似ているタイプのものや、おすすめの呑み方、店長さんの感想など、どれも丁寧に書かれています。
 試飲コーナーも充実していて、どんなお酒でも一通り楽しめ……もとい、試飲できるほどの数。そして、量り売りは焼酎、日本酒、ワインが扱われています。
 
 最初ここに来たとき、軽い立ちくらみをしたものです。「こんなにすばらしい酒屋さんがあるなんて」「ここを自分の家にしたい」など、いろいろと考えたものです。
 
 お酒の種類、量、質、お客さんへの気配り。どれも満足に至るものですが、それ以上に、赤霧酒店には――
 
「いらっしゃい、千世子さん」
 
 店長さんの暖かな笑顔。
 
「はい、こんにちは」
 
 思わずこちらも笑顔になってしまいます……
 
 
 
 現店長の赤霧さん(これも仮名)は2代目で、父親さんの跡を継いでいます。
 
 焼酎党だった先代と日本酒党の現店長の赤霧さん。お互い信念の相違で仲違いしていた時期もあったそうです。ですが、赤霧酒店を大事に思う気持ちはお互い同じ。相手の主張を理解し、お店により良くするために歩み寄り、今日の赤霧酒店ができました。
 今では先代は赤霧さんにお店を渡し、大好きな焼酎と隠居生活をしているそうです。
 
 赤霧さんはお店の名前と先代の顔を汚さないよう、一生懸命勉強したそうです。同時に各地の蔵元へ巡り、自分の舌で味を確認し、卸し売りをお願いして……カウンターの写真立てには赤霧さんと蔵元の方々が笑顔で写っていますが、どれだけの苦労があったかは想像もできません。
 
 ということを、現店長の赤霧さんから聞きました。そのときも笑って話しをされていましたが……私とあまり年齢が変わらないのに、すごい人です。
 
「今日は日本酒を買いに来ました」
「日本酒かぁ。何本か新しいの入ってるよ」
「本当ですか? どれですか?」

 文章だけだとすごくそっけないですが、赤霧さんは耳に残るような澄んだ声で、私はちょっとしどろもどろだったりします。こんなとき文章は便利ですね。

 取り出された日本酒は、たしかに前までこの店にはなかった銘柄。赤霧さんはそれを手に取りながら、話し始めました。生産地や銘柄がどうこうではなく、その日本酒が生まれた蔵元や杜氏のお話です。
 このときの赤霧さんは、蔵元の魅力、杜氏の信念を、熱を帯びた口調で話します。たとえ伝わりにくい箇所があっても、少なくとも赤霧さんの想いは伝わってきます。
 
 とりあえずその一本をキープしてもらって、一旦赤霧さんから離れ、店内を歩きます。
 
 もう何度も来ているので、そこまで大きな変化はありませんが……なんとなく酒屋さんの中はすごくわくわくします。それが個人の小さなところでも、大きなディスカウントショップであっても。
 子供が作る秘密基地って、こんな感じかもしれませんね。
 
 一通り見たあと、キープしていた1本を購入します。純米酒、4合。1升瓶でほしいところですが、あれは持って帰るのに不便なので、我慢。
 
「今日も呑んでいきますか?」
「はい、ぜひっ」
 
 ここは即答。噛まずに言えました。

 赤霧酒店のカウンターの奥には、常連さんだけが入れる部屋(赤霧さんはテイスティングルームと言ってますが、私はこっそり『呑みどころ赤霧』と呼んでます)があり、用事がないときは必ずそこに入ります。
 蛇の目のぐい飲みと、軽いおつまみ(今日はじゃこおろしでした。この気軽さが嬉しい)を出してもらって、さっそく一口。
 
 くぴっ。
 
「……ん、おいしいです」
 
 今日は人前なので、普通に返事。じゃこおろしも大根の辛さがと醤油の甘み、じゃこの食感が何とも言えません。
 
 この部屋に誰かいるとき、赤霧さんは必ずその人の話し相手になってくれます。私のお酒好きを知っていて、なお一緒に呑める、数少ない知り合いです。
 なるべく長く話しをしていたいので、いつもなら2口の量も、ちびちびと、少しずつ呑んでいきます。何てことのない世間話ですが、会社の友人たちとは違い、気を張らずに話すことができます。
 このあたりが、『呑みどころ赤霧』と呼んでいる所以です。
 
 長居するとさすがに迷惑なので、いつも1杯呑み終わったら帰ります。
 
「またお待ちしています、千世子さん」
 
 いつもの、笑顔。
 
 ……素敵なお兄さんです。
 
 
◆◆◆◆
 
 
 赤霧酒店に来るたび、私もお酒を呑める仕事をしたいなぁと(すごくダメ人間みたいな言葉……)思ってしまいます。『居酒屋ちよこ』とかうっとりしちゃいます。ゴロとしては『スナック千世子』でしょうか……
 
 千世子酒店は……どうでしょうか?


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