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国王パグニック

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「ここが会場か……」
 ズシリと重量感が見て取れる城門。多少の年季が伺えるがまだまだ色も褪せず、門扉に装飾されたアネモネを象った花は黒く光沢を帯びている。
 ナイトウはその扉にそっと指をかけた。
(これは……コルテン鋼か?)
 ナイトウは触り心地を確かめると指を門から離し、周辺を見渡す。
 城門をはじめ、家屋や電灯、街路やはたまた衣類にまでもがこの島では採れないであろう物資で溢れている。
 このニー島はこの十数年で劇的な進化を遂げた。それを支えた主な理由は木の売買だった。
 ここの島は気候と地理的な配置により木の発育がよく、また品質も上等で世界から注文が殺到したわけだが、こうなると今度は島の木々がいくら発育が早いと言えど所詮は孤島。ニー島が世界において伐採できる木の量は5tにも及ばなく、取れる量の限界はすぐ目の前に訪れる。
 要望には応える事ができなかったニー島だったが、あまりにも崩れた需要と供給のバランスにニー島の木々はいつのまにかブランド化され、非常に高値で売買されるようになってしまう。
(おかげで求償貿易に成功、いつのまにかこんなに物資に溢れる街になっちまいやがって……)
 数十年前はこんな物は無かったはずなのにな、とナイトウはサングラス越しに映る黒い空を見上げ、センシティブな面持ちで流れゆく雲を見つめた。
 思いにふけっていると、いつの間にやらナイトウの周りに雑踏ができている。覇者を目指す、ニート達による集団だった。
 数は悠に百を超えている。その参加者の殆どは髪の毛もぼさぼさで、よれよれでぼろぼろの衣服の姿も少なくは無かった。他にも視線を転じれば変わった民族衣装の者、半袖短パンの者、はたまた全裸のやつもいた。そのニート達の群れはまさに異様、怪奇の一言に尽きた。
 その人垣をナイトウは食い入るようにして見渡す。
 雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚ッ! と、その大半はナイトウのお眼鏡により、不遇にも雑魚の烙印を押されていく。
 どいつもこいつも皆中途半端なクズばかりだな、と落胆の色が表情に出た、その時だった。
 顔を俯きかけた矢先にナイトウの目にとある一人の男が目に止まる。
「……あいつは」
 ナイトウに目を付けられた人物は確かに周りとは一線を画して、いや、一線どころではない。住んでいる次元が違うであろう人物が一人目に映る。
 その男の容姿は鮮やかな金髪に白いスーツ。その白のスーツも折り目もしっかりしており、背広のノリも良く綺麗な形を保っていた。その姿はむくつけな出で立ちの者共溢れる中で、まるで荒野に咲く一輪のスノーレディかの様な、そんな美しさが見て取れた。
(あれはネオニート……親の七光に脛かじりのニートで変な誇りを持つ奴が多い。それゆえに性格は欺瞞、高慢、傲慢! しかもその安定した生活にいながらも唯一汚れたプライドを取り戻すために覇者を目指すか? くく、いいねぇ、なかなかのクズっぷりだな)
 楽しみを見つけてしまったナイトウは無表情を繕う事が出来ずに、大きくニヤついてしまう。
 開いた口からネトつく唾液が、大きく糸を引いた。
 その誇りを、矜持を、ぶち壊した時に押し寄せる恍惚感を、今思い浮かべるだけで興奮し、高ぶる鼓動のピストンは循環する血液の速度を加速度的に速める。
 そんなナイトウを見かねてなのか、なにやら周りの空気が活気付き始める。どうやら開門が始まるらしい、そんな事を近くにいた能天気アフロ野郎が得意げに声を荒ぶらせて話をしている。
 そして、その時はすぐに訪れた。
 城門の前で頑なに静止を演じていた門兵が、開門の知らせを叫ぶ。
「かいもぉおおおおおおおん!!」
 その声に呼応し、その門が少しずつ開かれる。
 ギギギギギ……
 門が不気味な呻きを上げてその口は徐々に大きく開かれた。
 皆の視線はその口の中にいる一人の老人にと奪われる。
 ………………。
 しばしの沈黙。
 それを破ったのはその老人による笑い声だった。
「ふぉっふぉ、なんじゃなんじゃ、皆一様に硬くなりおって。もっと肩の荷をおろせぇいっちゅうんじゃ!」
 その言葉には誰も反応しない。否、反応できない。
 着ている物。装飾。風格。その全てが規格外の威圧感に皆は怖気更に肩を縮ませる。これがこの国の王、パグニック……。
 その様子をみてパグニックは落胆の色を隠さずに表情に出した。
「ふん……今回も見下げたクズばかりよのぉ」
 そう言うとパグニックは長く携えた白い長髭をなでる。
「……まあいい。ワシもつまらん話はする気はない。おい、そこの者。あれを」
「はっ」
 指を指された憲兵は、あらかじめ用意していた小箱から何やらカードを取り出すとそれをパグニックに渡した。
 パグニックはそのカードを両手に一枚ずつ持ち、ニートの群れに静かに翳す。
 そのカードには絵が描かれており、一方には翼が生え、後光の中で神秘的に屹然とした姿の神が、もう片方にはそれを拝むように手を合わせ祈っている人が描かれている。
「第一回戦はのぉ。この二枚のカードを使って競ってもらうと思う……く、くく」
 そこまで言うとパグニックは目を細めて口元をゆるめかせ、もう一言付け加える。
「この、神と人とを選別すべき……面接ゲームでのぉ……!!」
 そして、大きく頬を吊り上げて顔を歪ませた。
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