OUTSIDE(7)
***ヒカリ:@ミサの寝室 なう***
そして日曜の朝。
あたしが目覚めると、ミサはもう起きていた。
「……おはよ」
「おはよ、ミサ。
……眠れた?」
「たぶん………」
今日もいい天気。カーテン越しに、日差しがさんさんとふりそそいでる。
でも、ミサの寝室は、重苦しい沈黙に包まれてた。
「ごはん、食べる? それともさきにビデオ、見る?」
「……先見たい」
「わかった」
これから見えるものは、あたしにはわかってた。
それを見たらミサがどう思うのか、それもわかってた。
罪悪感が胸を刺す。
けど、やるしかない。
あたしはハンディカメラの録画を止め、三脚から外した。
――小さな液晶画面の中、昨夜の様子が再現される――
ベッドに座ったミサはしかし、不安げにうつむいたまま、横になろうとはしない。
あたしはそっと話しかけた。
『ね、やっぱ怖いの?』
『うん……
眠ったら、ひょっとしてわたしアキの真似しちゃったりするかもって考えると』
『大丈夫。
ミサがアキノ君じゃないなら、ブログの更新はできないから。
だってミサはアキノ君のブログのパスワード知らないでしょ?』
『そうだよね……』
泣きそうな顔でうなずくミサ。
せいいっぱい、優しくあたしはミサをなだめた。
『ほら、とりあえず横になろう。
あたしも一緒に寝るから。ね』
そういって、ミサとあたしに、ふとんをかける。
『うん。
おやすみ』
『おやすみ』
まもなく、あたしの隣で彼が起き上がった。
『アキノちゃん?』
『ああ、……ヒカリ。
ブログ、更新するから。
勝手に寝ててくれ』
「うそよ!!」
ミサは叫んだ、ハンディカメラを押しのけた。
立ち上がった、ノートパソコンを開く。
アキノのブログを開く。息を呑む。
ビデオに映っていたのと同じ手順で、隠されていたフォルダを開く。
テキストファイルを次々に開く。
まるで右手が痙攣しているんじゃないか、そう思えるスピードで。
画面いっぱいに、いくつものフォルダとテキストが表示された。
テキストはどれも、いやというほど覚えのあるもの。
ミサは凍りついた。
「………どうして」
ぱたり。ミサの手にしずくが落ちる。
「わたしそれでもアキがすきなんだろう」
ぱたり。ぱたり。
「わたしアキがすき。
アキに会いたい。アキにあいたいよ……!」
ミサは机に突っ伏した。
まるでなにかの発作みたく、背中の真ん中が持ち上がっては沈み込む。
そのたびごとに、聞いたこともない声が絞り出されてくる。
あたしの胸にもえぐられるみたく苦しいものがこみ上げてくる。
あたしも、アキが好きだ。それはほんとだ。
相手がミサでも譲りたくない、それもホントだ。
でも。でも。
ミサがだいじな親友で、こんな風に泣いてるのはたえられない、それもホントだ。
気づくとあたしはミサを抱きしめていた。
「ごめんね」
ミサが泣いてるのはあたしのせいだ。
あたしがこのことを言い出さなければミサはこんな風に泣いてなかった。
「ごめんねミサ。ごめんね。
ミサごめん。ごめんね」
「ヒカリ――!!」
するとミサはあたしにしがみついてきた。
あたしたちはそのまま、抱き合って泣いた。
泣いて泣いて泣いて泣いて、もう泣けなくなるまで泣いた。
そして涙が止まるとミサはいった。
「ヒカリ。
わたしアキに会う」
「どうするの?」
「わかんない。でも会うの。
なにか方法を見つける。方法……」
は、と息を飲み、ミサは立ち上がった。
「なに? どうしたのミサ?」
「そうだ」
ミサは机の上のペン入れに手を伸ばし、ささっているものをつかんだ。
掴み取られたものは四本。サインペン、シャープペンシル、赤鉛筆、そして。
「やめて!!!!」
ミサはシャープペンシルを、サインペンをまるで、手についたガムテープを引きもぎるように床に捨てる。残った二本をいらいらと左手に持ち替えて赤鉛筆を放り出したところでやっとあたしはそれをミサから取り上げた。
「何するの!!
あたしはアキに会う。アキに会いたいの。だから」
あたしは必死でミサからカッターナイフを遠ざけ、怒鳴る。
「自殺して幽体離脱すれば会える?! 馬鹿なこといわないで! そんなもん小説の中だけよ!!」
「じゃあ他にどうすればいいのよ!!」
「お父さんのとこにいこう。
ミサも知ってるでしょ。お父さんならきっとなにかわかるから!」
「…………
ごはんたべよ。それから、行こ」