OUTSIDE(11)
***アキノ:@ラボ なう***
俺は正直気が進まなかった。
なぜって。
アシストスーツを肉体代わりにしたとして、そのさき一体どうするのだ。
一緒に歩くくらいはできるだろう。
だがそれも、万一を考えこのクリニックの中どまりだ。
手をつなぐこともできるだろう。
だが、そこまでだ。
俺たちの恋愛に、さきはない。
ミサが望んだって、俺が望んだって、どうにも、ならないのだ。
俺といっしょにいても、ミサは決して、しあわせにはなれない。
――しかしミサはそれを望んだ。
とにかく、ふたりの未来のため進みたい、たとえ今の展望はそこどまりでも、と。
身体も脳も、そして今は記憶も想いも共有している同士、そのキモチは痛いほどわかった。
ミサも、俺の気持ちはわかっているだろう。
それでも強く望む彼女に、俺はNOを言い切れなかった。
それでもそれは、YESではない。
そのせいかも知れない、俺はアシストスーツをベースに作ってもらった躯体を、ほとんど動かすことができなかった。
ヒカリのおじさん――ユズキ博士は、いろいろと改良を試みてくれている。しかしもう薄々、本当の原因に気づき始めているようだ。
その日博士たちは、ちょっと呼ばれてるからごめん、30分位ふたりで話してて、と言ってラボを出た。
ミサと俺は、ラボのなかでふたりきりになった。
ミサは俺の躯体の前でしばらくうつむいていた。
「ねえアキ。もうやめようか」
そして、こんなことをいってきた。
「ここまで動かないってさ、やっぱアキは、嫌なんだよね。
これ以上進むのが。
わたしのことがきらいとか、そういうのじゃなくて……
でも、アキ自身が嫌なら、もうしょうがないよ。
わたしも、……あきらめる。あきらめるようにする。
これももう壊してもらおう」
ミサはいいながら、俺の躯体を抱きしめた。
もう何度目だろう、センサーを通じて彼女の暖かさ、やわらかさが伝わってくる。
でもそれは、いつからか、悲しそうに震えるようになっていた。
もちろん、今も。
「アキのキモチが入ってなければ、こんなこと意味ない。
もうこれで最後。
アキ、さよな……」
そのとき地面が揺れた。地震だ。
ミサの顔が近づいてくる。いや違う、躯体が倒れているのだ。
『ミサ、離れろ、下敷きに』
「だめ、壊れちゃう! 倒れちゃダメ、アキ!!」
しかしミサは驚くべき行動に出た。離れるどころか逆に一歩踏み出し、重い躯体を支えようとしたのだ。
もちろん――これは無謀な行動だ。
軽量化がされているとはいえ、この躯体はいまだ70Kgある。それを左右から支える支具も含めれば総重量は120kgを超える。
『やめろ、頼む』
今ならまだ間に合う。離れろ、離れてくれ。
「嫌だ……」
しかし次の瞬間、俺は恐ろしい言葉を耳にした。
「あっそうか。
いっそのこと、このまま一緒に……」
ミサが俺を抱きしめたまま、ふっと力を抜くのを感じた。
倒れる。身体が。
倒れていく。
120kgを超える金属のカタマリが。ミサの上に。
『やめろ――――――――!!』
動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!
こいつだけは死なせちゃいけないんだ!!
こいつだけは傷つけたくないんだ!!
こいつだけは失えない。何に変えても!!!!
重い、重い腕を必死に動かす。
左手でミサを支え、右手で身体を支えた。
ずしり、衝撃が走る。重い。気持ちごとへし折られそうなほど重い。
だが、絶対に負けない。何に変えてもこいつを守るんだ。
「ア、キ……」
そのときドアが開く音。ユズキ博士の声。
何人もの研究者たちの手が躯体にかかった。
そのとき頭の中でなにかがぶつんとはじける音がした。
そして俺の視界はまっくらになった。