OUTSIDE(10)
***ヒカリ:@ラボ なう***
アキノとミサは、モニターを通じてだけど、会話をした。
最初は戸惑いながら(それはそうだ、だって相手と自分の顔と声は同じなんだから)。
それでも、語る言葉を通じて、それが確実に恋する相手のものだとわかると、堰を切ったように語り合い始めた。
ミサはぼろぼろ泣きながら、会いたかったと繰り返した。
アキノも、ふいたはしから涙が盛り上がっていた。
普通の人間同士だったら、その会話は30分にも満たないものだったろう。
しかし、支援システムをつかってのそれは、一時間以上かかった。
その後、大事を取ってミサは一晩入院することになった。
ありがとうございます、ありがとうございますとお父さんたちにミサは、何度も何度も頭を下げていた。
そして、あたしにはぎゅっと抱きついて、ありがとう、これもヒカリのおかげだよ、本当にありがとう、と言ってくれた。
クリニックの廊下の自販機で、あたしはホットココアを一杯買った。
壁にもたれてひとり、飲むともなく飲んでいると、お父さんの声がした。
「ヒカリ」
「お父さん……」
振り向くと、となりにお父さんがいた。
あたしと同じく、ホットココアの紙コップを持って。
「辛いのかい」
「……ちょっとね。
ミサとアキノは、愛し合ってる。
それをあんなにはっきり見ちゃうと。
たとえ会話以上のことはできなくても……
馬鹿だよね、あたし。
たとえアキノがミサを好きでなくなっても、身体はミサなんだもん。あたしにも可能性なんかないのに……
お父さん。あたしもアキノが好き。どうにか、アキノが生きる方法はないの?」
アキノは、ミサには秘密で、お父さんとあたしにこんなことを言ってきたのだ。
『俺の、俺としての記憶はここ一年程度しかない。よって俺は、ミサの派生的な人格なんだと思うんです。
そんな俺が活動すればするほど、ミサの時間や体力を食ってしまう。そのうち社会生活に支障が出ることは明らかです。
それをうまくするとしても――
男の人格なんか抱えてたら、普通の幸せはつかめない。
いつまでもこのままではいられません。ミサと俺の人格を統合する治療を受けることを、機をみてミサに話したいと思います』
『しかし、そうすると君は……』
『消える、ことになると思います。……でも、仕方ないです。
ミサもしばらくはかなしむと思いますが、一生を棒にふらせるよりはマシです。
俺は、ミサに幸せになってほしいんです』
「……可能性はないでもない。
アキノ君は、ミサキちゃんの体験を共有できると言っている。
そして普段はそれをスルーしながら小説を考えているということだ。
つまり、ミサキちゃんの脳にはそれだけのキャパシティがあるんだ。
アキノ君の身体を作り、アキノ君の脳波をつかってそれを制御することができれば……
現行の、脳波制御型介護アシストスーツのシステムにのせてゆけば」
「お父さん!!
あたし、……あたしも手伝う。
難しいことはわからないけど、雑用とかなんでもやるから!!」
「ヒカリ………
わかった。それじゃあこのことを、ミサキちゃんとアキノ君に話してくれるか」
「うん。任せて」