OUTSIDE(9)
***ミサキ:@ラボ なう***
考えたけれど、お父さんとお母さんには言わないことにした。
だって――
『娘がネット上の人物に恋をした。』
『しかもそれは、彼女のもうひとつの人格だった。』
こんなこと聞いたら。
もしもわたしが親ならば、気が狂ったとしか思えないだろう。
で、そんな狂った恋心に基づいて『危険な人体実験』をするなんて知ったら、病院に殴りこみかけても不思議じゃない。
あきらめなさい、ていう、わたしが親なら。
だって、デートすることもできない。結婚なんか当然できない。
わたしの娘がそんな恋をしていたら、応援なんかとてもできない。
でも、わたしは当の本人だ。
あきらめるなんてどうしてできるだろう。
ぜったいに平行線のままになるむなしい話し合いをするくらいなら、一分でも早く、一秒でも長く、アキと話したい。
そうおもってわたしは、仕事をつづけるかたわら、ユズキ脳神経外科クリニックのラボに通った。
メラトニン濃度の調節や、会話サポート用のキカイの調整。
ときには有給も使い。
ちょっと執筆のペースは犠牲になってしまったけど、それはわたしたちどちらも承知の上。
(読者の皆さんには、作者コメントで『一身上の都合でペースおちますごめんなさい』と理解を求めさせてもらった。寄せられた反応はどれも暖かくて、とても勇気付けられた……)
時に疲労や副作用(メラトニンの摂取量が多い日には、めまいがしたりすることもあった)を覚えながらも、そんなときは掲示板でメセを交換し合って。
そんな余裕もない日は、机の上にひとことだけ書いたメモを置いたりして。
――季節が変わる直前に、ついにその日はやってきた。
わたしはもう一度、会社を休んで美容室に行った。
きのうの昼休み、ヒカリに塗ってもらったネイルを確認。
胸を高鳴らせ、電車に乗った。
そして今、わたしはここにいる。
いつもの椅子にかけた。
頭や身体のあちこちにセンサーがつけられ、静脈に点滴が入れられた。
その状態で、会話サポートシステムのカメラとモニターの微調整。
ヒカリのおじさんが最終確認を終え、わたしに確認してくれる。
「ミサキちゃん、気分は大丈夫かい?
もう一度、手順を説明しておこう。
ミサキちゃんは、このモニターに向かって話して、話し終わったら右手の、ボタンを押してくれればいい。
そうすれば、アキノ君に交代できる。
アキノ君も話し終わったらボタンを押すから、そうしたらミサキちゃんが目覚めて、このモニターで彼の表情を見て、言葉を聞くことができる。
心の準備はいいかい?」
もちろんわたしの返事はYESだ。
「よし。それじゃ、始めていいよ」
わたしは大きく息を吸い込んだ。
「こんばんわ、アキ。ミサです。
わたしの声、聞こえますか」
そしてボタンを押した。