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第六話「魅惑の海水浴」

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「次は、寺笑洲、寺笑洲~」

車掌さんのアナウンスが電車内に響き渡る。

七月二十八日、夏休みが始まったばかりのこの日。
僕ら四人は海へと向かっていた。

新都町から電車で約一時間程走ると、周りの景色からは山が消える。
今まで視界を埋め尽くされていた山の代わりに、今度は一面の青い海が広がるのだ。

「あ、う、海、見えてきましたね。」
「う~ん、やっぱり夏は海よねぇ~。」

嬉しそうな神無さんと明。
明なんて電車の窓から身を乗り出して海を見つめている。

「明、流石に危ないって。」
「大丈夫よ。車掌さんは何も言ってこないわ。」
「そうじゃなくて、怪我するかもしれないだろ?」
「怪我?このあたしが?どうして?」
「もういいよ。」

身を乗り出すのを止めようと誠意で注意した僕だが、明にその声は届かないらしい。

「あんたも顔出してみれば?気持ち良いわよ~。」

明は風に髪をなびかせ、眩しい程の笑顔で僕に言った。
不覚にもドキッとさせられながらも、僕も窓から身を乗り出す。
高校生にもなって窓から身を乗り出すなんて、恥ずかしいことだ。
だが、この田舎の電車の車両は一両編成。
乗っている乗客は僕らだけなので、問題は無い。

窓から顔を出すと、潮の香りがした。

「気持ち良いな~。」
「でしょ?だから言ったのよ。」
「うん、ほ、本当に気持ち良いですね。」

三人並んで身を乗り出す。
そうこうしているうちに、電車は目的地に到着した。
終始電車内で眠っていた春日を起こすと、僕らは砂浜へ向かった。

「あちぃな、今日。」
「夏なんだから当然だろ。」

流石の春日も、寝起きだけはテンションが低いようだ。
まぁ、寝起きまでハイテンションでは相手していられないが。

砂浜を歩き、適当な場所にシートをひらけ、パラソルをセットする。
海水浴日和のためか、田舎とはいえ都会からやって来たであろう多くの人々が居た。

「混んでるわね。」
「夏休みだしな。流石にいくら田舎でも仕方ないだろ。」

明と春日が適当に荷物を置き、腰掛ける。

「おい、和泉。お前水着持ってきたか?」
「もう穿いてきたよ。」
「お、準備いいな。んじゃ早速泳ぎに行きますか。」
「良いけど、明と神無さんはもう着てきてるの?」
「あたしは当然、着て来てるわ。」
「神無さんは??」
「ま、まだです・・き、着替えてきますね・・。」

段取悪くてこその神無さんだ。
逆に神無さんが明みたいに要領良いのは似合わないし。

「じゃ、神無さんが着替えてくるまで待とうか。」
「お前が待っててやれよ、俺は泳いでくるから。」
「あたしも~。よろしくね、和泉君。」
「え、おい・・。」

白状者二人はそれだけ言うと服を脱ぎ捨て、海へ向かっていった。

「まぁ、良いんだけどね。」

神無さんは五分ほどで着替えを終え、僕のところに戻ってきた。

「おかえり。」
「あ、お、お待たせしました。」
「いいよ。じゃあ行こうか?」
「は、はいっ。」

ここで僕にはひとつ疑問があったので、神無さんに問いかけてみることにした。

「神無さん、ちょっと聞きたいんだけど。」
「は、はい、な、何ですか?」
「何でスクール水着なの?」
「き、急でしたから・・ま、まさか泳ぎに行くなんて思ってませんでしたし・・。」
「あ、そっか、そうだね。でもその水着、3-1って書いてあるんだけど。」
「じ、実は中学校の時の水着なんです・・。」

きたこれ。
だいたい何のエロゲにも一人は絶対スク水で登場する娘は居ると思う。
今、まさに、神無さんは、まさしく、激しく、ロリ心をくすぐるような、そんな、だから、これは。

頭が混乱して、僕はよくわからなくなっている。

「や、やっぱり変ですか・・?」
「いや全然。バッチリ似合ってます!」
「ほ、本当ですか・・?よ、良かったぁ・・」

主人公万歳。
僕が春日だったらこのイベントは体験できていない、確実に。
だが巨乳好きの僕に神無さんの超貧乳は微妙な攻撃ではあったが、その可愛らしさに免じて100点を出す。

・・・まだ僕は混乱しているようだ。

神無さんはやはり連れてきていた子猫達をシートに座らせると、キャットフードを置いた。
流石猫少女、猫と猫グッズはどこでも持ち歩くようだ。


僕らが海前に行くと春日と明が手を振っていた。

「二人供、こっちだぞー!」
「おーう。」

春日と明と合流し、そこで僕は衝撃の発見をした。
明の水着姿である。
オレンジのビキニ、白い肌、こぼれそうな巨乳。
神無さんの時とは違ったダメージで再び昇天しそうになってしまいそうである。

「何見てんのよ?あたしになんかついてる?」
「え?え、い、いや別に見てないって・・。」
「ふーん、本当に?ま、良いけどね。どうでも。」

危ないところだ。
胸に見とれてるなんてコトがバレたら、パンチの一発や二発は覚悟しなければならない。

「じゃ、泳ごうか。」

僕らはそれぞれ海に入る。
とっても冷くて気持ち良いが、足の裏がやや痛いのはお約束である。
僕が何気なく後ろを振り返ると、そこにはモジモジしながら砂浜に突っ立っている神無さんが居た。

「神無さん、泳がないの?」
「・・。」
「か、神無さん?」
「い、和泉君。わ、私、泳げないんです・・」

定番な展開だ。
だが僕は目の前で恥ずかしそうにしている神無さんに釘付けになってしまった。
可愛すぎる・・。
今更気づいたのだが、新都学園の女子は都会よりレベルが高いのではないか?
いや、キャラは濃い娘が多いが。


「お、泳げないんだ・・でもホラ、僕らもそんなに深いところ行かないからさ。」
「え、で、でもぉ・・和泉君は泳いで来てください・・」
「何で??」
「だって泳げないのは私だけですし、わ、私に合わせることはないですよ・・」


健気だ、本当に健気だ。
これで普通の女の子なら僕は間違いなくベタ惚れしているだろう。
いや、これでも十分惚れることはできるのだが。
僕が一般人を貫こうとしている以上、変人に恋なんてした日にはもう、主人公失格である。
そもそもこれは、一般人の僕が変人たちに振り回されるようなストーリーなのだから。

「いや、いいよ。神無さん一人にしておくことはできないし。」
「い、良いんですよ。私は浅いところで水浴びしてますから・・。」
「でも・・。」

僕らがトロトロしてると明が駆け寄ってきた。

「二人供何してんのよ?もっと深いとこ行きましょうよ。」
「いや、神無さん泳げないんだって。だから深いとこは無理だよ。」
「藍ちゃん泳げないの?じゃあ何で来たの?」
「え、それは春日君が誘ってきてくれたし・・そ・・それに・・その・・」
「それに、その、何よ?」
「お、おい明、そんなキツイ言い方しなくってもいいじゃないか?」
「別にキツくなんて言ってないじゃない。あたしはハッキリしないのが嫌いなだけよ。」
「明、あのなぁ・・。」

僕が明をなだめようとしていると、春日がやってきた。

「お前ら何してんだよ、トロくせーなぁ。」
「泳げないんだって、神無さん。」
「何だ、そんなことかよ。」
「そんなことって・・お前もなぁ・・。」
「何だよ?泳げなくても深いとこぐらい行けるじゃねーかよ。」
「どうやってだよ・・。」
「俺、ボート持ってきてるもん。」


「・・早く言え。」


春日が持ってきたビニールボートを膨らませると、そこに神無さんを乗せた。

「い、和泉君、皆、ご、ごめんね・・」
「いいよ、気にしないで。」

ボートにチョンと乗りながら申し訳無さそうに神無さんは言った。
だが僕はここでまたひとつ、気になることがあった。

「なぁ、春日。どうしてビニールボート亀のデザインなんだ?」
「ん?どういう意味だ?」
「いや、普通こういうのってイルカとか、クジラとかが多いだろ?亀が好きなのか?」
「ああ、どうして亀かって?そりゃー亀が膨張する時には、俺らの亀も膨張してるだろうからさ。」
「・・は?」
「だから、海でボートを膨らませる時には、目の前に水着の女の子も一杯いて、お前の亀も膨張するだろ。」
「僕の亀?」
「だから、お前のキト・・むぐっ。」

汚い言葉を発しそうになった春日の口を塞いだ。

「お前はオヤジか・・。」
「何?キトって何よ?」
「何でも無いよ、何でも。」
「キ、キトって、な、何ですか?」

春日のせいで僕が二人に質問されてしまってるじゃないか。
女の子二人に亀頭を説明することはできない。

「本当になんでもないからさ。」
「何で教えないのよ!イライラするわね!」
「だから本当に何でもないから!」
「何でもないなら何で隠すのよ!あーもう!死ね馬鹿!!」

明は叫ぶと僕の顔面にクリーンパンチを繰り出した。
アゴが砕けそうな程の強烈な痛みを感じながら、僕は海中に沈んだ。

その後僕らは楽しく夕方まで海で遊んだ。
新都町に来て以来、ずっと気の張りっぱなしだった僕にとっては良い息抜きになった。

「じゃあそろそろ帰りましょうか。」
「そうだな、もう良い時間だしな。」
「は、はい。」
「じゃ、片付けるよ。」

何だかんだで楽しかったものだ。
明のパンチがちょっと効いたが、もうそれは仕方ない。
泳げなかった神無さんが置いてきぼりになることもなかったし。
明の水着姿とか、幸せなものもたくさん拝めたのだから、今日は来て良かったとしておこう。


「何してるの、和泉君、早くしてよー!」
「はいはい、わかりましたよ。」


僕はそう言うと荷物を片付け、駅へ向かって歩き出した。
7

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