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【四】13.友達だから

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 部活が終わってから下駄箱前で少し待ち、目的の人を誘って駅に向かう前に、少し寄り道。並んで歩く道は、犬を連れてすれ違う人ぐらいのもので、言葉少なに歩く俺達をオレンジ色の光が照らしている。
 確認して確信した過去。それを伝えられるのが、『運命の人』と思われていた俺だというのは、存在を信じている訳ではないが、神様の悪戯ってやつなのかもしれない。
 これから話す事を、彼女はどういう思いで聞くのだろう。聞き終わったらどんな事を考えるのだろう。
 その出来事が小さい頃の彼女にとってどれ程大きな出来事だったか知らないが、きっと本当の事を知りたいと望んでいるはずだ。
 途切れ途切れだった会話もついには無くなり、隣を歩いていた八代さんが少し不安そうな表情で目的について切り出した。
「あの……話ってなんですか?」
「前に話してくれた、迷子になった時の話なんだけど――」
 頭の中では、どう言おうか、本当に言うべきなのか、と、自問を続けている。
「――あれが覚えてる全てなんだよね?」
「はい」
 確認への肯定。それが返って来たという事は……これから彼女の思い出を否定する事になる。
「思い出したんだ」
「え?」
 不安を貼り付けていた顔は、驚きへと変わっていた。
「その迷子になってた時、俺と八代さんは会ってたんだ」
 状況を飲み込めていないであろう八代さんを置いて、俺は独白を始めた――


 思いつくまま口にした整理されていない言葉が終わり八代さんを見ると、顔を伏せて、何かを考えているような、何かを我慢しているような……泣いているような佇まいのまま動かない。
 彼女が何を思っているか分からないけれど、俺はこうなる事をなんとなく分かっていた。
 そして、次に口にする事も決めている。
 それを聞いた時、八代さんは何を思うのだろうか。
 おそらく、彼女を困らせる事になるだろう。
 けれど、なぁなぁで終わらせるつもりはない。
「『運命の人』じゃない俺じゃ……駄目かな?」
 今は……これが俺の本心なのだと思う。
 そして、聴こえるのはまだ数少ない蝉の声と小さな足音。
 俺の最後の言葉が終わると八代さんは駅の方へと走り出した。
 今の俺には、その後姿見送る事しか……出来ないんだ――
 

「ねぇ、遙歌と何かあった?」
 翌々日の朝、教室に入ると折笠に声をかけられた。
 何かあったのか、無かったのか。そう問われれば何かあったというべきなんだろうけど、どうしたものか。そもそもああいう事って誰かに話してもいいものなのか……。
「……八代さんから何か聞いたか?」
「ううん」
「じゃあ俺からは何も言えない」
 これは、俺と八代さんの――二人の問題なのだ。
「でも、あの子悩んでるみたいだったよ」
「折笠は多分関係無いから――」
「関係あるよ! 二人とも友達だもんっ!!」
 俺と八代さんの事友達と真っ直ぐに俺を見据えながらそう言い切る折笠に気恥ずかしさを覚えながらも、それと同時にそう想ってくれている相手に心配させているのだという心苦しさが沸いてくる。
 こうして折笠に心配をかけている以上、俺と八代さんだけの問題では無くなっているのかもしれない。
 人と話す事で簡単に考え方が変わってしまうのは、寝不足の影響もあるのだろうか……俺は一昨日の夕方の出来事を大雑把に説明した。
「そっか、告白したんだ……」
 確かめるように呟きながら、折笠は何故か表情を曇らせる。
「……分かった、私に任せて」
 予鈴の鳴る数分前だというのに、折笠は教室から勢い良く飛び出して行く。
 行き先は分かっているし、授業が始まる前に戻ってこれるとも思えないので、一度止める為に俺も教室を飛び出す……友達だからな。

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