夏はあまり好きじゃない。エアコンの冷房が苦手(暖房もだが)な俺には、どう考えても地獄だ。
部屋に閉じこもって左クリックをしたり、コントローラーを握ったりしていたいが、扇風機で暑さに対抗するのは甚だ心許なく、そんな事をしていればそのうち俺は溶けて無くなるんじゃないだろうか。
かといって、外に出ればいいかというとそういう訳でもなくて、外では太陽が紫外線交じりの熱光線で俺の肌を少しずつローストしていくものだから、そのうち、上手に焼けました、なんていうシステムボイスと共にこんがりと焼きあがってしまうに違いない。
――と、そんな感じで、俺と夏、というテーマの自己保護案を考えていたのだが、気がつけば、一番涼しい場所を探して歩き回る猫みたいに、リビングに辿り着いていた。
PC部は登校日を除いて休み。それを知らずに部室に行き、保健室で涼んで帰る羽目になった。
部活が休みなのだが、ネトゲではインする度に部長と会っている。部室と居る時も何を話す訳でもないので、夏休み前と何も変わらない。
そうえいば、倒れそうになりながら高校に辿り着いた時、部活動に励む折笠を見かけたな。相変わらずチアの衣装が良く似合っていた。……灼熱の屋外でよくやるよ。
倒れそうになりながら保健室を目指して校内を歩いている時に八代さんとばったり出会い、そのまま保健室まで付き添ってもらった。どうやら科学部は文系(科学は理系じゃないのか?)の部活にしては珍しく夏休み中も部活があるらしく、小まめに部室へと足を運んでいるようだ。
あの日、俺が告白する事に因ってで生じた軋轢(軋轢というと語弊があるように思われるかもしれないけど、けして仲が悪くなった訳ではない)は折笠の尽力もありなんとか収まり、また前のような状態に戻った。まぁ、結果的に俺が振られて「お友達で……」などというオチなのだが、それについては余り思い出したくも無いので、この際置いておこう。
何はともあれ、彼女に中にはまだ『運命の人』への想いがあり、それがある内はそういう事について考えられないそうだ。自分にはよく分からない考え方なのだが、想いなんてものは人それぞれなのだろう。真相を知る数少ない友人として、新学期からはまた同級生としてそれなりに同じ時間を過ごしていこうと思う。
リビングでだらだらしてる間中、テレビでは子供向けに組まれていたはずのアニメ枠を使って甲子園の模様が流されており、どこぞの高校生が白球相手に死に物狂いで汗を流している。その暑苦しい映像をぼんやり眺めるのも程々に、夕方から赴く戦場での実弾を補充する為、近所のATMへと向かった。
日中の暑さが残る町の広場に町中の親子やカップルが集まる最中、猟銃を手に持ち獲物を選ぶ。
陶製と思われる掌大の小さな招き猫に照準を合わせ、トリガーを引くと、ポンッ、と、力なくコルクの弾丸が射出された。弾丸は真っ直ぐには飛ばず、緩く左に曲がりながら招き猫の横に並べられていたボンタン飴の箱を掠め、段々に組まれている台に被せられている赤い布に、ぽすっ、と沈んで落ちる。
「武史が菓子を狙うとは珍しい」
「長期戦になりそうだからな、食料は必要だろう」
勿論嘘だった。早期決着を付けようと思ったのだが、選んだ銃は思った以上に曲がりが強いらしく、癖を掴むだけでも一回分以上の弾丸を消費しそうだ。
「食料なら他の屋台で確保出来るだろ」
「……そうだな」
今年も、なんとなく呼び出した陽介と二人で射的屋相手に散財中。
夏休みの思い出らしい思い出は今までなく、この先も予定が全く無いのだから、この盆祭りが高校一年の夏休み唯一の思い出となる可能性が高い。……余りにもしょっぱい。しょっぱ過ぎる。
計三回分の料金には見合わない小さな携帯ストラップを手にこれからの攻略方法を議題にして、フランクフルトで小腹を満たしながら戦略会議を開く。
「小さい方の招き猫はいけそうだが、一回り大きい方は駄目だな。ありゃ仕込みだ」
「だな。つー事は、あれを避けて、もっとも売り上げに打撃を与えられるのは……PSP、か?」
たかがコルク銃の威力で倒せるのか、あれ。台座に設置してあったし。
射的屋を必要以上敵視した内容の会議をしている俺と陽介の目の前を男二人・女二人の高校生らしきグループが通り過ぎて行き、その四人を二人して何となく顔ごと追い見送った後、陽介が呟いた。
「いつまで続くんだろうな」
「何がだ?」
「さぁなぁ……なんとなく、だ」
特に意味も無いらしい事を口にした陽介を余所に、広場の中央に組まれた櫓の上から、和太鼓が鳴り始める。
その太鼓の音を合図に会場各所に設置されたスピーカーから流されたのは、盆踊りを踊る為の一曲目に選ばれたらしい、懐かしのドラえもん音頭。曲の懐かしさに釣られてか「いっちょ踊るかっ!?」とテンションを上げている陽介を無視して、俺は先ほどの射的屋置いてある銃の癖について、傾向と対策をシミュレートし始めた。
【???】