僕は、オレンジジュースが好きだ。
しつこいぐらいに甘ったるくて、ちょっとすっぱい、そんなオレンジジュースが。
僕は物語が好きだ。
現実とは比べものにならないくらいの密度の時間が流れるその世界が。
そう、言うなれば僕の生きている日常なんて、氷が解けて薄まっちゃったオレンジジュースみたいなもの。味気なくて、退屈で。
でも、ずっと昔の、「あの時」だけはそうじゃなかった気がする。
あの時だけは、僕の世界は安っぽいオレンジジュースみたいに甘ったるくて、少しだけすっぱい。そんな味がした気がするんだ。